ニュース記事の見出しには著作権が存在しているのか?(03/01/31)

http://www.asahi.com/tech/asahinews/K2002122402646.html
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2002/1226/da.htm
(読売新聞は、自社の記事をHPから削除するので、リンクがたどれなくなっています。)

 この記事によれば、読売新聞社はニュースの見出しには著作権が存在していると判断しているらしい。

 しかし、それは正しいのだろうか?
 
 著作権法第10条2項は、次のように規定する。
 事実の伝達に過ぎない雑報及び時事の報道は著作物に該当しない。

 また、一般に「言語の著作物」については、単語一つでは著作物性は認められず、ある程度のまとまった記述になって、初めて「創作性」が認められることとなる。 短い表現には「創作性」が無いし、だいいちこんなものに排他権が認められたら社会生活に問題が生じる(なお、「社会生活に問題」に近い考え方は競業法ではよく見られる話であり、商標法は第三条に「識別力が発生しない」ので「ありふれた表現は権利を取ることができない」旨が規定されている)。 

 当然ながら、報道記事は著作物である(例としてTHE WALL STREET JOURNAL事件 高裁)。
 しかし、見出しにまで「短くなった」記述に対して、著作物性が認められるのであろうか?

 例えば、北大の田村善之教授は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という一文自体は創作性を欠く故に著作物性が無いとする(「著作権法概説」第二版 15ページ。 なお田村教授は、「著作権は簡単に発生するが、簡単に発生した著作権はそれ相応に小さい」という一般的な立場をとるとする旨を言っていたので、この解説は「そんな立場の学者ですらも著作物性を認めていない」ということになる。)。 こんなフレーズですらも著作物性がないとすると、事実に基いている見出しの記載には、著作物性があるのだろうか?

 ここで、とんでもない事件を紹介する(ラストメッセージ in 最終号事件・田村教授の講義で知った)。 上掲書同ページから解説されている)。 ここで被告は、各種雑誌の休廃刊の際の挨拶文等をデッドコピーし、それをまとめた書籍を発行し(よくもまあ、こんな書籍を企画したものだと思う)、そして各種雑誌の各発行元から訴えられた。
 デッドコピーの事件であるから、論点は「著作物性の有無」になる。 そして、裁判所は、著作物性の存在しない挨拶文を例示しているのである。 この「著作物性の存在しない挨拶文」と、ニュースの見出しとを比較したときに、ニュースの見出しに著作物性を認められるのであろうか?

 それでは、この見出しの集まりである「編集著作物」(要するに各新聞社のHPのトップページ)に著作物性が認められるから、見出し自体にも著作物性が認められるのであろうか?
 そんなことはない。「編集著作物」の著作物性は、その全部に近いものを複製して、初めて著作権侵害が発生する。 現に全体の50/80の複写では著作権侵害が認められなかった事件がある(「FFSアンケート事件」とでも言っておこうか)。 要するに、この「見出しの複製」の事件は、あくまでも見出し自体の著作物性が問題になるのである。

 最近の、巷の著作権の議論を読むと、「本来、著作権というものは、「知的なアイデアを、 いろんな人が使えるようにする」というための制度なんですよね。所有者を儲けさせることが目的じゃあなかった。」とか(そんなことはない。著作物は「複製禁止」が前提である。 著作権と「アイデア」とは関係ない。 著作権は「著作者保護」の為にある。 この議論は特許等の「発明の公開の代償としての権利」というのと混同している。)、「ビジネスチャンスを守るためにもファイル交換は守るべき」(その言い方をまねれば「泥棒は仕入れコストがゼロだから、盗品流通は新しいビジネスとして守るべき」ということになる)とか、あまりにもおかしな議論が多い(著作権法が持っている問題点については、ここでは触れない。 いわば「現在のルールの構造」の理解を必要とするからである。)。 「全ての文章に著作権が発生する」わけもないのに、複製行為に対して著作権侵害をなんのためらいもなく主張する行為も、実は「著作権・ひいては知的財産権・法の構造に対する無知・侮り」と同根にあるように思えてならない。

 なお、付言すれば、権利を持っていないのに「権利侵害」を主張する行為は、不法行為が成立する可能性があるし、協業関係にあるのならば不正競争防止法第2条1項14号に規定する不正競争行為に該当する場合がある(特許等の世界では「侵害主張」→「無効審判で権利消滅」→「侵害主張に対する損害賠償」というフローが存在する)。 また、だるぺんあまり詳しくないのだが、会社の規模の差が存在するような場合には、独占禁止法上の問題も出てきそうに思える。

03/03/23追記 (サイゾーの記事発行後即座に書くべきなのに(^_^;
 サイゾー2003/03号に読売新聞の見出しの問題が掲載されている。 あれぇ、と思ったのは、松本直樹弁護士(サイボウズ事件の被告側弁護士を務めた)も、紀藤正樹弁護士(日弁連のリンク問題でいち早く問題を内部提起した弁護士)も「見出しには著作権が存在する」という含みの発言をしている(但し、松本弁護士はいわゆる「編集著作権」の問題として、紀藤弁護士は「一般論」として述べているように見える)。 いわゆる「知的財産分野の識者」である二人が、ともに上記の意見とは違った判断を示唆していることは、「何を根拠としてそのように判断するのか?」という点で興味あるところである。
 なお、産経新聞が見出しの件でサーチエンジンにクレームを付けて、ネット上で大騒ぎになって、結局は「単なる要望」にトーンダウンした事件もこの三月には起こったことも記しておく。

03/03/25追記
 上のようなことを書いたら、「連邦」からの質問(と言って良いのかな?よくわからないのですが、とりあえず)に対する紀藤弁護士の回答が出ていて(03/03/22付け)、それは「ニュースの見出し自体に著作権の発生無し」との事です(上記のサイゾーが聞き違えたのか、紀藤弁護士の見解が変わったのかは、これだけではわかりませんが)。

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