少年よ大志を抱け

(6)



天音真鈴は14才の中学2年生。
小さな教会の牧師をしている優しいパパと、そんなパパに一目惚れして押し掛け女房になったしっかり者の フランス人のママとの三人家族。
みんなに見守られてすくすくと育ってきた。
そんな真鈴の前に、ある日大天使ミカエルが現れ、真鈴が元天使であり、地上の悪を昇華させる為に天界 から転生してきたことを知らされる。
天界での記憶を取り戻した真鈴は聖天使エンジェルマリンとして悪と 闘っていく。


小太り男のレクチャーによると、今放送されている美少女戦士フローリアンの 前番組で、ラブロマンス有りアクション有りで、絶大な人気を誇ったアニメ番組 であったらしい。
ターゲット層は幼児から小学生の女児なのだが、マリンの可憐な容姿が男心をくすぐるらしく、成人男子の熱烈なコアなファンも多いらしい。
放送が終わった後もまだまだ人気が高いらしく、犯人の彼らはそういうファンの集まりで知りあったらしかった。


オープニングが始まるやいなや、車内の男達が野太い声で、一緒に歌を歌い始めたのには度胆を抜 かれた。
何なのよ、こいつら……。
アニメはとてもきれいだし、確かに小さい女の子が夢中になるのはわかる。
しかしこんないい年をした男達がこれを見て興奮するのがフランソワーズには理解できなかった。


「あのね、変身するときに『エンジェルマリンはご機嫌ななめ。天に向かって 懺悔なさ い』って言うの。」
車内の後部座席で小太り男と筋肉男に挟まれながら、フランソワーズと高山愛 ちゃんという女の子はずっとエンジェルマリンのアニメを見ていた。
フランソワーズが交渉し、愛の両手も自由にしてもらっていたので、身ぶり手 ぶり も加えて教えてくれる。
手首についた赤くこすれた後が痛々しくて、余計にこの犯人達に対する怒りが湧 いてくる。
しかしそんな感情を隠して従順に振舞った。
他の誘拐された女の子たちを救出するまではとにかくじっと我慢するしか道 はない。
「お姉ちゃん、本当にマリンちゃんみたいにきれい」
このとんでもない状況においても子供は強い。
愛が小さい声で「すごくかっこいいの。悪い人 なんかすぐにやっつけちゃうのうよ」 と言うと、フランソワーズをうっとりと見つめて笑った。
こんなかっこうするのは屈辱のなにものでもないけれど、こうやって 笑ってくれるなら着たかいがあったというものだ。


それにしても、こいつらは何を考えているんだろう。
犯罪を犯す者には犯すなりの、それがはた目 からみればどれだけ 自分勝手な言い訳であろうとも、何らかの理由といったものがあるはずだと 思う。
「だって実際に見てみたいじゃない、どんな感じになるのかなぁって。
 他の子もイメージに合った子なのよ、特にフローリアンローズ役の子がね……」
なぜこんな事をするの?と聞いてみたら小太り男は罪悪感のかけらも感 じさせずにうっとりと して言ってのけた。


はじめは誤魔化されているのかと思った。
そんなくだらないことで普通誘拐なんてしないだろう。
けれど実はそれが本当に動機なのだと気が付いたとき、逆に背筋がぞっとした。
ゲームみたいなものなのだ、彼らにとって。
都合がわるくなったらリセットできるゲーム。
警察の手が身近にせまってきたら、同じ様にリセットできると 思っているのだろうか。
女の子たちが実際に生きている意志のある人間だという感覚があるのだろうか?


気をつけなければならない、とフランソワーズは思った。
彼らはきっと都合が悪くなったら簡単に彼女たちを排除するだろう。
リセットするように、人形を捨てるように。
自分たちの目の前からいなくなればそれでおしまい……。
そしてそんな危機から彼女たちを守れるのは今は自分だけだ。
出来るだろうか?自分ひとりでみんなを守る事が出来るだろうか?
(ジョー、お願い早く助けにきて!)
フランソワーズの手が横に座る愛の手を握りしめた。

 
 

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