凍った月

(エピローグ)





「ねぇ、ジョー。もしもわたしがおばあさんになったらどうする?」


いつもメンテナンスをさぼってばかりの002は、この機会を逃してはなるものかと張り切っていたギルモア博士の念入りなチェックを受け終わり、ようやく明日アメリカに帰国することになった。
今夜はコズミ博士の家で日本在住組の面々と飲みあかすことになり、丁度満開の桜を観賞しながらの宴会となった。
グレートとジェットは何本ものボトルを空にしてもまだ飲み足らないらしく、先程新たな買い出しに出かけていった。
コズミ博士とギルモア博士、張々湖は睡魔と闘いながら残っている酒をチビチビと飲んでいるが、潰れるのはもうすぐだと思われた。



ジョーとフランソワーズは庭を臨む縁側に並んで座り、見事な花を咲かせて誇らし気にも見える桜の木を眺めていた。
ジョーは急に投げかけられたフランソワーズからの質問がとっさに理解出来ずに眼をぱちくりとしばだたせた。
おばあさんになったらどうする?と言われても、正直想像が出来ない。
こんなとびきりにかわいい少女を目の前にして、彼女がおばあさんになったところを想像するのは至難の技だ。
まして自分達はサイボーグで、どれだけ年月を重ねようとこのままの姿で居続けるのだから。



「フランがおばあさんねぇ……」
茶化して答えようかと思ったジョーだったが、 だけどフランソワーズの顔は真剣で、そんな表情を見てジョーも顔を引き締めた。
あの研究所で彼女がどんな体験をしてきたか知っていたから。


「すごいおばあさんになったらどうする?梅干しくらいシワのあるおばあさんよ。それでも今までどおりでいてくれる?」
梅干しみたいにって……やっぱり想像は出来ないけど……でも……。



「……フランが梅干しみたいなおばあさんになるんだったら、僕は干し柿みたいなおじいさんになって……」
ジョーはフランソワーズの方を向いて微笑んだ。
「こうやって縁側に座って、昔の思い出話や孫の話なんかするのもいいだろうね。」


「孫…の話……?」
「おじいちゃんやおばあちゃんの話題って大概孫の事だろう?あとは……病気の事とか、ゲートボール?それから……」
う〜ん、ギルモア博士たちは研究の話ばかりしてるけど、普通のお年寄りってどんな話題で盛り上がってるんだろう?と考え込んだジョーの横顔をフランソワーズはちょっと驚いたように見つめた。
(孫って子供の子供よね。わたしたちに子供が生まれなきゃ出来ない話じやないの……)
そう思ったら急におかしくなってきてフランソワーズは笑った。
ぶつぶつと考え込んでいたジョーは、フランソワーズの笑い声に憮然として尋ねた。
「なんで笑うのさ……」
「なんでもな〜い」と あいかわらず笑いながらフランソワーズは答えた。
「なんだよ。フランソワーズが聞いたから答えたんじゃないか。」
ちょっと拗ねたようなジョーの声にどうしても笑いを堪えきれずに忍び笑うと、フランソワーズは声に出さずに口だけ動かして「ありがとう」と呟いた。




あなたは知らないでしょうね。今どれだけわたしが嬉しいか。
わたしの誰にも言えないささやかな夢が叶う日が、いつか来るかもしれないと希望が持てた事が、どれほどわたしを幸せな気分にするか。
あなたの想像する未来には、傍らにわたしとわたしたちの子供がいるかもしれないと思うことが、どれだけわたしに力を与えるか、ジョーは知らないでしょうね。

フランソワーズはジョーの腕に自分の腕をからませて、彼の肩にそっと頭をのせた。






桜の上には輝く月。
天高くのぼった月の光が二人を温かく照らしていた。






THE END 2004・4・16