遠い空から

(2)



張り詰めた糸が切れたように気を失ったフランソワーズは今、ギルモア邸の自室で眠っている。
ベッドの端に座り、その寝顔をジョーは見つめていた。

まるで日の光のように輝く金色の髪。
どこまでも深く水をたたえた様な蒼い瞳。
桜色の小さめの唇が僕の名をよぶ時、いつもとても嬉しくて、わざと聞こえない振りをしたこともあったっけ。
君と手を初めて繋いだ時、戦闘中だというのにその柔らかさにドキドキしたこともあった。
もう駄目だと思ったとき君の顔が浮かんできて、まだ負けられない、と力が湧いてきたこともあった。

君の笑った顔が大好きだった。
いつも勇気と力を与えてくれる君の笑顔が大好きだった。
この笑顔を守る為なら何だって出来る気がしてた。
だから、僕は今君の手を離さなければいけないのかもしれないね。
君の背を押して、君が本来居るべき世界に還してあげなければいけないのかもしれない。

フランソワーズの細い指にそっと触れてジョーは目を閉じた。
胸の中で愛しい名を呼び、そしてある決断をした。
考えただけで心が引き裂かれそうだったが、ジョーは耐えた。
君を愛してる。
愛してるから。
君には幸せになってもらいたいんだ。
だから僕も笑おう。その日を笑顔で迎えてみせよう。



    *****************************

フランソワーズが眠っている間に、ラウルにこれまでの経過を話すことになった。
彼女抜きでどこまで話していいものか悩んだが、話をする前にラウルの方から釘をさされた。

「包み隠さず全てを話して欲しい。」

さすがにラウルは機械工学の第一人者だった。
彼らが自分達の事を打ち明ける前におおよその事は予想を立てていたようだった。
ラウルは目の前で彼らが口から炎を出したり空を飛んだりしたのを見ていた。
そして彼らと行動を共にしているのが、科学者の間では半ば伝説と化しているギルモア博士だと知った時に、自分の予想が間違いない事を確信した。

「君たちはサイボーグなんだろう?」

ラウルの声が震えた。

「……フランソワーズもそうなのか?」

ジョーがラウルの眼を見て言った。

「視力と聴力を強化されたサイボーグです。」

ラウルが顔を覆った。
うめくような声が絞り出された。
「誰がそんな酷い事を……」
泣いていた。涙が膝の上にボタボタと落ちた。
「なんであの子がこんな目にあわなくちゃいけないんだ……」

ジョーが静かに今までのことを話し始めた。
パリの町で拉致され、BGに改造されたこと。そして今に至る長い日々のこと を。
ラウルは驚き、怒り、そして涙を流しながら聞いていた。
話が終わったとき、リビングにはラウルのすすり泣く声だけが響いていた。


しばらくしてようやく泣き声が止むと ラウルは打ちひしがれた顔を上げ、キッとした眼差しをジョー達に向けた。


「フランソワーズを連れて帰ります。此処には置いておけません。
 あの子を私達に返して下さい。」

TO BE CONTINUE