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呼び鈴が鳴ると同時に,玄関から健太が飛び込んで来た。
もどかしそうに靴を脱ぎ、いつものように律儀に靴を揃える。
そしてリビングに走りこむと、ソファーにゆったりと座って雑誌を読んでいた
ジョーを見つけてポケットから出した物を投げ付けた。
「島村ジョー、これはどういうことだ!!」
「どういうことって、君こそこれは何だい?」
ジョーが自分に投げ付けられた物を足元から拾い上げてブラブラと左右に
振った。
それは軍手。
健太が胸を張って言った。
「グレートが決闘するときには手袋を投げるんだって言ってた。」
でもこれ軍手だよ?とジョーが聞くと、手袋が見つかんなかっただもんと健太が口を尖
らせた。
「で、なんで決闘なんだよ?」
「だって何だよ、この記事は!!」健太が手提げバッグから女性週刊誌を取り出
した。
あの事件の後、健太とジョーは凄く仲良しになった。
あれ程ぎくしゃくしていた2人はまるで本当の兄弟の様に仲良くなり、逆に
フランソワーズが焼きもちを焼くほどだった。
健太は誘拐事件を通してジョーの事をなかなか出来る男だと認識したようで、素直に接することが出来る様になった。
ジョーの方は元々友好的に接したかったのだから、健太の態度が軟化すれば
何も言う事はない。
毎日楽し気に遊ぶ二人の姿を見て、フランソワーズはホッと胸を撫で下ろしていた。
だからこんな風にジョーと健太が言い合うのは久しぶりである。
健太の差し出した雑誌を受け取ってペラペラと問題の記事に眼を通すとジョー
はにやりと笑った。
そこには『島村ジョー、熱愛発覚!』という記事がでかでかと写真入りで
載っていた。
相手の写真にはモザイクがかかっているが、フランソワーズとは別人である。
「こういう雑誌を小学生が読むのは感心できないなぁ」
「なにをのんきな事言ってんだよ、島村ジョー。 フランソワーズを泣
かせたりしたらオレが許さないよ!」
健太の真剣な様子にジョーは微笑みながら言った。
「仕方ないよ。なにか特ダネが欲しいって頼まれたんだよ、あのとき世話
になった記者 に。
だから不本意だけど協力したんだよ。」
でも僕にはやましいことはないからね。 チームのスタッフの友人に、小さな劇団でかけ出しの女優をやっている人がいて、こういう話題作りは大歓迎だっていうんだ。
それで協力してもらったんだよ。
「本当だろうな?でもなんでフランソワーズに頼まないんだよ。 マスコミに本命の恋人がいるってばれるのが
そんなに怖いのかよ。」
「別に隠そうとなんかしてないよ。 フラン
のことははっきりさせるつもりだけど、でもこんなふうに雑誌に撮られて公表
さ れるなんていやだからね。 いづれちゃんと記者会見するつもりだよ。」
健太の動きが止まった。
「……そっか、記者会見すんのか……」
健太が俯いた。
ジョーが腰をかがめて健太の眼を正面から見た。
「ごめんね、君が彼女を好きなのは知っているけど、これだけは譲れないんだ。
フランソワーズのこと大事にするから許してくれないか」
健太は黙っていた。しばらく黙っていたが、ゆっくりと顔を上げてジョーの眼を見つめ返
した。
「ジョー。10年経ったらオレ,19になるんだ。」
「……そうだね。」
「そんときフランは29歳だよね。」
「そう……なるよね……」
「今はラブラブだけど10年経ったら絶対けん怠期がくると思うんだ。」
「…………。」
「その頃オレ、ピチピチのイケメンになってるだろうし、そしたらまだオレにも
可能性は残されているってことだよね。」
「……えっと、まだ諦めないってことだよね?」
「うん。覚悟しといて!」
健太が楽しそうに笑う。ジョーもちょっと複雑そうな表情をしながらもやっぱり
笑った。
たった9才でも、いや少年だからこそ想いは一途である。
(うかうかしてられないなぁ)
ジョーは一人ごちた。
「ただいまぁ」
フランソワーズの帰宅を告げる声に二人で一瞬眼を合わせると、競争する様に玄関
に向かった。
「おかえり、フランソワーズ!」
二人の声が重なった。
少年よ大志を抱け。道のりはまだまだ長い。
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THE END 2004.2.12
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