遠い空から

エピローグ



その日二人はこの3週間の時間を埋めるかのように過ごした。
イワンと博士にも連絡しようとするフランソワーズに、今日くらいは二人でいようよとジョーが言うと、その提案に恥ずかしそうに頷いた。
そんなフランを愛おしそうに見つめた後、ジョーはふと気付いて言った。
「そういえば君、お兄さんに何て言ったんだい?教えてもらえなかったけど」
もう、兄さんったら余計な事を……
どうしようかなぁと躊躇うフランに、ジョーは更に催促する。


しばらく迷ったあと、ジョーが聞き出すまでひかないことを察して渋々口を開く。

「兄に全部話したの。誘拐されてから何があってどんなふうに生 きてきたか。
 もちろん私の身体の事も。
 兄さん泣いてた。自分の事になると我慢強 いんだけど、私の事になると泣き虫なの、兄
 さん。」
フランソワーズの顔がつらそうに歪んだので、ジョーは話したくなければ話 さなくてもいい、と言ったが、フランソワーズはううん、やっぱり聞いて欲 しいの、と首を振った。


「兄さんは私が可哀相だって泣くの。お前には誰よりも幸 せになってもらいたいのにっ
 て。
 その為ならどんなことでもしてやるって。
 私ね、フランスに着いてから私にとっての幸せってなんだろうってずっと考 えてた
 の。」
フランソワーズはジョーの胸に自分の頭を押し当てる様にすると、苦笑しながら 言った。
「確かに兄さんの言う通りよね。私ってかなり可哀相だと思うのよ。
 拉致されて、 サイボーグにさせられて闘わなくてはいけなくなって。
 女の子らしい事出来なくなって、バレエのプリマになる夢も奪われて。」
フランソワーズがひとつひとつ確かめる様に指を折りながら不幸せなところを挙 げた。



でもね、とフランソワーズがジョーの瞳をいたずらっぽく覗き込んで言った。
「でもね、ジョーに会えたから、そんなの全部帳消しになるくらい幸せなの、わたし。」
ニコッと微笑む彼女にジョーは見惚れた。
そして彼女の言葉が胸の隅々にまで広がり、熱く震えるのを感じた。
「あなたに会えたから、わたし今すごく幸せなの。
 これから先も辛い事や悲しい事がいっぱいあるだろうけど、それでもわたしの幸せは、
 ジョー、あなたの傍にあるの。」




「……それ,お兄さんに言ったの?」
「どうしても日本に帰る事許してくれなかったんだけど、そう言ったら唖然としてたわ、
 兄さん。」
そのときの様子を思い出したのか、クスクスと笑いをかみ殺しながら言った。
「もう、日本に帰れって。お手上げだって呆れられちゃった。」


ジョーもおかしくなって一緒に笑った。
君の決め台詞に僕もお手上げだよ。すごい殺し文句だってわかってる?
かなわないなぁ、と思うと余計に笑いが込み上げてきて、フランを抱き締めて更に笑った。
愛しさが込み上げてきて堪らなくなる。
フラン、愛してるよ。
君が僕の傍に幸せを見い出してくれるというなら、僕は命を賭けて君の幸せを守るよ。
そしてフランを僕の元に帰してくれたジャンとラウルに心から感謝しようと思った。


「いつか二人でフランスに行こう。僕もお兄さんに会いたいよ」
「……いや〜な顔されるかも……」
「そりゃあ、3階の窓から出入りなんかするからだよ」
もう〜!と膨れるフランソワーズをおかしそうに見つめながらジョーは笑った。
「お兄さんからの伝言を預かっているんだ。君に伝えて欲しいって。」
「なあに?」
そっとフランソワーズを抱き寄せてその髪に顔を埋めて言った。


「君の幸せを遠い空の向こうからいつも祈っているって。いつまでも愛してるって」


フランソワーズがくすぐったそうに笑ったのでジョーも一緒に笑った。
「……わたしも愛してる。自慢の兄なの。」
妹をよろしく頼むよ、と少し寂しそうだったジャンの声を思い出してジョーは遠い空の彼方へ思いを馳せた。



窓から覗く蒼い蒼い空は、フランスへと繋がっている。
ジャンの想いもラウルの想いもこの空に溶けて君の元へと続いている。
君とぼくの想いもきっと届くに違いない。


誓います。
彼女と共に生きていく事を。
彼女を、この幸せを守り抜くことを。
この蒼い空を見上げる度に、あなたが託してくれたものの大きさを、僕は確かめます。


この空の向こうまで、僕の誓いが届きますように。



THE END 2003.11.29