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グランツの悲鳴に近い声に呼び出されたレイチェルが管制室に入ると、モニターの前では兵士達が慌
ただしく動いていた。
島の所々にこっそりと仕込まれている監視カメラからは、島へと上陸した00ナンバーズの映像が送
られてきている。
すでに外界との出入り口は全て閉じてある。
すぐさま交戦に入るよりもこのままじっと息を殺して奴らが去るのを待っていた方がいい、とレイチェルは
判断した。
何といっても相手はBGの天敵、あの有名な00ナンバーズなのだから。
003を見ている限り想像も出来ないが、彼らはプロトタイプにも関わらず最新鋭のサイボーグを次々と倒
してきている猛者である。
今画面に映し出されているのはいかにも闘いなれた百戦錬磨の男たちだ。
この研究室の防御システムなど、それほど苦にせずに突破してしまうだろう。
今此処にいる者は全て、彼らがこのまま立ち去ってくれることを心から祈っていた。
レイチェルはじっとモニター画面を見つめた。
002、004、005、007……そしてあれが009。
資料を通じて彼らの顔や能力はリサーチ済だ。
思っていたよりみな若く、悪魔の様に伝え聞くイメージとは大分印象が違っていた。
特に009……。 レイチェルは少し眼を細めてモニター越しに009を見つめた。
どこか少年のあどけなさを残した顔。だけどその瞳に今、強い力がこもっているのがモニター越しでも見
て取れる。
00ナンバーの中でも最強の力を与えられたという彼から発せられる強い強い意志から、レイチェルは眼
をそらせずにいた。
彼らは仲間意識が強く、その力を合わせる事で能力以上の力を発揮すると報告書には書かれていたが、
その通りなのだろう。
003を取り戻そうと、とうとう此処まで辿り着いたのだから。
(あなたには迎えが来るのね……)
危険も顧みずこうして迎えに来てくれる人があの娘にはいる。
皆から愛され、守られ、大切にされ、こうして救出に来てくれる人たちがあの娘にはいるのだ。
「サイボーグの一人が火炎を吐き出して地下に潜り込んでいます。この研究所を捜しているのだと思
われます。」
兵士の報告もレイチェルの耳には届いていなかった。
言い様のない孤独感がレイチェルを襲っていた。
(私はひとりぼっちだ。)
レイチェルは足元がぐらぐらと揺らぐような感覚に捕われ、必死に足に力を入れた。
グランツの顔は真っ青だった。
なぜだ?どうしてこの島だけこんなに執拗に探索するんだ?
まるで此処に研究所があることが判っているようだ。
監視の為に飛ばしたロボットバードが尾行されたとは思いもしないグランツは、不安と
恐怖でオロオロと落ち着かない様子だった。
地上で待つサイボーグ戦士たちが、006の掘った穴に姿を消した。
管制室の面々の顔がひきつった。
グランツの顔色は青ざめているのを通り越し、今や紙の様に白くなっていた。
「S-6ブロックで熱反応!!壁が……壁が変色し始めています。」
「な、何?」
S-6ブロックの監視カメラの映像が大きく拡大された。
その画面には赤く変色しはじめた壁が映っていた。少しずつ壁が溶けはじめている。
穴が空くのは時間の問題のようだ。
「す、すぐにロボット兵を差し向けろ。奴らを中に入れるな!!」グランツの指示が飛ぶ。
管制室はもう蜂の巣を突ついた様な騒ぎになっていた。
グランツは口から泡でも吹きそうな勢いで、黙ってじっとモニターを見つめているレイチェルに振返った。
「レイチェル様、いかがしましょう。この研究所が発見されてしまいました。」
ようやくモニターから視線を外しグランツを見たレイチェルは、つとモニターに歩み寄ると自分で
コンソールを操作し、003に割り当てられた個室を映しだした。
そこには003の姿はなく、レイチェルは眉をひそめると次に003の監視に当たっている兵士を呼び出した。
「003はどこ?何故部屋にいないの?」
「まだ検査中ということで研究室から出て来ておりませんが……」
兵士達の報告に増々レイチェルの眉間にシワが寄った。
「……そこに003はいるのね?」
「我々は先程レイチェル様に廊下に出て待機する様に命令を受けましたので、研究室の外で待機
しております。研究室から003は出て来ておりませんので、まだ中にいると思われます。」
ぎりっ。
レイチェルが歯を噛み締めた。
そうだった。確かに自分が命令して監視の兵士を廊下に出したのだった。
そのあとは怒りに燃えていた為冷静さを失っていたので、再び護衛に戻る様に指示を出すのを忘
れていた。
レイチェルは通信機に向かって叫んだ。
「中に003がいるか確かめなさい。私も今すぐそちらに行くわ。」
そんなレイチェルの指示に慌てたのはグランツだった。
サイボーグ戦士が今にも侵入しようとしている今、003になどかまっている余裕はない。
それなのに責任者であるレイチェルが管制室から出て行くなんて、一体何を考えているのだ?
しかしグランツはレイチェルの口から出た命令に更に驚くことになった。
施設内全体にジャマーを張れ、というのだ。
「そんな事をしたら指揮系統がめちゃくちゃになってしまいます。」
しかしレイチェルはグランツがわめくのを完全に無視し、自らジャマーのスイッチを入れた。
「いいから命令どうりになさい。……あの娘を、絶対に仲間の元になんか帰らせないわ。あの娘と00サイボーグ
を会わせてなるものですか!!!」
そして大腿部のホルスターから小型の銃を取り出すと、それを手に取りきびすを返した。
グランツは管制室から出て行くレイチェルを、もう唖然として見送るしかなかった。
苛立った様にヒールの音を響かせて研究室に入ったレイチェルは、奥の治療室の前で途方に暮れている
兵士達を睨みつけた。
「何をやっているの?003の所在は確認したの?」
「いえ、それが……。以前からこの先はわたしたちは立ち入りするなと博士達に言われておりますので、何度
も呼び掛けているのですが応答がなくて……」
「なんですって?」
レイチェルは入り口の前で固まった様に立ち尽くす兵士達を押し退けて扉の前に立つとインターフォンで呼び掛
けたが、やはり返事はなかった。
兵士達に電子ロックを撃ち抜かせると、中に踏み込んだ。
レイチェルの眉がきりりと上がった。
治療室はもぬけの空で、003の姿も博士たちの姿もなかった。
レイチェルは拳を固く握りしめた。
治療室の出入り口は今ロックを壊した扉が一つだけだ。
レイチェルはぐるっと室内を見渡して、天井に付けられた送風口に眼を止めた。
ここだ。ここから脱出したに違いない。
00ナンバーズがこの島に上陸したことを知って脱出を試みているのか?
いや、そんなはずはない。
003の能力をもってしても、シールドされた研究所の外を見る事は不可能だったはずだから。
大方老婆にされると聞いて怖くなり、彼女に同情を寄せる博士達を巻き込んで行動を起こしたに違いない。
(逃がさない)
絶対に逃がさない。00ナンバーズと会わせたりしない。
あなたにだけ迎えがくるなんて許さない。
あなたが私に孤独を気付かせた。ずっと気付かない振りをしていた私に、孤独を思い出させた。
なのにあなただけが仲間の、愛してくれる人たちの元に帰るなんて許さない。
通風口をもう一度見上げる。
もし私ならどうする?どうやって脱出する?
レイチェルは冷静に003が取るであろう行動を想像した。
ふっと笑いが溢れる。
まだ間に合う。
この狭い送風口の中を003だけならともかく、手術して間もないシドニーと横にでっぱった体つきのハミルトン博士も一緒に行動しているのならば、まだ間に合うはずだ。
レイチェルは雷が落ちるのを覚悟して身を縮ませている兵士たちを振返ると
付いてくる様に指示を出した。
「格納庫に向います。003たちは多分そこに向っているわ。」
そして兵隊たちを後ろに付き従えてレイチェルは格納庫への道を急いだ。
(絶対に逃がさない。あなただけが幸せになるなんて絶対に許さない。)
レイチェルの瞳が狂おしい色を孕んで輝いていた。
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