あれ、お客様は侵害者なのでは?(03/02/04・同日加筆)
◆H14. 5. 15 東京地裁 平成13(ワ)1650 特許権 民事訴訟事件

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  1. 発明の概要
     本件、特許発明は、紙に被覆剤を塗布するために使うブレードについて、セラミック層を被覆して寿命を延ばした、という物の発明ではあるが、しかしこれぐらいでは特許を取れる訳が無く(これではどう考えても進歩性欠如だ)、材料とか被覆層構造等いろいろと発明を成立させるための制限(構成要件)が入っている。 その各要件の中に「セラミック層の全厚さが最高0.25o」というものが入っている。
     
  2. 事件の概要
     被告は、「セラミック層の全厚さが0.25o以上」であって、その他は特許発明の全構成要件を備えている(具備する)製品を製造販売している。 従って、この製品を販売している時点では、被告の行為は非侵害である(原告被告に争いがない)。
     ところが、ユーザがこのブレードを使用すると、当然ながらブレードが摩耗して、この範囲に入ってしまうこととなる。 このような製品を製造販売する被告に対し、特許権者が「被告は特許品を生産するためにのみ使用する物を製造販売しているので、特許法第101条1号に規定する間接侵害が成立する」として訴えた事件である。
  3. 裁判所は、何をやったか?
     裁判所は特許法第101条1号での「生産」の文言解釈として、「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件の全てを充足するもの」を新たに作り出す行為であるとした。 そして、「通常の用途に従った利用行為の結果」は、社会通念上「生産」行為ではないとした。
  4. 何が興味深いのか?
    (1) 知財業界筋で現れては消える話題の一つとして、「出荷時には非侵害品だった物に変質等が起こって、特許発明の構成要件を具備した場合には、侵害が成立するか?」というものがある。 この問題は、(以下加筆)例えばプロドラッグの問題があり(簡単に言うと胃酸と反応して薬になる内服薬の侵害成否問題)(加筆ここまで)、最近では、例えば花王vsジョンソンプロダクツの事件がある(カビキラーに含まれる薬品について、出荷時の組成から経時変化が起こり、そこで初めて構成要件具備になったという事案である。 余談ながら、本判決はこの他にも論点満載である)。 そして、花王事件は地裁では「侵害(直接侵害成立)」であり、本件は「非侵害(間接侵害不成立)」である。 このように、一言で「経時変化」と言ってもその判断には微妙なものがある。 本件も、裁判所の判断として「被告製品を僅かに使用するだけで、本件発明の構成要件を具備する物に変形することができる場合」には侵害成立の余地がなくはない、という論述がある。 どうも未だ、具体的事案に対してみなければ、侵害の成否は判断はできないような状況であるかと思うが、キーポイントは「社会通念上」という文言に存するようである。
    (2) 本件は、ユーザは「特許発明の構成要件を全て具備する物を使用している」のだから、このユーザの行為は特許発明の実施に当たり、ユーザが特許権を侵害しているように思える(主張の余地はある)。 しかし、このあたりがメーカの特許権行使の難しいところで、ユーザを訴訟に巻き込めない事態は多々発生する。 例えば、被告のユーザと同一ユーザに対して納入している場合(競合品・非競合品のどちらであっても)には、「お客様」を訴訟に巻き込むのは、特許権者側にかなりの抵抗感が有る筈であり、例えば営業サイドから強烈な反対が出るであろう。 民事訴訟は処分権主義の下で、誰に対してどのような内容で権利行使をするか(しないことも含めて)は、全てが権利者の自由であるから、実は本件のように「理論上は追求を進めることができるけれど・・・・」という状態が発生するのである。 また、主張を忘れると、そのような判決が出てくる。 「忘れた」のか「意識的にしていない」のかは区別できないからである。 民事訴訟の目的はあくまでも「紛争が適切に解決すればそれで良し」であって、「真理の追究」ではないのである。

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