★★12月15日 毎日新聞・大阪本紙・朝刊 ★★
特集:第16回障害者週間記念事業・第9回補助犬シンポジウム なくそう心の段差
障害者への理解を進めようと、「第16回障害者週間記念事業 第9回身体障害者補助犬シンポジウム」(兵庫県宝塚市や障害者団体、毎日新聞などでつくる実行委員会主催)が2日、宝塚市総合福祉センターで開かれ、補助犬使用者らのシンポジウムや障害者の社会参加を話し合う座談会などに約360人が聴き入った。補助犬シンポでは、職場での同伴受け入れを義務づける改正身体障害者補助犬法が先月28日に成立したことを受け、今後残る課題への取り組みをめぐって活発な意見が交わされた。【補助犬シンポのコーディネーターは野原靖・毎日新聞阪神支局次長、写真・森園道子】
◆補助犬シンポ
◇法改正でまずは、ホッ
野原 改正身体障害者補助犬法が成立しました。法改正で状況はどう変わるのか説明をお願いします。
阿部 02年に成立した補助犬法は、木村佳友さんの介助犬シンシアが国会を何回も訪れ、多くの議員の心を動かしたことから誕生しました。しかし、その後も、「民間の事業所では同伴できないのか」「レストランや公共施設で断られたらどう調整するのか」――といった問題が残り、その解決に向けた取り組みが今回の改正につながりました。同伴拒否などの苦情相談窓口が都道府県に設けられます。また、民間の職場でも同伴受け入れが義務化され、法的な受け入れ先が広がりました。
野原 法改正について感想や意見を聞かせてください。
木村佳友 エルモと暮らし始め、約2年になります。のんびり屋で、最初は、介助に物足りないものを感じていたのですが、立派に活躍しています。去年のシンポで「もうじき改正法が成立する」とお伝えしましたが、社会保険庁の問題や安倍晋三前首相の辞任などで先送りが続き、ようやく先月28日、参院本会議で賛成235、反対0の全会一致で可決しました。まずはほっとしています。
木村まどか 3年前の交通事故で車椅子生活になりました。鉛筆1本も拾うことができず、人に気を使って生活することに疲れていたころ、ヴァニラと出会い、今年2月、介助犬使用者になりました。ヴァニラは大切なパートナー。車の免許も取り、就職活動を始める予定です。法改正で、民間の職場でも私とヴァニラをスムーズに受け入れてくれるように願っています。
◇犬の病気にも助成を
中山 2代目の盲導犬ウインクが9月、12歳で息を引き取りました。がんでした。今は、足元がとても寂しい。でも、ウインクを家でみとることができました。
抗がん剤を打つと、1回に1万6000〜1万7000円かかります。幸い私には仕事があったので、なんとか医療費を出せましたが、周囲には、医療費を負担できず、最後まで世話ができないことを悔やむ人が少なくありません。
21年間、盲導犬と一緒に暮らし、盲導犬なしの生活は考えられません。悲しみは消えませんが今月末、3頭目の盲導犬を迎えます。若い盲導犬に負けないようにがんばろうと思います。
野原 補助犬の医療費助成などはあるのでしょうか。
木村佳友 補助犬の育成には、十分とは言えませんが助成制度があります。しかし、食費や医療費を助成する制度はありません。障害者の中には、障害者年金だけで暮らしている方も多いので医療費は重い負担になります。
最近になって、兵庫県獣医師会や日本小動物獣医師会などが補助犬への医療費助成制度を設けるなど、少しずつ助成の仕組みが広がりつつあります。補助犬は1頭の育成に約400万円かかるなど高額に見られがちですが、10年間は活躍でき、1年あたり40万円です。ヘルパーを1日5時間頼めば、1時間1000円で月15万円、年間換算だと180万円になります。介助費用を削減できるという試算もあるのです。
◇なくならぬ同伴拒否
野原 法改正で社会進出に弾みがつきましたが、不十分な点も感じます。
木村まどか 木村佳友さんらのおかげで、宝塚市内のどのレストランにもヴァニラと堂々と入ることができます。でも市外、県外に出ると、同伴拒否を経験したことがあります。宝塚から補助犬の啓発運動がさらに広がってほしいと思います。
中山 法律ができた後も、レストランやアパートなどで同伴を断られる例を聞いています。私はずんずん突き進むタイプですが(笑)。個々のケースを見ると、最後は、犬が好きか嫌いかという議論になってしまうのが現状です。
野原 好き嫌いでなく、障害者の人権の問題だという点は、報道の立場でも強く呼びかけなければと思います。
木村佳友 職場での受け入れは義務化されましたが、障害者雇用促進法で定められた56人以上の職場に限られています。民間住居での受け入れ義務化も見送られました。障害者、高齢者ら入居が困難な人の円滑な入居を促す「住宅セーフティネット法」が適用されますが、受け入れは義務ではなく、拒否も予想されます。
野原 これからも法的整備は欠かせませんね。
阿部 「議員の会」は、もちろん解散しません。補助犬は全国で1000頭あまりと、数が増えていないのが現状ですが、補助犬の社会的啓蒙(けいもう)をして、改善していきたいと思っています。
◆社会参加を考える
障害者週間記念事業の午前の部は、障害者の社会参加をテーマにした座談会「社会の中で輝きたいんや!」が開かれ、障害者3人が日常生活を紹介しながら語り合った。主な発言は次の通り。
◇社会に出れば人は変わる−−ホームヘルパー2級の資格を生かして働く精神障害者の高瀬建三さん(57)
「悪いことをしそう」と誤解されやすいが、精神障害者も社会で普通に暮らしている。私は自治会長も楽しく務めている。社会に出れば、人は変われる。社会参加とは、「何かをしてみたい」と思うこと。
◇ラスベガス旅行もした−−重度の小児まひで、1人暮らしをしながら小規模作業所に通う土井克哉さん(40)
電動車椅子でまちに出て電車にも乗る。ラスベガスに旅行したこともある。新しい店ができたと聞けば見に行く。普段の生活が社会参加だ。(言葉を発せないため、文字板を押して音声を出す機器を使っての発言)
◇人の役に立ちたい−−知的障害者施設「宝塚育成事業所」で働く馬場一弘さん(52)
「人の役に立ちたい」という思いこそが社会参加ではないか。育成事業所では、お年寄りの介護ベッドを運ぶ仕事などをしている。休日は、ギターを弾いたり、お酒を飲んだりして楽しんでいる。
◇コーディネーターの宝塚市社会福祉協議会の中山猛さん(46)
障害者が緩やかでいいから社会に出て普段の生活をすることで、社会は健常者のみの枠組みではないということへの理解が広がる。
◆「国でなく地球の利益を」 手話曲などを披露
行事終盤のミニコンサートでは、兵庫県尼崎市を拠点に、弱者に光を当てる音楽活動を続ける声楽家の浜渦章盛さんとローゼンビートのメンバーが手話曲など8曲を披露した。
浜渦さんは「国益という言葉がよく使われるようになったが、国益は国それぞれのもので対立することもある。地球は一つの星。星の利益を考えてほしい」と平和への思いを込めて歌い、唱歌「ふるさと」は、来場者全員と合唱した。コンサートの途中には、ソプラノ歌手の樫本智子さんと山田美紀さんが「バリアフリー社会の実現に向け、一人一人が手を携え、その輪を宝塚から広げていきましょう」と補助犬シンポのアピール文を読み上げた。
また、午前の部では、障害者も参加している宝塚市の劇団「おあや座」が早口言葉をちりばめたオリジナル劇を演じ、会場は笑いに包まれた。
最後は、障害者週間記念事業のアピール宣言として、「障害者の福祉に関心と理解を深めてもらうため、障害者の日の12月9日を祝日に」が読み上げられ、閉幕した。
■解説
◇義務対象なお限定的
02年に成立した身体障害者補助犬法は、その3年後に内容を見直すという規定があったが、国の作業は停滞した。そのため補助犬使用者でつくる「身体障害者補助犬法改正対策使用者団体連絡協議会」(竹前栄治会長)は約3年前から署名を集めるなどして厚生労働省や関係議員への陳情など働きかけを続けてきた。
今回の法改正によって設けられる各都道府県の相談窓口は、同伴拒否の解決の一方、マナーや衛生面で問題のある補助犬を指導することで良質な補助犬を普及させる役割が期待される。
また、民間職場の同伴受け入れ義務化によって、社会進出の扉が開いたと感じる障害者も多いはずだ。
しかし、同伴受け入れ義務対象になる職場は、大規模事業所(従業員56人以上)に限られた。視覚障害者の主要な就労の場である鍼灸(しんきゅう)やマッサージの店舗などに大規模なところは少なく、改正法の効力が及ばない可能性がある。さらに、民間住宅の同伴受け入れ義務化も強く求められている。
◆シンポのアピール
訓練を受けた1頭の犬が障害を持つ人を介助し、その人生を豊かにしてくれる。そんな補助犬が法的に認められてから5年が過ぎ、今、また大きな節目を迎えました。
今国会で改正身体障害者補助犬法が成立しました。これまでの公共施設だけでなく、民間の職場でも補助犬同伴の受け入れが義務づけられ、補助犬に関する相談窓口も都道府県に設置されることになります。
法律の見直しは補助犬の使用者を中心に運動が続き、賛同する署名は10万人を超えました。その声がようやく国会に届いたのです。それでも公共施設などでさえ、同伴を拒否される事例が後を絶ちません。十分とは言えない補助犬への理解が一層進むことを期待します。
バリアフリー社会の実現に向けて、一人一人が手を携え、その輪を宝塚から広げていきましょう。
◆主催者あいさつ
◇王見宣彦・障害者週間記念事業実行委員長
開催直前にタイミングよく補助犬法の改正案が可決された。盲導犬などがマンション入居を断られるなど差別はあり、さらなる補助犬受け入れ義務化など課題は残っている。
◇阪上善秀・宝塚市長
政治の原点は、いかに弱者に手を差しのべ救済できるかということ。改正補助犬法成立で国際水準に追いつけたかなと思う。道路だけでなく、心のバリアフリーを進めることが大きな課題だ。
◇二木一夫・毎日新聞阪神支局長
毎日新聞が補助犬キャンペーン報道を始めて10年目を迎えた。補助犬法改正は使用者らの努力が実を結んだものだが課題は多い。互いが理解し合う社会の実現に向け、新たなきっかけにしなければならない。
【改正身体障害者補助犬法成立の経緯】
1957年 国内の盲導犬第1号が誕生
78年 道交法改正で盲導犬が法的認知される
92年 米国から介助犬を導入。国内で育成開始
99年 7月 介助犬を推進する議員の会(現・身体障害者補助犬を推進する議員の会)が発足
2000年 6月 厚生省(現厚生労働省)の検討会発足
02年 5月 身体障害者補助犬法が成立
10月 補助犬法が一部施行(03年10月に完全施行)
06年11月 補助犬使用者の団体が法改正を求めた10万人分以上の署名を議員の会に提出
07年11月 改正補助犬法が成立
■人物略歴
◇木村佳友さん
87年、交通事故で頸髄(けいずい)を損傷し車椅子生活に。ペットのシンシアが96年に介助犬になったが、05年12月に引退(昨年3月に息を引き取る)し、後継のエルモと生活。コンピュータープログラマー。宝塚市在住。47歳。
◇中山君江さん
86年に視力をなくし、盲導犬との生活を始め、今年9月、2代目のウインクをがんでなくす。今月末、後継の盲導犬を迎える予定。障害者の自立を支援するNPO法人「とことこ」理事長。宝塚市在住。57歳。
◇木村まどかさん
甲南女子大3年生の04年、交通事故による頸髄損傷で車椅子生活に。2年間の入院、リハビリを経て06年4月に復学。今年2月から介助犬ヴァニラと生活。翌3月に卒業、就職を目指している。宝塚市在住。25歳。
◇阿部知子さん
74年、東京大医学部を卒業、小児科医に。00年、衆院選で社民党から出馬し初当選。現在3期目。超党派の「身体障害者補助犬を推進する議員の会」事務局長として補助犬法改正に取り組む。神奈川県藤沢市在住。59歳。
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