少年よ大志を抱け

(8)


ファンの間では名作といわれる第46話『堕天使ラファエル』を見終わった後、 リビングに丸くなって座りながらビデオを見ていた男達は一斉にため息 をついた。
堕天使ラファエルが自分の兄であり、自分を助ける為に天界の禁忌を破り天上界 から追放されたこと、そしてとうとう悪の枢軸として魔界に君臨する様 になったことを知り慟哭するマリンの姿は、日本中の女の子の、そしてマニアの 男達の心を揺さぶった。
「いいねぇ、やっぱり。マリンちゃん最高!」
「まあね、確かに萌えるのは認めるよ。フローリアンはキャラクター はいいけど、脚本が
 甘いからね……」
フローリアンの熱心なファンだという陰湿男が同意した。


小太り男がフランソワーズと少女達が監禁されている部屋をちらりと見た。
「なぁんかさ、最初はおもしろかったけど、なんだか面倒になってきちゃったね」
「じゃあ、止めちゃう?あの外人さんで遊んだ方が楽しそうじゃん。」
「そうだなぁ、ベソベソと泣いてばかりだしなぁ、あの子たち。うざいよね、ちょっ
 と。」
筋肉男がじゃあ決まりだな、と皆の顔を見回した。
「でもどうする?あの子たち。」
「山の中に置いてくればいいじゃん。」
「オレたちの顔、覚えてるよ?」
「ボクんちの別荘が八ヶ岳にもあるんだけどさ、そこなら山が深 いから出てこれないよ、
 きっと。」


フランソワーズの想像どうり、犯人達は飽きたから捨てるおもちゃのようにしか 少女達を見ていなかった。
彼らは、もう少女たちへの関心を 失って、フランソワーズをマリンちゃんに仕立ててどんな事をしようかと、妄想 を膨らませながら楽しそうに笑っていた。



耳と眼を使ってその会話を聞いていたフランソワーズはすやすやと眠る少女 たちの方を振り返った。
なんとしてでもこの作戦は成功させねばならない。
フランソワーズは監禁されている部屋の家具で移動できるもの全てを扉の前 に置いて、簡易バリケードを作っていた。
ろくに家具もない部屋なのでどれだけ時間稼ぎができるか分からないが、 やらないよりましだろう。
ガタガタという音に少女達が眼を覚ます。
フランソワーズは眼をこすりながら起きだしてきた少女達に向かって言った。
「いい?みんなの協力が必要なの。今から私の言う事を聞いて行動してね。」
不安そうな彼女たちを安心させるように微笑むと作戦を説明した。
少女達はコクンと頷くと一斉に動きだした。





奥の洋室から聞こえる重い物を動かす音に、犯人達も当然気が付いた。
「おい!何をやってる?」
扉が開かない事に気付いて筋肉男が舌打ちし、体当たりして開けようとする。
必死にバリケードにした机を押さえるが、やはりあまりにもぜい弱 なそれはすぐにでも突破されそうだった。
それを見て取り、扉の向こうの男達が余裕で茶化しているのが聞こえて、 フランソワーズは唇を噛み締めた。
「駄目だよ、マリンちゃん。こんないたづらするなんて、後でお仕置 きしないとね。」
「マリンちゃんの泣き顔って最高にそそるんだよね。」
男達の笑い顔に、背筋がゾワゾワと波打つようなイヤな気持ちが沸き上がってくる。
何をされるか分かったものではない。
しかしフランソワーズの必死の願いにもかかわらず、扉は男達の体当たりに徐々にひび割れ始め、とうとう大きく崩れた。




「さあ、こんな事をしてタダで済むとは思ってないよな?」
筋肉男がバリケードにしてあった家具を一つずつどかしながら近づいてくる。
下卑た笑いにぞっとしながらフランソワーズはじりじりと後ずさる。
フランソワーズのそんな表情に更に征服欲が駆り立てられるのか、男達の笑 いが大きくなる。
しかしその笑い顔が急に凍り付いた。

「おい!あの子達はどこだ?」
男達が周りを見渡すがこの部屋に居るはずの少女達の姿が見えない。
「窓が……!!」


逃げられないように板を打ち付けてあった窓が開き、カーテン が外に向かってはためいていた。
「ちくしょう!逃がしたな。」
「何てことしやがる、この女!!」

フランソワーズが挑発するかのように顎を心持ち上げ、笑いながら言った。
「あなた達がビデオを見ている間に遠くまで逃げられたと思うわ。
 民家で助けを 呼ぶ様に言ったから、もうすぐ此処に警察が来るわ。 もうお終いよ、観念
 なさい!」
「畜生っっ!」
筋肉男が小太り男と此処で監視をしていたニキビ面の男に顎をしゃくり、追い掛 ける様に指示を出すと、慌てて二人は外へ出て行った。


フランソワーズは残った男達を見据えた。
筋肉男は手強い。気を抜けばもっていかれそうだ。
そして陰湿男のスタンガン。
適度に間合いをとり、攻撃のチャンスを狙うしかない。
敵が4人から半分に減った今が最大のチャンスだ。
フランソワーズはわざと怯えた表情をして後ろに下がった。


それにひっかかったのは陰湿男だった。
完全に切れた様子でスタンガンから火花を散らせながら襲い掛かって来た。
身を翻しつつ左足で回し蹴りを決める。
超ミニのスカートなので下着は丸見 えだろうがこの際そんなことは気にしてられない。
左足は顎に入り、陰湿男はスタンガンと一緒に壁に激突した。


「お前、素人じゃないな?」
筋肉男がフランソワーズのきれのいい回し蹴りを見て呟いた。
陰湿男に近寄るとその手からスタンガンを取り、前に突き出す様 にしながらゆっくりとフランソワーズに近づいてきた。


フランソワーズも間合いをとりつつ反撃の機会を伺うが、筋肉男には隙 がみられない。
いやな汗が背中から沸き出してくる。
しかし早いうちにケリをつけないとまずい。
少女達を捜しに行った2人が帰って来 てしまったらもっと形勢は悪くなる。
と、そのとき筋肉男が間合いを詰めて来た。
身を屈めてその攻撃をかわすと、がら空きになった背中を蹴りあげる。
前方に倒れた男にとどめをさそうと動きだそうとしたそのとき、フランソワーズは急 に足を掴まれてつんのめった。
慌てて振返ると、先程倒したはずの陰湿男がフランソワーズの右足 をしっかりと握っていた。
スタンガンを避けながらの回し蹴りだったので完全に決 まっていなかったらしい。
それを見てすばやく立ち上がった筋肉男がスタンガンを突き出して来た。
右足を掴んだ手から強引に足を抜き去ると、スタンガンからぎりぎり身をかわした が、
その直後、筋肉男の左手がフランソワーズの腹に入り一瞬気が遠くなった。
床に倒れ込んだ身体に歯を食いしばって力を入れる。
しかし慌てて起き上がろうとする体は足でひっくり返され、筋肉男が馬乗りになった。
スタンガンが迫ってきて首筋に当てられそうになる。
重い体 にのしかかられて身動きが とれない。
(ジョー助けて!!!)
首筋で火花が散り、頭の中がハレーションを起こした。
意識を手放す瞬間にフランソワーズの眼に映ったのは、筋肉男のにやついた顔だった。


TO BE CONTINUE