太陽系から遥か遠く離れたある銀河に,その星はあった。地球と同じように,他の惑星と共に中心の恒星を公転するその星は地球より少し大きく,地表は海と陸地からなっていた。自転を行う事により昼夜の区別があり,微生物や光合成を行う植物,他の生物を食する動物など,地球と同じ食物連鎖体系を形成する様々な生命体が存在した。殆ど全ての生命体には雄体と雌体が存在し,一組の雄雌から子が生まれ,やがてその子が成長して次の子孫を残し,老いたものは死んで行くことも地球と同じである。
つまり地球と殆ど,いや完全にといって良いほど同じ星がそこにはあった。
そしてもう一つ…………
ある日,先進国の一つであるセダム国で,先進国首脳会議が開催された。各国の首脳陣が,大陸間超高速輸送船で,セダム国に集まってきた。
「△*※〜∩∞°℃※▼##%∀\∪∇∃.⇔¬∬◎★★/≫∝∇≡,‰∂∴☆◆♂〜刀Z………」
(さて,ここで話されている言葉はその星で用いられている公用語であるが,以下には便宜上,日本語に翻訳したもので記す事とする)
「その調査に,我々の国から人を出したいのですが」 少し遠慮がちに,エスカリブリ共和国技術開発省長が発言した。エスカリブリ共和国はもともと技術レベルが比較的低かったが,エズレブ国やジション帝国の技術開発協力により,最近になって先進国の仲間入りを果たした小国である。「我が国はこの星の北極地点に位置していますので太陽光が弱く,ご存知のように光合成能が余り発達していません。ですから,ちょっと見ただけでは“チキュウ人”と大差ないと思うのですが…」と,比較的白い腕を見せながらそう言った。
かくして次のステージのプランがこれも満場一致で決定され,さっそく各国が活動を開始した。そして僅か1週間後に,10隻の宇宙船からなる調査船団がその星を後にして,チキュウに向った。
やがて,次の先進国首脳会議が,テレル国に場所を変えて行われた。そこではチキュウの解析結果が報告され,次の方針が議論された。
三つ目の違い――
誰もが明確な回答を答えられないまま,しばしの時が過ぎた。
やがて,各宇宙船のメインスクリーンに,チキュウが小さく映し出された。
船の中では,シャーメル帝国の言語教育を受けた多数の若者が,自分の担当する言葉での挨拶を練習していた。 チキュウ上の電波通信網を使って,チキュウ上に一斉に放送するのである。
やがて,スクリーンに映し出されろチキュウが,一際大きくなった。
それを合図に,各宇宙船のデッキに,先端にそれぞれの国の国旗を一旗ずつ立てた大小様々な200余発のミサイルがセットされた。この訪問のために開発された,最新の核ミサイルであった。
「喜んでもらえるかな…」
最高階層には,外観は地球の人間とほぼ同じの動物がおり,その星を支配していた。言葉を喋り,二本足で立ち,二本の手で道具を操り,長い歴史を経てほぼ地球と同じような物質文明を築き上げていた。すなわち,あるものは農耕を営み,あるものは漁業で生計を立て,あるものは工業に従事し,またそれを元に流通や商業も発展していた。
陸地には国境により分けられた国があり,各国それぞれの得意産業を生かした貿易活動も盛んであった。国の数は大小合わせて200強存在し,いくつかの言語群に分かれている点も地球と同じである。また各国間に技術的なレベル差も存在し,技術面で進歩しているいわゆる先進国で連盟が結ばれ,その星をリードしている。先進国は25ヶ国であり,定期的な話し合いが持たれ,主にその星の発展について議論がなされている。
ただ違うところは三つあり,一つはその最高階層の生物が若干ではあるが光合成を行えるという事である。もっとも補助的なエネルギーを得られるに過ぎないため,地球の人間と同じように動植物を食べないと生きてはいけないという点では同じであるが,葉緑素によって地球の人間に比べてかなり緑がかった皮膚をしていた。
二つ目は,その生物の知能がかなり高いと言う事である。宇宙開発も盛んであり,多数の衛星や宇宙船を開発し,宇宙空間の旅行も盛んに行われている。
議長のセダム国首長が,最初に挨拶した。
「本日はお集まりいただきまして,ありがとうございました。これからの本会議におきましては,現在行っております異星間交流プロジェクトを進めるにあたっての友好星探索の現状と,次ステージの方針について議論したいと思います」 セダム国首長が,挨拶の最後にそう述べた。
「では,事前調査を担当させて頂きました我々の方から,探索結果をお伝えします」
エズレブ国副首相が発表席に移った。エズレブ国は,この星の中でも特に種々の技術に長けた国である。
「我々の宇宙開発特殊事業所から探索船を出して調査しましたところ,空間座標[45.5°,25.6°,−67.8°]の方面,距離で約31万5000宇宙キロの地点に我々と同じような太陽系があり,その第三惑星に生命体を確認できました。環境も我々と殆ど同じで,昼夜の区別もあり一日の長さもほぼ同じです。その星の技術も我々には及ばないながらもかなり発達しているようで,電波による通信網も広いようです。電波を傍受したところ,その星は“アース”や“チキュウ”などと呼ばれています。呼び名が異なるのは,我々と同じように異なる言語が存在するためと思われます」
「おお,それはすばらしい発見だ!やりましたね!!それで,地上探索は行ったのでしょか?」 技術力ではエズレブ国と双璧をなすジション帝国王が立ちあがり,身を乗り出すようにして質問した。
「残念ながらそこまでは至りませんでした。試みようとしたのですが,地上映像を観察したらその星の人間は光合成能力が全く無いらしく,緑色の種族は見当りませんでした。白色や黒色,褐色だけだったので,我々がそこに潜り込む事は余りにも目立つため出来ませんでした。申し訳ありません」 エズレブ国副首相が頭を掻きながらそう答えた。
「では,次のステージはその“チキュウ”にターゲットを絞って詳細な調査を行いたいのですが,賛成される方は挙手願います」 議長役のセダム国首長が決議を求めたところ,満場一致で次のステージの方針が決まった。
「それでは,我々も是非とも探索部隊を派遣させて下さい」と,南極部に位置するラロ国大統領が,これも白い腕を見せながら答えた。
「では異時空空間航行用の超光速調査船やその操縦に関しては,我々がお引き受けましょう」とエズレブ国副首相が,「じゃあ,地上探索に必要な小型探索船や情報収集機器は,我々の方で手配致します」とジション帝国王が,それぞれ申し出た。
更に,先の探索船団が傍受した電波交信を元にした地球の言語解析をマラン国が,それを元にしたチキュウ探索部隊の言語教育をシャーメル帝国が,ほんの僅かではあるが緑色をしている地上探索部隊の肌の色を一時的に完全に地球人のそれに変える特殊加工をマーギン連邦が,採取したデータをリアルタイムに自星に送る超長距離データ送信システムをテレル国が,長丁場に備えた食料品調達を最大農業国のハメラニ共和国が,そしてその他の作戦についても各国が自分達の得意領域を生かした協力を,それぞれ申し出た。そして,これにかかる一切の費用をジポン国が出すことになった。
太陽系の木星付近に到着した船団は,そこをキーステーションとした。そこから小型探索船に乗り換えた約30名の地上調査員は,チキュウの偵察網を巧みにかいくぐり地表に接近し,一斉に色々な場所に散っていった。彼らは,それぞれ着陸したポイントの近くを,チキュウ人になりすまし調査した。定期的に木星付近に待機している母船団に戻り,データ送信や食事,休息をとりつつ,各地域の人間や風習を徹底的に調べ上げた。その間,小型探索船がチキュウ人に見られ,一部の人間の間で“ユーエフオー”等と言う言葉で騒がれた事もあった。やがてデータは全て採取できたとして,調査開始から約3年後,調査船団は自分達の星に戻った。
集められたデータについて,各国の科学者,天文学者,心理学者,民族学者等によって,様々な角度から解析された。
まず,最高階層の生命体は“ニンゲン”であり,性別は2種類であった。彼らは幼い頃に教育を受け,やがて社会に出て様々な職業につくことも分かった。またチキュウにも沢山の国があり,複数の民族が異なる言語群に分かれて,互いに交流していることもわかった。ニンゲンは,個性による差はあるものの概ね温厚であり,互いを支えあって生活していることが分かった。さらにニンゲンを解析するうちに,自分達のことを調べているような錯覚に陥ってしまうくらい自分達と同一の生物であることが分かってきた。
一方,チキュウ上の技術力については,最初の報告通りその星に比べて確かに劣っていた。しかしながら,かつて自分達がそのレベルを経て今に至ったように,いずれは今の自分達のレベルに到達することが間違い無いと考えられた。
また,チキュウ上に,面白い文化があることを発見した。地域ごとで若干異なるものの,“オンガク”あるいは“ミュージック”なるものが存在した。地上探索した者の中には,その美しさに心を奪われたものもいたほどであった。“フェスティバル”や“マツリ”と呼ばれる行事もあった。各地域の歴史に基づく信仰行事であることが分かったが,その星にはそのような習慣が全く無かった彼らにとっては非常に新鮮であった。
「……。 このように,チキュウは我々とほぼ同じ星だと考えられます。確かに技術レベルは,今のところは我々に比べて劣ってはいますが,その代わりに種々多様な文化を持ち合わせています。我々と交流することにより,チキュウの技術レベルの向上と我々の文化拡大にそれぞれ大きな進展が期待できると思います」と,調査の取りまとめ役のエズレブ国副首相がそうまとめた。
「確かに,おっしゃる通りだと思います。ただ,データを解析してほぼ全ての事が理解できたのですが,どうしても一つだけ分からない事があるのです」 地上調査員を派遣したエスカリブリ共和国の技術開発省長が発言した。
「ほう,それは何でしょうか?」 今回司会役を担当したテレル国宇宙開発技術庁長官が,発言を促した。
「チキュウには,沢山の“ミサイル”と呼ばれるものがあります。大小様々なものがあり,大きな爆発力を有しているようです。中には放射性物質を搭載したものもあります。それがどのような使い方をされるものなのか,想像つかないのです…」
この発言には,一同押し黙ってしまった。
それは,この星には異国間の戦争が全く存在しなかったことである。もちろん,個人レベルの小さな諍いはあるが,一つの星に集まる国同士が,時には星の存亡を賭けてまで破壊し合うなどという事はあり得なかった。その概念すら存在しなかった。
「我々が考えますには…」 その星では最も歴史が古いとされるノウ国書記長が,沈黙を破って発言した。
「各国間の友好の証に用いるものではないかと思います。実は本件につきましては昨夜,私どもの国の民俗学者と議論したのですが,先ほどの報告にもありましたように,例えばマツリなどではそのような爆発物を使って祝福するケースがあります。またオンガクを行う場合でもそのような爆発物を使って演出を行うことがあるということです。さてそのミサイルですが,それはもっと大きな爆発力があると考えられます。そして国長の前で,ミサイル等を積んだ車でパレードを行う事もしばしば行っているとの報告もありました。以上の事から総合的に判断しますと,各国間で交流を始める時に,それを盛大に爆発させて祝福するのであろうと考えられます」
「なるほど,そういうことか… そういえば,我々も放射線を浴びる事で病気を治す技術が最近ようやくできたところですね。放射能物質のミサイルは,きっとそういった効果もあるんでしょうな。いやはや,チキュウの技術もまんざら捨てたものではないですな。ははははは…」ミサイルの疑問が氷解したエスカリブリ共和国技術開発省長が,そう言って笑った。
そして満場一致で,次のステージにチキュウを訪問する事が決定された。
それから約3ヶ月後,100隻余りからなる,各国の代表者を乗せた大規模なチキュウ訪問船団が,見送る人達に手を振りながらその星を後にした。やがて大気圏を出た船団は,エズレブ国,ジション帝国,テレル国,ジポン国の協働で大幅改良された超光速エンジンの能力をフルに生かし,チキュウに向けて航行を開始した。
「いよいよだ,うまく行くかな…」 不安と期待が入り混じった船団長のジション帝国王が呟いた。
「大丈夫ですとも。きっと上手く行きます。」 緊張を和らげるように副団長のエズレブ国副首相が答えた。
「チキュウの皆さん,こんにちは。我々は,チキュウから遠く離れた,レガテーン星から参りました。突然のご訪問をお許し下さい。今後チキュウの皆様と様々な交流を行い,お互いの星の発展に繋げていきたいと思い,そのお願に伺いました。是非ともお付き合い頂けるように,お願い申し上げます。また我々からのご挨拶として,ささやかな贈り物をご用意致しました。つまらないもおのですが,お受け取りいただければ幸いに存じます…… ああ,難しい… 緊張するなぁ,うまく言えるかな…」
「さあ,みなさん。間もなくチキュウです。くれぐれも失礼の無いようにお願いします。」 副団長のエズレブ国副首相が各宇宙船に連絡した。
船員達は,これからの友好交流と互いの大いなる発展を願う期待に溢れた表情をしながら,ミサイルの照準をセットした。