「思いの欠片」前編

 

《遺跡》を巡る戦いに終止符を打った天香學園、昼休みに賑わう3−Cの教室に珍客が訪れた。

「九龍センパイ、います?」

「おう、どうした凍也?」

「ちょっと・・・」

いきなり現れた夷澤凍也は入り口で手招きする。どうやら周囲に聞かれたくない話だと判断した九龍は、共に昼食を囲んでいた皆守と八千穂に断ると無造作に歩いていった。

「一体何の用だ?」

「耳貸して貰えます?」

「まさか俺に愛を囁くんじゃねえだろうな?」

「そんな気色悪いコトするわけないでしょーが!」

「ジョーダンだって。で? そろそろ本題言えや」

「ヘイヘイ・・・」

ため息一つついた凍也は九龍の耳元に口を寄せると小声でささやく。

(今日の放課後、阿門さんが生徒会室に来てくれと。余人を交えず相談したい事があるそうです)

「あん!? 何だそりゃ!?」

思わず驚いてしまう九龍だが凍也は真剣そのものだ。調子を崩す事無く、

(この場で返事を貰ってくる事になってるんスけど・・・。どうします?)

「承知」

即答を求められた九龍は迷わず首を縦に振る。立場の違いゆえに死闘を繰り広げたとはいえ、充分に尊敬に値する相手。それが葉佩九龍の阿門帝等に対する評価だ。その漢が自分を名指しで相談相手に指名したとあれば万難を排して会わねばなるまい。

「返事、確かに貰いました」

一礼して立ち去る夷澤を見送り席に戻った九龍は、八千穂や皆守にも悟られることなく午後の授業を済ませた。

 

キーンコーン・・・。

終業のチャイムが響き渡る中、バディ達の誘いを丁重に断り九龍は生徒会室の戸を開ける。

「ハイ御免よ」

ぶっきらぼうな挨拶に部屋の主・阿門は真顔で、

「よく来たな《ミルクマン(牛乳配達人)》」

「はい牛乳〜〜・・・って違うわ!」

「冗談だ」

「・・・真顔でボケられるとリアクションに困るんだが」

「まあ座れ」

呆れ顔の九龍のツッコミをサラリと無視して阿門は傍らの椅子を指し示す。座った九龍は周囲を見回し、

「今日は神鳳や双樹はいないのか?」

「ああ、席を外してもらった。《生徒会》のメンバーとはいえあまり聞かれたくないのでな」

その真剣な様子に九龍も背筋を伸ばす。目には目を、歯には歯を。恩義には真心を、殺意には銃弾と白刃を。そして礼儀には礼儀を以って報いるのがこの男の流儀だ。本気の相談を持ちかけられたならば、誠心誠意答えなくてはならない。しかしその内容は想像を越えていた。

「何〜〜〜!? 千貫のとっつぁんの長年の苦労に対するお礼にプレゼントを贈りたいから相談に乗れだと〜〜!?」

「わざわざ大声で説明するなっっ!!」

ザシュウッ!

「・・・《神撫手》でツッコミってのは反則技だと思うぞ」

アクティブスキルの直撃を喰らった九龍は派手に吹き飛び壁に叩きつけられそうになるものの、空中で器用に体勢を整えると足から壁に着地する。それを見ながら阿門は憮然と、

「 “新聞紙”と“輪ゴム”でわざわざ“ハリセン”を作る貴様に言われる筋合いは無い」

「“和紙”を“シーリング剤”で強化した紙を“ワイヤー”で縛って“轟炎爆薬”をブースター代わりにした《ツッコミ2号》もあるぞ」

「ほう・・・、今度凍也に使うから貸してくれ」

「威力がありすぎるから基本的に使い捨てだが」

えらく物騒な会話を交わしつつ、かつて死闘を繰り広げた2人は話を本題に戻す。

「・・・しかしとっつぁんへのプレゼントって言われてもな・・・。そもそも何で俺に聞くんだ? そーゆー心配りなら双樹やリカの方が向いてるだろーが」

自分の育ての親を“とっつぁん”呼ばわりされるが、阿門は気を悪くした風も無く聞き流した。この呼び方が九龍なりの敬意というのは知っている。何しろ同じ老人でも《レリック・ドーン》のシュミットに対しては “クソぢぢぃ”と呼んで憚らない。

「流石に気恥ずかしくて女性には聞けん。その点お前なら秘密厳守は完璧だろう? それにだ」

「?」

口篭もる阿門に、思わず九龍は身を乗り出す。

「こう言っては何だが、普通の老人に贈るような品が厳十郎に似合うと思うか?」

「絶対に似合わねえ」

判りすぎる理由に九龍は条件反射で頷く。何しろ若かりし頃は幾多の銃火を潜り抜けてきた強者だ。オマケに未だ衰えを知らず十分に現役でやっていける能力、そんな勇者に杖や赤いちゃんちゃんこが似合うはずが無い。

「・・・またえらい相談だな」

思わぬ難問に九龍は腕を組んで考え込む。元歴戦の勇者とはいえ、その功績を誇るでも懐かしむ訳でもなくただ静かにたたずむのみ。今は阿門家を守り、当主である帝等の成長を見守るのが楽しみという好々爺だ。

「いっそ手作りの《肩叩き券》でも贈るか?」

からかい混じりに意見を述べてみると阿門は眉を顰めて、

「この《手》でか?」

「《神撫手》で叩いたら死ぬだろーが。普通に叩くに決まってんだろ、フツーに」

「孫が祖父に贈るものとしてはよくあるパターンだな。しかしそれこそ老人扱いではないか?」

「・・・それもそうか」

些か普通でない人生を歩んできた2人にとって、世話になった人へのプレゼントを考えるというのは戦闘以上の難問だった。

幾つか意見を出し合ったもののそれぞれに問題点があり、流石に疲れた2人は生徒会室にある冷蔵庫(信じられない話だが備品登録済)から取り出した牛乳で一息ついていた。すると九龍が

「なあ阿門、1つ提案があるんだがよ」

「何だ?」

「意見を聞きたい相手が一人いるんだが、事情打ち明けてもいいか?」

「・・・そうだな、俺達だけではもはや限界だろう。ただし、当然の事だが秘密厳守が条件だぞ?」

「その点に関しちゃ問題ないさ。何しろ筋金入りだ」

「一体誰の事を言っている?」

首を捻る阿門を引き連れ、九龍は“相談相手”の職場へ足を向けた。

 

「成る程、それで珍しい顔ぶれが2人、雁首揃えて私に相談しに来たというわけか」

保健室の主・劉 瑞麗は、相談に来た《生徒会長》と《転校生》という珍しい組み合わせに驚きながらも話を聞いてくれた。

「そのとーり、ルイ先生なら《九龍(カオルーン)》でとっつぁんと差し向かいで話すだろ? 臨床心理士(カウンセラー)としての観察眼と考察で何かアドバイス貰えないかと思ってさ」

(こいつ・・・)

阿門は九龍の考えに内心舌を巻いていた。確かに瑞麗なら《九龍》の常連で千貫ともよく顔をあわせている。そして医師や探偵など個人情報を扱う者は“守秘義務”を負うので秘密の漏洩を心配する恐れは皆無。確かにこれ以上の相談相手はいない。

3人は暢気に相談しているが、事情を知る者から見ればこれは実に凄まじい光景に違いあるまい。なにしろ、

世界中の遺跡を荒らす《ロゼッタ協会》の《宝探し屋(トレジャーハンター)》。

神代の昔より《遺跡》を守護してきた《墓守》の末裔。

そして妖魔を探し、狩る事を神の名において代行する《M+M(エムツー)機関》の《異端審問官(エージェント)》。

いわば不倶戴天の敵に等しい3つの組織の人間が顔を寄せ合ってヒソヒソ話をしているのだ。

「しかし観察といってもな・・・、千貫老人はバーのマスターとして完璧な御仁だ。その経験と洞察力で客を冷静に観察、静けさを求める客には沈黙を、話し相手を求められれば的確なアドバイスを返す。ある意味カウンセラーの鑑と言っていい人だからな、私も逆に見透かされているような有様だ」

「そうか・・・、んじゃ何か会話の最中に何かに興味を魅かれたとかって事なかったかな?」

九龍はアプローチを変えてみる。見る角度を変えればおのずと違った姿も見える筈、これはハンターとして様々な難問にぶつかってきた彼なりの考え方だ。

「―――そう言われてみれば」

「何だ!?」

「落ち着けって」

身を乗り出す阿門を九龍が肩を掴んで引き戻す。無言で話の続きを促す九龍に、瑞麗は頷き返すと話を続けた。

「少し前にマスターがかなり驚いたことがあったな。・・・あれは確か雛川先生と飲みに行った時だったか、カウンターで話をしていて先生が席を立とうとしてスツールごと体を回転させたら、マスターが何に驚いたのかグラスを落としそうになったのだ。とても珍しい事だったので覚えている」

「何だそりゃ?」

「つまり正面で話していた時には気付かず、横顔を見て驚いたという意味か?」

「もしくは正面からでは見えなかった何かが横を向いた拍子に見えた、と言ったところかな」

『?』

瑞麗の謎かけに2人が首を傾げると、彼女は九龍に意味有り気に目線を向ける。

「今思い出したのだが、彼女はお前が贈った“琥珀の髪留め”を付けていたんだよ」

「はあ!?」

「・・・お前、教師にそういう物を贈ったのか?」

「手前ェ! そーゆー目で見るんじゃねえ! だ―――っっ! ルイ先生も!!」

慌てふためく九龍を阿門はジト目で睨み、瑞麗はチェシャ猫笑いを浮かべて眺めている。さすがに気まずくなった九龍は咳払い一つすると言い訳じみた説明を始める。

「・・・とにかくあれを贈ったのは下心とかあったワケじゃねーよ。ヒナ先生が身に付けるのが一番自然だった気がしたんだ」

「どういう意味だ?」

「んー、なんつったら良いかな・・・」

「 “モノの収まるべき場所”とでも言えばいいのか?」

「そうそうそれ!」

例えに“我が意を得たり”とばかりに頷く九龍だが、阿門は意味が判らない。それに気付いた瑞麗は親切に説明する。

「そうだな・・・、ジグソーパズルは知っているだろう? 似た絵柄・形のピースは無数にあるが、その場所に当てはまるピースは本来たった1つだ。“琥珀の髪留め”というピースは他の誰でもなく《雛川亜柚子》の髪にこそ当てはまる、という事だと思えばいい」

「はあ・・・、では厳十郎はその髪留めに驚いたという訳ですか。葉佩、お前は一体あれを何処で手に入れたのだ?」

ようやく話は本題に戻り、阿門は髪留めについて九龍に問いただす。

「ありゃクエストの報酬品だよ。ああ、クエストってのは《協会》へのスポンサーが依頼してくる短期間のハントの事でな、《協会》のオフィシャルサイトにupされるのを俺達ハンターが個別に受注するのさ。依頼の品を入手して相手に送ると報酬が振り込まれるが、時たま依頼人がハンターへの礼だってんで個人的に装備品とかアクセサリーとか送ってくれんだよ。あの髪留めはその一つさ。そういえば先生、あの八卦牌も“新宿の魔女”からの贈り物だぜ?」

「では誰から貰った?」

九龍の説明が終わったと判断すると阿門は再び問いただす。どんな些細な事でも知っておいて損はない。

「確か“蒼き瞳の皇太子”だったか」

あの妙にズレた日本語と丸文字を思い出して思わず苦笑を浮かべる。天然ぶりはトトと似たり寄ったりだ。

「その皇太子とやらと連絡は取れんのか? 髪留めの由来を知りたいのだが」

「よっしゃ、《協会》に頼み込んで連絡先を教えてもらうわ。本来なら御法度なんだが、事情が事情だからな。ペナルティに2〜3回タダ働きすりゃOKだろ」

「おい、なにもそこまで・・・」

「気にすんなって」

「すまんな」

九龍は意図的に軽く話しているが、事情はそう簡単ではなかった。依頼は全て《協会》が仲介しており、ハンターと依頼人が顔を合わせる事はまず有り得ない。仲介料も馬鹿にならないし、もしヘッドハンティングでもされようものなら洒落にならない。優秀なハンターというのは彼等自身が秘宝に等しいのだ。

大きな組織や高位高官にとって優秀な猟犬は咽喉から手が出るほど欲しい代物、そんな彼らの中でハンター・葉佩九龍は赤マル急上昇中の注目株だ。瑞麗は知らないが、《M+M機関》も鴉室を通して彼をスカウトしようとしていた。

そんな彼が個人的に依頼人と連絡を取ろうとしているのから、下手をすればペナルティで済む話ではない。しかし《協会》としても優秀なハンターを手放すのは得策ではない筈、だからこそ九龍は無理が効くと判断してゴリ押しする気になった。

すると瑞麗も興味をそそられた風に、

「ふむ、では私もなにか手伝わせてもらおうかな。その“蒼き瞳の皇太子”とやらは何処の王室か判るか? “蒼き瞳”というからには人種はアングロサクソン、おそらくヨーロッパ辺りだと思うが」

「? ああ、××××国ですけど。って、何する気です?」

「《M+M》はカソリックの組織だからな。その辺りの王室には監視の目を光らせているし、裏事情も通暁している。何しろ“王家の秘事”とやらで代々黒魔術を伝承している一族もあるほどだ」

勘違いしている人も多いがヨーロッパ人にとってキリスト教というのは本来外来宗教なのだ。北欧・ギリシャ神話を見れば判る様にかつては多神教を崇拝していたが、神聖ローマ帝国がキリスト教を国教として認定して以来爆発的に広まった。そして彼等は自分たちの教義に当てはまらない考え・儀式(ドルイド等がいい例)を黒魔術=悪と断定して弾圧に東奔西走する。そしてその尖兵が《M+M機関》の母体となったのだ。

そして王室とはその地の最も旧い血が残されている一族で、表向きはキリスト教に改宗していても裏で土着宗教を伝えているのはさして珍しい事ではなかった。

「カソリックみたいなガチガチの組織で情報の横流ししちゃマズくないすか?」

「何、その程度なら大丈夫だ。魔術関連ならSSSクラスだが、只のアクセサリーならさほど厳しいわけではないさ」

「はあ・・・」

仕方なくそのまま頭を下げる。

「んじゃ頼んます。あ、出来れば過去も探ってもらえません? 3〜40年前で外部から人の出入りが無かったかどうか。いたとしたらその中に日本人がいなかったか」

「? 承知した」

奇妙な依頼だが、瑞麗はあっさりと引き受けてくれた。そのやりとりを見ていた阿門は思わず頭を下げる。

「2人に任せっ放しで申し訳ない。この礼は必ずさせてもらう」

「気にすんなつったろ? それにお前さんにも調べてもらいたい事があるからよ」

ニヤリと笑う九龍に阿門は怪訝な表情を浮かべる。

「何をだ?」

「チョイとプライバシーに関わる事だが、ヒナ先生の家系を2〜3代前まで遡って調べて欲しいんだよ。あと少々キツイかも知れねえが、その当時とっつぁんが何やってたかも頼む」

九龍の奇妙なこだわりに再び瑞麗が首を傾げる。

「さっきもそうだが、何故日本人に拘る? 根拠は何だ?」

「あの髪留めだけど、細工が日本の鼈甲細工に近い造りだったんだよ。だとしたら日本人が作ったんじゃないかと思ってね。それが何故ヨーロッパの王室からの贈り物にって思ったのさ」

「では雛川先生を調べるのは?」

「とっつぁんが驚いた理由。髪留めだけじゃ弱いと思ってな、ひょっとしたら“髪留めを付けたヒナ先生の横顔”に驚いたんじゃねえか?」

「成る程、誰かの面影を重ねて見たという訳か・・・」

「その通り、そして面影が一番似るのはやっぱ血筋だからな。空振りかもしれねえが調べてくれや」

「承知した。では明後日に再びここで打ち合わせにしよう」

「OK」「承知」

2人は保健室を出ようとするが、背後から瑞麗が呼び止める。

「ああそうだ葉佩。先日教えてもらった中華料理店《香蘭楼》だが、確かに美味しかったよ。謝々」

「そりゃよかった」

「それに結構有名な店らしいな。肥後に聞いてみたら『ボクも知ってましゅ、すっごく有名でしゅよ』と言われたよ。しかしずっと海外を飛び回っていた君が何で日本の中華料理店を知っているのだ?」

聞かれた九龍は照れくさそうに、

「いや、実は俺も食った事がある訳じゃないんだ。先輩に教えられてね」

「先輩というと《ロゼッタ協会》のか?」

すると阿門も興味津々に聞いてくる。

「ああ、何でも《香蘭楼》はその人の学生時代の後輩の実家なんだってさ。同じ日本人で悪ィけど本名は勘弁してくれ。ハンターネームは《ヴィシュヌ》、小太刀と紅く塗ったSMGを使いこなし、オマケに奇妙な《力》を持ってるとんでもない人だよ」

「ほほう、君にそこまで言わせるとは、是非会ってみたいものだな。会長もそう思わないか?」

「同感ですな。自分はその《力》とやらに興味がありますが」

意味有り気な視線を向けられ、九龍は眉を顰める。

「・・・無理だな。俺が《協会》に入る前だったか、4〜5年位前に珠阯レ市に顔を出したけど、その時に“しばらく日本には帰らない”って宣言してそれ以来の鬼門だとさ」

「? 何でまたそんな・・」

「何でも同じ《力》を持ってる女性2人に迫られ、挙句の果てに逃げ出したらしい」

「難儀と言うか情けないと言うか、はたまたもったいないと言うべきか、悩むべきところではあるな」

瑞麗の一言に、自分がモテていると自覚していない男2人は思わず顔を見合わせた。

そして解散、それぞれのコネを生かして調査を行なった。2日後、調査結果を持ち寄った3人はその内容に驚愕、それに基づいてある計画を実施する事となった。

 

「厳十郎、再び《夜会》を執り行うぞ」

「《夜会》でございますか?」

突然の阿門の発言に千貫厳十郎は驚いた。

「うむ、今までは単なる儀式だったが、これからは内輪で純粋に楽しむ為に行おうと思う」

「それはそれは、よろしゅうございますな」

意外な考えに厳十郎は喜びを隠せない。今まで阿門は《墓守》の責務と《遺跡》の守護にのみ己を費やし、そのような余裕とは全く無縁だった。それが“楽しむ為”とは・・・、長年成長を見守り続けてきた身としては感無量だ。

「ついては招待状を送らねばならん。これが客のリストだ」

「はい」

受け取ったリストの名前を確認する。《生徒会》の役員に執行委員、それに死闘を繰り広げた《転校生》葉佩九龍にそのバディ達。それに・・・。奇妙な物を見つけて厳十郎は思わず首を捻った。

「? 坊ちゃま、この名簿ですが・・・」

「どうした? 何かおかしい部分でもあったか?」

「何ゆえ私の名前があるのですか?」

そう、招待客名簿に“千貫厳十郎”の名前があったのだ。本来ならもてなす側にある筈の自分の名が何故ここにあるのか? それに対して阿門は穏やかな笑みを浮かべて、

「ああ、日頃のお前の働きに対しての礼だと思ってくれ。今回の手配に関しては招待状以外他の者に任せる事にしたからな」

「・・・左様ですか・・・」

「寂しそうな顔をするな、今回だけだ。他の者にも少しは働きを覚えてもらわねばならんからな。次からはまた大いに働いてもらうから、そのつもりでいてくれ」

「承知いたしました」

一礼して下がっていく厳十郎を見遣り、阿門はテーブル上のパソコンに向き直るとメールを送った。

“発《ゲートキーパー》

宛《突破者》並びに《審判の鉄槌》

オペラチケットの販売を開始した。プリマ並びにオーケストラの手配は如何?”

すると間髪入れずに返事が返ってくる。

“《突破者》より《ゲートキーパー》へ

楽団の手配完了。”

先のメールを読み終わると同時に2通目が届く。

“From《審判の鉄槌》 To《ゲートキーパー》

主演女優との交渉問題なし。”

それらを読み終わった阿門は悪戯気な笑みを浮かべる。

「さて、楽しんでくれるといいが」

 

中編に続く

中編へ続く
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