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一ヶ月ぶりの再会を喜ぶ間も与えられず、その後のサイボーグ戦士達は超多忙だった。
地下深くにある核融合炉はかなり頑丈な隔壁に囲まれていたので研究所の崩壊にはびくともしなかったが、だからといってこのまま放置するわけにはいかない。
地上からの侵入はとても不可能だったので、008を中心にしたメンバーで海中から侵入し核融合炉の無効化を計ったのだが、これがかなり難儀な作業だった。
生き残ったBGの兵士たちの処遇も頭の痛い問題で、001が目覚めるまでの間ずっと交代で見張りに当たらなければならなかった。
せめてもの救いは怪我をしたキム博士の傷は後遺症も残らずに直りそうだということと、シドニーも順調に回復していたことくらいだった。
シドニーは日増しに表情豊かになり更に言葉を覚えていった。 002が隙あらばスラングを教えようと画策するので、フランソワーズから五メートル以内は立ち寄り禁止令が出たくらいだった。
疲れ切った身体に二人の口論は堪えたが、それは一ヶ月前のいつもの光景であり、フランソワーズが確かに此処に居ることを感じる事が出来て皆の心は穏やかだった。
それでもかなりハードな日々に疲れ果てたサイボーグ戦士たちは、ようやくイワンが眼を覚ましたときには心底ホッとした。
眼を覚ましてフランソワーズが目の前で微笑んでいた事に大層気を良くしたイワンは良く働いた。 BGの兵士の事も融合炉の件もあっという間に片付けてくれ、ようやく懐かしい日本へと戻る事ができたのは、フランソワーズの救出から一週間が過ぎた頃だった。
ハミルトン博士とブラウン博士はイワンやギルモア博士と相談した末にそれぞれの故国に帰ることになった。 004、005、008も国で仕事が待っているとのことでほぼ同時に帰国してしまったので、ギルモア研究所は急に寂しくなった。
そして更に2週間後に松葉杖をついたキム博士が帰国すると、今度はシドニーと別れる番になった。
シドニーの処遇をどうするかはイワンのアドバイスに従うことにした。
レイチェル、いやシドニー・ブロンテ博士の妹に預けるのが一番だとの意見にフランソワーズは寂しそうな顔をしたが、いつ闘いに赴むくことになるかわからない彼らの元でシドニーを育てる訳にはいかなかった。
小さなシドニーを連れて妹の元を尋ねたジョーとフランは、温かい出迎えに小シドニーが幸せに暮らせる事を予感して安堵した。
「この子が姉さんの孫なのね?姉さん譲りの見事な髪の色。ああ、瞳の色まで姉さんと同じだわ。」
イワンがだんどっておいてくれたので、小シドニーはシドニーの孫娘ということになっていた。
年老いた妹のミリアムはシワが目立つ顔をくちゃくちゃに綻ばせて嬉しそうに笑い、小シドニーを抱き締めた。
「姉さんの名前をもらったのね。安心してね、今日からは此処が貴女の家よ。」
小シドニーはミリアムの孫娘だという少女に隣の部屋へと連れていかれた。
時々聞こえてくる小さな笑い声に、フランソワーズの胸は熱くなった。
「……姉さんは幸せだったんですね?良かった。ずっと心配してたんです。急にいなくなってしまったから。」
子供達の歓声が沸き起こった。何やらゲームで盛り上がっているらしい。
ミリアムは隣室の賑やかな様子を目尻を下げて優しく見つめて言った。
「……お金をいっぱい送ってくれて、私はそれで学校にも行けたし、こうして幸せにもなれました。でもね、本当はそんな事より一緒にいて一杯話をしたかったなぁって思うんですよ。こんな歳になると特にね。
……いつも私とああやって遊んでくれました。大好きな自慢の姉でした。
生きている間に会って、いろんな話をしたかったわ。」
シドニーにさよならを言って二人はミリアムの家を後にした。
フランソワーズはそっとおでこにキスをすると、小シドニーに微笑んだ。
「元気でね。幸せになってね。」
そう言って二人は小シドニーにお別れをした。
ちょっと不安そうな顔をしながらも、孫娘の手をしっかりと握ったシドニーは空いている方の手でフランソワーズに手を振った。
ミリアムの家を出て、ジョーとフランソワーズは暫く無言で歩いた。
果樹園が広がる片田舎の夜は静かで、
凛とした冷たい空気で張りつめていた。
山の稜線の上に大きな丸い月が昇っていて、暗い夜空に白く光り輝いていた。
気が付くとフランソワーズは立ち止まり、そんな月を見上げていた。
たった一人冴え冴えと光る孤高の月。
まるでひとり震えるように輝く月は、どこかレイチェルの姿とだぶった。
ねぇ、レイチェル。
イワンが調べてくれたの。旦那様の名前はモーリス・ブロンテという名だということを。
融合炉を止めるパスワードは『MAURICE』だった。貴女が愛した人の名前だったのね。
こんなにも人を愛した貴女の事を私はおろかだとは思えない。
貴女のした事は許される事ではないけれど、でも貴女の狂おしい、止められない程の熱い想いをわたしも知っているから。
空を見上げて黙って涙を流し続けるフランソワーズの肩をジョーはそっと抱き寄せた。
ジョーの手がフランソワーズの髪を撫でた。
その手が優しくて嬉しくて、我慢出来ずに声を出して泣いた。
レイチェル。
こんな月を見る度に私はあなたを思い出すだろう。
悲しみや寂しさからやっと解き放たれた貴女の魂が、この空の上で凍えていなければいいけれど。
貴女の魂が安らかであるように、わたしは願ってやまない。
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