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レスリング・コスチューム
しっかり聴いていたのはポーターであった。
「まったく、口の減らない女だよ。お前って女は!」
ジャクリーンの背後へ忍び寄ると、やにわに漆黒の頑丈な二の腕を彼女の首に巻きつけてきた。
「ううっ……」ジャクリーンは食い縛った剥き出しの白い歯の間から呻きを漏らしつつ、頬をひきつらせる。その頬が薔薇色に染まってきた。
ポーターはもう片方の手をブロンドに置き、黒い指と白い爪を髪のなかに埋めこませ、グイグイと締めあげにかかる。レスリングの技の一種なのだろう。
「もうチャイニーズフードはいらないって?」とスピルマン。
彼は手にした写真をジャクリーンの鼻先にちらつかせた。一瞬、はっとそのグロテスクな映像に驚いたジャクリーンだがプイと横を向いてしまう。それをまたポーターが首に猛烈な力を加えて、正面へもってくる。女弁護士の顔が小さな悲鳴とともにスピルマンに向きあうのだ。
彼はホーム・バーのフリーザーから例のアイスクリーム・サンデーを取ってきた。よく冷えている証明に、室温に触れるとかすかな白い湯気をたち昇らせている。ジャクリーンの青い瞳は吸い寄せられるようにスピルマンの手元へ注がれる。言葉を失い、ボゥーッとなって、見つめるのだ。口中に唾がじんわりと沸いてきた。浅ましいと思ってもどうしようもない。
「するとこれもいらないわけだな」
長いスプーンを繰ってチョコレートソースがたっぷりとかかったアイスクリームをすくうと、ペロリと己れの舌で舐め取った。
「ああ……」ジャクリーンの口から思わずため息が漏れた。
「どうした? 欲しくないんだろうが」
「欲しいわ、スピルマン! お願い!」
彼にすがるように上体を前のめりにするジャクリーンをポーターがいっそう腕に力をこめて押し止める。
「駄目さ。お前は知能テストに落ちたんだからな。これを口にする権利はないんだ。それとも気が変わって、私とベッドを供にするつもりにでもなったというのかな」
「──」ジャクリーンは唇を強く噛んで、アイスクリームにすり寄ろうとする本能を振り切るように顔を背けた。
スピルマンはニヤつきながら中指の腹にバタースコッチシロップのかかった部分をこそぎ取り、そっとジャクリーンの唇へもっていく。悩ましい縦皺が刻まれた彼女の肉感的な下唇につつくようにそれを触れさせた。
背筋に電流が流れ、ジャクリーンの身体がピーンと緊張した。それでも冷汗を滲ませながら、首を限界までよじって、誘惑から逃れようとする。しかし甘い香りのそれは執拗に唇に迫るのだ。ついに抗し切れなくなって、ジャクリーンはほんのわずかにキッと閉じていた唇を緩めた。刑務所長の指はそれを逃さず、侵入する。ハッとして吐き出そうとしても遅かった。アイスクリームは彼女の乾ききった味覚を散りばめた舌へ擦り付けられたのだ。ジャクリーンの鼻が鳴り、眼が猫のように細くなった。邪悪な暴力に対する憤りも、ジャジャ馬な強気も、不屈の脱獄計画も、あっという間に雲散して、ジャクリーンは頬っぺたの落ちそうな甘い甘いシロップの美味にすがりついた。目尻を下げ、だらしない顔になった彼女は唇をすぼめて、スピルマンの指をしゃぶった。まるで犬。スピルマンとポーターの嘲笑などもう耳には入らない。わずかな氷片はすぐになくなってしまったのに、指の皮にしみ込んだ甘味までを舐め取ろうとチュパチュパいやらしい音をたてて吸い付いている。それでも足りぬとみると、今度は指を根元まで咥えこんで、ひときわ音を大きくするのである。
「まるで淫売みたいじゃないか。女弁護士先生!」
ポーターがからかい、豊富なブロンドヘアーをしごきつけても、ジャクリーンは憑かれたようにしゃぶりついたままだ。
スピルマンはたっぷりインテリ女の動物的な表情を楽しんでから、ズルズルと指を引き抜いた。ジャクリーンの唾液が糸を引いて指先から垂れ落ちた。
「もっと、もっと頂戴!」ジャクリーンは叫んでいた。
「俺と寝るか。ジャクリーン。そうしたら全部、いや二個でも三個でも、好きなだけしゃぶらせてやるぞ」
スピルマンは彼女の乳ぶさをポンチョ越しにむんずとわし掴み、ユサユサと揉みたてながらたたみかけた。
「いやっ。セックスはいや!」悔しそうに顔を歪めるジャクリーン。「セックス以外なら何でもするわ! だから頂戴!」
「ほっほう! 何でもするだと? さっきの威勢の良さはどこへいったんだ。俺のことを人でなしと呼んだあの強気は!」
スピルマンはジャクリーンの頬を平手打ちする。手にしていたサンデーをコップごと絨毯のうえに投げ付け、靴で踏み躙った。
ジャクリーンは子供のように悲鳴をあげて、グシャグシャになったそれを未練がましく凝視した。
「お前にもう一度だけ、チャンスをやろう」落ち着きを取り戻したスピルマンはハンカチで手を拭きながらいった。「知能テストは不合格のお前だがら、残されたのは体力テストということになる」
「体力テスト?」
「そう。調書によると、お前は空手の有段者というじゃないか。オツムのほうは見かけ倒しだったが、そっちはどうかな。このポーターと一戦交えて、見事に一本取れるかな」
「もし勝ったら、アイスクリームサンデーをくれるのね」
「幾つでも食い放題だよ」
「もし負けたら?」ジャクリーンは思い詰めたようにスピルマンをみる。
「それはポーターに決めさせよう」
「ありがとうございます。スピルマンさん」ポーターはニッコリと真っ白な歯を剥き出して笑った。「私が勝ったら、この白豚を二時間だけ自由にさせてくださいな」
「良かろう。ただし、サラのようにレズピアンの相手にしてはならんぞ。真っ先に肉体を楽しむのはこの私だからな」
ポーターがアイアイサーと敬礼するのをかき消すように、ジャクリーンは叫んでいた。
「サラに何をしたというの! あなたたちはいったい!」
「フン、お前の妹はあたしの手管にメロメロになって歓んだってことさ。姉妹揃ってウァギナにキスしてやりたいところだけど、それはまあ、あとのお楽しみってわけだよ。今日はそれとは違うお遊びを考えてやるよ」
「ああ、なんということを……」
ジャクリーンは妹を襲った悲劇を思って、顔を両手で覆った。この卑劣な黒人女とサラが倒錯の肉欲関係を結んだなんて。しかし妹のことを慮っている余裕は彼女にはなかった。
ジャクリーンはポーターに首根っ子を掴まれて、この屋敷の地下にある道場へ連れていかれた。かなりの広さで、床はマット張りのレスリングサークルである。その中央へ、ジャクリーンは突き飛ばされた。
「ルールは厳格に決めておかねばならんな」スピルマンは道場の端に椅子を置いて陣取っている。「何しろ、空手対レスリングだから」
「ハンディはつけてもらうわよ」とジャクリーン。「こっちは毎日拷問で痛め付けられているんだから」
ポーターはわかってるよといいながら、服を脱ぎはじめた。全裸になると筋骨隆々の肉体がジャクリーンを脅迫した。彼女は純白のワンピースのユニホームを身につけた。そして幅の広いベルトを腰に巻きつける。
「これにはねえ、重しが付けられるようになっているのさ」ポーターが説明した。「トレーニング用だよ。今日は計七キロの砂袋を取り付けてやる。手首と足首にも一キロのベルトを巻く。さらにお前がつけている足枷をつける。お前のほうは手錠も足枷もなしだ。どう? もっとハンディが欲しい?」
ジャクリーンは無言のまま首を横に振った。
「さてルールだが、空手のほうはすべての技をOKということにして、レスリングの寝技はフィニッシュ以外、持ち込んではいけないということでどうかな? ギブアップしたほうが負けの一本勝負だ」
ポーターもジャクリーンも同意した。
「道着をもらいたいわ。これではどうしようもない──」
ジャクリーンはポンチョを広げてみせる。
「あいにくそんな気のきいたものはないわ」
ポーターの使い古しのユニホームが投げてよこされた。背丈は似たようなものなのでサイズに違いはない。しかしこれはユニホームではなく水着だ。それもコパカパーナのビーチで着るような開放的なハイレグカットである。しかも薄いブルーなので、スケスケの生地は汗でも掻けば肌が見えてしまうのは明らかだった。
「そんなもの、付けるより、素っ裸でやったほうがいいんじゃないかね」
とスピルマンがいうのも無理はなかった。しかしジャクリーンはバストを揺らしながら闘うよりは良かろうと、ポンチョを脱いでそれに手足を通すことにした。
スピルマンはこちらに背を向け、巨きな、まるまるとしたヒップをあらわにした女弁護士の後ろ姿に惚れぼれとする。ふっと脇から覗ける豊満な乳ぶさ──あの滑稽なスマイルシールやベルトのTバックはここにはつけてこなかった──にも頬が弛んだ。
ストラップの位置を直しながらジャクリーンが振り向いた。グラマラスな肢体を包むにはあまりにも斬新すぎるデザインである。胸もとが深くえぐれ、たっぷりと盛り上がっていく乳ぶさの裾野と谷間は丸見えだ。激しい運動をすれば、ポロリとこぼれてしまいそうな気配が濃厚である。乳ぶさが筋肉にめりこんだようになっているポーターならばこれでいいのだろうが……。きつくしまったウエストからパンチのきいたヒップラインがむんと熟れている下半身。股間は鼠蹊部を青々と晒し、際どく陰部を紡錘形に包み込んでいるにすぎない。
もちろん乳頭部と恥部が透けてみえる。今はおぼろげだが、これが格闘のさなか、汗みどろの肉弾戦となればもっとはっきり露呈するのは受け合いである。
「さ、二人ともリングの中央で握手しなさい」
スピルマンに促され、ジャクリーンはポーターへ歩み寄った。久々に手錠も足枷もない四肢は軽く感じられ、これなら何とかなりそうな気もする。ポーターがしている重りの数々は時間が長引くに連れて確実に彼女の無尽蔵の体力を減殺するはずだ。
握手を交わした二人はコーナーに別れた。
「無制限一本勝負だ。それでは、始め!」スピルマンがホイッスルを吹いた。
二人の構えがまず対称的であった。ポーターのそれは前傾姿勢で、隙あらば飛びかかろうとするレスリングスタイルなのに対し、ジャクリーンは左足をやや前に出して半身の体勢。背筋をピーンと伸ばした自然体だ。両手を軽く胸前で構え、どこからの攻撃にも素早く反応できる。
レスリングは敵の身体に組みつかなければ話にならないので、横へゆっくり回りながら隙を窺うが、それがまったく見当らない。二人は移動しながらも、睨み合いをつづけている。傍目には、消極的に見えても、彼女たちの間には虚々実々の火花が散っているのである。
しばしの探り合いのあと、最初に仕掛けたのはやはりポーターのほうだった。いきなりフットワークを使い始め、右に左に激しく動きだしたのだ。足枷の鎖がじゃらじゃらと鳴ったが、それらの重りなどまったく感じられないほど、軽やかなフットワークである。ポーターの動きにつれ、ジャクリーンもすり足で機敏に構えを対応させている。水色のワンピースから伸びやかに突き出ている下肢の美しさには涎がでてきそうだった。量感たっぷりの太腿。細いふくらはぎからキュッとしまった足首。隙なく爪先立てている足指の形すら普通の女とどこか違うような気がしてくる。
スピルマンが見惚れていると、褐色の弾丸がジャクリーンの腰に飛びかかった。そのごつい両腕がウエストを締めあげそうになった瞬間に、ジャクリーンの身体はひらりと横へ飛んでポーターの巨体をかわした。猛牛の突進をすんでで避ける闘牛士のよう。ポーターはとらえどころを失い、勢い余って一回転する。しかし彼女もそこは鍛えられていて、くるりと前転して立ち直り、ジャクリーンの振りあげた蹴りを首の皮一枚でそらした。
再び見合う二人。しかし今度はそう長くはつづかなかった。ジャクリーンがジャブよろしく両手を交互に突き出して、ポーターの防御体勢を乱し、回し蹴りを見舞ったのだ。ポーターが逃げるよりも先にジャクリーンのしなやかな右足が黒人女の太腿に命中した。が、ポーターの皮膚は鋼鉄のように硬く、かえってジャクリーンの足のほうにダメージが大きかっただろう。
(……何よ、こいつ)
ジャクリーンに一瞬の隙が生じ、攻撃した足を引きあげるのが遅れた。それをポーターが見逃すはずもなく、小脇に抱えるように足首を捕まえると、力任せに振り回した。
「あっ」ジャクリーンの身体は背中からマットに叩きつけられた。ポーターは休みを与えず、ジャクリーンの片足をねじあげ、俯せに返そうとする。必死にこらえるジャクリーンだが、足首と膝の関節が決まり、抵抗できずに裏返った。ポーターはジャクリーンの腰に逆さまに馬乗りになると、片足だけの逆海老固めに入った。激しく呻くジャクリーン。なんとかふりほどこうと藻掻くのだが、万力のような強い力にビクともしない。
「ギブアップかね。ジャクリーン・ドーセット!」
レフリーよろしくスピルマンが声をかける。
「いやよ!」ジャクリーンがほざいた。「まだまだ──」
しかし彼女の顔は真っ赤である。あごがマットにめりこみ、ポーターが力を加えるたびに唇から鼻までもマットに押しつけられている。そしてスピルマンの正面には跨裂き状態になっている内腿がドぎつく痙きつっているのだ。そこもまた厳しい攻めに紅潮し、筋が浮き上がってさえいた。ユニホームの裾からブロンドの恥毛がはみだし、逆立っていて、汗ばみユニホームに貼りついた媚肉の、エロチックな蠢きが見て取れる。
スピルマンの視線に気付いたポーターは余裕のサービス精神を発揮して、はみ出た恥毛をつまみ、ピッと引き抜いた。小声を発したジャクリーンだが、ポーターの拘束が緩むのを利用しないわけもなかった。掴まれていないほうの足が信じられないくらい背後へ蹴りあげられた。それはポーターの顔面にぶちあたり、後頭部に爪先を引っ掛けて、一気に伸ばしたのだ。ポーターの巨体がもんどりうって転がった。ジャクリーンは腰の痛みもいとわず、素早く立ち上がると、奇声を発して拳を黒人女の鳩尾に叩きこんだ。さすがのポーターも急所への打撃に身体をふたつに折ってのたうち回る。かさにかかったジャクリーンは蹴りを足や腕に連発して、彼女の攻撃力を殺しにでた。
ジャクリーンはブロンドの頭髪を振り乱し、汗みどろであった。案の定、ユニホームの薄い生地は透けてき、双乳の美しい形がそのまま浮き上がっている。その先端のピンク色の尖りが扇情的。臍のくぼみも仇っぽくあらわ。空手チョップを繰りだすたびにみえる腋毛とともに、足を振りあげると、ケバケバの股間がじつに滑稽に露呈しているのだった。モリモリ蠢く双臀もたっぷりと汗を掻いていて、ユニホームがぴっちりと谷間にまで貼りついている。もし彼女が冷静に自分のその姿を鏡でみたならば、羞恥心に声をあげることは受け合いだった。
ジャクリーンの攻撃は息急き切らず、ポーターは必死に身を縮かめて防御するのがやっとで反撃の糸口もつかめないでいる。しかしジャクリーンもトドメをどうやって刺したらいいものなのか、思いつかない。ポーターの身体はまるでアルマジロの背中のように硬くて、とても致命傷というわけにはいかないのだった。空手には関節技だとか、押さえ込みはないので、これだけ鍛えられた相手になるとギブアップさせるのは難しい。やや攻め疲れた──空腹はやはり彼女の通常の体力を奪っているのだ──ジャクリーンはポーターの腕を背中へねじあげる危険な行為にでた。身体が密着すれば腕力の強いレスラーが有利なのはいうまでもない。ジャクリーンもそれを案じて控えていたのだが、もうじゅうぶんグロッキーになっているだろうと判断したのである。馬乗りになり、太い腕っ節をぐいと背中へ折り曲げた。二人とも息が上がり、ハアハアと大きく喘いでいる。
「──もうギブアップなさいっ」ジャクリーンは腕を絞め上げながら促した。
「これで勝ったつもりなの。弁護士先生」
ポーターの横顔はまだ余裕があり、厚い唇を歪めて笑っている。
「無理すると腕が折れるわよ」
チリチリの頭髪を掴んでグラグラと揺さ振るジャクリーン。その拍子に彼女の豊かな胸乳がユニホームの胸のカップからポロリとこぼれでた。スピルマンはすかさず口笛を吹いてはやしたてる。
「いいぞ、女弁護士!」
しかし彼女はそれに気を取られて固め技を緩める愚かしい失敗を犯すような女ではない。身体の上気にほんのりとピンク色に染まり、甘い女の匂いをたち昇らせた、重たげな肉丘はまったく火の打ち所がなく、理想的であるが、それを右に左に、あるいは胸壁のうえでバウンドさせて、彼女は闘いをつづけるのだ。
しかし、それは歴戦の女レスラーにとってはいい休息に他ならなかったらしい。ジャクリーンがもう少し辛抱して空手の技を連発していれば、と悔やまれるが後の祭りである。やおら、ポーターは身体を起こしはじめたのだ。
「……?」ジャクリーンは自分の身体がもちあがっていることにしばらく気付かなかった。とにかくポーターの片腕はしっかりねじりあげているのだから、信じられないのも当然だ。この不死身の黒人女は片手で腕立て伏せをする要領で、六フィートもあるジャクリーンごとむっくりマット上に膝をついたのだ。
慌てたジャクリーンは致命的な失敗をしでかしてしまった。すぐに飛びのいて、距離を取れば良かったものを、腕固めをいっそう強くしようとして、かえってポーターの身体にしがみついてしまったのである。ポーターは野獣のような唸り声を発しつつ気合いを高めていき、それが頂点に達すると、爆発させるようにれっぱくの咆哮をあげて立ち上がった。仁王立ちする彼女にジャクリーンがおんぶするような格好になったが、それも長続きはしなかった。ポーターが一声吠えて鋼のような身体を激しく揺すりたてれば、飛び散る汗の雫とともに、金髪の三十女もまた振るい落とされてしまった。
「さあ、ウォームアップは終わりよっ。ここからが本番さ!」
ポーターは普通の女だったらとっくに折れてしまっていただろう、片腕をぐるぐると回して異常のないことを誇示し、さっとジャクリーンへ振り向き、その下腹を残酷に踏みつぶした。ジャクリーンのつんざく悲鳴を心地よさげに聞きながら、柔らかいブロンドをわし掴んで顔を起こし、猛烈な平手打ちをかました。脳震盪寸前までおいやれたジャクリーンはボゥーッとした頭を必死にしゃんとさせようとするが、すでにプロレスまがいの技に転向したポーターの、怪力ずくの暴力になすすべがなかった。
ポーターは髪の毛を掴みまわして立ち上がらせると、片手を股間から尻へ差し入れ、片手を首に巻いて、クルリとジャクリーンの身体を180度回転させるようにリフティングした。つまり、ブロンドがマットにつくほどジャクリーンの頭が下になり、両足がポーターの顔を挟むようにである。ポーターのあごのすぐ下にジャクリーンのまるまるとした臀部があるわけだ。ポーターはそのままジャクリーンをマットへ投げ飛ばした。本能的に受け身は取ったものの、しこたま身体を打ちつけたダメージにジャクリーンは網膜に映る極彩色の火花をみるハメになった。その衝撃で乳ぶさは双つとも露出し、大きく喘いでいる。ポーターはその荒ら技を三回連続して女弁護士にお見舞いした。それでじゅうぶんな効果を与えているのに、さらにこの狂暴な黒人女はジャクリーンの両足を腋の下に挟んでふくらはぎをしっかりと掴み、自分の上体を後へそらした。仰向けのジャクリーンの身体はそれで腰から背中が浮き上がり、驚いた彼女は両手をバタつかせて身を藻掻かせる。
「それ!」ポーターはその場でゆっくりと回転をはじめた。ズルズルとジャクリーンの身体がマットのうえに引きずられていく。まもなく彼女の肩も後頭部もマットから浮上した。ポーターを中心に頭の先へブロンドヘアが棒のようにたなびく女体の線が半径となり、弧を描くのだ。飛行機投げである。遠心力がついていくうちにジャクリーンの身体はポーターの腰の高さにほぼ水平にまでなってしまった。これではまったく手も足もでない。血が頭に昇っていくのがわかり、涎が頬へ這ってきた。
「トゥーッ!」
ポーターの掛け声を絶望的な気分で聞きながらジャクリーンはハンマー投げのハンマーよろしく空中に放り投げられた自分を意識した。今度は受け身どころではなかった。ぶち当ったのはマットではなく、道場の向正面のラバー張りの壁であった。その瞬間、悶絶し、ドサリとマットに落ちた。致命的な怪我がなかったのは、ショック吸収用のこのラバーのおかげと、ポーターとまではいかなくとも、ジャクリーンもまた鍛えられた頑丈な肉体の持ち主だったからだ。
「どうしたい? もう終わりかい。空手の有段者が聞いて呆れるよ!」とポーター。
ノッシノッシと目を回してノビているジャクリーンに近付き、肩をわし掴んで起こすと、容赦ないビンタをかまして正気づかせる。
「……うーん……」
ジャクリーンはようやく眼をしばたかせた。しかし戦意はまったく喪失している。
「おら、こっちへ来るんだよ」
彼女の首根っ子を捕まえてスピルマンのところまで引きずっていく。そして背後から腕を首に回す。肘の裏にあごを挟み付けるようにしてグイグイと締めあげた。
「お前もよく健闘したよ。ポーター相手にあわやというところまでいったんだからな」スピルマンはゴホゴホと咳き込んでいるジャクリーンを愉快そうに眺めながらいった。「しかしそれもここまで。知能テストにつづいて体力テストも失格だ。またもやアイスクリーム・サンデーには手が届かなかった。そればかりか、これから二時間、ポーターの慰み者になるハメになるわけだが、これも自分が納得したうえでのこと。自業自得だ。わかってるな」
「……スピルマン、それだけは赦して……」かすれた声が哀願する。
「何いってんだよ! この阿女!」
怒ったポーターは乳ぶさを掴み取って握り潰した。黒い指が紅潮している乳肌に食い込んだ。悲鳴をあげたジャクリーンの頭とあごを押さえつけ、肩の線と水平になるまでかしげさせたり、左右を向かせたりと美貌を玩んでいたぶっている。
「ポーター、くれぐれもいっておくが壊してもらっては困るぞ。遊ぶのはいいが、本気は駄目だ」
「わかってますよ。スピルマンさん」
釘を刺されてやや不満顔のポーターはジャクリーンの鼻をつまみあげ、溜飲を下げている。
スピルマンは後をポーターにまかせて、リビングへ戻った。一汗掻いたのでシャワーを浴び、すっきりしてから新聞を広げる。眼を通しているうちに電話が鳴った。『アミーゴ』のロドリコ・ゴメスからだった。
「やあ、ロドリコ。ホンジュラスではご苦労だったな」
「なーに、スピルマンさん。こっちもじゅうぶんに楽しみましたからね。ところで昨夜のサラ・ドーセットのデビューについてご報告申し上げます」
「おう、そうだった。昨日が初日だったな。どうだい、あの娘、素直に客を取ったか」
スピルマンの顔が淫靡に崩れる。サラ・ドーセットはついに苛酷な獄中生活に疲れ果て、コールガールに身をおとしめることに同意したのだった。それはクライズヒルズ刑務所に無実の罪で囚われた女たちのたどる必然的な道であった。抵抗が長いか短いか、差はあっても、誰も逆らえぬ運命なのである。サラ・ドーセットは随分てこずらせたが、それでも結局は従わざるをえなかった。二十四時間ぶっつづけといってもいい拷問の日々に比べれば、安淫売の生活のほうがどんなに楽であるか。その誘惑に勝てるわけがないのだ。
今はまだ刑務所から通うことになるがいずれ早期に保釈となり──服役態度は従順で献身的と評価書には書かれている──『アミーゴ』に就職する社会復帰を果たす段取りになる。むろん、クライズヒルズでの生活は長くはなく、中米から世界のどこかへ売り飛ばされるのが、お決まりのコースであった。
ロドリコの報告によれば、サラは案の定まぎわになって怖気づき、客を取らないといいだしたらしい。
「ふふ、いつものパターンだろう。元はすっかり堅気の女なんだからな。身体を売るなんて納得いくわけがない」
「その堅気の女に因果を含めるのが私の仕事でして」とロドリコ。
「鞭か、それとも逆さ吊りか」
「お客の希望で薬を使いましたよ」
「ひどい客だ」
スピルマンはあの聡明な娘が麻薬に脳を爛れさせ、セックスに狂う様を思い浮かべ、股間を硬化させた。薬で縛るためではなく、催淫効果を期待しているのだ。
「一晩で都合、五人の客を取らせました。スリムな都会風の娘ですからね。人気抜群ですよ」
ロドリコはその客のなかにエド・ローエンが含まれていた事実を報せた。ローエンは彼女の弁護士であり、またジャクリーンの弁護士でもある。スピルマンは笑ったが、それは儀式のようなものでもある。仮にも一度は信用した弁護士とベッドを供にすることで、売春婦の厳しい掟──金を払ってくれた人間はすべて客、選り好みはできない──を教えるわけである。エド・ローエン弁護士は教材に打ってつけの存在なのだった。ほとんどの女囚は初日に彼に抱かれる通例になっている。
「そればっかりはいやだと呂律の回らない口でほざきましてね。あのスケ」
しかし薬を追加するのは危険なので姉のジャクリーンの身柄を持ち出して脅迫したのだという。
「ほう、どうやって」
「なにね。ローエンは現在ジャクリーンの弁護士も引き受けて控訴に取り組んでいるのだから、せいぜい機嫌を取っておかないと姉さんがまたお前の二の舞にならないとも限らないとそういってやったんです。てきめんでしたよ、これは。すっかりおとなしくなって、跨を広げました」
スピルマンはロドリコと声を揃えて哄笑した。ジャクリーンの控訴などとっくに闇に葬られているのだ。姉妹の仲の良さを逆手に取った懐柔策はそれぞれに効果がある。
「──ところで、その姉のほうはどんな具合です? まだ落ちませんか?」
「フフフ、こっちは妹に輪をかけて気性の荒い女だからね。まだ一山も二山もありそうだよ」スピルマンの言葉に受話器の向うのロドリコは心なしかがっかりしているようだった。「わかってるさ。姉妹並べて商品にすれば、超目玉になることは受け合いだものな。何しろあれだけの美人で、あれだけの身体が揃った姉妹はそういるものじゃない」
「まったくですよ。どこへだしても大儲けさせてくれますよ。早いとこ、因果を含めて送り込んでくださいな。お遊びも程々にして商売に専念してもらわなくっちゃ。スピルマン所長」
「そのスピルマン所長の趣味のおかげで儲けているくせに。よくいうぞ、ロドリコ。ま、こんなものは慌てるとロクなことはない。気長に追い詰めていくのが常套なのさ」
スピルマンは二三の打ち合せをしたのち電話を切った。
ドアの向うでかすかな鈴の音が聴こえてきた。それはしだいにこちらへ近付いてきて、ドアの前まできた。ポーターのしわがれ声が何やら毒突いている。スピルマンの相好が自然に緩んでくる。
ドアが開くと、まずポーターが入ってきた。ユニホームを脱ぎ、上半身素っ裸のパンツ姿であった。黒い乳首が胸乳の位置を辛うじて教えてくれる。彼女は手に長い鎖を握っていた。それを激しく引き絞るが、鎖はピーンと張ったままドアの向うの何物かに繋がっているらしい。
「早くこっちへ入ってくるんだっ。世話を焼かせるとまた鞭だよ!」
鎖と一緒に鞭ももっているのだ。それを一閃させて振りおろすと、肉を打つ鈍い音がして、鈴が盛んに鳴っている。そこにジャクリーンがいるのは明らかだったが、さて、どんな『化粧』を施されているのか、スピルマンは興味津々で注目した。
ポーターの腕力と鞭の効果で、鎖はようやく引っ張られだした。
「……ンンーッ……」
四つん這いのジャクリーンが部屋のなかへ引立てられてきた。顔を必死にスピルマンから背けていたが、彼女の隠すべくもない白い裸身には数々の戒めが取り付けられているのだった。セミロングの金髪は頭の頂に輪ゴムで束ねられている。その細首には赤い首輪がきつくしまり、鎖はそれに連結されていた。そしてたわわにぶら下がる双乳のピンク色の乳頭にはクリップがかまされ、小さな鈴が下げられているのだった。そして鈴はその二個ばかりではなく、乳ぶさと同様に股間にも取り付けられているではないか。三番目のクリップがいったいどの肉を挟んでいるのかは、直接眼に入らなかったけれども、予測はできる。きっとブロンドのアンダーヘアの中にひそんだヴァギナのとば口にぽっちりと頭をもたげているあの鋭敏な神経の肉の突起に違いなかった。そうであればこのおびただしい脂汗の説明がたやすい。
鞭を鳴らし、尻を蹴り上げ、ポーターはジャクリーンをスピルマンのに足元まで追い立てた。
「スピルマン所長に素敵なお顔をお見せするんだよ」
ポーターはそう叫ぶと束ねられたブロンドを掴んで顔を起こした。
「おやおや、これは!」スピルマンは自分の頭に手をやった。
ジャクリーンはその秀麗な鼻にフックを引っ掛けられて、限界まで豚鼻にされていた。そして口にはちょっと変わった轡が施されていたのだ。
ヒップに植えられた大輪のダリア
その轡は口中に何かを詰め込む従来のタイプとは異なり、口の両端にフックを引っ掛けて、左右へ引っ張る、見た目には冷酷で滑稽な代物なのであった。鼻枷もその轡も後頭部のところで一緒くたに連結されている。
ジャクリーンは理知的な美貌をグシャグシャにされて、涙をボロボロとこぼしている。
「こいつはケッサクだ」
スピルマンは身を乗り出し、しげしげと観察した。ジャクリーンの唇はややぽってりとした肉感的なものであったはずだが、こうしてみると、どちらも内側に巻くれ込んだようになってしまい、扁平に引き伸ばされていた。ルージュを塗っていなくとも林檎のように赤い唇も色を失って、奥で噛み縛っている歯並びが剥き出しだ。口が頬を分断するようになっていて、今にも裂けてしまいそうである。顔の筋肉は鼻吊りによって上へ強制される力と、轡によって左右へ引っ張られる力に、徹底的に従わされているといったところであった。
スピルマンが先ほどやったタバコの屈辱などヤワに思えるほどのきつさである。あれならば美貌は少しは残って、戒めがそれを侮辱しているような微妙なバランスがあったのであるが、これではジャクリーンの美貌はまったく微塵もなく打ち砕かれ、醜い肉の造形にしか思われない。ポーターの白晢の美女に対する対抗心のあらわれといったところであろうか。
スピルマンの趣味とは少し違ったが、二時間自由にさせてやると許した手前、今更やめろとはいえない。
「知力も体力も劣る女はこうでもしないと、世の中の役にはたてないってわけだな、わかるか」
スピルマンは指で乳ぶさを弾いた。鈴の軽やかな音色がチリンチリンとよく鳴った。
「私からも少し化粧をしてやろうと思うが、どうかね」
スピルマンはジャクリーンにではなくポーターに尋ねた。
「もちろんですよ、スピルマンさん。綺麗に決めてください」
「うっ、うう……」
これ以上、何をされるのかと、二人の会話を戦々競々と聞いているジャクリーン。
スピルマンは鈴をつまんで右に左に揺さ振り、くぐもった悲鳴を絞り取ると立ち上がった。窓を開け、迫り出したテラスへでると、並んでいる植木鉢から黄金色のダリアを選んで、一本切った。太陽を思わせるような鮮やかな色の大輪だ。
「これを活けるには相応の入れ物が必要だな」
スピルマンはにやつきながら、ジャクリーンの傍らに戻ってきた。ポーターは変態所長が何を企んでいるのか察したらしく、ジャクリーンの美しき巨臀をピタピタと叩いた。
「うってつけの代物がありますよ、スピルマンさん。ダリアにも負けない巨きくて派手な器が。ちょうど茎がピッチリ埋まりそうな穴も開いているし。花の色にマッチしたフサフサの飾り毛もある……」
「──!」ジャクリーンは怯えたように振り返り、そしてスピルマンを見上げた。
スピルマンはよしよしと頷くとたちばさみでダリアの葉を落とし、茎を適当な長さに切った。
「こんなにに細いんだ。楽々差し込めるだろう」
彼らの狙いがどうやら性器ではなく、排泄器官であると感じると、ジャクリーンは狂ったように藻掻きはじめたが、ポーターがつづけざまに鞭を尻肉へ打ち込み、突っ伏した彼女の腰を引き据えて、ヒップを高々と突き出させた。
「なるほどこの迫力、この成熟具合ならば、ダリアにも劣るまい」
スピルマンはジャクリーンに聞かせるようにいって、鞭に赫らみ火照った臀丘を撫でさする。ムクムクした官能美はどこまでも男心を楽しませてくれる。やがてスピルマンの指がムンともりあがった太腿の付け根の毛叢を掻き回し、深い谷間をこじ開けるようにしてアヌスを剥き出しにすると、ひんやりと空気を吸い込む心許ない感覚にジャクリーンは嗚咽を高めるのだった。ビーズ色の莟はひっそりとたたずんでいたが、指の腹が触れると戦慄したように竦み上がった。いよいよダリアの緑色の茎──細いといっても直径二三センチはあるだろう──がその部分に狙いをつけた。会陰部から蟻の門渡りがじっとりと汗を掻いている。
そっと、先端が触れると女体が仰け反り、鈴がリンリンと鳴り響いた。とくに股間にぶら下った鈴の音色は泣き声にも聴こえる。逃げようとする穴を追って先端が照準をあわせていき、ブスッ──思わず音が聴こえてきそうなくらいに命中する。
「ヒィィィーッ……」
ジャクリーンは轡を弾き飛ばしそうな勢いで絶叫を迸らせた。しかしダリアは狭い腸腔を縫うように突き進み、花びらが尻梁に触れるほど沈み込んだ。
「フフ、こんなに突き刺してもちっとも糞塊に当らないぞ。よほど飼い主の世話が行き届いているとみえる」
スピルマンは少々腰を揺すっても抜けないのをたしかめると、花をクルリと一回転させた。
「ンンーッ!」ジャクリーンは充血した眼球を飛び出さんばかりにして身を伸び上がらせた。
スピルマンは腰をのばしてゆっくりとこの女体花を眺めた。ジャクリーンの尻に大輪のダリア、それも眼の覚めるようなゴールドの花が咲いている。それは頭のてっぺんに束ねられ、根を絞られて沸きだすようにポニーテールになっている彼女のブロンドの髪の毛と競いあっているようでもあり、アヌスのすぐ底に密茂している織毛とつづいているようでもあり、あるいは今が絶頂の女盛りを誇っている、ジャクリーンの肉体を象徴しているようでもあるのだった。
「綺麗な飾りを殿方にして戴いたんだ。お礼のひとつもいったらどうなんだい。この白豚が!」
ポーターは罵倒すると、花を避けながら鞭を巧みに尻へ当てる。ジャクリーンはブリブリと腰を揺すって苦悶するが、それにともなって、幾枚かの花弁がヒラヒラと絨毯へ落ちた。その中の一枚は汗に濡れた内腿に貼りつき、妖艶なエロチシズムを感じさせる。
ジャクリーンはポーターに首輪を曳かれてよろよろと部屋の中を這わされた。鈴が鳴り、肛門に差し込まれたダリアが蠢く。そのたびに腸腔がこすれるのか彼女は苦吟の呻きをこぼしつづけた。
スピルマンはウィリーとウィローのドーベルマン二匹を呼び、ジャクリーンの後を追わせた。犬たちは奇妙な白い物体にはじめは警戒の色を浮かべていたが、やがてその物体から発散される濃厚な牝の臭いを嗅ぎわけ、鼻息を荒立てて近付いていった。尻のダリアにクンクンと濡れた鼻を押しつけていたかと思うと、前に回りこみ彼女の顔面の汗と涙と涎を舐めあげたりした。
「顔を洗ってくれたんだ。お礼のひとつでもいったらどうだい。犬にわかるようにその立派な尻尾を振ってみせるんだよ!」ポーターはけたたましく笑った。
犬にまで馬鹿にされているようでジャクリーンの噴辱は極まったが、すり寄ってくる獣の感触に、白い肌に鳥肌をたてるばかり。
パドックの馬の如く、晒しものにされたジャクリーンはこちらにヒップを向けながら部屋をでていった。もう少し、黒人女に攻められる女弁護士のザマを観賞したかったが、今はポーターの時間なのだ。
スピルマンはガウンを脱いでブリーフのなかから極太といってもいいペニスを掴み出すとシコシコとしごきはじめた。先端のスリットから透明な蜂蜜がヌルヌルと垂れてくる。ジャクリーンの体内をこの名剣で貫くのはそう遠くはないだろう、とスピルマンは確信している。あと二週間、いや、フィル・パーマーの尻を叩けばほんの一週間で彼女は白旗をかかげるに違いない。あの小生意気な女弁護士の口からどんな女っぽい歔き声がきかれるのか。スピルマンは想像を熱くさせて摩擦のピッチをあげていくのだった。
看守たちの拷問はいっそうひどくなった。
それからの三日間、ジャクリーンはほとんど睡眠を取らせてもらえなかった。現在の時刻が何時であるかなどわからないし、昼なのか夜なのかといった大雑把な時間感覚も喪失してしまっている。
今また凄絶な拷問がなされようとしていた。
「……ああ、こんなこと、ひどいわ。やめて!」
ジャクリーンは悲痛な叫びを発した。彼女の両足首に鉄の環がはめられ、そこに取り付けられている鎖が天井へと不気味な音をたててもちあがっていこうとしている。彼女は俯せであり、両手を背中に手錠でくくられている。もちろん、肌に付けているものはスマイルシールと、裏返された全裸の後ろ姿の、肉の満ち満ちたヒップに食い込む黒革のベルトだけだった。
鎖は二肢をほぼ一メートルの間隔に開けたままズンズンと吊り上げていき、腰を逆海老のように屈折させていく。腹が床から離れ、垂れた乳ぶさがなんとか触れている程度の高さで、鎖を巻き上げるモーターが止められた。肩とあごが彼女の不安定な身体のバランスを保っているにすぎなかった。
彼女が毎日の日課として定められている運動を拒否したという理由で、この折檻が企まれたのである。運動とは狭い部屋の中を二十日鼠のようにグルグルと走り回されるだけで、それ自体拷問と呼んでもいいものであった。
「だ、だから、するっていってでしょう」
こんな目に遭うならば、まだしも走ったほうが楽なのだ。ジャクリーンは先程から声を枯らしてそう主張しているのだが、卑劣な看守たちはいっこうに聞き入れてくれないのだ。
その看守たち、エリック・ガードナーがジャクリーンの色香に惑わされたことで配置換えとなり、フィルとゴードンの二人が担当している。吊られたジャクリーンの傍らで鬼のように仁王立ちしている二人の大男は上半身素っ裸で、三白眼を異様に光らせている。三人で回していたローテーションが二人になり、彼らの負担も増え、肉体的にも精神的にもリフレッシュできない状態になっているのだ。その欝屈をジャクリーンにぶつけてくるわけだから、狂暴さもどんどんと過激になり、以前は控えていたあからさまな暴力も露骨に顔をだすようになっている。
ファランガもそのひとつだ。
「走らねえというんなら、足の裏にヤキをいれても、ちっとも困らねえよなあ」
とゴードン・フラビウスはそのゴツゴツとした顔をジャクリーンの双臀に近付けていうのである。
「走るっ。走るからファランガはいやよ、ゴードン、お願い!」
ファランガとは鉄の棒で足の裏などを叩きのめす拷問だが、彼がいま手にしているのは硬質ゴムのスティックであった。破壊力は鉄に劣り、傷は浅い。しかし、だからといって苦しみが少ないとはいえない。足の裏といえば、人間の身体のなかでは鍛えられない最も弱い部分のひとつなのである。
それをフィル・パーマーも握っていた。
「今更、そんなことをいったって駄目だ。お前はいつもそうなんだからな。短絡的に眼の前の不快なことを避けて通れればいいと思っている。そういう曲った根性は徹底的に鍛えなおさねばならんのだ。わかるな?」
パーマーはスティックで腰を押し込んで反った身体に力を加える。ジャクリーンは金髪に覆われた横顔をしかめた。
「ああ、あなたたちは悪魔よ。けだものよ!」
何百回となく口走った罵りをジャクリーンは喚いたが、嘲笑されるだけだ。
「さあ、奥歯を噛みしめろ。ヘタをすると舌を噛み切るぞっ」
パーマーのスティックとゴードンのスティックがゆるゆると彼女の足裏をこねまわした。恐怖を示すように形のいい足の指が内に折れ曲ったり、間隔を開けたりしている。
ゴードンが右足を、パーマーが左足を担当して、交互に打ちすえはじめた。ジャクリーンが悲鳴をこらえられたのは最初の一撃だけであった。それも痛みを辛抱したのではなく、あまりの衝撃にわけがわからなかったのが正しい。とくにパーマーは慣れているらしく同じ箇所を同じ強さで正確にぶちつけるので、たまったものではない。ジャクリーンは自分の汗で濡れているフロアに唇を押しつけ、必死に痛みをこらえた。そうでもしないと本当に舌を噛んでしまいそうだった。足の裏に釘を打ち込まれたような激痛が際限なくつづいた。ジャクリーンの絶叫も凄まじく、とても人間のものとは思えなかった。彼女は結局、十五分後に失神したが、ついでに股間を縛り込んでいるベルトの横からかすかな小便もチビリ洩らした。それでも彼らにしてみれば手加減したほうで、彼女のダメージは三四日でひく程度のものだった。ジャクリーンがスピルマン所長の寵愛を受けていなかったら、こんなものではすまないはずである。
ジャクリーンが意識を取り戻すと、自分が大きな球形に近い物体──クッションのような材質であり、用途の物──に仰向けに縛りつけられていることに気づいた。両手両足を背後へ曲げて、背中でボールを受けとめている、あるいは背負っている格好である。当然ながら胸や股間はこれ以上ないほど、堂々と突き出しているわけだった。とくに跨ぐらなど恥骨がえげつないほど浮き上がっている。
「何をする気よ……」
ジャクリーンはおどろに乱れた髪の毛を額や頬に貼りつかせ、すっかり泣き腫らして、生々しくなった素っぴんを傍らの看守たちに向ける。
「身体を洗ってやろうと思うんだ。ほとんど風呂に入れてやってないからな。臭くて鼻が曲がりそうだぜ」とフィル・パーマー。
しかしジャクリーンは半信半疑である。彼らが素直にそんな、この刑務所の女囚にとって飛び上がって歓ぶような厚遇をもたらすとはとても思えない。
「それなら、これをほどいて早くシャワールームに連れていきなさいよ」
「悠長なことをやっている時間はないから、俺たちが消毒してやろうというわけだな」
「消毒?」ジャクリーンは不審げにゴードンをみた。
「大事なところをこれですっかり清めてやるぜ。ビッグリップ!」
ゴードンの手のなかに揮発性の消毒液と脱脂綿があった。
「……」ジャクリーンは注射の際になされるエタノールの消毒を思い出した。腕でさえ、すーっと染みるような感覚がするものだが、それが敏感な部分──彼らが大事なところといえばバストでありウァギナに違いなかろう──に擦りこまれたとしたら、いったいどんな状態になるのか。染みる、などという生易しいものではないのではないか。ジャクリーンはゴクリと生唾を呑み込んだ。
「これは動物用の消毒液で、この辺りじゃ牛に使ってる貴重品だ」パーマーがもったいぶっていった。「罪人のお前になんか、本当はもったいなくて使えたものじゃねえが、まあ少しなら赦されるだろうよ。だから消毒する箇所は女としての大事な部分だけだぞ。わかるな。いつも、シールで保護してやっているおっぱいの先っぽとベルトで締めているプッシーの周辺だ」
「やめて……」疲れ切っているジャクリーンの声はかすれている。
「駄目ってことはないだろう」パーマーはニヤニヤしながら片側の乳ぶさのシールを一気に引き剥がした。ジャクリーンは眼をギュッと暝って小声をあげた。「精神だけ磨いてもしょうがない。健康な肉体があってこそ、女は意味があるんだから」
その肉体に卑怯な拷問を加えつづけているくせに、とジャクリーンは言い返したかったが、もう一方のシールも乱暴に剥がされて呻き声があがる。彼女の熟女っぽいやや巨きめの乳輪は健在で、濃艶なピンク色をたたえている。そのほぼ中心にポッチリとした突起が見事に屹立して雄を挑発しているのだ。ただスマイルシールの強靭な糊が所々こびりつき、残滓をみせ、小さな汗疹が二つ三つ散見できた。
「汚ねえバストだぜ。やっぱり消毒してやらにゃなるまいぞ」
ゴードンは自分の唾液を指にまぶして乳首をつまみあげ、ツンツンとしごくのである。そのおぞましさにジャクリーンは身体を揺さ振ったが、ほとんど何の効果もないのだった。
「それじゃあ、お前。かえって不潔になるじゃないか」とゲラゲラ笑うパーマー。
笑いつつ、消毒液を脱脂綿に染み込ませ、まず乳ぶさの谷間の汗を拭き取ってやる。
「うっ……」ジャクリーンは眼を細くしてこそばゆさに耐えた。
脱脂綿はこんもりとした肉丘に這い昇り、乳肌をグルグルと回った。そして乳輪に触れてくる。
「あっ、あっ、染みるっ」ジャクリーンは口を半開きにして辱めに苦悩した。
「だんだん綺麗になっていくぞ。垢がボソボソとれてくる」
正確にいえばそれは垢ではなく、乾いたシールの粘着液であろう。乳輪の肉粒をひとつひとつ丹念に拭き、無造作に乳首をこすりたてる。消毒液がすりこまれるたびに、乳暈の色づきが鮮やかになり、毒々しくなっていく。明らかにこれは刺戟であり、それは乳首がピーンと硬化したことでもわかった。ゴードンも加わって、片方の乳ぶさを消毒していった。ジャクリーンは、「もういいでしょう」とか、「いい加減にして」などとほざくのだが、そのくせ顔面は真っ赤になっている。男たちは消毒に名を借りて、今やユサユサと巨乳を愛撫しているのだ。激しい拷問の合間に甘い刺戟を行使されれば、誰だって本能的にそれにすり寄ろうとするだろう。これもまた彼らの巧みな手管なのである。硬軟織り混ぜて、骨抜きにしようとしているのだ。
ジャクリーンがボゥーッとしているうちに、男の手が跨ぐらにかかり、ゆっくりと縦のベルトを外しはじめた。
「おしっこが引っ掛かっているから気をつけろ」
猥褻な含み笑いをしながら、徐々に露呈する女弁護士の陰部をとくと覗き込んだ。一日一度は眼にしているのだが、見飽きないのが不思議である。とくにこのえげつない縛り方で、一本だったスリットが左右にくつろぎ、内部が丸見えとなっている様は淫猥で、この持ち主が知的な敏腕弁護士という事実とともに、男たちを興奮させるのだった。
「本日のヘア・バーガーはとびきり食欲をそそる色をしているなあ」
ゴードンは乳首をいじりながらも、腰を屈め、鼻面を逆立つ毛叢へ突っ込みながらいうのである。
「でもトロトロと恥垢がくっついていて、蟲が沸きそうだぜ」
パーマーは剃毛が好きなので──サラ・ドーセットの股間を剃りあげたのも彼だった──スピルマンの制止がなければとっくの昔に禿げ山にしていただろう。大柄なジャクリーンのそこはマニアにはたまらないハンバーガーなのだ。
「……耐えられないわ。早くすませて頂戴」
ジャクリーンは視線の集中する恥辱に顔を振っている。もうなんども経験させられていることなのだが、こんなものに慣れの感情はありえなかった。
「ハイハイ、プリンセスがそうおっしゃってるから、早いとこ磨き上げましょう」
ゴードンは床にしたたり落ちるほど、たっぷりと消毒液を含ませ、鼠蹊部をなぞった。
「はぁーっ──」乳ぶさとは比べものにならない感覚がジャクリーンを襲った。いきなり、脱脂綿がラピアに押しつけられると、ジャクリーンはハスキーな声を震わせた。
パーマーが指を添えて開帳し、ゴードンがゴシゴシと擦りあげる。恥垢が溶けて、鮮やかな剥き身の色が甦る。ジャクリーンは悲鳴のあげっぱなしだ。粘膜に染みこむと、縮みあがるような鋭い痛みが内蔵に差し込んでくるようだった。
ラピアを清拭し、クリトリスを洗浄する。尿道を探り当てて、その窪みに流し込む。これにはたまらず、赤ん坊のように泣き喚いた。
「おいおい、あんまり汗を掻くなよ。せっかく拭いてやったのに、また汚れるじゃないか」
嘲笑する男たちの声など耳に入らず、ジャクリーンは脂汗を絞りつづける。
彼らはとうとう肛門にまで触手を伸ばした。
「いやっ、いやよ」
「そうはいっても、ここが一番、汚いんだから」
ゴードンはなだめすかしながら、まわりをゆるゆると拭いた。蝋燭の炎が触れたようにジャクリーンの尻はビクンと跳ね上がる。その敏感さに味をしめたのか、彼はアヌスのなかへ、白い綿を詰め込みはじめた。
「な、なんてことをするのよ! ああっ、染みるっ」
ジャクリーンの狂乱たるや凄まじい。拘束された身体を藻掻きに藻掻かせて、のたうち回るていだ。脱脂綿はほとんどが肛門に埋まり、その尻尾がポヤポヤと飛びでているだけとなる。ゴードンは玉の汗を噴いて、ヌメ光りだした陰部を鼻をつまみながら嘲笑しつつ、さらに消毒液を脱脂綿の尻尾に染み込ませるのだ。つんざく悲鳴が轟いた。
「染みるぅぅぅーっ……」
美貌を病的なまでに燃え盛らせ、ジャクリーンは吠えたてた。フィル・パーマーにとっては久々に胸のすく光景であった。彼のようなベテランの拷問官ともなれば、たいがいの責めには慣れていて、簡単に気をそそられることはない。しかし、三十歳の熟れ切った美人、それも地位も、名誉も、才能すら横溢するスーパーレディが、肛門の小穴に詰め込まれたわずかな綿に、巨きな尻をジタバタさせ、苦汁の汗をしたたらせ、ムサ苦しいまでの煩悶を見せ付ける七転八倒の姿はやはり酸鼻な中にも独特のユーモアがあって、一種かわったサディズムを与えてくれる。
ゴードンはたっぷりジャクリーンの肛門を清拭すると、綿の尻尾をつまみ、ゴソゴソと引きずりだした。
それが腸腔を刺激する気も狂うような感覚にジャクリーンはあごを突き出して絶息するのだ。
「コックが抜けるときとは、またちょっと違った快感があんだろ」とゴードン。
ジャクリーンは髪を振り乱してがぶりを左右にするだけで、声もない。ゴードンの手のひらにのった脱脂綿は縮かんでいたが、その一部に薄く黄色い汚れがこびりついているのだった。それを顔のうえでひらひらされても、ジャクリーンは啜り上げるだけで反応は示さない。パーマーは火照った彼女の頬を両手で挟んで、顔を覗き込む。
「そんなに良かったのか。もう一度やってやろうか。尻の穴でも感じる変態女め。クライズヒルズまで来て男を漁っていたのも当然だよな。前と後で咥えこまなければ満足できないんだから」
彼の舌がペロリとジャクリーンの鼻の頭の汗を舐め取った。
拷問がこれで終了したわけではない。昼食なのか夕食なのか定かでないドッグフードを与えられたのち、ジャクリーンには水責めが待っていた。水責めといっても頭をバケツの水に突っ込む原始的なものではない。鉄ベッドに四肢を縛りつけ、ベッドの角度を頭を下に傾斜させて調節する。そして鼻と口を覆うようにハンカチ大の布をかぶせる。そこへポットの微温湯を垂らすのである。これで呼吸困難に陥らせるほどの効果を発揮させられるのだった。
「……何がそんなに面白いのか、私にはまったく理解できないわ」
布の下からジャクリーンの呟きが聴こえてくる。ドッグフードとはいえ、食事をとったあとはやや元気を回復しているのだ。もちろん寝不足の頭はボゥーッとしているが天性の気の強さが顔をだすのである。
「こんなに面白い見せ物が他にあるかい」ゴードンは再びシールを貼りつけられた乳頭を指で押し込んでのたまわく。「世間に害毒をもたらす大罪人の汚れきった心を矯正できるなんて、やりがいのある仕事だよ」
「救いがたい信念だわ。つける薬もない。あなたたちこそこの世から抹殺されるべきよ」
「御託はそれまでだ。おら、シャワー浴びたかったんだろ。たっぷり味わいな」
ゴードンがポットを傾けた。嘴から美しい弧を描いて微温湯がジャクリーンの顔の下半分を覆う布に落下する。
「むむむ……」濡れた布は一気に貼りつき、鼻と口の形が浮き上がる。とくに鼻の穴の部分と口が空気を求めて凹凸を繰り返した。しかしそれをやると、布から染み込んだ微温湯を心ならずも吸い込むハメになり、ジャクリーンは激しく咳き込んだ。
「どうだ、気持ちいいだろう。そのうち咳をする余裕もなくなるぞ」
パーマーのいったとおり、ジャクリーンはしだいに胸を大きく上下させ、眼をしきりにしばたかせる。苦しさがつのってきたのだ。
頃合をみてパーマーは布をずりおろした。一時の休息である。ジャクリーンは罵りもできず、哀願もできずに、ただハアハアと喘ぐばかりだ。
「そら、今日の標語をいってごらん」とパーマー。
毎日一言ずつ、屈辱的な言葉を暗記させられる日課はえんえんとつづいているのだった。
「……女の命より男の誇り。女の誇りより男の快楽。女の快楽より男の排泄……」
ゴホゴホとやりながらジャクリーンはいった。
「それじゃ、一昨日の標語を思い出してみな」
パーマーは柔らかい乳ぶさを指で弾いた。
「覚えてないわ……」
「じゃ、とっくり息を止めて思い出すんだ」
再び布がかぶせられ、微温湯が注がれる。べっとりと貼りついた布は確実に彼女の呼吸をふさいだ。ジャクリーンの身体がベッドのうえで激しく跳ねる。胸の起伏は尋常でないスピードにあがり、臍を浮かせた下腹も波打っている。呻き声とともに眼球がらんらんと飛び出して、今にも肉体全体が爆発しそうなムードである。呻き声は「思い出した、思い出した」といっているようだった。
やっと布が首までおろされるとジャクリーンは一分以上喋ることができず、さらに数分をかけて呼吸の収まりを待たねばならなかった。
「で、なんだったっけ?」小鼻の脇に溜まった雫を拭いてやりながらパーマーはあくまで執念深い。「フフ、お前のここも最初に比べてずいぶん荒れが目立つようになってきたな」
時折、チクチクと美貌の衰えを指摘するのは彼女のような美人にはけっこう効果的な嫌がらせだと思っているらしい。
ジャクリーンは陰険な拷問官を憮然として睨みつけながらも、水責めへの恐怖心から愚劣な言葉を口にした。
「女弁護士のケツの穴は汚くて蟲が沸いている……」
「ちゃんと覚えてるじゃねえか。自分のことなんだから忘れるわけがねえんだ」
パーマーもゴードンも腹を抱えて大笑いだ。
「──ああ、こんなの、もういやだわっ」ジャクリーンは突然を腹の中の物を吐きだすように叫んだ。「どうして、どうして、私がこんな目にあわなければならないのよ!」
「どうしてだと? 決まってるじゃないか。お前は犯罪人であり、受刑者であり、その中でも札付きの反抗的な女であり、スピルマン所長はそういう女の社会復帰にひときわ熱心であり、これはその矯正プログラムの一環だからだよ。すべては結局、お前のためであるわけだ」
パーマーはしゃあしゃあといってのける。
「そうだわ。スピルマン、スピルマンっ、スピルマン! みんな、あの男のせいよ!」
ジャクリーンは悔しげに唇を噛んだ。
「ヒステリーを起こすんじゃないぞ。ビッグリップ。お前が俺たちに手ごめにされてぶっ殺されないのは、すべてスピルマン所長の思召しなんだからな。恨むなんてお門違いもいいところ。尊敬と感謝の気持ちを常にもっていなくてはならん」
額や頬にベトベトと貼りついているブロンドの髪を指に絡め、払い除けてやるかと思えばさにあらず、グルグルと渦を巻かせたり、鼻の下へドジョウ髭よろしくもっていったりと散々楽しむパーマー。
「わかるだろう。プログラムがいやならプログラムを終了したと証明してみせればいいんだよ。お前だって馬鹿じゃないんだからそれくらい考えなきゃ駄目だ。プログラムを終了するのはどういうことか。それはもちろん素直なレディになって所長の胸に飛び込んでいって、全身で示すしかないんだよ」
「誰があんな男なんかに!」
ジャクリーンは発作的に喚き散らし、つづいて、とても東部のエリート・キャリアウーマンとは思えない悪口雑言をまくしたてて、拷問官たちの不評を買い、あっという間に水責めを再開させてしまった。
……しかしジャクリーンの胸中は表面とは正反対に冷静で緻密であったのだ。かねてより、周到に暖めていた脱獄計画をいよいよ実現すべき時期にきていると判断していた。執拗に繰り返される水責めにのたうち回りながらもこれでいい、これでいいと呟いていた。布石はじゅうぶんなのだった。ここでジャクリーンがどっと崩壊してスピルマンの軍門に下ったとしても、それが彼女の芝居だとは誰も考えないだろう。この長い長いレジスタンスの果ての屈服は何より信憑性があるのだ。『今ジャンヌ・ダルク』の憔悴した表情は必ずや彼らの油断を誘う。そしてその時こそ、ジャクリーンの本当のレジスタンスが開始されるのだ。毎夜彼女が夢のなかで思い描くのは自由になった自分が法廷でジョージ・スピルマンを追い詰めていく光景であった。もちろん撃ち殺したっていい人間だが、それよりも世間の眼の前で悪事を暴き、屈辱を味わわせてやるのがあの虚栄心の強い男にとっては最も効果的な制裁の方法だろう。
(スピルマン、あなたの吠え面をかく表情が今から楽しみだわ)
そう考えながら、ジャクリーンは何回目かの水責めに気絶した。
ジャクリーンはその後も鞭やロープによるアクロバチックな緊縛の拷問をつづけられ、声がでなくなるほど泣き喚かされたが、なんとか睡眠の時間にたどりついた。
鉄ベッドのうえに投げ出されたジャクリーンはがっくりと突っ伏してそのまま泥のように眠りこけようとしている。しかしそうやすやすと彼らが放っておいてくれるわけもなかった。彼女の腰にゴードンが逆さ向きで馬乗りになると、どっこらしょと下半身をもちあげた。ジャクリーンはあらがいの声もださず、されるがまま。それが気に食わないとばかり、ゴードンはピシャリとベルトのはまり込んだヒップの肉を平手打ちして正気づかせようとする。
「……何するのよ……」
ジャクリーンは弱々しい視線を振り返らせたが、これは残念ながら芝居ではなかった。
「ヒヒヒ、久しぶりにこれをしてやるぜ。今日も一日わがままをいってくれたご褒美だ」
ゴードンの指につままれているのは去勢リングだった。
「ああ、それはいやっ。それをされたら眠れなくなっちゃうぅ」
ジャクリーンはげんなりした表情を眉間に浮かべて嘆願した。
『前へ』 『次へ』
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