遠い空から
(1)


「説明してもらおう」

ドルフィン号のコクピットは重苦しい空気に包まれていた。
フランソワーズは血の気の引いた顔で何かに堪えるように唇を噛み締めていた。
そんな彼女を痛まし気に見つめたジョーは、意を決したように顔を上げ、目の前に立ちはだかる人物の視線を受け止めた。



彼の名はラウル バルビエ。
ソルボンヌ大学の若き天才であり、その若さで助教授にまでなった科学界の期待の星だった。
そんな彼にBGが目をつけた。
全世界で科学者が拉致誘拐されていたが、ラウルもその一人だった。

そして彼はフランソワーズの兄ジャンの親友であった。
体育会系のジャン。
頭脳派のラウル。
一見両極端に見える二人だったが、飛行機に興味があることや明るくてサバサバとしたところが不思議な程似かより、お互いの家を毎日のように行き来していた。
だからラウルがジャンの家に着たときにはフランソワーズの相手もよくしていたし、彼女が急に姿を消したときにはジャンと共にパリの町を探しまくってもいたのだった。



ラウルは誘拐されて間がなく、まだ自分の身に何が起こったかさえもわかっていなかった。
そこにいきなり現れた赤い服の男達に逃げるように言われ、逃げた先には2年前に行方不明になった友人の妹が同じ赤い服を着て銃を撃ちまくっていた。
ラウルはなかばパニック状態でフランソワーズの身体を揺さぶり、そしてフランソワーズは戦闘中ということも忘れて立ち尽くしていた。
そして後から合流した009達がなんとか二人を船に押し込み、炎をあげる研究所を慌てて後にしたのだった。




『おい、なんとかなんねーのかよ、001』
あまりの重苦しさに002が脳波通信で呼び掛ける。

『無理だよ。彼には記憶操作が出来ないんだから。』
001の返信に、呆然としたままの003以外心の中でため息をつく。

(修羅場は避けられないって事か……)

捕われていたほかの科学者には暗示をかけ、BGやサイボーグ戦士に関する記憶を封じ込めて近くの町で降ろした。
ただ、ラウルの場合、何がなんでも真相を知りたいという強い想いが暗示をはねのけていて、記憶操作が出来なかった。
無理に操作してもこの状態ではすぐに暗示が解け、更にややこしいことになりかねないと判断した001は、ひとまずギルモア研究所に彼を連れて行くことにしたのだった。
ラウルが自ら記憶操作を受け入れるようになるのを待つしかなかった。

「ちゃんと話してくれ。
 BGとやらに誘拐されて怪しい研究をさせられるところだったのはわかった。
 助けてもらったことには感謝する。
 だが何故フランソワーズが此処にいるんだ?」

ラウルの目がフランソワーズを見つめた。

「何故急にいなくなったりしたんだ。
 此処で何をしてるんだ?それに…………」
ラウルが言い淀んだ。
「それに、君のそのかっこうは一体なんなんだ?」



ハッとフランソワーズが顔を上げた。
口元が震えていた。
ジョーがラウルの視界を遮るようにフランソワーズの前に身体を滑りこませた。
「すみません、僕からちゃんと説明します。
 僕が話しますから彼女は休ませてーーーーー」


このままでは彼女の心が壊れてしまう。
青ざめ震え続ける彼女はこのまま消えてなくなってしまいそうだった。
実際きっと彼女はこのまま消えてしまいたいと思っているに違いない。
魔人像を倒したあと、BGが復活してまた僕らが集まることになるほんの短い 平穏の日々を、彼女はフランスの兄の元で過ごした。
サイボーグにされたことは言えなかったわ、と教えてくれた。
兄さんにだけは知られたくないの、とつぶやいたときの瞳が悲しくて。
何も言わずに迎え入れてくれた兄を裏切るようにして黙って姿を消したのだから、もう二度と顔向けできないわ、と寂しそうに言った彼女をジョーはただ黙って抱き締めた。
もうこれ以上彼女を苦しめたくなかった。


しかしジョーの言葉は悲鳴に近いフランソワーズの言葉で遮られた。

「お願い、兄さんには黙ってて!!
 私に会った事、話さないで、ラウルっ」
そしてそのまま気を失って崩れ落ちた。

TO BE CONTINUE