少年よ大志を抱け

(3)



ドアの開く音とバタバタと飛び込んできた足音にジョーは読んでいた雑誌から 視線を上げた。
リビングに飛び込んで来た健太は靴を脱ぐのも忘れ、はぁはぁと肩で息 をしていた。
両膝には大きな擦り傷。擦ったような小さな傷が、腕や顔にもできていた。
そのただならぬ様子にジョーの眼がすっと細められる。
ゆっくりと立ち上がると健太のそばに歩みより、片膝をついて目線を健太 のそれと同じ高さにした。
一緒に居る筈のフランソワーズの姿が見えない。
走って来たはずなのに、健太の顔色は青ざめて、おびえたような眼をしていた。


「何かあったんだね?」
ジョーが優しく問いかけると健太の瞳から涙がぽろぽろとこぼれ落ち、堪 えていたものが溢れ出したかの様に大きな声で泣き出した。
早く話さなきゃと思うのに、口からこぼれるのは嗚咽だけで言葉にならない。


ジョーの手が健太の頬をパチッと叩いた。
健太は何が起こったかわからず、一瞬呆然としてぶたれた頬を押さえた後、カッ となってジョーにくってかかった。
「何すんだよ、島村ジョー!」
「いつもの健太君になったね。大丈夫、落ち着いて話してごらん。
フランソワーズに何かあったんだね?」
ジョーが安心させるように健太の肩に手を置き、微笑みながら言った。
「さぁ、何があったか話して。」



健太はつっかえつっかえ話し始めた。
ときおり感極まって泣いてしまうと、ジョーが安心させる様に背中を擦った。
やっと話を全部話し終えると、健太はジョーの袖を掴んで言った。
「助けて。フランソワーズを助けて!」
いつもの反抗的な健太の姿はなかった。
自分を助けようとして男に掴みかかっていくフランソワーズの姿が浮かんで、 健太の瞳にまた涙が溢れてくる。
そんな健太をジョーはぎゅっと抱き締めた。
怒りがふつふつと湧いて来た。
誰がこんなことをしたのかわからないが、絶対に許さない。
「うん、助けにいこう。フランソワーズを助けにいこう」


ジョーの行動は素早かった。
張々湖とグレートに連絡を取ると、あちらこちらに電話していく。
PCを開くと健太から知り得た情報を分析して検索していく。
健太はただ呆然としてその様子を見ていた。
すごい。
ジョーの瞳に宿る光は健太の知っているジョーのものではなかった。
強く、怖くさえある冷静な瞳。
健太はキュッと唇を噛み締めるとジョーに向かって言った。
「オレもフランソワーズを助けたい。オレ、何すれば良い?」






今回の事件がBGがらみであることも否定は出来なかったが,健太の話を聞く 範囲内ではその可能性は低いと思われた。
小さな女の子が最初に拉致されそうになったことを考えれば、フランソワーズ はたまたま居合わせて、助けようとして巻込まれたと考える方が自然だ。
今世間を騒がせている少女連続誘拐事件となにか関係があるかもしれないと、 当然のようにいきついた。


フランソワーズと一緒に女の子も誘拐されている。
しかし事件が起こってからまだ2時間。
目撃者もいないようだし、今回の事件を誘拐と断言して警察が動 き出すにはまだもう少し時間がかかるだう。
警察と協力して捜査できればいいが、こちらにもいろいろ隠したいことが多 いという弱味もあってそれも出来ない。
グレートが蜥蜴に化けて少女誘拐事件の合同捜査本部で情報収集 をしてきたが、かんばしい手がかりはないに等しかった。
つまり現時点での手がかりは健太が覚えていた車種とナンバーのみ。
イワンが起きていればいいのだが、あいにく夜の時間のまっただ中だった。
「どうするアルか?動きようがないアルネ」
「脳波通信には応答がないしなぁ……。少なくともこの近 くにはいないことしかわからんよ」
動きようがない、と健太達が落ち込んでいると、電話が鳴った。
その電話に応答していたジョーが何やらメモを取ると、電話の相手に向 かって礼を言った。
「……わかってますよ、このお返しは必ずしますよ。」



メモを片手に振り返るとにやりと笑った。
「とりあえず、車の持ち主と登録されている住所はわかったよ。
 大胆な犯人だね、盗難車ではないなんて。おかげでこちらは手がかりを得 られたんだけ
 ど。」
「どうやって調べたんだよ、一体。」
「まあいろいろツテを頼ったよ。僕を追い掛け回していた雑誌社の記者 にいろいろ探って
 もらった。
 ああいう輩はそういう情報を非合理に手に入 れる事もできるんだよ。」
健太達が眼を丸くした。
ジョーのマスコミ嫌いは有名である。
先程の電話の様子 では後で何か見返りを求められる事は避けられないだろう。
「……フランソワーズを救えるなら何だって利用するさ。」
ジョーが自嘲気味に笑って言った。
そして三人を見回した。
「さぁ、ミッションを開始しよう。フランソワーズと女の子を迎えに行こう」

 
 

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