|
地下深くに眠るメタルXの鉱脈を地表近くに隆起させる。
それだけの為にBGは鉱脈近辺の地殻プレートを動かそうとしていた。
その地殻の上には多くの人々がささやかではあっても幸せに暮らしている。
無理やり地殻を動かせばその周囲の地形は大きく変わり、その上に生きているものはことごとく命を絶たれる事になるだろう。
その恐ろしい計画を察知した00ナンバー達は、作戦を阻止すべく闘いに赴いた。
基地の規模は大きく、かなり危険なミッションになることは初めから予想されたことだったが、
だからといって躊躇している暇はなかった。
「わたしを置いていって。」
自分を抱き寄せた009の胸を手で押しやる様にしながら003が告げた。
「……此処に置いていって。」
絞り出すように掠れぎみの声で必死にしゃべろうとする003の顔が苦痛で歪んだ。
右足に深く深く負った傷口から鮮血が流れ出し、地面を赤く染めていた。
首のマフラーを外し慌てて止血をするジョーに、フランソワーズは更に続けた。
「009。早く装置を止めて。」
「しかし、この傷を一刻も早く処置しなくては。それに此処にいては敵に見つかって攻撃 されてしまう。」
そういうジョーの身体も無数の傷を負っていた。
地殻プレートを操作する大型機械のある場所へと続く、長い廊下で待ち構えていた2体のサイボーグマンは、加速装置を備えていた。
激しい戦闘の結果、これだけの傷で済んだのは只単に運が良かったといえるだろう。
他のメンバーもそれぞれの持ち場で必死に闘っているが形勢の不利は否めない。
一刻も早く装置を破壊しないと大変なことになる。
イワンが今必死に地殻変動装置を止めているが、
しかしそれには莫大なエネルギーを必要とする。
さすがのイワンでも、もってあと10分だった。
タイムリミットが過ぎたら、起こるのは大地震。
地上は地獄になる。
「お願い。早く行って。装置が動きだす前に……」
痛みで気が遠くなりそうなのを必死で耐える。
フランソワーズの強化された眼に、今こちらに向かってくるロボット兵の一団が見えていた。
いくらジョーでもあれと対峙しては簡単には倒せないだろう。まして今彼の身体は満身創痍なのだから。
ジョーがロボット兵の接近に気付く前に彼を先に向かわせる必要があった。
彼が気付いてしまったら、きっと私を此処に残してはいけなくなるのは分かりきっていた。
いや、009として、リーダーとして、私を此処に置いて行くかもしれない。 だけど、きっと後で彼はすごく苦
しむだろう。 そうしなければ多くの人を救えなかったのだと周りの人がいくら慰めても、彼は自分を許
せないだろう。
優しい人だから。彼はそういう人だから。
だからわたしから言ってあげなければならない。わたしを此処に置いていってと。 それでも彼はやっぱりつらい想
いをするんだろうけど……。
フランソワーズは平静を装ってジョーに微笑んだ。
「大丈夫、もうすぐみんなが此処に辿り着くから。わたしの事は大丈夫。」
フランソワーズの言葉にジョーが頷いた。
「わかった。とにかく助けが来るまで此処に隠れているんだよ。」
破壊された隔壁の残骸の陰にそっとフランソワーズを寝かせると、ジョーは加速装置を使って姿を消した。
ジョーが姿を消したのを見届けた後
フランソワーズは身体を起こし、もうすぐロボット兵が姿を現わす暗い廊下を見やった。
もう能力を使わなくてもガチャガチャという耳障りな音が聞こえてきていた。
(ジョー、ごめんね、嘘ついて)
仲間がもうすぐ迎えに来るなんてとても無理な話だった。 フランソワーズの遠くまで見通せる瞳は、必死に闘い道を開こうとする
仲間達
の姿を捉えていた。
とてもこちらまで助ける余裕がないのは明らかだった。
フランソワーズは崩れそうになる身体を必死に支えてスーパーガンの照準を暗い廊下へと向けた。
此処でロボット兵の足留めをしなければならない。ジョーが装置を止めるまで。
多量の出血の為貧血になっているのだろう。スーパーガンを持つ手が細かに震え、落しそうになるが、
気力を絞り出す。
(ジョー、怒らないでね。わたしがいなくなっても自分を責めないでね。)
わたしはわたしの出来る事をする。わたしの闘いをするだけ。
廊下の端からロボット兵が姿を現わした。
フランソワーズがトリガーを引いた。
ジョーは後ろ髪を引かれながら装置を止めるべく加速装置を使って進んだ。
彼女の言っていることは正しい。
どれだけ多くの人の命が奪われようとしているかを考えると、今自分のすべきことは明らかである。
少しでも早く装置を止める。そして一秒でも早くフランソワーズの元へ戻る。
彼が採るべき最善の道はそれしかなかった。
装置を守る頑丈な隔壁を渾身の力で壊して行く。
あと5分。
焦る気持ちを必死に押さえ、やっと開いた穴から飛び込む。
同時に突き刺さるレーザー光線を加速装置を使いながら巧みに避け、最強にしたスーパー銃を装置の真中に向けて放った。
さすがに敵戦力が集中している。
幸い加速装置を備えたサイボーグマンは1体だけで、あとはロボット兵だ。
ヒュンヒュンという音を響かせながら、ジョーとサイボーグマンは一陣の風になり、所狭しと闘った。
レーザー光線の巻き添えを食い、何体かのロボット兵が倒れる。
あと2分。
ジョーの必死の思いが届いたのか、スーパー銃から放たれた光線がサイボーグマンの急所を撃ち抜いた。
そのまま休むことなく加速状態を維持する。
スローモーションのような動きで近寄ってくる無数のロボット兵を射抜きながら、その合間を縫って何度も装置への攻撃を繰り返した。
タイムリミットまで1分を切ったところでようやく地殻変動装置は黒煙をあげて動きを止めた。
ジョーはようやく加速を解くと、すぐさま仲間に連絡を入れた。
『装置は止めた。みんな大丈夫か?』
『……なんとかな。危なかったぜ。こいつらしつこくて。』
『イワンは眠っちゃったアルよ。力を使い果たしたアルね。』
皆の無事な声が返ってくる。それぞれなんとか切り抜けたようだ。
『003!』
只一人返事をしないフランソワーズに向けて再度通信で呼び掛けるが返事がない。
いやな予感がして、ジョーは傷だらけの身体にむち打って彼女の元へと急いだ。
『003!どうしたんだ?返事をしてくれ、フランソワーズ!』
しかしやはり返答はなく、そして先程フランソワーズを置いていった長い廊下でジョーが見たものは、破壊された一個小隊程のロボット兵が転がっている光景だった。
残っていた隔壁は跡形も無く崩されていて、そして床に大きな穴がぽっかり開いていた。 慌てて駆け寄り覗き込むと、すぐ下の階の廊下が姿を表していた。 そこにいたはずのフランソワーズの姿はどこにもなかった。
ジョーの顔から血の気が引いた。
「フラン!フランソワーズ!!」
ジョーは下に飛び下りると必死な面持ちで瓦礫を除け始めた。
|