<シャーベット>

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 地軸の歪んだせいだとか、太陽の軌道からずれたから、だとか。
 そんなことはどうでもいい。

「ん、ふぅ」
 唇の端から漏れる吐息に頭がクラクラする。柔らかくしっとりと濡れた唇の感触、髪から零れる花の匂い。全てが甘く切なくて。涙が出そうになるのを堪えながら、俺は小さくついばむようなキスを繰り返した。
 このまま食べてしまいたい。噛みついて、唇から首筋、髪も爪も、何もかもを食い尽くして、自分のモノに。


 大規模に行われた重力実験の失敗が原因で、地球は地軸が歪み、太陽の軌道をちょっとだけずれた、そのため氷河期なんていうものに急激に突入してしまった。
 人類は住めなくなった地球を捨て、何処か遠いお星様に行くことになった。

 地球脱出なんて、大それた事だと思っていたが、実際にそうなってみると案外受け入れられるものだ。もちろん、宇宙に出るため一通り訓練は受けたし、これから行く星の事だって今現在地球連邦が把握している資料は頭にたたき込んだ。
 ペアとなった彼女を危険にさらすことは出来ないからね。

 しかし、かなり酷いところらしい。
 食物プラントの方に電力をまわしているから、余分な電気はないそうだ。そのために道路も動かないし個人の携帯端末もない。水は確保できているが、それも水道設備として使うにはかなりの時間がかかるようだ。
 地球に酷似している星、でも何百年前の地球と酷似なんて、困る。


 それに……これだ。
 キスだ。

 俺はこの行為をただのコミュニケーション手段だとしか考えていなかった。
 そこから先を行くと言われている「子供を作る行為」なんて、「感染病の原因」になるとの観点から、子供が欲しいカップルはBABYプラントで子供を作ってもらうことになっている。

 しかし、これから行く星にはBABYプラントはない。


「人間の生殖行動なんてものは、本能に従って思い出せばよい」
 なんてマザーコンピューターはもったいぶって教えてくれないし……。


 しかしこの沸き上がってくるものはなんだ?
 キスしている間にずっと感じていた。
 優しく、時に荒々しい、甘く切ない、ごちゃごちゃとした感情。
 まるで脳が麻薬に冒されているよう。

 何もかもを自分のモノにしたい。
 そうしたら、満足するのだろうか。

 でも、どうやって?


「ねえ、……これからどうすればいいの?」
 上気した頬で、潤んだ瞳で、彼女は言う。
 抱きしめている腕の中で、激しく脈打っているお互いの鼓動が、妙に調和しているのが心地よい。
「ごめん……よくわからなくて。とりあえず、手を繋ごうか」
「うん」
 指を絡めて手を繋ぎながら大きな窓に目をやる。

 窓の外を船団が行く。
 希望の星を目指して。

「もう一度、キス、したいな」 
 甘くささやく声に、笑顔で答える。
「俺も」


 そして、再びキスをする。

 シャーベットになった地球に、小さく手を振りながら。
  







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