レンズ豆のスープ

思えば、人間は泥から生まれたのだから、これはこれで幸せなことなのかもしれない。

世界は泥の中に沈んだ。
最初に泥が現れたのは、夏の終わりの台風だった。
砂混じりの風が吹いた、そしてポツリポツリと泥が降り始め、やがて激しい泥の嵐になった。

テレビやラジオでは中国の黄砂がなんたらかんたらと専門家らが分析していたが、明らかに彼らもこの異常事態に恐れをなしているようだった。泥は世界中で降っているようだった。
川はすぐさま泥水になり、木々は樹氷のようにその身を泥で堅め、道路はいつでも田植えが出来るような泥地へと変わった。当然交通はマヒし、経済はストップした。

泥は降り止む気配はまったく見せず、2日、3日と降り続いた。
もはや海は海と呼べる代物ではなく、まるで大量のレンズ豆のスープを煮込んでいるようだった。
空は縄文時代の土器のような色で休みなく泥を降らせていた。

4日目、次々と動物達が死んでいった。彼らは申し合わせたように次々と息を引き取っていった。
最初こそパニックの渦が巻き起こっていた人間の世界でも、次第にパニックそのものさえも無意味なことに気づき始めていた。そんな人々の上に泥は降り積もっていった。
6日目、そして、世界は泥の中に沈んだ。人々もまたその優しい温もりのなかに沈んだ。

7日目。
輝く太陽と果てしなく広がる泥の大地を残して世界は終わった。

TOPへ戻る