洗濯機は踊る

前編



「見事だねぇ……」
「……そうだなぁ……」

ギルモア邸のリビングでコーヒーを片手にピュンマとアルベルトがつぶやいた。
二人の視線はテラスを通り抜け、その先にある物干し台へと続いている。

今日はまさに洗濯日和。
さんさんと照らす太陽の光りと海から吹いてくる風に、白い洗濯物がはためいている。



フランソワーズは毎日洗濯機を回す。
赤ん坊のいる家庭では洗濯物がとぎれることはない。
まして多いときには10人もの大所帯になるギルモア邸では洗濯機は休む間がない。
さすがに雨の日は乾燥機を使うが、こんな天気の良い日には決まって色とりどりの洗濯物が干される。
お日様の匂いとかすかに塩の香りのするほかほかした洗濯物は人を幸せな気持ちにさせる。
だからその光景はいつもと変わらぬほほえましいもののはずだった。
干してあるシーツの数が異常に多くなければ……。




今日洗濯機は早朝から働きずくめだった。
目覚めたメンバーは腕まくりをしたフランソワーズに次々とパジャマやシーツを剥ぎ取られていった。
ギルモア邸にめずらしく全員が集まっている今日は、まだ惰眠を貪っているジョーとジェットを除き、みな同じ目にあっていた。
つまり今現在、8組のシーツ、枕カバー、掛け布団のカバーにパジャマetcが所狭しと干されているのであった。
まるでギルモア邸は洗濯物の中に浮かぶ小船のような状態であった。

「今度は何だ?」
「わからないアルよ。」 「でも原因なくして結果はありえないものであるからして……」
ジェロニモと張々湖、グレートが顔を近付け小声で話あっている。
「どうせジェットかジョーだろうよ、いつものごとく」
アルベルトがちらりとニ階へと続く階段の方へ視線を向けた。
「なんにしても早く解決してもらわないと、そのうち今僕らが着ている服まで 剥がしにく
るよ、フランソワーズは。」
ピュンマの言葉にその場にいた全員がため息をついた。




そうなのだ。
何か言葉には出せないモヤモヤとしたものがあると、フランソワーズは洗濯に燃える。
まるで自分の心を綺麗にしようとでもいうかのごとくに。
そして今日も、何度目かわからない終了を知らせるピィーピィーという音が聞こえるやいなや、彼女はカゴに入れた山の様な洗濯物を抱えて物干し台へと向かうのであった。
こころなしか足音がドスドスといつもよりささくれて大きく聞こえるのは気のせいではないだろう。
そしてまるで親の敵でも取るかの様に、パンパンと豪快な音をたててシーツのシワを伸ばしながら干していく。
その姿には鬼気せまるものがあり、はっきりいってこの緊張感といったらミッションで敵に対峙するとき以上かもしれない。


「全く何でこんなややこしいことになったんだ?なぁジェロニモ……」
同意を求めようとして振返ったアルベルトは絶句した。
ジェロニモは部屋の隅で座禅を組み瞑想に入っていた。
只今精霊と交信中、声かけ厳禁といった感じである。
ずるい、一人で逃げやがったな、と思ったところでハッと気が付く。
「グレートと張々湖は?」
「……さっきトイレに行ったきり戻らない……」
ピュンマが自分の迂闊さを恥じるように天を見上げた。
「逃げられたみたいだね……」


ギルモア博士とイワンはとっくに『研究が忙しい』とかなんとか言い訳をしながら研究室にこもりっきりだ。
イワンはともかく、博士は研究以外はボケッとしたじいさんだが、さすがにジョーやフランソワーズと同居して長い分、危機回避能力に関しては鍛えられているようだ。
日本在住組のグレートと張々湖も抜かりない。
ときおりやって来るフランのこの超大型低気圧に振り回された事があるに違いない。
残されたのは真面目なピュンマと逃げ遅れたアルベルトのみ。
二人して顔を見合わせると、何度目かわからないため息がこぼれでた。
逃げれるものならそうしたいが、滞在中いつまでもこの緊張感が続くのには耐えられない。早くなんとかせねば。
「……で、結局原因は何なんだ?」
「わからないよ、だけど……」
ピュンマが指でニ階を指さした。
「あいつらだろうね、十中八九。」

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