<紙吹雪>
| 次の日。 朝六時からタコやらキャベツを切って切って切りまくり、昼になればなったで講座の方のフランクフルトを売りまくって、あっという間にリハーサルの時間となった。 遅れるとまたちぃ先輩に怒られる。全速力で練習室に急ぐ。きっとみんな発声をやり始めた頃だろう。……と、音楽棟の前で、菅生さんが座って居るのが目にとまった。 「あれ? 菅生さん?」 早く行かないとちぃ先輩に…と言おうとしたら、 「ちょっと来い!」 そう言って菅生さんにグイグイ手を引っ張られ、僕は問答無用で音楽棟の裏に連れて行かれた。 「あのさ、トンちゃんに聞いた?」 「紙吹雪の話?」 「オッケ、なら行くぞ!」 「どこに!?」 「部室!」 え? え? えええ??? ……っという間もなく僕が連行された部室には、トンちゃんの他に、ミドリちゃんとかシマちゃんとか、一年生と二年生の女子が数人、必死になにやらやっていた。 「あれ、みんな練習は?」 「もう少しなんです先輩! 手伝ってください!」 焦りつつキッチンばさみでジョキジョキと広告を切り刻んでいく彼女たち。 「お願いします!」 ホイッとはさみを手渡されて、渋々僕も参加する。ああもう、知らないからな! ジョキジョキジョキジョキ…… そうして全て切り終わった時、目の前には出来上がった紙吹雪で満タンになった大型ゴミ袋二つが鎮座していた。 「これ……全部撒くの?」 「そうですよ」 「ええ!? でもその後片づけは……」 「みんなでやるんだよ!」 そう怒鳴る菅生さんは真剣で、ピアノを弾いている時と似てる。でもこれ以上遅れたら、ちぃ先輩に何を言われるかわからない。そろそろ練習に……と、思っていると、 「じゃ、みんな行ってよ。今頃ちぃ先輩が鬼になってるから」 菅生さんがそう言った。 「え? そんな時間?」 「うわ、ホント。やばい!」 「じゃああとよろしくねー!」 って、二年女子達はばたばたと片づけて行ってしまった。 残ったのは、菅生さんとトンちゃんと僕だけ。 「松、運ぶの手伝って」 「ええ!?」 「男はお前しかいないの!」 「……他の人も誘えばよかったのに」 「松しか聞いてくれなかったんだよ」 にんまり笑う菅生さんに、僕は苦笑するしかなかった。なんだ、断れなかったのは僕だけか。 「じゃ。トンちゃん、鍵よろしくね」 「あ、はい」 トンちゃんが部室の鍵を閉めるのをたしかめてから、サンタクロースよろしくそれを肩に担いで、菅生さんと僕は教育棟の二階の踊り場に向かった。ここから窓を覗くと、ちょうど真下が舞台になっているんだ。 「さてと……」 「戻らないと怒られるよ、きっと」 「多分大丈夫。ちぃ先輩には話してあるんだ。却下されたけど」 え? 一応許可取りに行ったんだ。却下されたけどやるなんて!! うぅわー……どんな目にあうかなぁ。 「そんときは、松がちぃ先輩なだめてよ」 「ええ!? 殺されるよ」 嫌だよ、ちぃ先輩を説得なんてそんなオソロシイ…… 「大丈夫だよ、松なら」 「松先輩がいてくれて心強いです」 細い声でそう言って、トンちゃんが笑った。う〜ん、こう笑われると弱いんだよね。 と、菅生さんがそっとトンちゃんの肩に手を置いて、 「じゃあ、がんばるんだよ!」 って、笑いながら、背中を押した。 「え? 先輩、でも……」 「いいから。行きなって。後はうまくやるからさ」 って、菅生さんはトンちゃんにウインクをした。トンちゃんはぺこぺこと頭を下げながら行ってしまった。……え〜っと? 首謀者はトンちゃん、じゃ、なかったの? その後、日が暮れるまで、僕と菅生さんは二人きりで待機だった。それはそれでまぁ………いいんだけど。こんなに待つなら練習にも行きたかったし、会場作りや椅子並べもやりにいけばよかった。 お祭りはまだまだ続いているようで、楽しげな声があちこちであがる。僕のいる教育棟は人が来ないから、し〜んとしていて、なんだか居心地が悪い。 と、その時、ざわざわと聞き慣れた声がしてきた。ああ、コーラス部の連中だ。下をそっと覗いてみると、そろいのTシャツ姿で舞台に並ぶところだった。と、ちぃ先輩がこっちを見上げて、眉をしかめたので、あわてて顔を引っ込めた。 「……ちぃ先輩って、今絶対に気が付いたよね? こっち睨んでたもん」 同じように見ていた菅生さんがため息をついた。 「僕、歌いたかったんだ」 「……うん。オレもそうだけどさ」 二人でここに座って、なにしてんだろう……。 下から拍手が聞こえた。いよいよ始まる。 牧原先輩がピアノの前に座る。ちぃ先輩が舞台に上がって一礼……したんだろうな。 フォルティッシモでがつんと曲が始まった。 た〜こや〜き〜! た〜こや〜き〜! たああああこおやあきいたああべたあああああいいいいいい!! って始まって、その後小刻みなピアニッシモで た、こ、や、き、た、こ、や、き、た、こ、や、き、たべたい〜 キャベツと、キャベツと、キャベツとタコ〜用意〜。 紅ショウガ、天かす、ネギ、マヨネーズ、ソーーーース〜 と、続く。 ここからいきなりのフォルティッシモ 菅生さんのアルト声が聞こえてきた。僕もつられて続きを歌う。 荘厳で奇妙な歌は、校舎中に響き渡った。 みんなと一緒に歌えたら、もっと楽しかっただろうな……。と、思っているうちに、何とも奇妙な歌は、あっさり終わった。これが一発目。 拍手の中ちぃ先輩が、 「明日もたこ焼き屋やっていますので! よろしくお願いします!」 って、言うと、歓声と笑い声が響いた。 その後、愛唱歌を三曲、それからアニメメドレーをやって、最後は団歌で締めた。その間、僕と菅生さんは二人でずっと歌っていた。 最後の曲の後、盛大な拍手が聞こえるのと同時に、菅生さんがゴミ袋を開けた。 「松やるよ!」 「本当に、やるの?」 「いいから!」 そして、菅生さんは窓をがばっと開けると、両手ですくいながら色とりどりの紙吹雪をゴミ袋から出して撒いた。 そのとたん、うわあって歓声が響き、そして、トンちゃんの声がした。 「大鳥先輩! 向こうへ行ってもがんばってください!」 って。いつもの自信なさげな声じゃなくて、しっかりしたいい声だった。その後のわあっという歓声と大きな拍手を聞いた菅生さんは、 「よかった。ちゃんと言えて。よっしゃ! もっと撒こう!」 って、両手一杯にすくった。 「え? どういうこと!?」 「トンちゃん、大鳥先輩のこと好きなんだよ」 そう言いながらがばがばと紙吹雪をまき散らす菅生さんは、とても嬉しそうだった。 そっかぁ、この紙吹雪は、本当はトンちゃんのためだったんだ。ちゃんと、お別れが言えるようにって、みんなで協力してあげたんだろう。 「松! ぼやぼやするな!」 どやされて、僕もゴミ袋から紙吹雪を撒く。 と、 「いい加減にしろ! お前ら!」 って、ちぃ先輩の怒鳴り声がした。おそるおそる下を見てみると、ちぃ先輩をはじめ、牧原先輩や団員みんなの頭に、色とりどりの紙吹雪が降り積もっていた。それが風に舞って、舞台の上も下もそれはそれはすごい状態。 その後、首謀者である菅生さんと僕はちぃ先輩と牧原先輩、それに四年生の運営部の人達にさんざん怒られて、二人でこの後始末をすることになった。それというのも菅生さんが、他の子達の名前をがんとして言わなかったからだ。 掃除を始めると、トンちゃんとその子達がこっそり手伝ってくれた。トンちゃんが目を真っ赤に泣きはらしながら、「ありがとうね、ごめんね」って繰り返す。それをみんなで「がんばったね、よかったね」って励ましたんだ。 あちこちに飛び散った紙吹雪の回収は思ったよりも難航して、気が付いたら十時をまわっていた。 「紙吹雪って随分遠くまで飛ぶんだなぁ」 って、愉快そうに菅生さんが笑った。 竹箒を動かしながら考えた。 もしも遠くへ行くのが大鳥先輩じゃなくてちぃ先輩や牧原先輩でも、僕は人に迷惑がかかるようなことはしないと思うんだけどな。なんて。 「松、さぁ!」 その菅生さんにいきなり声を掛けられて、喉から心臓が出るかと思った。 「な、なに?」 慌てて返事をすると、菅生さんがはにかむように笑った。 「ありがとう。付き合ってくれて。冗談でも付き合ってくれないちぃ先輩よりも頼りになるな」 って。 ……なあんだ、あの時の意味深な会話、この事だったのか。なんかホッとした。 「そんじゃ、続きがんばりましょう!」 右手拳を振り上げて行っちゃう菅生さんの後ろ姿を見て、僕は自分の考えを訂正した。 もしも菅生さんが遠くに行くことになったら、 紙吹雪じゃなくて、花びらを頭からふらせて、「行かないで」って言 ……えないよな!! それから僕は火照るほっぺたを隠すようにうつむくと、紙吹雪の残骸を集めるのに熱中した。 おしまい |
| 某所にて「雪」を題材に書いたけど、 締切に間に合いませんでした。orz |