鳥海山


イワギキョウ
山域 出羽山地(山形県飽海郡)
山名 新山(2236m)、七高山(2230m)、行者岳(2159m)
交通 東京(JR上越新幹線)→新潟(JR白金線/羽越本線)→酒田(タクシー)→鳥海山荘
小屋 参籠所(予約必要)
温泉 あぽん温泉
山行日 1996年8月11日(日)〜12日(月)
コースタイム 11日:8:40駐車場-9:55河原宿-13:45大物忌神社
12日:6:30大物忌神社-9:00御浜小屋-10:20鉾立 [15km/8h55min]
地図 「鳥海山」「吹浦」五万分の一地形図(国土地理院)
メモ この山旅で鳥海山が非常に好きになりました。鳥海山はその高山植物と積雪量の多さで有名です。積雪量が多いために夏でも水量が豊富で山頂以外ではいつでも冷たい水が得られます。日本海からの湿った風がまず一番最初に鳥海山を駆け上がるために夏ではガスが発生しやすく、雪渓を歩くルートでは注意が必要です。なお、新潟から列車で酒田に向かうならばぜひ普通列車で車窓からの鳥海山の眺めを楽しんでください。

参照 月山


▼花の巻

天気予報を見ると日本海側ならば晴れている。北太平洋の高気圧も勢力を増しているらしくまだ晴天は続きそう。チャンスとばかり出立する前日の夜に何とか山小屋の予約が取れた。

翌朝、予想に反してガラガラの上越新幹線で新潟へ出て、普通列車で酒田へ。私は冷房なし窓全開の普通列車が好きだ。

羽越本線の窓から田圃の向こうに青く輝く鳥海山が姿を現してくる。海からの風を持ち上げて雲を作り上げている。ああ、鳥海に来たなという感動を覚え、気合いが入る。ビジネスホテルからも鳥海を眺めていた。たなびく雲は明日登る湯ノ台口側に多かったが、夜には雲はなくなった。

今回は少しハードな山登りをしようと考えていたので、酒田駅の9:42発のバスでは山小屋に到着するのが遅れそうなのでここは奮発して、7:30に酒田駅よりタクシーで湯ノ台口へ向かう。タクシーのオッサンは気さくな人でいろいろ話しをしてくれたのだが方言が分からなかった。タクシーからも昨日と同じ脇に雲をくっ付けた鳥海山の全貌が見える。

湯ノ台口にある鳥海山荘前の入山届けに記入していると、昨日降りてきたという関西人のオジサンが近づいてきた。心字雪(大雪渓)でガスがひどくて難儀したらしい。いろいろ話を伺っていると、遠くからこれから登るのですかとの声がかかる。はいと返事をすると、これから登山口まで車で行くので一緒に行きましょうとのこと。あれ、登山口はすぐ近くではなかったかと思いつつ、ライトバンに同乗させてもらう。

車はどんどん上に上がっていく。どうやら滝ノ小屋に近い鳥海高原ラインのてっぺんまで行くみたいだ。軟弱路線になってしまったが、まぁ、いいか。車に乗せてくれた方は今回は花の写真を撮るために同好会の方々と河原宿までいくとのこと。今年は雪が多くて花の時期が1、2週間は遅れているらしい。ラッキーだ。湯ノ台ルートを選んだ甲斐があったというものだ。山はかなりやっている方らしく、東北の山の話しをいろいろ教えてくれた。また途中、下界の景色や鶴間池を覗けるポイントで止まったりと、いろいろ楽しませてくれた。感謝。

お花畑 お礼を言って、先に駐車場から出発する(8:40)。道は林の中の石畳の登山道で始まり、一汗かいたところで滝ノ小屋に到着する(8:57)。小休止。辺りは草原であるが、山はガスっていて沈んだ表情を見せている。雪渓からの雪解け水は道と混ざりあっている。

沢を越えて稜線に出る。花が見事だ。すばらしい。青と黄と白のお花畑である。青いのはイワギキョウやハクサンシャジンか、黄はトウゲブキか、白はセリ科の花だ(葉の形が思い出せない)。赤いハクサンフウロらしき花もちらほら。花の名前は良く分からないが一面花できれいであることは変わらない。

ややきつい登りを過ぎ、稜線の東側に移ると花がない。慌てて戻りお花畑の中で休憩をとる(9:45)。ガスは切れ目が出てきていて青空が見え隠れしている。花の時期だけあってぶんぶんとハチの羽音がするが静かである。稜線を風が吹き抜ける。とても気持ちが良い。嬉しくて思わず頬が緩む。

ここから河原宿までは目と鼻の先であった。また休憩(9:55)。殆ど傾斜のない広々とした草原である。この標高(約1550m)で小屋の前には川が流れている。沢と呼ぶには川幅がありすぎる。ここで顔を洗い、水筒の水を冷やすがものの10分とたたないうちに水筒の水は氷水のようになった。しかし、ここは花だらけだと思っていたが、ニッコウキスゲの群落だけであとは目立たない。心字雪の白と緑の鮮やかな外輪山が時折顔を覗かせる。

25分ほど休んでから出発。ガスで道が分からなくならないよう、左端を登る(10:25)。せっかく持ってきたので一応アイゼンを装着し、ポールを伸ばす。雪渓は羅臼で散々な目にあっているので好きではない。左側の土の上に上がる。最後のトラバースの頃はもうガスが切れた。眺め良し。雪渓を渡りきったところで写真を撮るために休憩(11:10)。今回は休憩がやたらと多い。小雪渓を渡りまたまた休憩(11:45)。湯ノ台口の予定が滝ノ小屋から登ったのでとにかく時間がある。人が多い。5〜10人ほどが休んでいる。家族連れが多い。

雪渓より山頂を望む さてここからは外輪山を見上げるように急坂になっている。ゆっくり登るが息が切れる。自然石の石段状の山道なのでどうしても大股にならざるを得ず、疲労が増す。オバサン軍団を追い越したり追い越されたりしながら息を切らせて登る。もう、5分毎に立ち止まっているのではないだろうか。低木の間には花が咲いている。ここは薊坂という。でもアザミは殆ど咲いていない。蕾のままが多い。

傾斜が楽になり、何とか稜線に出た(12:15)。またお花畑である。風が強い。反対側には千蛇谷が見える。うーん、ガイドブックから想像していた谷よりもっと大きくて荒々しい。人が歩いているのが見える。

シャリバテ気味なので飯にする。風を避けられる千蛇谷側の一段低まった所で湯を沸かしカップラーメンだ。傾斜がきつく、お湯を入れるときに具を全部落としてしまった。これではまるっきりの素ラーメンだ。悲しい。いつものように魚肉ソーセージをほおばる。

ガスが出てきた さて、腹が落ち着いたところでザックをデポし空身で外輪山を少し下る。文殊岳まで降りるつもりで2つ目のピークまで降りたが、山頂を示す標識がない。遥か向こうのピークには何やら棒が立っているがそこまで行くのは諦めた。

戻る途中でまたガスが出てきた。もう見晴らしは利かない。一面白の世界である(13:12)。吹き上がってくるガスは湿っぽく深く吸い込むと鼻にツンとくる。よく店にあるアイスクリーム用冷凍庫に顔を突っ込んだときの感覚を思い出す。デポしたザックを再び背負って先に進む。

結局行者岳はどこか分からずじまいで神社に向かう分岐に着いてしまった。もっと先なのだろうか。分岐にいた人に聞いたらそうだと言う。でも疑似ピークを越えてコルに出て雪渓をトラバースして……と続くので止めた。鉄梯子を下り外輪山の内側の岩だらけの道を進む。一抱えも二抱えもある岩がゴロゴロとしていて誰かが積み重ねたかのようである。

やがて石垣に囲まれた社務所と参籠所が上の方に見えてくる。チベットの寺院(?)を連想させるような場所にある。周りは石ころだけで草木1本見えない。受付で到着を告げる(13:45)。予約無しでは宿泊できないようで帰るパーティーもあった。あたりは真っ白で風が強い。自炊するつもりで食糧を持ってきたが朝飯は5:30と言われ、ついお願いしますと答えてしまった。

やることがないので小屋の中で読書。小屋は新築されたのか、柱は新しい。大物忌神社は20年だか30年周期で建て直すことになっており今年がそれに当たるとか。内部は3段に分かれているが狭苦しいという感じはない。

外が明るくなってきた。晴れてきたようだ。チャンス!カメラひとつを持って新山に登ることにした(15:15)。神社の裏手にある岩山を西側から白い矢印に従い登る。ジャングルジムを登っているかのようであり楽しい。そこに見えた頂上が新山ではなく、このピークを下り、巨大な岩の割れ目の間を通り再び登り直すと頂上である。神秘的である。

新山より見る外輪山 頂上からは360度の大展望が望めた(15:30)。雲はもうどこかに行ってしまい、遠く遠くの雲海だけが見える。そのはるか雲海の向こうに山らしきものが見えたがそれは別の雲らしい。男鹿半島先端の山も見える。北側の山は見え隠れしている。吹浦の港が眼下に見える。目を近くに転ずると、うねる地層を見せながら荒々しい外輪山がぐるっと取り巻いている。新山自体はまるで大きなケルンのようである。

チョウカイフスマ とても静かだ。何も聞こえない。1時間ほど眺望を堪能して、別ルートで降りる。こちらも岩のトンネルがあり面白い。外輪山が見渡せる場所でしばらく眺めを楽しむことにする。頂上は晴れたので登ってくる人が増え満員になってしまっていた。夕食の時間なので降りる(17:20)。参籠所の裏手にはチョウカイフスマが咲いていた。登ってくる途中では気付かなかった。イワギキョウもきれいだ。

夕食は御飯、味噌汁と漬け物、魚のフレークなど4種類のおかず。質素そのもの。隣に座った御夫婦におかずを1種類もらった。あとふりかけも。感謝感謝。

夕食後は日本海に沈む夕日(きれい!)と満点の星空を楽しむ(天の川くっきり!)。

夜はザックを足元に置いて何とか横になれた。支給される毛布1枚では心許なかったので寝袋を持ってきた。寒くはなかったが、暑さの調節が毛布+着込みより楽だったようである。夜中に地震あり。またか。鼾も。


▼影の卷

昨夜は興奮してかなかなか寝付かれなかったが、3:40頃から周りがごそごそし始めたので一気に目が覚めた。近くの窓を開けてみる。うっすらと明るい。星も見えている。やったぜ、影鳥海が見られる! 寒いと嫌なので長袖2枚と雨具を着込み(過剰だ)、4:00に小屋を出る。

影鳥海は七高山で見る。ガイドブックはそう推薦している。小屋の東側裏手より雪渓を越えて急斜面に取っ付く(雪渓手前には水場あり)。まだ平衡感覚が戻っていないのでふらつく。

4:20に七高山山頂に到着。3着だ。東の空は朝焼けが始まっていた。遥か下の方に雲がゆっくりと這うように動いている。さて、「影」は何処にできるのだろう。先に来ていたオジサンはここでは新山が邪魔をして「影」が見えないのではないかと心配していた。本によると新山の左のコブの左肩あたりに見えるはずであるが、私も心配になってくる。日の出は5時前のはずだ。やはり寒い。が、中にはTシャツ短パンという人もいる。

影鳥海 4:50ころ太陽が出てきた。見事な日の出である。西の海を見つめる。太陽を見すぎて目の前は赤いちらちらが邪魔をしている。まだ「影」は現れない。

新山が太陽に照らされ始めた。すると、新山の左側から見える海の遥か遠く、水平線の向こうに黒い三角なものがぼんやり見えてきた!あれだ!影鳥海だ!隣の女性が分からないと言うので見える場所を指摘してあげる。だんだん、影は陸に近づきつつその影を濃くしていく。影鳥海は海の向こうからやって来た。ああ、感動…。

もう影はくっきりとした輪郭をもっている。七高山より南に降りた稜線の方が海が良く見えて良かったようである。降りるのが惜しいが朝飯の時間である(失敗したなぁ)。山小屋の前からでも影鳥海は見えていた(5:20)。

朝飯も御飯、味噌汁と5種類のおかず(卵、たくあんと梅干し…)。隣のオバサンが御飯半分とおかず一品をくれる。昨夜おかずをくれたオジサンがおかず二品をくれる。ありがたし。おなかいっぱいだ。朝食は私が最後まで食べていた。

路傍の花 6:30に小屋を出る。小屋で散々笑わせてくれた関西オバサン軍団の後を少し離れて歩く。花がきれいである。暑くなってきたのでTシャツ1枚になる(6:55)。迫り来るような外輪山の景観が素晴らしい。オバサン達は雪渓歩きを始めた。私は花を眺めつつ土の上を歩く。

千蛇谷の雪渓をトラバースして少しの間登りに入る。海側の眺めが良くなる。鳥海山ももう遥か上に見える。七五三掛で汗を拭う。空は青く輝いている。長坂道の稜線下には滑らかな曲線を描く残雪が多く目を楽しませる。もう登ってくる人が多いが鉾立辺りから車で来たのだろうか。

鳥海湖と雪渓を望む 時間がありそうなので扇子森へ続く稜線から外れ、御田ヶ原から鳥海湖(鳥ノ海)方面に向かう(7:55)。御田ヶ原も一面お花畑である。鮮やかなニッコウキスゲも少し咲いている。少し先ではチングルマが見事だ。

昨日山頂で水を1リッター購入したが、もう残り少ない。そろそろ補給したいと思っていたらちょうど道と交錯する形で沢があった。空の水筒に水を補給。顔と腕を洗う。気分爽快だ。鳥海湖畔には8:20頃に到着。湖には近づけない様子。朝飯はどうせ少ないからここで食事しようと考えていたのであるが、腹は空かない。

鳥海湖から直接御浜小屋に登るのではもったいないので長坂道へ向かう分岐を左に採る。鍋森を左に見ながら稜線の鞍部に出る。鳥海山頂へのメインルートから外れているのでさすがに人がいない。草原の稜線を気持ちよく登り、岩のあるなだらかなピークでひと休みする。逆光に輝く鳥海山頂が素晴らしい。

御浜小屋で少し休む(9:00)。ここから降りるともう鳥海山頂は見えないだろう。名残惜しいが、鉾立に向かって降りる(9:05)。

ドリルの跡がある砕石の石段で賽ノ河原に着いた頃にはもうガスが出てきた(9:23)。沢の水で顔を洗う。日に焼けた腕がひりひりする。軽装で登ってくる人が多い。さらに石畳の道でひたすら降りる。右に見える、すぱっと切り落ちた奈曽渓谷はこれまで降りてきたなだらかな山容とは対照的である。鉾立展望台からそれが良く分かる(10:07)。

バス停のある鉾立ビジターセンターには10:20に到着。缶ジュース1本(ビールがない)飲んで10:50のバスに乗る。大平から乗ってきた沢をやってきた(?)女子学生の降りるよとの声で目が覚め吹浦で下車した。下界はうだるような暑さだ。あぽん温泉で汗を流す。


BasshoZakki | 19960811 Mt. Chokai, ©KageYama.ページトップに戻る