嗚呼,忌まわしき美術部

 

 私の油絵との出会いは,中学生の時でした。プロフィールにも少し書きましたが,美術の時間にはじめて油絵を習い,珍しさに美術部に入りました。それ以降,大学卒業まで油絵を続けていたわけです。もっとも,こう書くと“美術部暦が長いから絵が上手いんじゃあないの”と勘違いされがちなのですが,デッサンやクロッキーといった基礎的な勉強が大嫌いだった私のレベルは知れています。一応はそれなりには頑張っていましたけどね…

 晴れて大学生になった私は,一瞬だけ某体育会系のクラブに入ったのですが,ランニングが嫌で1週間くらいでサクッと辞めました。やっぱり油絵の匂いが恋しくそれへの想いを断ち切れなかったのと,何よりも走らなくて良いことが魅力で美術部に入部しました。
 入ってみて,今までとは違う雰囲気の中で,それなりに油絵を楽しんでいました。そのクラブは,どちらかと言うとみんなで楽しみながら油絵を描こうという主旨のクラブで,みんなの絵に対する接し方も色々でした。真面目に上達しようとして取組む少数派,適当な絵を適当に描く多数派,油絵そっちのけで部室の雀卓を囲む諸先輩方,時間つぶしに部室に集まりコタツに入っておしゃべりする女性部員,忘れた頃にひょこっと顔を出す幽霊部員など様々でした。
 それでも展覧会の前になると沢山の人が集まり,隣にあるアトリエに入れなかった人屋外にキャンバスを並べて作品を仕上げて行く様は,それなりの威圧感と連帯感がありました。


 あれは私が入学した年の最初の6月でした。その時はいわゆる教養課程に在籍していたのですが,全学を挙げて行う公式の学園祭とは別に,教養課程の学生だけで行う学園祭がありました。
 美術部も1,2回生を中心に参画します。内容は,美術部ですから当然展覧会を行いますが,更にこれに加え,模擬店も出します。

ゲイバーです。

 もちろん性転換手術を施してまでは行いませんが,化粧もして衣装も着て接客します。
 初めてそれを聞かされたときは,

 マジか!? ToT

って思いました。
 みんなやってきたんだからやれという,先輩のお達し。

 ある日,本番に先駆けておかまの予行演習です。部室で衣装のサイズ合わせです。
 なるべくならあまり目立たない衣装を希望したのですが,少々太っていた私に合う衣装は一つしかありませんでした。太った人専用の,フリフリ付きのキラキラ光るピンクのワンピースです。先輩曰く,由緒あるデブ専の衣装とか… 悲しいことに,サイズはぴったりです。
 で,化粧を施してもらい,ストッキングを履いた姿を鏡に映すと,意外と良い感じ♪でした。

 さて本番当日。
 源氏名は

ともよ

でした。
 最初はやっぱり恥ずかしかったです。こんなんに接待してもらっても楽しいか?という疑問や初対面の人と話すのが苦手という意識が渦巻いて,比較的無口なホステスでございました。
 しかしながら,時間が経つにつれ恥かしさが薄れ,ある時何かが吹っ切れたようです。同じクラスの友達が来てくれた時はなりきって接待していました。最後の方は,終わるのが少々残念だったくらいです。ちなみに,その日以降の私のあだ名は“ともよ”でした。

 さてそれから一年が過ぎました。新一回生を中心に,その年の出し物が議論されました。
 例年通りならゲイバーなのですが,実はかなり古くから行っている模擬店で同じ衣装をずっと使ってきていたために,衣装の多くが結構痛んできていたのです。修理しながら使っていたのですがもうそろそろ限界だろうということで,新しい衣装を買うか,全く新しいことをするかでかなりもめてました。
 歴史を受け継ぐべきか,新しい方向に向うのか…
 それで結局採択されたのが,

原始人バー

でした。
 布切れで腰巻を作り,顔や体の露出部を茶色に塗るだけで済むので,衣装代が安く上がるということも採決上のポイントでした。
 学祭当日,ダンボールで作った石斧を持ち,怪しげな勾玉を首にかけた沢山の原始人が教養校舎に出現しました。いやがる客を接待する原始人,ステージ前に座りこんで演者に拍手を贈る原始人,たこ焼きを買って食べる原始人……
 そんな原始人たちに混じって,私はなぜか一人だけでともよでした。

 さてそれから一年…… 新一回生を中心に,その年の出し物が議論されました。
 去年の売上が落ちた原因は何か? 真剣に議論がなされました。『原始人というのがいけなかったのではないか』,『ちょっと店に入ってきにくいな,やっぱり』という意見が大半でした。
 今年は,みんなが入って来やすいような明るい雰囲気をかもし出そうということになり,

シーフードバー

になりました。
 みんなでお魚さん海老ちゃんに扮し,老若男女だれでも楽しめる明るいバーを目指すことになりました。中には半漁人なんかもいましたが,新しい境地を開拓しようとする新一回生の頑張りを,先輩達は優しい目で見守っていました。3回生になっていた私も,彼らの協力要請を快諾し,

巨大ヒトデ

の役を仰せつかりました。
 裏(腹の方)は赤,表(背の方)は白と,紅白でめでたいです。訪れた小学生らしき子供に,一緒に記念撮影をというお願いも受けました。
 で,肝心の売り下ですが,残念ながら前年度を更に下回る,予算大幅未達で幕を下ろしました。

 
「今は何をしてるのかな」と,ふと思うことがあります。
今年あたり,ちょっと見に行こうかな…

 

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