凍った月

(12)




その島は今まで探索した島と同様にのどかな島だった。
細く伸びた砂浜から急に切り立った崖へと続き、その崖の上には森が広がっていた。
鳥達の楽園と化している島にはどこにも不審な点はなかった。
だがこの島のどこかにBG の施設がある。
「本当にこの島だったんだろうな?」
「我が輩の尾行は完璧だぜ。ロボットバードは確かにこの島へ降り立ったんだよ。」
002の言葉に昨夜コウモリに化けて帰還するロボットバードを追った007が心外だと言わんばかりに憮然 として言った。
「ふむ……ということは施設が在るのは……」
004がトントンと足元を踏みならした。
「……この下って可能性が高いな。」

009が006を振返ると、「ワテの出番アルね」とニカッと笑って胸を張った。
そしてすぐさま口から炎を吹き出すと、足元に穴を掘り始めた。
しばらくすると地下を縦横無尽に掘り進んでいた006から脳波通信が入った。
『009、見つけたアルよ。』
その通信に皆の顔が自然に綻んだ。
「戦闘開始だな。」004がにやりと笑う。
009を見ると、その瞳に強い決意が溢れんばかりに満ちあふれていた。

やっと見つけた。
君に一歩近づいた。
眼を閉じて逸る気持ちを落ち着かせるかのように一つ息を吐き出した。
そして再び眼を開く。
ぐるっと仲間を見渡した。
「行こう。003の……フランソワーズの元へ」




006の誘導のもと、施設の壁へと辿り着いた面々はすぐさま行動を開始した。
006の炎で溶けた壁をくぐると、案の定待ち構えたロボット兵が襲いかかってきた。
先に侵入した009は加速装置のスイッチを入れ、次々とロボット兵を殴り倒して道を開いていく。
その間に穴をくぐり抜けた00ナンバーズはそれぞれに戦闘を始めた。
加速を解いた009はすぐに脳波通信の回線を開いてフランソワーズに呼び掛けたが、ジャマーが効 いているらしくノイズが聞こえるばかりだった。
「ちっ」
009が舌打ちする。
これでは例え彼女が此処にいるとしても居所が判らない。
今回は001が夜の時間に入っているし、003は捕われたままなので、この施設の内部構造は全く把握 できていない。
いつもなら二人がかなりの情報をもたらしてくれる。 それがどれだけありがたいことか、どれだけミッションの成功率を上げ、自分達の安全の後ろ楯になっていたかを実感する。 とにかく目指すのは管制室。
そこを見つけだしてレイチェル博士やフランソワーズの行方を捜すのが最善の道だ。
だが敵も必死だ。
なかなか先へとは進ませてはもらえない。
廊下は倒されたロボットの破片で足場がない程に埋もれたが、次々とロボット兵は湧いて来てきりがない。
畜生!と002がいら立ちげに怒鳴る声が聞こえた。

「009、お前は先に行け!!」
力任せに壊した廊下の壁を突進してくるロボット兵に投げ付けながら005が叫んだ。
投げつけられた壁と床に挟まれて、ロボット兵がぐちゃっと潰れた。
005の言葉にジョーは無言で頷くと、加速装置を使って廊下を塞ぐように迫って来るロボット兵の間を縫 うようにして奥へと進んだ。



研究所の中は迷路のように複雑な構造をしていた。
施設内を走り回り管制室を捜すが、なかなか見つからない。
009は加速を解き、右往左往と半ばパニック状態で走り回るBGの兵士の一人を後ろから羽交い締 めにして空いている部屋へと連れ込んだ。
「ここに003が……サイボーグが監禁されてないか?」
片手で首を絞めながらの009の問いかけに、恐怖に顔を歪ませた兵士は真っ青な顔でぶんぶんと首を縦に振ったが、監禁場所までは知らないらし い。
009は兵士から管制室の場所を聞き出すと、その首に当て身をくらわせて再び加速装置のスイッチを入れた。



フランソワーズは此処にいる。
ジョーの心の中に熱いものが溢れて来た。
もうすぐ、もうすぐ君を助けにいく。
009はまっすぐ管制室を目指した。



管制室へと続く廊下にはBGの一般兵士が溢れていた。
加速装置を使っているため、彼らはまるで止まっているように見える。
そのどの顔も驚愕と不安に彩られていた。
どうやら施設内にジャマーが張られている為に無線が使えなくなり、指示系統が完全に麻痺しているようだ。
ロボット兵はともかく、一般兵士はこの混乱した状況に浮き足立ち、とても00ナンバーズを迎え撃 つどころではない。
こんな戦闘状態で通信手段を断つなど普通では到底考えられない。
TOPの人間が余程のバカか、それとも何か目的があってのことか。
罠?いやそんな事をして何になる?
心に浮かんだ疑問に一瞬気を取られ、集中力が途絶えた。



その瞬間をまるで狙うかのように、背後からレーザー光線が009の背中めがけて射られた。
とっさに身を捻ってその攻撃を避ける。
光線は009の脇腹をかすめて背後のベージュ色の壁を焼いた。
「くっ……」
009の喉が鳴った。
009と同じく加速装置を備えたサイボーグマンがニ体、次から次へと光線を撃ち込んでくる。
009は反撃のチャンスを伺うが、避けるのがやっとだ。
どうみてもこちらの分が悪い。
009は必死にサイボーグマンの攻撃を避け続けた。
加速音とレーザーの光だけが響く、廊下で繰り広げられる眼には見えない闘いに、パニック状態になった兵士の一人が恐怖 のあまり機関銃を発射した。
その弾が偶然サイボーグマンの一人に向かった。
それを避けようとしてバランスを崩した瞬間を009は見のがさなかった。
すぐ横の壁を蹴り反動をつけて、その首に強烈な蹴りを叩き込んだ。
ゴキュっとイヤな音がして、サイボーグマンの首の骨が折れた。
着地したところにもう一体のサイボーグマンがすかさずレイガンを撃ってきたのを009はバク転で避ける。
と、その間に相手は間合いを詰めて来て、両手で009の首を掴んで締め付けてきた。
ぐぐ……。
強い力で締め付けられて一瞬頭が白くなりかけるのを、必死に堪えた。
加速が解けて姿を表した009とサイボーグマンを、どうしたものかとBGの兵士達がオロオロしながら遠巻きに見 ている。
(こんなところでもたついている訳にはいかない。やっと此処まで来れたのに。君の傍まで……)
009の手からレイガンが落ちた。
その両手が自分の首を締め付けているサイボーグマンの両手首を掴んだ。
歯を食いしばって両の手に力を込める。
その強い力にサイボーグマンの手の力が少し緩んだ。
更に力を入れてグググ……とサイボーグマンの両手を自分の首から離すと、力任せに後ろへ背負い投げた。
そしてすかさず足元のスーパー銃を拾い上げると、一回転して着地しようとしたサイボーグマンの身体にレーザーを撃ち込んだ。
急所を撃ち抜かれたサイボーグマンが背後で見守っていた兵士達の上に倒れ込んだ。
4、5人の兵士が巻 き込まれて下敷きになった。
すぐさま加速装置のスイッチを入れ、サイボーグマンの下敷きになっている兵士達を飛び越えると、更に廊下の奥 へと進んでいった。



フランソワーズ。
脳波通信はあいかわらずノイズを流すだけだったが、無駄と思いつつ何度も呼び掛けた。
今助けに行く、と。
009は管制室を目指して駆け抜けた。






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