専用原料の全量輸出は間接侵害を構成するか?(02/10/13)
◆H13. 8.30 大阪高裁 平成13(ネ)240 特許権 民事訴訟事件
原審:H12.12.21 大阪地裁 平成10(ワ)12875 特許権 民事訴訟事件

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  1. 間接侵害とは?
     特許に触れる、と俗に言うが、これは難しく言うと「特許権の侵害を構成する」とも言う(これを「特許抵触」とラフに言っているのを更に略したのが、冒頭のフレーズである)。ここで、特許権の実体的内容は、事業としての特許発明の排他的実施権である(特許法第68条)。この特許発明とは、特許公報の特許請求の範囲の欄に記載された発明が基準となり(同法70条1項)、特許権の効力は特許発明と異なる態様の実施行為には及ばないのが原則である(このように、特許発明の実施による侵害のことを「直接侵害」と言う。)。
     しかし、実際には、これだけでは特許発明の排他的実施(要は他人の実施をやめさせることが基本です。)は十分な有効性はないとされる。そこで、特許発明の実施の準備行為(これを予備的行為と言う)については、70条1項の解釈上は侵害ではないが、しかし侵害と考える(侵害と見なす)、ということが、規定されている(特許法第101条)。
     ところが、特許発明の実施であるかの判断基準としての「特許請求の範囲」は特許公報で公示されているのに対して、「準備行為」とはどのようなものであるか具体的な態様は公報等には公示されてはいない。そのようなことで、善意の第三者がいきなり訴訟を起こされるような不意打ちの問題があり得ること(ちなみに直接侵害については、「善意の第三者」はいないことになっているようだ。知的財産権の直接侵害を行うのは「事業者」であるから、あらかじめのリスク判断としての特許調査は当然とされている)、及び特許発明以外に特許権の効力を及ぼさせる例外的な規定であることから、この規定が特許権の効力を不当に拡張しないようにするために、この「準備行為」は非常に狭く解釈される。また、その定義ぶりは、国によって差がある(つまり、ニュートン則のような、世界中で通じる理論は、無い)。
     
  2. 独立説と従属説
     ここまで、ごちゃごちゃと理論を述べてきたのは、この規定は法解釈によってその効力の有無が非常に左右されるものである以上、解釈の仕方(「説」)の違いとその依って立つ根拠によって、議論がぶつかる点(論点)が多々存在し、従って、説によって侵害非侵害の結論が逆転する、ということを述べたかったためである。 その数々ある論点の中で、今回ご紹介する判決には、間接侵害の成立には、直接侵害が存在することが必要か否か」というものが関係する。 「必要としない」とする説(独立説)は、要するに「条文からは必要とは読めない」、と言う論拠に立ち、「必要とする」とする説(従属説)は、「間接侵害の規定は直接侵害の排除を目的とする以上は当然」という論拠に立つ。 そして立法時の事情からすると従属説になるらしいのだが、直接説は特許の世界で有名な吉藤の教科書で支持されており、また文理解釈はやはり重きを置かれるもの(さらに言ってしまえば、理系人種が多い弁理士の世界では、文理解釈・反対解釈等の形式論理的解釈に頼る傾向が強いように思える)であり、たぶんまだ決着はついていないのであろう。  そして、両説共に、その説を徹底すると問題が生じることは、理論的にはわかっていたが、裁判例としては、未確定の状態であった。
  3. 何が問題となったか?
     この事件、要するに、特許品を製造するためだけに使用する原料全量を輸出している原料メーカが国内に存在し、特許品は海外でのみ製造され、国内で特許発明の実施行為が無い事情の下で、特許権者がそのメーカを間接侵害を為しているとして訴えた事件である。
     特許権の効力は、日本国内に留まることに留意して頂ければ、これはまさに独立説なら侵害・従属説なら非侵害という結果が導かれるものになる。
  4. 裁判所は、非侵害と判断した(地裁・高裁とも)
     要するに、裁判所は、「不当な拡張」となるおそれを問題とした上で、特許権の実質的な効力として「特許権者の独占的な市場獲得機会の享受」と解釈し、これを侵害とすると「外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得る」として、不当な拡張とした(このように、「それはだめよ!!」という議論を「積極的な理由付け」と言う)。 
     また、日本国内での侵害の予防については「輸入時に特許品そのものを止めれば良い」旨を述べた上で、「この段階で予防する必要はなし」としている(このように、「ここで手を打たなくても良いじゃん!!!」という議論を「消極的な理由付け」と言う。 理系人種はこれは嫌いであろうが、しかし、この論理は非常に重要である)。
  5. 何が興味深いのか?
     これは、だるぺんが知る限りでは、初めて「独立説」と「従属説」の対立点について、ケーススタディ的に裁判所が判断を下した事案である。 この事例は、非常に教科書的な事例であり、そjこで高裁まで行って、解釈が出されたわけで、非常に貴重なもののように思える。 だるぺん思うに、商取引がグローバルになって、産業構造が空洞化しているからこんな事例が発生したのであろう。 そんなものを見ることが出来ると思ってなかったので、これを読んで正直言ってびっくりした。 
     閑話休題、こんな判決が出てしまっては、いくら吉藤の教科書に書いてあっても、完全な独立説は実務上取り得ないことになると思う。 但し、これで「日本は完全に従属説」といえるかとなると、それは違うでしょう、ってところだろう。 だいたい、「従属性」の問題点はすでによく知られているのだから、そんな事例が出てきたら、やっぱり裁判所は「独立説」的な判決を出さざるを得ないはずである。
     そんなわけで、事件毎に個別的に、立法趣旨等を考えながら、間接侵害に関係する事案を扱う必要性は、今後ますます増大するようである。

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