アメリカの刑事司法制度について − その10

アレインメント arraingment


起訴が決定し、答弁取引を経た後、アレインメント罪状認否手続)が開かれる。

    「あした大陪審がひらかれるのは知っているだろう?大陪審はきみの起訴を承認するはずだ」
    「じゃ、おれも法廷に出るのかい?」
    「いや、まだ正式起訴が決定するというだけの話だ。裁判所は傍聴人や記者でごったがえすだろうな。ヌース判事も来て、5月の開廷期のはじまりが宣言されるだろうし、バックリーはあちこち走りまわってカメラを追いかけ、大言壮語をまきちらすことだろう。たいへんな一日になるぞ。午後には、ヌースが武装強盗の裁判をはじめると思う。あした正式起訴されるとすると、ぼくたちは水曜か木曜には罪状認否手続に出頭することになるはずだ」
    「なんだって?」
    罪状認否手続だよ。第一級謀殺罪での起訴の場合、判事は神と万人の見まもる法廷で、起訴状を朗読することが法律で義務づけられているんだ。きっと、すさまじくおおげさな起訴状が出てくるだろうね。こちらが無罪の申し立てをすると、ヌースが公判の日程を決める。さらに妥当な額の保釈金での保釈を求めるが、ヌースの答えはノーだ」
    (『評決のとき』(上)p233)

    ヌースは、きょう9時からの審理で10件あまりの罪状認否手続を予定していた。
    ………
    ヌースは裁判所の赤いファイルをとりあげると、読書用眼鏡の位置をなおし、眼鏡が書類を読むさまたげにならないようにした。「ミシシッピ州民対カール・リー・ヘイリー。事件番号3889。ミスター・ヘイリーは前に出てもらえますか?」
    手錠がはずされ、カール・リーは弁護士につづいて法壇に近づいて、ヌース判事を見あげた。判事はなにもいわず、そわそわしたようすでファイルにおさめられた起訴状に目を走らせている。法廷内は静まりかえっていた。バックリーが立ちあがって、被告から数メートル離れた場所にゆっくり歩いていった。手すり近くに陣どった法廷画家たちが、大忙しでこの光景をスケッチしはじめた。
    ………
    「あなたがカール・リー・ヘイリーですか?」ヌース判事がたずねた。
    「はい」
    「ミスター・ブリガンスがあなたの弁護人ですね?」
    「はい」
    「ここに、あなたを正式起訴するむねの大陪審による起訴状の写しがあります。あなたの手もとにも、この写しがとどけられていますね?」
    「はい」
    「読みましたか?」
    「はい」
    「内容について弁護人と話しあいましたか?」
    「はい」
    「内容は理解できましたか?」
    「はい」
    「けっこうです。これから法のさだめるところにより、本官は本起訴状を公開の法廷で読みあげることになります」ヌースは咳ばらいした。「善良かつ遵法精神あふれたフォード郡住民により正式に陪審員として選任され、宣誓をすませた人間によって構成されるミシシッピ州大陪審は、………この行為はミシシッピ州法の重大なる違反であり、ミシシッピ州の秩序と安寧に反するものである。公訴を是認する。署名、大陪審陪審長ラヴァーン・ゴセット」
    ヌースは息をととのえた。
    「あなたは、自分が起訴されていることが理解できますか?」
    「はい」
    「有罪宣告を受けた場合、パーチマンにある州犯罪者収用施設内のガス室送りになる可能性があることを理解していますか?」
    「はい」
    有罪を申し立てますか、それとも無罪を申し立てますか?
    無罪です
    傍聴人が固唾をのんで見まもるなか、ヌースは予定表を調べていた。
    ………
    「ミスター・ヘイリー」ヌースが上ずった声でいった。「あなたの公判審理は7月22日の月曜日より開始するものとします。公判審理前申立事項のある場合には、6月24日までに提出されるものとし、7月8日までに処理されるべきものとします」
    カール・リーとジェイクはうなずいた。
    (『評決のとき』(上)p295)

罪状認否手続では、弁護人も出席し、被告人が起訴状に対してnot guilty(無罪)、guilty(有罪)あるいはnolo contendere(不抗争:基本的に有罪の答弁だが、刑事手続において有罪とされたことを後の同一事件の民事手続において、当該不法行為があったことの証拠として採用されることを排除する効果をもつ答弁)のいずれかの答弁をする。

このアレインメントはわが国の罪状認否手続とは若干異なる。わが国の認否は裁判開始後の手続であるが、アメリカのアレインメントは裁判開始前の手続(プレトライアル手続)であって、答弁いかんによって裁判を開始するかどうかが決まる。つまり、被告人が有罪の答弁を行えば、被告人は公訴事実のすべての要素を認めたことになり、裁判は開始しないで量刑手続に入っていく。無罪の答弁(plea of not guilty)を行った場合はじめて裁判(trial)の手続に入っていく。

    翌火曜日の午前、デニス・リオーダンはアーロン・クライン判事の法廷に出るため、ライカーズ島から連れてこられた。第二級謀殺の起訴に対して罪状認否をするためだ。
    ベン・ゴードンと並んで、デニス・リオーダンは裁判官の席に向かって立ち、クライン判事は起訴事実を読み上げると、訊いた。「どういう申し立てをするかね
    リオーダンは判事を見上げた。青い目に非難をこめ、幅広の赤ら顔には怒りが歴然としていた。「どういう申し立てをするかですって。あなたならどうします。判事さんなんだから、説明してくださいよ。妻と子供のために、一生まじめに働いてきた。そのあげく、息子の一人は戦死し、娘は殺され、しかも誰も正義の裁きを行おうとしなかったため、妻は悲しみのあまり死んだ。わたしに何を申し立てろというんだね。裁判をしてもらうのがわたしの願いですよ
    リオーダンの長広舌に辛抱強く耳を傾けていたクライン判事は速記者に向かって言った。「被告人は無罪の申し立てをした」
    (『復讐法廷』p53)

デニス・リオーダンは自白をしておきながら、罪状認否手続では「無罪の答弁」をすることになる。なぜなら、有罪の答弁をすると裁判は開始されないで量刑手続に入ってしまうからだ。リオーダンの目的は、有罪か無罪かではなく、裁判で陪審員や傍聴人に「正義」を訴えることだったのだ。

(当初作成日:3/25/2001

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