二十四
その日、ユーノは常に気分が悪かった。
胸の奥がずきずき痛んで、意識が朦朧となってくる。
えぇい、こんなもの。と意気込んで仕事に取り掛かってみたものの、その強がりは気を緩ませた最後の最後で底を尽き、ユーノはばたんと倒れてしまった。
不調の原因は分かっている。アヴァンシアのせいだ。
始めは弱かった苦しみも、最近では酷い痛みになる時がある。それは決まって波のように押し寄せ、波のように引いて行く。だから今日もそうだろうと決め込んでいたらそうでもなく、苦しみはいつまでも続いていた。
ただ誰かに相談するわけにもいかない。
苦しみの原因を誰かに悟られてしまっては元も子もないのである。
もちろんそんな強がるだけ強がって倒れたユーノに心底びっくりしたのは、雇い主のアリサだった。
顔色が悪いなと思って問い詰めても、ユーノは平気平気としか言わない。だからそれを信じていたのに。
「ちょ、ちょっとユーノ。あんた、ほんとはやばいんじゃないの?」
自宅の前で座り込んで息を荒げるユーノに、アリサは下から覗き込んで訪ねた。それでも返事はやっぱり平気の一言だけだった。
「や、休んでれば、大丈夫だから……」
「嘘。散々そう言って死にそうなのは誰よ。もう救急車呼ぶわ」
「それはだめ……、第一、この世界の病院じゃなにもできないだろうし……
「そうなの? 魔法とかなにかが原因なの?」
アリサは構わないでくれと横に振られるユーノの手を取り、強く問い詰めた。けれども一切の応答が曖昧になったユーノを見て、とにかく休ませたほうがいいと思い、ユーノを家まで歩かせた。
アリサは部屋に戻り、ユーノをベッドの上に寝かせた。
ソファーでいいかと思ったが、それは可哀想なのでやめておいた。
「ここは……」
「アタシの部屋よ。あんた自分で歩いてきて分からないの?」
「どこ歩いてるか分かんなかった……。でも……」
「なによ」
「手握られてると凄く落ち着く……」
「なにそれ、ば、ばっかじゃない。それじゃ抱きしめでもしたら完治するのかしら」
「たぶん……」
「あっそう。それは良か……、は?」
冗談でも言ったつもりのアリサだったが、それを真顔で肯定されたものだから、一瞬思考が止まってしまった。
「あ、いやあ、あのね。お、怒らないで聞いて欲しいんだ」
「なに。納得できる説明でもあるっていうの?」
「い、言っていい……? 殴らないよね?」
「いいわよ。殴らないし」
ユーノは目に不安を抱え、口の動きを迷わせた。
「単刀直入に言うと」
「うん」
「アリサ、えっちしたいでしょ」
「……は?」
「ぼ、僕と」
「な、な、な、ななななな……っ! なに言ってんのよぉぉおーーーっ!」
バッチーーーン!
アリサの平手が、ユーノの頬に赤いもみじを作った。ユーノは涙目になった。
「いたい……、殴らないって……」
「そりゃ殴るわよ、ばかっ!」
「ア、アリサの心がそう言ってたんだ。それが凄く強くて、僕は苦しくって……」
「心? な、なに。あんた、人の心が読めるっていうの?」
「……手を握ると」
それはバモスと同じ力だった。
ジュエルシードのような想いを感知する能力がユーノの中にもいつしか備わっていて、今ユーノは、きっちりとアリサの想いを察してしまったのである。
「も、もちろん、凄く強い想いじゃないと、はっきり分かんないけど」
「じゃあなに、それ、相当強かったってこと?」
「か、かなり……」
アリサは息を止め、顔を真っ赤にした。
煮えつくような羞恥心の中に身を置いていると、体がへんに震える。アリサはそんな窮屈の中で、事態の整理と、言い訳の用意を急いだ。
こんなこと、嘘でユーノが言うはずもない。心を覗けるというのは本当であると思う。ならば今、どうすべきが的確なのだろうか。
「あ、あーっそう。そうそう。まぁ、あのね。それはそれよ、ア、アタシほら、恋人とか全然いないじゃない。だけどまぁ、いつまでも経験なしってのも嫌だし、なんなら相手がユーノでもいっかなー、なーんて、ちょっと焦ってたっていうか、その……」
窮屈から解放されたいがため、可能な限りの言い訳を並べたアリサだったが、並べるたびに余計窮屈に追い込まれていく気がした。バカらしいとも思った。
アリサは一つ溜め息をした後、口を横に締めた。
「ふん。じゃあユーノとすれば、ユーノが助かるっていうの?」
「そ、そんな極端な話じゃなくって」
アリサは仕方がないという顔でユーノに寄りかかって、頭を預けた。
ユーノの手が宙に浮く。浮いて迷っていた。その迷い手を、アリサは引き寄せて、自分の体を包ませた。
「アリサ……」
「ば、ばか。声かけんじゃないわよ。とっとと済ませてよね」
「でもそれじゃ」
「なによ」
「アリサの望んでることじゃないっていうか……」
「ア、アタシがやって欲しいことなんかね! 抱きしめられてキスして髪撫でられてキスして触りあってキスしてえっちしてキスして腕枕してキスしてもらうぐらいよ! そのぐらいとっととやればいいでしょ!」
「は、はい」
アリサは息を止めたまま、ユーノに引き寄せられ、頭をベッドの上に落とした。
広げた手の平もないような距離で、寄り添う二つの顔。その顔に置かれる唇が触れるまでは、ほとんど時間がかからなかった。
アリサの真っ直ぐ伸びる腕に、ユーノが腕を重ね、白い指同士が唇より強く絡み合う。
アリサは不思議な気分だった。
唐突すぎるのに、どこか断りを入れた予定ような気持ちがある。こうなることを分かっていて、この先どうなるかもお互いに知っている気がするのである。
二人はまた唇を合わせたまま、ゆっくりと服を脱がしあった。
脱いだ服をベッドの下に重ねて捨てると、二人はなんの邪魔もない肌を晒した。けれども恥ずかしいという感情はあまりなかった。
ユーノの指が、アリサのお腹に触れた。アリサは一瞬びくっと肩を動かしたが、それ以上はなにもせず、じっくりとユーノの指を受け入れることにした。
その指が這って、アリサの内腿を撫でると、今度はアリサのほうからゆっくりと足を広げた。
指先がアリサの秘唇を撫で上げ、秘豆をそっといじった。
「んっ」
「痛かった?」
「う、ううん。そのくらい別に。それよりあの、アタシも触ってみていい?」
ユーノは返事を口付けで返した。
アリサは目を閉じたまま、肉茎を手で包んでみた。
柔らかくて、指先より暖かい。
そうしてしばらく肉茎に触れていると、肉茎がじょじょに固くなってきて、アリサの手の中でピンと反り上がってしまった。
これを受け入れなければならないと思うと、アリサは少し不安になったが、それ以上に受け入れたいという気持ちのほうが強かった。
「ユーノ、これっていいってことなの?」
「うん。アリサも結構濡れてたし」
「キ、キスなんかいきなりするからよ。濡れんに決まってんでしょ」
「キスで?」
「そうよ。なに、なにか悪いっていうの?」
「う、ううん別に。じゃあ、いくよ」
「あ、待って」
「なに」
「挿れる時は……、手握ってて……」
アリサは仰向けになって、ユーノを受け入れる準備をした。
アリサの耳の横で二人の手が握られる。それが脇を開けて胸を大きく晒す形だったので、アリサは恥ずかしい気持ちに駆られた。
秘口にぴっとりと亀頭が触れ、ユーノが腰を静かに落とす。
アリサの中に太い異物が割り入ってくる感じがした。
まだなにも受け入れたことのない膣は、にじゅにじゅと音を立てながら裂かれ、最後に膜を破かれた。
鋭い痛みがアリサの体中を駆ける。アリサは歯を食いしばったが、肉茎が奥に達するまでの間、ユーノが手を強く握り返してくれていたので辛くはなかった。
そうして子宮に触れるまで挿し込まれると、アリサはようやく痛みから解放された。
「息しても大丈夫だよ。痛かった?」
「こ、こんなの別に痛くない……っ、から、平気……っ!」
「強がらなくていいから、痛いなら痛いって言っても」
「……う、うん。……痛かった」
アリサが素直に答えると、ユーノは指を差し出してアリサの涙を拭った。その時、アリサはユーノの手の甲から血が出ていることに気がついた。
「あ、ご、ごめん。爪立てて握っちゃった?」
「これ? このぐらい別に」
「自分は強がるの?」
「……確かに痛かったかな。でもすぐ治せるから」
苦笑いしたユーノは、お互いの痛みを魔法で治した。
アリサの脇の下にユーノが腕を入れ、体を密着させる。上半身にかかる体の重みが、アリサはなんだか嬉しかった。
抱きしめ合ったまま、ユーノの腰がゆっくりと動く。
一度受け入れたはずの膣もまだ固く、肉壁は締めるようにきつく肉幹を押す。
しかし締めれば締めるほど、押し返された時の力も強く、動きは非常に遅くとも、それはアリサに十分な快楽を与えた。
「ん、……あっ」
静かな動きの中に、終始ぴりぴりとした刺激があり、それが絶えずアリサの背筋をくすぐる。アリサにはその刺激を感じるたび、愛を胸に満たした心地になった。
「痛くない?」
「うん、大丈夫……。んっ。だ、だから、ちゃんと挿れて」
「ちゃんと?」
「遠慮してんじゃないわよ。……それともへたっぴなの?」
「……わかった」
アリサの胸に、ユーノの重みがぐっとかかる。
そうしてじょじょにユーノの動きは早くなっていった。
「あ、んんっ、あ。あ……っ!」
アリサの頬が赤く色づき、肌には汗がにじんでくる。
ユーノの動きが早くなるたび、アリサの髪は揺れ、喉から淫猥な喘ぎ声が漏れた。
ぐじゅ。ぐじゅ。ぐちゅ。
掻き上げられる花弁からは愛液をあふれさせ、肉幹の動きをさらに円滑にし、じんじんと痛むほどの刺激をアリサの足先まで走らせる。
「あ、やっ、んんぅっ! ……ユ、ユーノ!」
「な、なにっ、アリサ」
「お、遅すぎんの、よ、ば、ばかっ! ばかばかっ!」
「で、も、これでも結構速く……」
「違うっ! んっ! そ、そうじゃなくて、こうするのが遅かったって言ってんの!」
ユーノは動きを止めた。アリサは息を整え、泣きそうな瞳でユーノをきっと睨んだ。
「この髪だって、ユーノがいいって言うから戻したんだし、仕事だってほんとはしなくていいけど、ユーノが一緒にいてくれるっていうからやってるんだし、いつもあげてるバレンタインデーのチョコだって、全部全部本気だったんだから」
「う、うん」
「ずっと、ずっと好きだったんだからね。えっちだって、ユーノじゃなきゃ嫌だったんだから、ばか」
ユーノはアリサの頭の下に手を伸ばし、そっと髪を撫でた。
「ねぇ、やっぱり速くなくていいわ。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、イク時はキスしてて……、もうすぐだから……」
アリサのお願いに、ユーノは左手で身を抱き寄せ、右手は無理して握り合った。
唾液と吐息の交る唇と、熱い生殖器が絡み合う。
そうしてアリサの内股にぐっと力が入ると同時に、精が子宮の奥まで押し寄せた。
花弁の隙間から、白く濃い液が止めどなく漏れ出てくる。
満足するだけの刺激は感じた。けれども二人は体を離さず、まだ唇を触れ合せ、そのまま呼吸が整うまで動かなかった。
「ねぇユーノ、もう辛くない?」
「うん。アリサの気持ち、軽くなってる」
「分かるの?」
「ずっと手握ってたから」
「ふ〜ん。じゃあアタシが今なに考えてるか読める?」
「今の心を読めまではしないけど、今なに考えてるかは良く分かるよ」
「どうして」
「顔に書いてある」
得意げに言うユーノに、アリサはツンと顔を背けた。するとユーノはアリサを引き寄せて、アリサの頭を肩に置いた。
「もう。ばか。ばかばか。ユーノなんか、ずっと大好きだったんだからっ」
ぴょんと跳ねる髪を指先でいじられながら、アリサは笑顔で口付けを交わした。
――強い想いを感じ、笑顔を生み出す力。
ジュエルシードが本来持つべきだった、ジュエルハートの奇跡。
目覚め始めたアヴァンシアの力は、確実に強くなっていた。
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