聖夜で性夜
とある街のとある街角。十二月の声を聞いた途端、きらきらしいイルミネーションに包まれる世間と同様、ここ『Chez Tomo』にもクリスマスがやってきた。店の自慢の美男ホステスはみなミニスカサンタルックに着替え、店の空気はますますピンクに染まる。 ふわふわ、の襟を立てスレンダーな肢体を特注のぴったりしたサンタスーツに包んだ永泉はまるでうさぎちゃんのように可愛らしかったし、クールな美貌の上に不釣合いな大き目のサンタ帽を乗っけた泰明は、そのアンバランスさが男たちの構いたい衝動を煽っていた。 しかし。やはり一番客の目を釘付けにしたのは。 超ミニのサンタスーツのボタンを胸元まで外し、お尻には白いウサギのボンボン尻尾、頭には何故かウサギのお耳をぷらぷら揺らせている友雅である。サンタの上着はノースリーブで、代わりに肘までの長い優雅な白手袋をはめている。襟元にはラビットファーの白マフラーを巻き付けチンチラウサギのようにもこもこしている。およそ三十路とは思えぬ可愛らしい出で立ちだが、これが通のお客には大受けなのだ。 という訳で、今日も今日とて友雅は、店ナンバーワンの不動の地位のまま、楽しくお勤めしているのだった。 十二月二十四日の夜も更け。宗教に節操のない日本人の例に漏れず、コスプレ焼肉屋でも今夜中にクリスマスディスプレイを片付け、今度は新年の用意をしなければならない。 おそらく日本中、一年で一番深夜の掃除が慌しく行われる日、しかしここでは年末恒例・従業員お疲れ会が行われようとしていた。折角綺麗に飾り付けられた店内を片付ける前に、自分たちもやはりクリスマスを祝いたい。飲んで歌って羽目を外して、人並みな聖夜を味わいたい。 という訳で、毎年この日には店員総出で打ち上げが行われる慣わしとなっていた。 「それでは、乾杯!」 巷では受の王者声と誉れ高い低い声で、店長が乾杯の音頭を取る。彼の「安西先生…バスケがしたいです…」は歴史に残る受声、と評価が高かった。無論、「三蔵さまあ…!」や「越前…お前は青学の柱になれ」も記憶に新しい。 「乾杯!」 その声に、美声の団体が唱和する。この店の店員は、何故か売れっ子声優に声が激似している者が多い。しかも今をときめく、ステージやイベントに引っ張りだこのスター声優ばかりだ。 「さて。それではここで、毎年恒例・年間ベストワンを発表する」 まるでレコード大賞の発表のようだが、別に「世界で一つだけの花」が受賞するわけではない。一年で最も指名数が多かったホステスを店が表彰するのである。 「今年一番、客の指名を集めたのは―――」 たらたらたらたら――ドラムソロを打つのは、気を利かせたイクティダールである。苦労人の彼はアクラムの面倒も見ていた。どうしても見捨てることが出来ないらしい。 「――橘友雅くん!」 タイミングを見切って発表したが、彼なりの盛り上げは不発に終わった。結果は毎年一緒だったからである。それでも場を盛り上げようと、優しい詩紋あたりはぱらぱら、と拍手を返してくれた。 「おや。今年も私が一番かい?いつも申し訳ないねえ」 当然のようにソファーの一番上席に既に座っていた友雅が、物憂げに髪をかきあげる。柔らかな髪が指の間からさらさらと零れ、白いうなじが現れる。 妖艶なその仕草も、見慣れた店の面子には何の感慨ももたらさなかった。なんせいつものことなのだ。 「よくやったな、友雅。これは記念の盾と副賞に常磐ハワイアンセンターご招待券だ」 ぱちぱちぱち。またまばらな拍手がおきる。なぜ、指名数トップだからと言って盾が贈られるのか、とかどうしてハワイアンセンターなのだ、と突っ込みたくなるのもやはり毎年の慣わしだった。 「おう、ちょっといいか」 ウェイターの天真が手を上げる。 「なんだ、天真」 「あのよー、毎年毎年盾貰っても、友雅嬉しくねーんじゃねえ?お前それ、ダンボールに入れてベランダに置いてんじゃん」 「おや、よく知ってるね、天真」 「そりゃ、お前の家行った時見たからな」 どうして天真が友雅の私室を訪れるのか、は言わずが花、であろう。 「ふむ。ではどうしろと言うのだ?」 割と素直なアクラムが、続きを促す。 「やっぱ、俺たちも祝ってやりてえな。すげえ悦ばしてやるよ」 あの、うさんくさいと大評判の満面の笑顔を浮かべたまま、天真ががっしりと友雅の腕を押さえる。 「な、なにをするのだね…?」 内心ビビりながらも、大人の余裕を見せようとする友雅。プライドが天より高い彼は、年下の僚友達の前で無様に逃げ出すことは出来なかった。 「だーかーら、祝ってやるって。俺たち皆で、年間ベストワン様をお祝いしてやるよ。なあ、いいよな、シャア?」 「シャアではない。だが、天真の言うことも一理ある。やはり栄誉ある指名率ベストワン。皆で祝ってやるのが筋であろう」 「シャ…ではない、アクラム店長。そんな事を認めていいのかね。これまでの秩序が乱れるのではないかい?」 「人間、進歩が大切だ。それに、皆がお前を祝ってやりたい、という気持ちは大事にしたいからな。チームワークにも良い効果を出すだろう」 内心のビビリを隠しながらもなんとか冷静さを保とうとする友雅に、アクラムの返答はにべもない。 「よっしゃ!話せるぜ、店長!」 嬉々とした天真は、自分は友雅を羽交い絞めにしながら、ご馳走が食べ散らかされた大テーブルを片付けさせる。ぱっぱっとテーブルクロスを払ってもう一度引きなおすと、テーブルは即席の褥に変わった。 「ちょっと失礼」 イクティダールがその渋い声で断りながら、友雅のサンタの衣装を脱がしていく。 「イクティダール!」 「汚されたり破られたりしたら困る。この衣装は高いのだ」 てきぱき、と、彼は太い黒のベルトを外し襟元のマフを取る。ボタンの残り半分を外して、肩から脱がせた。ミニスカートを脱がしてしまうと、パンストが嫌いな友雅はいつものヒモパン一枚にされてしまう。 「ほう、今日は赤か。クリスマスカラーに下着も合わせたのだな」 「店長!そんな冷静に見てないで、止めたらどうだ!」 「たまには良いではないか。支配されるほど悦楽が満ちる、というしな」 「それは君の持ち歌…ああっ」 友雅がパニくっている間に、彼の両手両足は緑のモールでテーブルのそれぞれの足に縛り付けられてしまっていた。 「ほほう。まるで真白き蝶だな。熱い棘で刺してやろうか」 「だから!」 クリスマス、と言うことで赤いテーブルクロスの上に、両手両足を開かされて縛められた友雅は、確かに蜘蛛の巣に捕らえられた蝶の様だった。乱れた長い髪がテーブルに広がり、淫猥な責め絵を思わせる。 「ね、先輩。ボク、生クリームを泡立てくるよ」 「おっ、詩紋、ナイスアイデア!」 天真の後輩にあたる詩紋は、将来のケーキ屋経営資金を貯めるため、夜、この店でバイトしているのだ。 「じゃあ、人間ケーキといくぜ。おっと、クリームがついちまうと取れないから、これもしまっといてやるぜ」 天真は赤いヒモを解くと、あっさり、と取り去り友雅を全裸にする。 「ああっ!」 スポットライトを照らされ、一糸纏わぬ全裸が光の中に浮かび上がる。からだの奥の奥まで同僚の目に見詰められ、さすがの友雅も頬に紅をはいた。 天真が口笛を鳴らす。 「さっすが友雅。使い込んでる割に相変わらず綺麗じゃん」 「ヤッ!」 天真が大きく晒された秘園を指で突付くと、いっそう敏感になった友雅は縛られ不自由な腰を跳ね上げる。こんな明るいところで、沢山の男に一番隠したいところを見られてしまうなんて。 だが、その恥ずかしさは余計興奮を煽り、友雅は触られてもいないのに自身を跳ね上げてしまった。 「お?イヤラシイな、お前。まだ何もしてねえぜ?」 「ああ…」 揶揄する声がますます羞恥を煽り、友雅はせめて顔だけでも隠そうと肩に伏せた。だが、悪戯な指に先端をくりくりと弄られ、続け様に熱い吐息を漏らしてしまう。 汗ばんだ媚肌の上を、頭上で回るミラーボールの光が走っていく。今やそこにいる全員が、友雅の肢体に魅せられていた。 「クリームできたよー!」 ピンク色に染まった空気を、詩紋の無邪気な声が破る。彼は大量のクリームを泡立てたボールをテーブルに置き、全員にケーキ用のへらを手渡す。 「たくさんあるから、たっぷり使ってね」 あくまでもイノセントに見える詩紋だが、実は「紫檀の箱に閉じ込めたい」と願う面も持っているなかなかの曲者であった。 「わ、私などが参加してもよろしいのでしょうか…」 「問題ない」 「で、でも…ああっ、私はこんな時どうしたら良いのか…」 「問題ない、と言っている」 永泉と泰明もへらを手にした。やはり彼らとて毎年トップの座を奪われるのは面白くないのだった。 「じゃあやるぜ、友雅クリスマスケーキ作りだ。みんな好きなとこに塗ってやれよ」 天真は、あろうことか刷毛を手にしている。彼はそれに、たっぷりとクリームを取った。 「あああっ!」 いきなり、敏感な先端を刷毛でなぞられ、友雅はあられもない声を上げてしまった。しかし天真は、上を向いたそこに、何度も何度も刷毛を往復させる。 「あ、あっ、あ、あう…ん…」 その間にも、永泉と泰明は胸の実ひとつづつに、それぞれクリームを塗りつけていく。敏感な場所を同時に責められて、友雅はからだを仰け反らせた。 「おや、皆さん、楽しそうなことをしていらっしゃいますね」 「お、鷹通。売上合計終わったのか?」 友雅自身が埋まるほどたっぷりとクリームを擦り付けながら、天真は会計係の鷹通に話し掛ける。 「ええ、レジと現金もぴったり合いました。今年もたくさん稼がせていただきましたよ。これというのも、やはり友雅殿のおかげですね」 にこにこ、と人の良い笑いを浮かべながら、鷹通はテーブルに近づいて来る。 「って、どうしてお前、筆持ってんの?」 「おや、天真。知りませんでしたか?私は何時も、筆で計算しておりますよ」 さすが鷹通。現代にあっても毛筆を使っているのだ。 「今夜は友雅殿のために、腰の強いとっておきの筆を用意させていただきました。刷毛やへらでは肝心のところに届きません。私にお任せを」 鷹通は持参の特製太筆に、ボールのクリームをたくさん取った。 「た、たかみち…まさか、君までが…」 「友雅殿。私は貴方を悦ばせるためなら、どんな努力も惜しまないつもりです」 貌を興奮で染めあげながら、友雅は信じられない面持ちで鷹通を見上げた。そんな彼ににっこりと笑いながら、鷹通は開かれた肢の間に手を差し込むと、双丘を開いて狭間の媚肛に筆を差し込んだのだ。 「ああああっ」 友雅は、縛られた身体をまたのたうたせた。目を閉じても、瞼の裏に七色の稲妻が走る。天然の細かい毛が敏感な入り口の上をなぞると、ちくちくとした刺激が走り、彼をいっそう喘がせた。油分でぬらつき、僅かに口を開けたそこに、ゆっくりと回転させながら鷹通は極太の筆を体内に埋め込んでいく。肉の門を通り抜けるときには少し力が必要だったが、そこを通ってしまえばあとはスムーズに筆は体内に飲み込まれていった。 「ああ、こんなに嬉しそうに筆を咥えてしまって…友雅殿をお慰めできて、私も嬉しいです」 嬉しそうな鷹通は、もっと友雅を悦ばせようとぐりぐりと襞を掻き分けるように筆を廻していく。敏感な襞を掻き乱されて、友雅の口からとめどない喘ぎが零れた。 その間にも、高められた性感に立ち上がった胸のしこりは、僚友のへらに苛められている。 「む、硬くなってきたな」 「ああ…こんなわたくしでも…友雅に悦んでいただくことができるのですね…」 あくまで興味津々、といった泰明と人の役に立てることに感動する永泉は、それぞれ熱心にそこを弄り立てた。へらの先で潰すように愛撫すると、友雅は背を仰け反らせて反応する。 「おっ、こっちもすげえことになっちまってるぜ」 敏感な鈴口に差し込むように刷毛を滑らせて、天真は笑う。立ち上がった幹をクリーム塗れにして、 「これがホントの白い巨塔だな。おっと誉めすぎかあ?」 と言いながら、巨塔の下に生えた叢にまでクリームを塗りこめていった。たらたらと流れる液がクリームを流してしまうと、その上からまた塗ってしまう。 ふるふるとけなげに震えるそこは、天真の悪戯でどくどくと血流を集めてしまう。まるで全ての血がそこに集まってしまったようだ。 「あああん…」 胸と自身と最奥と。敏感な三ケ所を同時に責め立てられて、友雅はライトの下で白いからだをぴくぴくとのたうたせる。もう、人前だと言うことを忘れてしまいそうだ。鷹通の筆が悦いところを何度も擦りながら、奥まで侵入しては外に出て行く。その度に彼は、快楽の涙を左右に散らした。 「あ…お、お願い…達かせて…」 「なんだよ、友雅。堪え性がない男だな」 さすが衝動の洪水を誇る男・天真は冷たく言ったが、 「いいえ、今回の催しはあくまで友雅殿を悦ばせるのが目的。達きたいとおっしゃるのでしたら、そうして差し上げるのが筋と言うもの」 「お前、ほんっとにマジメだよなー」 メガネを光らせた鷹通に、天真は呆れた声を漏らした。 「仕方ねえ。おい、じゃあ皆で舐めてやろうぜ」 「て、天真…!」 「おっと、俺らの好意、受け取り終わるまで自分だけ達くのはナシだぜ」 天真は天井から下がっていた赤いリボンを毟ると、直立した友雅の欲望の根元にそれをきつく結んだ。 「あああっ」 塞き止められた熱が、からだ中を逆流する。余りの苦しさに、友雅はまた涙を浮かべた。 「我慢しろよ。我慢の後のカイカンは、腰が抜ける程好いんだぜー」 天真は笑うと、友雅の股間に顔を埋めた。 「ああっ」 ふるふると震えるそこに、尖らせた舌を這わされる。たっぷりとまとい付くクリームは、下から上へ、ゆっくりと舐め取られていった。それを見て、永泉と泰明も、乳首を埋め尽くしたクリームをちろちろと舐め取り始める。鷹通は、詩紋が持ってきたおかわりのクリームをまたたっぷりと筆に取り、熱い襞に塗り込めるように秘口に捩じ込んでいった。 「あああっん…やめっ…いやっ…」 友雅は惑乱状態に追い込まれていった。ぐりぐりと体内を刺激する筆と、熱い舌に舐められ続ける敏感なところ。彼はからだ中を痙攣させながら、甘やかな拷問に耐えねばならなかった。 「おや、美味しそうな友雅ケーキだね」 「閉店」のサインを何ら気にとめることもなく、オーナー・帝が入ってくる。経済界主催のクリスマスパーティに出ていたと見えて、タキシード姿に大きなポインセチアの花束を抱えていた。 「兄上!聞いてください。こ、こんな私でも、友雅を喜ばせることが出来たのです!」 「ああ、永泉。お前は立派だったよ」 「兄上…」 ぽわわん、と柔らかな雰囲気が満ち溢れたが、友雅にとっては場違いもいいところだった。 なんせ彼は、全裸で店の大テーブルに四肢を開いて縛り付けられ、全身クリーム塗れにされて散々喘がせられている最中なのだ。逐情を許されない、赤いリボンで塞き止められているそこはじんじんと痺れ、痛みさえ伝えてきている。痛いばかりに屹立した乳首は、興味津々の泰明と努力だけはすばらしい永泉に引っ張られ弄りまわされた。何事にも研究熱心な鷹通は、どこで覚えてきたのだか、友雅の内部を絶妙な動きで擦りつづける。 友雅の顔が朱に染まっているのは羞恥のためだけではない。汗にしっとりと湿ったからだも、喘ぎすぎて枯れてしまった声も、彼が肉体の快楽を感じている証だった。 「お楽しみのようだね、友雅。永泉にまで可愛がられるなんて、果報者だよ、お前は」 にこやかに笑いながら、帝はポインセチアをイクティダールに渡した。 「おや、まだクリームが残っているね。折角だから食べさせてあげようか」 友雅の返事を待たず、帝は指にクリームを取ると、友雅の口に差し入れた。 「んんっ…!」 三本の指に唇を抉じ開けられる。舌の上にクリームをなすられると、口中に甘味が広がった。そのまま、指の腹で舌を擦られ続ける。友雅は首筋を仰け反らせて、その快感に耐えた。友雅の暖かな口中を充分に堪能してから、帝はゆっくりと指を引き抜く。はあっ、と友雅の口から熱い吐息が零れた。 「さて、もう夜も更けた。そろそろ恋人たちのふたりっきりの時間だよ」 「ええっ!ここまで友雅を出来上がらせたのは俺たちなのに、あんたまた持ってっちまうのかよ!」 天真の無礼な言葉にも、帝は顔色も変えない。 「当然だろう?なんせ友雅は私のものなのだから。クリスマスの夜は私が独占させてもらうよ」 あてが外れた天真たちは口々に不満を言ったが、にっこりと最強の微笑を浮かべた帝の敵ではなかった。 この店の三階は、友雅の私室兼プレイルームとなっている。 「ほらほら、もっと締め付けてごらん、友雅」 「あ、ああっ…あん!」 クリスマスだし、今夜は朝までしっぽりと、と張り切る帝は友雅の襞を掻き分け、円を描くように捏ね回しながら囁いた。その愛撫めいた耳への刺激に、友雅の背がまた跳ね上がる。 彼は褥に仰向けにされ、両足を抱え上げられるように貫かれていた。変なところに拘る帝は、時間がある時は正常位から始めることにしている。 「今日は時間をたっぷり取ったからね。お前が満足するまでずっと付き合ってやろう」 腰を鋭く突き入れながら帝は微笑を浮かべる。しかし、既に快楽に翻弄されている友雅に聞こえているのかは定かではなかった。 「おや、奥をこんなに食い締めて。さては中に欲しいのだね。まあ、待ちなさい、もっとお前を味わってからだ」 中腰になって内部を攻め立てながら、帝は場にそぐわぬ爽やかな微笑を浮かべた。 「あー!あっ、あっ…ん…!」 友雅の吐息が早くなっていく。散々焦らされた彼が、自身の赤いリボンを解いてもらえるのはまだ先のようだった。 友雅があんあん言わされている時、店ではちょっとした騒ぎが起こっていた。 「くそう!今年もまた先を越されたか!」 同じパーティに出ていた左大臣(あだ名である)が、手にしていた赤いバラの巨大な花束をいまいましげに叩き付ける。彼は毎年、この店をゴールにした熱い首都高バトルを帝と繰り広げていた。だが如何せん、ポルシェの最新鋭車を抜群のドラテクで操る帝に、ベンツの最高級車を運転させる左大臣は勝てたためしがなかった。意外と慎重派な彼は、やはりどうしても安全面を考慮してしまうのだ。ベンツは轢いた相手は死んでも、事故った自分は無傷だと言われている程安全面に重きをおいた車だった。 やはりタキシード姿で、普段なら大人の魅力をぷんぷん醸し出している左大臣は、しかし今や髪も乱れダンディさのかけらもなかった。 「仕方ねえよ。あの帝が駆けつけてきちまうんだもん」 全ての人間に平等に無礼な天真が、でかいため息をはく。彼も、いつかは友雅とイブを一緒に過ごしたい、と隙を窺っているのだが、財界の大物二人には敵わないのだった。 「仕方ないですね。本編では左大臣様は優遇されておいでなので、こちらでは苛められてしまうのですよ」 「鷹通?」 「あ、天からの声を受信してしまいました」 ボケているのだかマジメなのかつかめない鷹通に、左大臣の怒りの矛先が向く。 「鷹通君!君は我が一族ではないかね。少しは私に便宜を図ったらどうだ」 「確かに親戚筋ですが、競争原理には関係ありませんよ。それにそんな事を言ったら、帝だって親戚です」 フジワラコンツェルンは日本財界に深い根を張っていた。なんせ日本人の半分に藤原氏の血が流れているらしいのだ。 「さ、皆さん。後片付けをして、それから部屋で寝ましょう。あ、残ったお酒を飲んでいてもいいですよ」 いつもは厳しい会計係からお許しが出て、店内に二次会の雰囲気が広がる。怒りのあまり左大臣は出て行ってしまったが、この際他人のことは関係なかった。 何故なら今日はクリスマス。許しと寛容の聖なる日。 世界中が幸せに溢れるように、まず隣人を愛さなくては。 「だからね、友雅。私は世界平和への一歩として、まずお前を愛しているのだよ」 「あっ、あ、ああ、帝…っ」 赤と緑のリボンをからだじゅうに巻き付けられ後ろ手に縛られた友雅は、今度は帝の太腿の上で深く貫かれ、ゆさゆさと揺すぶられていた。 「今日はクリスマス休暇を取ったから、たっぷり楽しめるよ。いろいろな小道具も用意したし、クリームも貰ってきたしね。嬉しいかい?」 「あっ、あ…ん、う、嬉しい…です…」 「ふふ、可愛いことを…」 『Chez Tomo』から湧き出たピンクのオーラがクリスマスを迎えた街を染めあげる。世界の人々の幸せと平和のために、焼肉コスプレレストランは今日も頑張っているのだった。
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