5:45頃に朝食となる。南の窓からは大ノマ乗越から迫り上がり水平に伸びる稜線と最後に突き出た笠ヶ岳が、明るくなってきた空に淡いシルエットとして浮かび上がっている。今日も雲一つない快晴だ。
今日は小千谷市からきたシーさんと即席パーティーを組むことにした。黒部五郎岳山頂で一緒にガスが晴れるのを待っていたビデオカメラのおじさんだ。この6月から「毎日が日曜日」になったとかで山登りに打ち込めるようになったと嬉しそうに話してくれた。今日は雲ノ平に向かうとのことで一緒に歩く事になったのであるが、雲ノ平からの帰りに登ろうと思っていた鷲羽岳に登ろうと誘われる。あの急登は登りたくなかったので逆コースを取ろうと思っていたのであるが60歳過ぎのおじさんに誘われては断るわけにもいくまい。シーさんはむしろ黒部源流の急登を嫌がっていた。
我々が黒部五郎小舎を出発したのは6:27、小屋の裏からいきなり林の中の急登になる。それほどの急登ではないが朝の身体には少し辛い。森林帯を抜けルートより少し離れた最初のピークで休憩する(7:15)。昨日登った黒部五郎岳が五郎のカールをこちらに向け朝日に輝いている。薬師岳の雄姿もここからは良く見える。もう写真は撮りたい放題だ。三俣蓮華岳から双六岳に伸びる逆光の白い稜線は冷たく壁のようにそびえ立っている。
三俣蓮華岳の巻き道は北斜面であるためか雪がまだかなり残り、トラバースするには少し危険だろう。まぁ、このような天気では頂上に行かない手はなく、当然山頂ルートを採る(7:44)。足元が少し気になってきたので4本歯の簡易アイゼンを装着する。シーさんは雪国の出身で雪に対しては絶対の自信があるらしい。こちらは関東の人間、全く自信なし(トホホ)。
双六岳方面への分岐を経て三俣蓮華岳の山頂に着いたのは8:25。うーん、すばらしい眺めだ。雲がなく、360度全方位に存在する山がすべて見えているという感じ。とくに槍ヶ岳と穂高連峰が形成する歯状の岩稜群には圧倒される。常念岳方面から見るのとは印象がだいぶ違う気がする。その常念岳も顔を覗かせているではないか。鷲羽岳の上りは結構きつそうだ。さらにその左方遠くに見えるのは剣岳ではないだろうか。
三俣山荘で25分ほど休憩する。鞍部にあるこの小屋からは陽射しのせいだろうか何かのんびりとした雰囲気が感じられる。ここで軽食を取る。小屋の2階のバルコニーからは槍に向けて三脚でカメラを構えている人がいる。鷲羽岳の登りはどのくらい掛かるのだろう。見かけの標高差はかなりありそうだが実際には300mくらいしかなく、これは小山程度でしかない。
そんなことを考えながらゆっくりと登り始める。斜面に岩が増えてくればそろそろ半分くらいか、岩に寄りかかってひと休み(10:45)。そのあとすぐに鷲羽池へのルートとの分岐に到着する。カメラマン仕様のおじさんが鷲羽池を前景に槍ヶ岳を撮影していた。年は73歳とのことで驚く。シーさんもこの方の前では若者なのだ。あと15分で頂上だよと励まされ頂上に向かう。
鷲羽岳山頂は絶景であった(11:15)。シーさんもお山の大将俺ひとりとか言って喜んでいる(俺もいるってば)。周囲の山にはガスが掛かり始めたがそれもアクセントだ。お互いに山頂の道標をバックに写真を撮り合う。槍をバックにもう1枚。ジェット戦闘機1機が蒲田川から高瀬川にかけての谷間を低空飛行で通り抜ける。なんだなんだという感じだ。昼飯を食いたいところだがだいぶガスが増えてきたのでもう少し下ってからにしよう。山頂を11:40に発ち岩稜のワリモ岳を巻く。反対側から高校生くらいの男女4人パーティーがやって来た。なんと皆空身だ。挨拶代わりにいろいろ聞くも皆要領を得なかったが、水晶岳と祖父岳との分岐に置いてあったザックを見つけて納得。
我々はここを左折し岩苔乗越付近で昼飯とする(12:45)。今日はパスタにしよう。雪の上のせいか、水が冷たいせいか、なかなかお湯が沸かない。シーさんはもう雑炊を食べ終わっている。もう周りはガスとなり雨でも降りそうな気配となってきた。昼食を終え(13:30)、祖父岳に着いた頃(14:11)には完全にガスの中になってしまった。祖父岳山頂は広く、大小20本ほどのケルンが乱立している。○印のついたケルンを目印に雲ノ平山荘を目指して下山する。
祖父岳を降りればガスは切れ、台地状の雲ノ平が見えてくる。楽しみにしていた雲上の楽園ではあるが思ったより岩石が多いなというのが第一印象である。祖父岳から下りきったところに水場、そしてキャンプ場がある。こんな石ころだらけの所でテントが張れるのだろうか。
緩やかな上りより木道となる。スイス庭園への分岐を右に分け再び緩やかに下りれば木道の続く先に雲ノ平山荘が見えてくる。山荘からはラジオの音楽が聞こえてくる。15:30に雲ノ平山荘に到着。小屋にはふたりの小屋番さんだけでのんびりとしている。今日の宿泊は登山者は我々のみだが、関西電力の人達が近くのコロナ観測所のバッテリーの交換のために来ており4人が宿泊していた。このような山に来るのは初めてだとかで靴やザックを新調したらしいが、決して小さくはないザックの中は殆ど衣類のみだそうだ。それでも寒い寒いと言っていた。パジャマまで持ってきてしまったとのことで思わず笑ってしまった。
今夜も冷えるようだが布団は使いたい放題である。