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  アマゾネス、走る

 スピルマンは哄笑を発しつつ、二度目の放出を遂げた。ジャクリーンにとっては三度目のオルガスムスだ。露がしたたる熱棒を引きずりだすと今度は彼がベッドに寝、ジャクリーンがその上に跨がることになった。クタクタの身体は腰をふらつかせていたが、股間に『支え棒』を咥えこむと背筋がしゃんとなるところが、可愛らしい。肉悦に浸り切っている女体は理性の鈍麻と反比例するように、烟るような白肌を輝かせ、乳ぶさも巨きくみえ、腰も重くなっているのが不思議だ。思うに女の理性はそういった女の本来の美しさをつかさどるホルモンを抑制する働きがあるのかもしれない。
 「自分で腰を振ってみろ、淫売」
 腕枕をして、すっかり帝王気分のスピルマンは女弁護士の肉体奉仕に悦にいっていた。
 ジャクリーンは巨乳を縦に揺らしながら、腰を使っている。太腿に両手を置き、双臀を上下させる。二段腹三段腹になっている下腹部は芋虫のように起伏し、なんとか体内に呑み込んだペニスを締め付けようとしているらしい。
 「バストを愛撫するんだ」
 スピルマンの命じたとおり、ジャクリーンは華奢な白い指を熱く燃え盛る肉丘に添えるのだ。彼女の指に掴まれ、揉みあげられて、形を変えていく双乳。まるでベッドのスピルマンに銃身を向けるかの如く、乳首がキリキリと勃起している。乳輪からもミルクが滲み出てきそうなほどの、生々しい乳頭の色彩であった。
 スピルマンは手を差しのばして、その乳首をつまみあげた。ジャクリーンはブロンドの髪の先から汗を飛ばすように、激しくがぶりを振った。化粧はいつのまにか流れ落ち、素っぴんに近くなっていたが、小さなほくろや目元のたるみなどもちっとも気にならない。拷問にかけられていたときの表情とは同じ素っぴんでも全然違っていた。つきものが取れたような晴れ晴れとした顔をしている。
 「……ああ、私、また……」
 ジャクリーンは泣き言をいい、ゾッとするほど悩ましい瞳を刑務所長へ向けた。
 「いいぞ。何回でもいくがいい」
 言葉の優しさとは裏腹にスピルマンはいっこうに腰を動かそうとはしなかった。どうやらジャクリーンの自慰行為を促しているらしい。顔から火の出るような口惜しさを感じたが、肉欲のたかまりは待ってはくれず、彼女は必死に腰を使いはじめた。乳ぶさの谷間から大粒の汗がボタボタと落ちてきた。頭髪が表情をすっぽりと隠し、達した彼女の顔を拝むことができなかったが、ペニスを根元から食い千切るようなきついヴァギナの収縮で、その瞬間は確認できた。ジャクリーンの身体がスピルマンの胸に崩れ落ちてきた。随喜の涙に咽び泣きながら鼻面を胸毛のなかに押しつけてくる。頭を撫でてやるその姿、その精神状態は征服感に満ちあふれていた。
 「おまえの腟液で汚したものを舐めて清めるんだ」
 スピルマンは頭を叩いて正気付かせた。ほらほらと股間へ追い立てる。ジャクリーンはスローモーに身体を沈めていこうとするが、スピルマンはシックスナインの格好を要求した。スピルマンの腹の上でジャクリーンの身体が百八十度回転する。
 「フフフ、爛れまくっているじゃないか」
 ヌルヌルに潤んだヘアバーガーを嘲笑しながら、指でなぞってやった。
 「あ、フン……」鼻を鳴らすジャクリーン。
 「火傷しそうじゃないか。なんだ、まだ雫が落ちてきやがる」
 からかわれ、いじくられてジャクリーンは綿のように疲れ切った脳をいっそう痺れさせた。そんな苦悩をふっきるように、自分の愛液がこびりついている肉棒にかぶりついた。
 「尊敬の念をこめて丹念にしゃぶれよ。司法試験にパスしたお偉い頭脳をへべれけにした名剣なんだからな」
 ジャクリーンは悲憤を鼻息にかえて、懸命に顔を動かしている。チュパチュパ、フェラチオの音が聴こえてくると、スピルマンはペニスに蜂蜜を塗られたようなヒリヒリする快美感とともに、ワクワクするような充足感も同時に覚えている。名うての女性弁護士、それも政治的にも社会的にも彼とは正反対の立場にいるフェミニストをここまで崩し、飼い慣らしたのだ。そう思うと、スピルマンはまたムラムラと欲望が募ってくるのである。
 休息もじゅうぶんの彼は彼女をバックから姦していった。

 雨の音が、彼女を深い眠りのなかから呼び起こした。
 薄いタオルケットに包まれて、ジャクリーンはベッドの上で眠っていたのだ。隣ではスピルマンが軽い寝息をたてていた。今ならそっとベッドを抜け出すのも可能である。身体が動けばの話しであるが……。それにしてもいったい何度、行為しただろうか。彼女には覚えがなかった。冷静に狂態を演じてみせたのは最初の一発だけで、次からはスピルマンの手管に不覚にも燃え上がり、後は坂を転げ落ちるようにケダモノの肉欲を貪ってしまった。しかし後悔している暇はないのだ。貴娘のような羞恥心など後に取っておけばいい。汗みどろの奮闘のおかげで、変態所長はとりあえずグロッキーとなっている。その成功を素直に喜ぼう。
 ジャクリーンは気怠い上体を静かに起こした。その上体の倍以上重い、鉛のパンツを履かされたようになっている下半身をすっとシーツに滑らせた。
 唸り声が床から聴こえた。ドーベルマンがいたのだ。彼女の逃亡を防ぐために部屋に入れたのだろう。スピルマンが安眠しているわけだ。犬たちに対する信頼は過剰に近いものがある。
 彼女が起き上がったのに気付いて二匹の暗黒の犬も立ち上がった。しかし狂暴な唸りはジャクリーンの顔を認めると急に甘鳴きに変わった。バスルームでのプッシーのジャムを覚えているのだ。スピルマンが寝返りをうった。ジャクリーンの心臓が縮みあがる。むにゃむにゃと何やら寝言をいったが、覚醒する様子はなかった。胸を撫で下ろし、ジャクリーンはさっそく跨を開いた。ドーベルマンの低機能な視力にもブロンドの▽はしっかりとわかったようだ。そこに舌を差し込めば甘い蜜を味わえるのである。二匹は先を争って、股間に突進した。彼らの願いがかなえられる前に、ジャクリーンの空手が頚部に炸裂した。最初に血へどを吐いて絨毯に倒れたのはウィリーかウィローか定かではなかったが、折れ重なるように二匹めも昏倒したので個体差は意味がなくなった。
 「うん? ハニー、どうした……」
 寝呆け顔のスピルマンが眠い眼をこすって起き上がろうとした。
 「まだ早いわよ。ダーリン──」
 ジャクリーンはニッコリ頬笑むと、犬への攻撃の二倍以上の破壊力の打撃を彼の首筋へお見舞いした。スピルマンは悲鳴も発することができずに引っ繰り返った。ここで彼を殺してしまうのは簡単だったが、ジャクリーンにそのつもりはなかった。もちろんそうすべきだったが、時間は逃走に使うほうがいいと判断したし、彼女は法律を守る立場の人間であったのだ。
 ジャクリーンは全裸のまま寝室を飛びだした。何度も訪れているので家の間取りはわかっているつもりだった。階段を駆けおり、ホールを突っ切り、やっと玄関の扉に手がかかった。
 「あら、朝のお散歩にしては涼しそうな格好だこと!」
 背後で嗄れ声がした。振り向くとパジャマ姿のポーターが階段の中段でニヤニヤ嗤っていた。現実はそう甘くない。しかしジャクリーンとしてもこうなることは少なからず予測はしていた。いつかは雌雄を決しなければならない相手なのである。
 「やっぱり私の睨んだとおり、腹の底に企みを隠していたんだね。この牝猫!」
 「つまらないこといってないで、早く救急車を呼んだほうがよくてよ。さもないとご主人様が出血多量で危険だわ」
 が、この手は通用しなかった。ポーターは鼻で笑い飛ばすと階段からホールに飛び降りた。
 「タンカで運ばれるのはお前のほうさ。今日は足枷も砂袋もないんだ。肋骨の二三本じゃすまさないからね。覚悟をし」
 「どうかしら。あなたの技では私を倒すのは無理でしょう。あの時は私も疲れていたんだから」
 ジャクリーンはゆっくりと後退し、扉のノブを探った。
 「残念だったね。お前のような女囚が逃げださないように夜には外へ通じるすべての窓やドアにはロックがかかるようになっているんだ。どうにも私を倒さなければ外へはでられないんだよ」
 ポーターはパジャマの上を脱ぎ捨てた。
 黒と白の女体が姿勢を低くして向きあった。一度、合いまみえているので、互いの実力は肌で知っている。ジリジリと間を取りながら、隙をうかがった。
 「跨の間からザーメンがこぼれているよ。お盛んだったようだね!」
 しかしその手にも引っ掛からない。ジャクリーンは微動だにしない。
 先制攻撃は切迫しているジャクリーンのほうから仕掛けられた。蹴りを鋭く連続させながら接近し、気合いもろとも突きを顔面へ放った。これは間一髪かわされたが、顔が仰け反った分、ポーターの自然体の構えに乱れが生じた。ジャクリーンの身体が一回転したかと思うと優美な下肢が振りあげられた。まわし蹴りだ。いつもはボリュームたっぷりに鮮麗な丸みをみせている双臀が臀筋を緊張にみなぎらせ、強靭な力を太腿から膝下までに与えて凶器にかえた。瞬間的に黒人レスラーは身体を捻り、その攻撃を二の腕で受けとめた。しかし破壊力は彼女の丸太のような腕をへしおらんばかりの凄まじさだった。
 「うっ──」ポーターは顔をしかめたが、ぐっとこらえ、反撃に転じた。アグレッシブな戦いは防御をなおざりにしがちである。まわし蹴りで崩れたジャクリーンの体勢にポーターはタックルする。無防備の腰に組みつき、そのままスプリントをきかせて押し倒した。白い腹のうえに顔を押しつけ、後頭部に双乳のふくらみを感じながら押さえこみ、腕を絡んで関節技にいこうとする。だが持ち前の腕力は第一撃のまわし蹴りで減殺されていた。ジャクリーンは腕を振り払い、肩先から首へ空手チョップを連発させた。ポーターも必死である。かなりのダメージを被りつつも、決してジャクリーンの腰を放そうとしない。二人は上になり下になりながらホールのフロアを転がった。
 外では雨が激しくなり、遠い山のほうでは雷雲が発生したのか、時折、稲光が暗い空に反射している。
 ジャクリーンはなんとかポーターを弾き飛ばそうと両脚を跳ねあげているが硬い黒人女の筋肉質の身体はびくともしない。今度は右手で自分の左腕の手首を掴み、それをポーターの顔にあててもちあげようとする。
 「イテテテ! 何すんだよ!」
 眼を剥きだし、ゴム質の唇をひん曲げながらポーターは上体を反らせた。もう少しで身体が離れそうになったときポーターが反則技に出た。苦し紛れにジャクリーンの乳ぶさをわし掴んだのだ。かまわず腕をのばすジャクリーンだが力任せの暴虐に顔も真っ赤である。
 ジャクリーンは気合いを吠えたてながら、間隔が開いた身体の隙間を利用して、正拳をポーターのあごに叩きこんだ。グエッ、と喉を鳴らしたポーターはとうとうもんどりうって引っ繰り返った。ジャクリーンは肩で息をしながら立ち上がり、トドメの蹴りをポーターの脇腹へ炸裂させた。白目を剥き出しにして、泡を噴き出すポーター。
 乳ぶさに無残な爪痕を刻みながらジャクリーンは呼吸を整える。玄関のドアのノブを回してみたが、ポーターのいったとおり、ロックされている。扉が駄目だとすると窓を破らねばならない。ジャクリーンは窓辺に置かれているスチール製の椅子をガラスに投げつけた。が、割れるどころか傷ひとつついていなかった。特殊な防護ガラスが用いられているらしい。
 (ふん、さすがは刑務所の所長だけあるわ)
 ジャクリーンは腰に手をあてた。さてどうしたものか。
 (勘を働かすのよ、勘を……)
 落ち着こうとしたが、寸前まで手に入れている解放の興奮に眼が血走っている。ふと、脱ぎ捨てられたポーターのパジャマの上着がその眼にとまった。ポケットをさぐると鍵が出てきた。これがたぶん解除キーだろう。問題はこれを差し込むための操作盤がどこにあるか、である。玄関の付近にはそれらしいものはなかった。キッチンに駆け込んで見回す。ちょうどフリーザーの影に隠れるようにそれらしきパネルがあった。
 「よしよし、私を自由の国へ連れ戻して頂戴な──と」
 ジャクリーンは鍵にぴったりの穴にカチリとはめ、回した。豆ランプが点滅し、赤色に変わった。これでいいはずだ。キッチンの窓は嘘みたいにスルスルと開いた。雨がかなりの勢いで降りこんできた。しかし興奮に紅潮した肌には心地いいくらいである。
 ジャクリーンが窓枠に飛び付き、外へ転がり出るのと同時に玄関の来客を告げるチャイムが鳴った。キッチンの外はちょうどプールのある裏庭と玄関の中間地帯にあり、どちらからも死角になっていた。芝生は切れ、黒土にコンクリートの飛び石が点々と両方をつなげている。ジャクリーンは生身の肌を土に汚しながら壁に貼りつき、様子をうかがった。
 こんな時間にいったい誰だろう。
 いずれ応答はないのだから諦めて引き返すに違いない。ジャクリーンは正面玄関から逃げだす算段をしているのだ。この屋敷は高い塀に囲まれているし、家のなかの過剰な警備装置を考えれば外にもどんな仕掛けが隠されているかわかったものではあるまい。危険を冒すのは馬鹿らしい。
 ジャクリーンはいつでも裏庭へ駆けだす準備をしながら、壁のへりまで足音を忍ばせて近寄った。天然のシャワーが彼女の裸身を洗い流している。手がへりにかかった。そこから覗けば玄関が見えるのだ。
 ポーチには二人の男と一人の女が立っていた。顔は見えない。男たちは派手な原色のアンブレラをさし、女は濡れるにまかせている。ジャクリーンと同じブロンドのストレートボブがびしょ濡れになっている。黒いレインコートはどうみても男物である。何か尋常でない雰囲気が周辺に漂っていた。
 男の一人がイライラしているふうにタバコを投げ捨てた。横顔から、男はラテン系であると判断した。彼は返事がないのに焦れて、乱暴にドアを叩きはじめた。まずい、とジャクリーンは思った。ロックは解除されているのだ。彼の様子から紳士とはとても思えず、扉がすんなりと開けばズカズカと中へ入っていくことは想像にかたくない。そこで気絶しているポーターを見付ければ大騒ぎになるだろう。
 どうすべきか、考えあぐねているジャクリーンの眼に女の顔が見えた。
 (サラ!)
 思わず声をだしそうになった。彼女は大きなマスクを付けていたが、見まちがうわけはなかった。それは最愛の妹であった。数か月ぶりの対面である。刑務所へ面会にいったとき以来だ。その刑務所にジャクリーンも囚われの身となったのだが、近付いた距離に反比例してまったく会う可能性のない日々だった。涙がこぼれそうになった。自分もひどい目にあったが、彼女こそさんざんの待遇を受けていたのだろう。彼女の瞳は無気力でどんよりと濁っている。ジャクリーンの知っている妹とは印象が全然違うのが胸を締め付けた。ジャクリーンの心は決まっていた。サラも助けだし、一緒に逃げるのだ。そのための全闘争だったのだから議論の余地はない。
 ジャクリーンが案じたようにラテン系の男はノブに手をかけ、施錠されていないことに驚きながら、扉を開いた。しかしサラを救出するためにはそのほうがいいかもしれない。相手はむくつけき男二人──正体はロドリコ・ゴメスと手下の一人──、それも武器を所持している危険性がある。よほど不意をつかねば打ち倒すことはできない。中に入って事態に驚いたところを背後から襲いかかろう……。
 三人が家のなかへ消えるのと同時にジャクリーンは大股でポーチに辿りつき、死ぬ思いをして脱出した屋敷へ再び足を踏みいれた。
 「スピルマンさん! いないのかね?」
 ロドリコは声を上げながらホールを見回している。
 「様子がおかしいんじゃないですかね」
 手下が不安そうにいった。しかし二人はまだ事態の深刻さに気付いていず、のんびりとキョロキョロしている。
 「おや?」ロドリコは倒れているポーターに気が付いた。二人は腰を屈めて近寄っていく。
 サラとの距離が離れた。
 今だ。
 ジャクリーンは猛然とホールを突っ走り、手下の男に飛び膝蹴りを食らわした。男はまったくわけもわからずに、突然の後頭部への衝撃でぶっ倒れた。
 「なんだ、貴様!」
 さすがに百戦錬磨のロドリコはさっと身を翻してジャクリーンの攻撃をかわすと、懐から拳銃をとりだした。だがジャクリーンの右足が体操選手のように大きく跳ね上がった。パックリと開いた媚肉が視線に入った瞬間、ロドリコは拳銃を蹴り弾かれていた。拳銃は弧を描いてフロアを滑った。二人は競争するように飛び付いたが一瞬早くジャクリーンの手が早く奪い取る。
 「ク、クソッ」銃口をこめかみにあてられたロドリコは歯噛みする。「お前、女弁護士だな……」
 写真でみた美貌と想像していた以上の肉体が眼の前にある。
 ジャクリーンは答えず、彼を平手打ちした。
 「サラ、わかる? 私よ!」
 ジャクリーンはロドリコから眼を離さずに後退し、呆然と立ち尽くしている妹の横まできた。
 サラは手錠をかけられていた。コートの下はどうやら全裸のようである。
 「大丈夫。もう心配ないわ。逃げられるのよ」とジャクリーンは彼女のマスクを取り去った。「……ああ、なんてひどい……」
 サラの顔をみてジャクリーンの顔が崩れた。サラはボール状の猿轡をされていたが、それ以上に無残なのは鼻にぶらさがった金色のリングだった。ジャクリーン自身もことあるごとに鼻責めにかけられていたが、家畜の如きこのような鼻輪の辱めは経験がなかった。姉よりも線が細い印象の美麗な鼻が酷く引き伸ばされている感じなのだった。ジャクリーンはそれを取り去った。
 それよりもジャクリーンを戦慄させたのはサラの無反応ぶりである。ジャクリーンに会えた喜びはおろか、驚きすらないのだ。慌てて猿轡を外してやった。
 「サラッ。しっかり、しっかりして!」
 肩を揺さ振ってもとろんろした顔をしている。
 「無駄だよ」とロドリコは座り込んだままいった。「つい一時間前まで七人の男に輪姦されていたんだから。それも極上のコカインつきだぜ。地球が爆発したって目は覚まさねえよ」
 「お黙りなさい!」ジャクリーンは烈火のごとく一喝する。「ここで死にたくないんだったらそれ以上、一言も喋らないことね!」
 「ハイハイ。美しい姉妹愛とデカパイ・ヌードを見ながら黙ってましょ」
 拳銃のげき鉄がひかれ、凄まじい銃声が轟いた。弾丸はロドリコの頭上数センチを通って、背後の花瓶を砕いた。
 「て、てめえ、俺を殺す気か!」
 残忍な奴隷商人の声が見事に裏返っている。
 「今度はその腐ったドタマをぶち抜くわよ。こっちだって必死なんだからね。わかった?」ロドリコはガクガクと頷いた。「よし、それじゃ、キーを渡しなさい」
 「キー?」
 「決まってるでしょう。あんたたちが乗ってきた車のキーよ」
 「あ、あるある。そこでノビている男の懐だ」
 ロドリコは手下のところまで這っていきポケットに手を入れようとする。再び銃口が火を噴いた。
 「余計なことをするんじゃないっ。私が取るわ。両手を頭に乗せて下がってなさい」
 ジャクリーンが探ると案の定、そこにはキーとともにリボルバーが眠っていた。彼女はそれも抜き取り、サラのレインコートのポケットにいれた。
 「あんたを射ち殺してもかまわないけど、そんな楽にはさせないわ。すぐにFBIが逮捕しにくるでしょう。私の弁護士経験からして、生きているうちに刑務所から出られないわね。いい趣味をみつけることを忠告しておくわ」
 ジャクリーンは三発目の弾丸をロドリコの太腿へ命中させた。悲鳴とともに鮮血が吹き出し、ヒスパニッシュはフロアをのたうち回った。
 「さ、帰るのよ、サラ。家へ帰りましょう」
 ジャクリーンはサラの手を握り、玄関を飛び出した。
 「畜生。逃げられっこねえぞ!」背後でロドリコの喚き声が聴こえている。「警察も何もかもこっちの味方なんだからな。シャブ中の女抱えて逃げ切れるわけがねえさ。今度捕まったらお前は半殺しだ。一生とれないような鼻輪をぶらさげてやる。わかったか。女弁護士!」
 しかしそれも扉を閉めると聴こえなくなり、脱出は奇跡的に成功したのだ!
 昼間なのに薄暗い雨の道をジャクリーンはサラの手を引きながら必死に駆けた。冷たい雨粒が彼女の白裸をうちつけ、桃色に烟らせている。屋敷の玄関ポーチから正門までのおよそ二百メートルがジャクリーンにとっては気の遠くなるくらいに長く思えた。
 「サラッ、しっかり!」
 麻薬を射たれて足元がおぼつかない妹を励ましながら、ようやく正門をふさぐように停められている黒塗りのフォードに手が届きそうなところまできた。
 それはほとんど小さな痛みだった。
 無視してもかまわないような小さな痛み……ジャクリーンは自分の右の尻たぶに感じたのである。当然、車に飛び込んでから調べればいいと思ったのだが、背後のサラが泣き声に似た悲鳴をあげて立ち止まったのだ。
 「……どうしたの、さ、早く……」
 ジャクリーンはサラの視線が自分の尻に注がれているのに気付いた。ふと、顔を向けると、我ながら惚れぼれするような丸いヒップに、三角羽根が三枚ついた矢が突き刺さっているではないか。これが小さな痛みの正体なのだった。夢の中できく笑い声のように、じつに遠くで男の哄笑が聴こえたような気がした。屋敷のほうをみやる。声の主はすぐにわかった。二階のベランダに立っている全裸の男。顔は見えないが銀色の頭髪が稲光を反射していた。意識を回復したらしいジョージ・スピルマンは手にライフル銃のようなものを握っていた。
 ジャクリーンは矢を毟り取ると投げ捨てた。
 「走ってっ。立ち止まっちゃ駄目!」
 サラを引きずるように強引に車へ突進する。三歩走ったとき、ジャクリーンは瞬間的に自分の体重が何トンにもなったような錯覚に襲われた。足が地面にめりこんでしまった気分である。もう一歩も歩けないことは明白であった。
 (痺れ薬……?)
 ジャクリーンは中腰になって上体の重さを支えるかのように両手を膝のうえに乗せる。乳ぶさがたわわに垂れた。自分の呼吸が甲高く脳に反響する。あの矢には何かの毒が塗られていたのだろう。ハンティングを趣味とするスピルマンだからそのくらいの用意があっても不思議ではない。とうとうジャクリーンは強力な地球の引力に耐え切れずに、その場に跪いた。
 サラ、私にかまわず逃げて、と叫んだつもりだったが呂律が回らずウーウーと唸り声を発するばかりである。涎がつーっとあごへしたたり、乳ぶさへ落ちた。ジャクリーンはゴロンと地面に転がった。小指一本すらびくとも動かせなかった。呼吸も重苦しい。機能しているのは脳だけの感じ。意識を完全に奪う薬ではないのかもしれない……。
 彼女の視界には鉛色の空が厚く覆っていた。
 雨が落ちてくるのをじゅうぶんに観察できた。
 雨にうたれるのも自分の人生でこれが最後になるかもしれないとジャクリーンは思った。スピルマンの屋敷の壁に飾られているハンティングされた動物たちの首の剥製のなかに、自分の首も並ぶことになるのだろうか……。
 灰色の雲のなかにサラの顔がヌッと現れた。
 ああ、可哀相なサラ! こんな情けない姉さんで御免なさい。
 そのサラの顔の隣に銀髪鬼の顔が並んだ。
 「久々に興奮する狩りを楽しめたよ、ハニー。ありがとう」
 スピルマンはにやりと笑った。その笑顔の横に黒人女の顔。そしてロドリコ・ゴメスの手下の顔もみえる。
 「象をも倒す痺れ薬さ。もちろん何倍も薄めた奴だがね。空手のお返しにしてはちょっと軽すぎたかな」スピルマンは殴られた後頭部を撫でさすった。「さあ、獲物を連れていくぞ。犯罪行為には適切な罰が与えられねばいかん。むろん被害者たちの溜飲を下げる厳しい罰だ」
 スピルマンの指示に従い、ポーターと手下は口々に悪態をつきながらジャクリーンの手首足首を皮紐で縛り、二メートルくらいの鉄棒にそれを通した。仕留めた鹿を運ぶような要領だ。ポーターが前に立ち、棒を肩に担ぐ。手下は後を受け持ち、足を踏張った。ジャクリーンの裸体は地面を離れた。首をガクンと仰け反らせて長いブロンドが地面に引きずられている。
 「ローマ人に捕まえられたアマゾネス、という感じだな」
 スピルマンは笑いながら満足気にいい、サラの肩を抱き寄せて後につづいた。

 さて、残念ながら足に銃弾をぶち込まれたロドリコは手下に付き添われて、病院へいくことになった。
 「すぐに戻ってきて、ヤキ入れてやるからな、ブロンド女!」
 ロドリコはジャクリーンの顔に唾をはきかけて忌ま忌ましげに出ていった。
 ジャクリーンは食堂のテーブルに大の字なりに縛りつけられた。まだ痺れはつづいているが、一時ほどではなく、首を振るくらいはできるようになった。
 「う……むむ……」
 スピルマンを火のような視線で睨み付けている。彼はサラのコートは剥ぎ取り、全裸にして椅子に腰掛けている自分の足元に侍らせていた。頭を撫で、顔を撫で、胸にのばして姉のものより一回り小さな双乳を愛撫している。
 「ンンーンッ」ジャクリーンはそれが赦せず、狂ったように顔を振りたくっている。
 「嘆くことはないさ」とスピルマン。「君はよくやったよ。とにかくあと一歩のところまでいったんだからな。女囚では新記録というところだ。君がもう少し冷酷さをもっていて、私やポーターを殺していさえすれば脱獄は完璧に成功しただろうさ」
 鼻をうごめかせるスピルマンにジャクリーンは唇をキリキリと噛むしかない。
 「それとサラを一緒に連れていこうとしたのは大きなミスだった。足手纏いになることはハッキリしているんだし、無駄な時間を費やしてるうちに私が息を吹き返えしてしまった。そんな甘っちょろい精神では私から脱がれるのは不可能だ。だいいち、サラはもう昔のお前の妹ではないのだ。どっぷりセックスの快楽に染まって骨の髄まで淫婦になりきっているんだからね。まともな社会に戻るなど、今の彼女にとって不幸に違いないんだ」
 スピルマンはサラの可憐だがどこか色素の濃い乳首をひねりあげた。サラは牝猫のような声をあげ、スピルマンの足にキスをしていく。洗脳された娼婦の姿があるばかりである。
 食堂のドアが開き、ポーターが戻ってきた。彼女は一匹のドーベルマンを腕に抱き、もう一匹の首輪の鎖を引いていた。
 「どうだ、ウィリーとウィローの様子は」
 「ウィリーのほうは足を引きずっていますが、まあ大丈夫でしょう。ウィローは腹部に損傷を受けてますね。命に別状はないが、当分歩けないでしょう」
 ポーターは腕に抱えたウィローをテーブルに乗せた。そしてウィリーも尻を押すようにしてジャクリーンの横に乗せる。犬たちは仰臥している女が自分たちを殴り倒した本人である事実に気付いているのか、ただレイプ犬の本能なのか、鼻息を荒げて、攻撃的な視線をネメつけているのだった。
 「さっきもいったように」スピルマンはサラを突き飛ばして立ち上がると、テーブルへ近付き、犬の頭を愛しげに撫でさすった。「犯罪への罰は被害者が納得いくものでなくてはならない。もちろん物いえぬ獣たちには、人間が豊かな想像力で憶測してやらねばならない。彼らが何を望んでいるか、どうすれば傷ついた心を癒せるのか……」
 「やめてっ」ジャクリーンに声が戻った。「ひどいことは赦さないわ!」
 「フフ、ひどいこと、ってなんだね。私はまだ何にもいってはいないじゃないか」
 スピルマンは注射器を取り出した。
 「心配するな。麻薬ではない。素直に彼らを受け入れたくなるような気分にさせる薬だ」
 「いやッ」
 ジャクリーンは懸命に腕を動かそうとしたが、静脈にそれを射たれた。身体がカァーッと熱くなった。
 ポーターが一枚の皿をもってきた。そのうえには一缶丸ごとのバターの塊が乗せられていた。犬たちに動揺が広がった。
 「ひょっとすると君のいっているのは、ドーベルマンに姦される、というようなことかな。なるほど、それならこのウィリーとウィローの溜飲もおさまるかもしれないな」
 「や、やるんなら、さっさとやればいい。私は負けないわ。必ずあなたに吠え面かかせてやるから」
 ジャクリーンは唾棄するように真っ赤な顔でまくしたてた。彼女が恐怖で慄えあがっているのは明白であった。
 「やるなといったり、やれといったり、そうとう錯乱しているようだね。恐がるものでもないさ。さっき、私とやって悶絶したことの繰り返しなんだから。ただちょっと犬のペニスは私のより細いのが不満かもしれないがね」
 スピルマンはバターナイフで塊の一部を削りとり、ジャクリーンの大きく波打っている臍のうえへボトリと落とした。
 ジャクリーンは弾かれたように悲鳴をあげ、犬たちは激しく吠えたてた。
 「まだだぞ。ウィリーにウィロー。全身にたっぷりと塗ってからだ」
 スピルマンは犬を制し、ナイフの腹ですでに体温で融けはじめているバターの塊を押しつけていく。臍のまわりがギトギトにてかりだした。ポーターもまた脂肪の塊をスプーンで取ると、ジャクリーンの知的な額へ落とした。
 「何するのよ!」
 「二匹同時なんだから、身体の至る所にこすりつけていないと、足らないのさ」
 ポーターは事もなげにそういい、額の生え際からまんべんなく塗っていくのだ。
 犬に姦される恐怖と、皮膚の表面を脂の膜で覆われる気も狂わんばかりの異様な状況にジャクリーンは眼を剥きだして喚き散らしたが、その瞼すらポーターの巧みな汚辱のペイントになぞられていき、果ては鼻筋から、小鼻の脇、耳の後耳の孔までまず残らず塗りこめられるのだった。
 「うっ……」ジャクリーンはテカテカの顔を仰け反らせた。スピルマンのナイフが陰部にかかってきたからだ。
 下腹部をパックし終えると、次には当然、局部が狙われた。スピルマンは陰毛を掻き分けるような手間を惜しんで、うえから強引にバターの塊を滑らせるものだから、こんもりと高い土手にブロンドヘアーがこびつき、あるいは白いトロトロした脂を毛の根元にためていたりする。もちろんヴァギナにはバターナイフが挿入されて、奥深くまで異物が送り込まれた。とくに念入りに何度もすると、そのとば口は熱い石膏で固められたように塞がってしまうのだった。肛門へもあくなき陵辱が注がれた。
 ポーターは首筋から胸もとと下がってき、ふくよかな乳ぶさの隆まりの麓をベトベトにしていく。乳首を指でつまみあげ、肉丘をもちあげると、吊り鐘型のそれの表と裏をこってりとバターまみれにしていった。
 もうその頃になると、ジャクリーンの身体はカッカと燃え盛っていた。汗の孔や毛穴から体内に滲みこんだ脂肪が毛細血管を刺激し、神経を昂ぶらせているのだろう。ポーターは腋の下や腕を、スピルマンは二肢の足指の先から間さえも徹底的に矛先をすべらせていく。
 「……ああ、気分が悪いわ……」皮膚呼吸の困難さが脳をボォーッとさせた。
 「すぐに良くなるさ。犬は優しいからね。殺そうとした人間の肌も心から舐めてくれるよ」
 スピルマンはナイフを投げ捨てて、ジャクリーンの全身を眺めやった。ヌメるような光沢をたたえた裸像はみているだけで胸がもたれてくるほど、脂ぎっている。ムサ苦しい匂いといい、まるで三十女の濃厚な肉体を強調しているかのようでもある。
 ポーターはすでに抑制がきかなくなりはじめている犬たちを配置につかせた。ウィリーを頭部に、ウィローを大きく広げさせられた股間にそれぞれ座らせた。
 「一度、経験したら病み付きになるぞ。みてみろよ、あのペニス──」
 とスピルマンはあごをしゃくった。ジャクリーンが顔を仰け反らせて頭上を見上げると、ちょうどそこにお座りをしたウィリーの赤いペニスが勃起していた。小さなこう丸も双つ、ちゃんとぶら下っている。ジャクリーンはすぐに眼を背けたが、網膜にその不気味な色と形状がしっかりと焼き付いてしまった。
 「まずは丹念に身体中、愛撫してくれる。しかるのちにインサートして二匹の精を腹に吐き出すのだ」
 「イヤアアーッ──」
 スピルマンは指笛をヒュウと鳴らした。スイッチを入れられた玩具のように、二匹の犬は尖った顔を彼女の身体に差し伸べ、赫い舌を出してペロペロと舐めはじめた。ジャクリーンの筋肉という筋肉がひきつっている。ウィリーが激しく左右に振りたくられる顔面を追い回しながら猛然と舐めまくれば、ウィローはまず足を下から上へと攻め昇っていく。
 「やめさせてぇ、やめさせてぇ」
 ジャクリーンは大きく叫んだが、開け広げたその口へも斑点の乗ったハムのような唾液まみれの舌が差し込まれてしまう。
 「うぐぐ……」あまりのおぞましさに嘔吐感がこみあげてくる。ウィローの愛撫はとうとう腿の内側を刺激するにいたった。そこから決して触らせたくない局部まで、あとほんの数センチなのだと思うと、沸き上がってくる恐怖感が彼女に絶叫を迸らさせた。その声をきいて、頭上のウィリーが舐めを中断し、低く唸りはじめた。そしてもぞもぞと腰をあげ、彼女の顔を跨ぐように移動した。ちょうどジャクリーンの鼻先にペニスが揺れている。
 「ヒイーッ」しかしジャクリーンの喉を枯らした悲鳴も途切れてしまった。ウィリーが彼女の顔のうえにお座りしたからだ。尻尾のないドーベルマンの臀部がぴったりと彼女の口を塞いだ。薄汚い獣の皮膚と毛といやな臭い。そしてこう丸にペニスが美麗な彼女の鼻と花びらのような唇を押しつぶした。
 大喜びなのはスピルマンである。
 「どうだ、完璧に訓練されているだろう。あんまりうるさいと、こうして口を塞ぐように躾けているわけだ。しっかり犬のコックの臭いを嗅いでおきなさい。お前のプッシーはこれから一週間程度はその臭いが抜けなくなるんだから」
 身を低くして覗くと、真っ赤なジャクリーンの美貌が犬の跨ぐらで圧されているのがわかる。こんな時でも息をしなければならないわけだが、口を少しでも開ければこう丸やペニスを舐めるような畜生の事態に陥ってしまうため、ジャクリーンはまったく窮しているのだった。そこへウィローの舌が、ペロリと跨ぐらの中央を舐めあげた。くぐもった悲鳴が漏れてき、汗まみれの腰が跳ね上がった。最も大量のバターが流し込まれている股間を当然の如く、激しい音をたててしゃぶるドーベルマン。長い舌は巧みに媚肉の間に差し込まれ、上下に、あるいは前後に動かされるのだ。彼女の密な重なりをもった襞肉はそのたびに引きずりだされている。スピルマンがウィリーの頭を軽く叩くと、ジャクリーンの顔にお尻を乗せていた彼はすっと腰をあげた。
 息を吹き返したジャクリーンだが、安堵している場合ではなかった。ウィリーはそのまま顔を双乳へ垂れ、形のいいそれを舐めはじめる。今や二匹の獣は女弁護士の急所をコンビネーションよろしく嬲りぬく。
 スピルマンもポーターもこの地獄絵をうっとりと眺めている。部屋に充満するバターと犬の臭い、そしてかすかだが、たしかに女の体臭もそれに混じり、ムセかえる程のいきれだ。女弁護士はすっかり舐めあげられたツルンとした顔を力なく振っている。彼女がしだいに兆してきたことは明らかであった。動物と交わる、眼も暗むような変態行為の現実が脳を狂わせ、汚辱なだけのはずの猥褻なドーベルマンの舌技に肉悦を覚えはじめているのだ。さきほど注射された性欲昂進剤とかいう怪しげな薬も、身体を火照らせるだけではなく、ジワジワとジャクリーンの性中枢を撹乱し、狂おしい快美感を沸き立たせていた。
 「ああもうやめて……赦して……」
 赫い口腔を晒しながら淫らな色に染まっている瞼をつぶり、あるいは潤んだブルーの瞳を力なくふらつかせながら、ジャクリーンはそれでもまだこの色責めから逃れようとする無駄なあがきを断念しようとはしていないのだった。
 「そろそろ、たまらなくなってきているんだろうに」
 スピルマンは葉巻に火をつけた。椅子をテーブルの傍らまでもってきて、どっかりと座り、女弁護士の悩乱する表情をどこまでも堪能する気でいる。
 「これからのお前の運命を教えてやろうか」とスピルマンは彼女の額に貼りついたブロンドを掻きあげてやりながらいった。「まずは裁判が秘密裏に開かれて、お前の刑期を延長させる。そうだなあ。脱獄だけではなく暴行、それも拳銃乱射の殺人未遂があるからな。十年は楽に追加できるだろう」
 ジャクリーンはスピルマンの言葉に絶望的な呻きを洩らした。その間もピチャピチャ卑猥な音は途切れなく彼女を責め苛んでいる。
 「今の刑期は三年だっけ? まるまる十数年は食らい込むわけだ」ジャクリーンの鼻を指で弾くスピルマン。「出てきたときは四十歳を超えている。それもただのオバンではない。醜く痩れ果てた前科者のオバンだ。なぜならその間は例の地下室に閉じこめて、一歩も外へださないでやるからさ」
 「……殺して……いっそ殺して……」
 「殺すなんて野蛮な方法、とるわけがない。ここは文明国家なんだからねえ。それにお前は私を殺さなかったんだ。それに免じて命だけは助けるつもりだよ。十年間、たっぷり生地獄を味わわせてやる。おっと、自殺だって不可能な話だ。私の手にはお前の妹が落ちているのを忘れるな。お前が死んだらその身代わりに妹をたててやる。どうだ、どうにも逃れるすべはないだろうが」
 小気味良さそうに嗤う刑務所長にジャクリーンはキリキリと奥歯を噛みしめた。
 「毎日毎日、来る日も来る日も、拷問されるだけの十年間がつづくんだぞ。殴られ蹴られ、電気で責められ、鞭が肌を打ち、バケツの水に顔を突っ込まれる。レイプもされるぞ。今までは私がフィル・パーマーたちを押さえていたから身体には手を出してこなかったが、もう規制はしないつもりだよ。寝首を掻くような女は私の情婦には失格だからな。そんな女は共同便所に使うのが一番だ。お前の大好きなルイス・パーマーにも姦されるのだぞ。それにこのウィリーとウィローの練習台として定期的に獣姦も施すつもりだ。楽しみだろ?」
 ジャクリーンはもう声も出てこなかった。胸もとをこすりあげるように、ウィリーは己れの臀部をクリクリと移動させている。まるで自分の臭いを女体に染み込ませようとしているかのように。股間のウィローの舌もアヌスをとらえ、ねぶりまわしてくる。こんなおそるべきことが現実にあるなど、どうしても信じられないのだが、最も信じがたいのはそういった超変態の行為に昇せている自分だった。つい二三時間前までは、空手を奮って悪漢相手に激しい立ち回りを演じていたのだ。その激しい落差ときたら……。そしてスピルマンに宣告された苛酷な運命……。これまで不屈の闘志で戦ってきたジャクリーンにもとうとう本当の敗北の時が訪れようとしているのかもしれない。
 「さて、傷の深かったウィリーに一番手の栄誉を与えてやろう。この極上の性器にコックを挿入するのは、私以外ではお前が最初ということになる。いや、亭主もいたな。しかしまあ別れた亭主のアレなんかもう覚えちゃいないさ」
 スピルマンはウィリーを股間に座らせ、ペニスを弾いて刺激した。それが合図なのか、ウィリーの鼻息はひときわ荒々しくなった。
 「……恐ろしい……恐ろしすぎるわ……」
 ジャクリーンの顔は戦慄すべき悪徳の行為に怯え、しかしついに下されようとしている官能を突き破る肉棒の貫きに期待が滲んでいるのだった。
 ウィリーの前脚が彼女の汗ばんだ下腹にかかった。そして、細長いペニスの尖端がアンダーヘアの密集の中央へ触れてくると、ジャクリーンは小娘のように泣き叫んだ。ドーベルマンは不気味な呼吸になずみ、グイと身体を乗り出した。
 あッ、とジャクリーンは一声叫んで侵入を告げた。大の字の身体が隅から隅まで異物の挿入にひきつっている。おぞましい犬のペニスは熱く、そして硬かった。
 「交配される気分はどうだね。犬もそれほど悪くはないだろう。見た目はグロテスクでも、咥えこんでみれば皆一緒というのが、平均的な女の感想のようだぞ」
 たしかにそれはいえる。もしジャクリーンに視力がなく、あるいは臭いを嗅ぐ力が喪失していれば、それはちょっと変わったバイブレーターで悪戯されているといっていい程度のものだった。しかし、ジャクリーンが薄目を開けてみると、そこには紛れもなく犬の鼻面が迫っているのである! 舌をダラリと垂れ、涎をボタボタと落とし、白目を真っ赤に充血させている獣が身体のうえに乗っている。そして猛烈な獣の臭い……。もちろんあこぎな媚薬の注入さえなければ、快楽など一秒だって感じるわけがない。だが、現実は違うのだ。媚肉はウィリーの衝き進んでくる肉棒を締めあげようと必死に脈動し、子壷で受けとめようと、腰は淫らにくねっている。
 「気が変になっちゃう!」ジャクリーンはクシャクシャの美貌で訴えつづけた。
 スピルマンは凄惨な行為の一部始終を眼を皿のようにして眺めていたが、いよいよ佳境に入ってきたところで、ジャクリーンの頭を撫でつけはじめた。
 「このままでは犬の精液を子宮に浴びることになるぞ」
 「うーン……」
 「どうした、そうして欲しいという顔つきをしているが」
 嘲笑するスピルマン。ジャクリーンは完全に思考能力ゼロの表情で瞳をふらつかせている。
 「まあ、この期に及んでウィリーの一発を逃れるわけにもいかないが、それでもさっきの十年の刑期の話はいろいろと相談する余地はあるのだ」
 スピルマンはジャクリーンの耳元に顔を近付け、一言一言大声でいった。
 「……なんでもいうことをきくから……あの、地下室だけは……」
 ジャクリーンは絞りだすような声で答えた。
 「そうか、そうだよな。よしよし」子供をあやすように彼女の頭をポンポンと叩く。
 「それはな。お前の今後の将来、つまり刑務所から出所した暁の社会復帰にも役立つことなんだ。どうせ弁護士には戻れないんだし、手に職を付けていないと話にならないだろう」
 「手に職……?」
 「そうさ。世間の風は前科者には冷たいからな。誰にも頼らないで生きていけるように、特殊技能を身につけておいたほうが絶対にいいんだよ。囚人の生きていくよすがを手助けするのはクライズヒルズ刑務所の良き伝統なのだ」スピルマンはしゃあしゃあといってのけた。「幸運にもお前は女だ。女は男以上にその技能を備える資質があるんだ。どうだ、やってみないか」
 「それをすれば、地下室にいかなくていいのね?」
 ジャクリーンは朦朧とした頭で考えている。ドーベルマンの緩慢なスラストは延々とつづけられていた。
 「保障しよう」
 「拷問もなし?」
 「ないね」
 「犬は?」
 「これっきりにしてやるさ。それに成績と心がけしだいでは早期に保釈という線もありえるんだ。そういう女囚はけっこう多いんだよ」
 「あン……た、たまんない……」
 ジャクリーンは官能の昂ぶりに舌っ足らずわななきを洩らした。
 「どうする、ジャクリーン? やるかやらないか。どっちにする。こんないい話、一度蹴ったら二度と訪れてこないんだぞ」
 「やる。やるから私を助けて……」
 何をやらされるのか、その話がどこまで本当なのか、ジャクリーンにとってはどうでもいいことであった。犬に姦淫されながら詰問されれば、どんな女だっていいなりになるしかないだろう。しかも、彼女は今、達しかけているのである。ウィリーのピッチが早まってきた。それにつれて、ジャクリーンの熱っぽい喘ぎも切れ切れに小刻みになる。前脚が乳ぶさにかかり、踏みつぶした。それが仕込まれたテクニックなのか、偶然のなりゆきかは不明だが、ジャクリーンにとってはトドメの一撃になった。犬の鋭い爪が弾力のあるふくらみに食い込み、尖った乳首を弾いた。犬の涎が彼女の顔面に何滴も落ちた。異様な雰囲気に飲み込まれ、ジャクリーンは激しく息んだ。ドーベルマンが忙しなく瞬きをはじめた。そして何かを告げるように二度三度と吠えたてた。その鳴き声が甘えた、ひきずるようなものになったとき、どっと精が放たれたようであった。ジャクリーンは背中をブリッジさせる。痙攣がオイルを塗ったようになっている肢体を襲った。獣の熱い精液を体内に受けとめたおぞましさを忘れ、ただただ噴きあげてくる肉美の愉悦に痺れ切っている。ウィリーが性器を引き抜くと、ジャクリーンの身体も支えを失ったようにテーブルへ落ちた。
 「ああ……」と彼女は無意識に吐息をつき、赤ら顔を辛そうに横へ伏せた。彼女の跨ぐらからは人間ほど大量ではないものの、白濁が吐き出されている。爛れに爛れたジャクリーンのヴァギナはどくどくと余韻に打ち震えるように脈動していた。
 ウィリーを弾き飛ばすように、ウィローが身体を忍び込ませてきた。傷もウィリーより浅いウィローは元気溌剌としてジャクリーンに押しかかっていく。あとにはジャクリーンのか細い悲鳴と、じゃれつくような犬の吠えと、スピルマンとポーターの笑いがいつまでも交錯しているのだった。


  リップ・シスターズ

 一ヵ月後──
 クライズヒルズ唯一のカフェ『アミーゴ』の地下特別室は満員札止めの盛況を呈していた。およそ百人の客席のあるホールだったが、立ち見もでる程で、立錐の余地もない。ほとんどが男性客だが女性客もチラホラみえる。みんな私服であり、そのどこか垢抜けないファッションセンスだけからでも、彼らがクライズヒルズの住人であるのははっきりしていた。クライズヒルズの人口がおよそ二千人であるから、観客数は尋常な数でないことだけは明らかだ。
 「早くおっぱじめろ!」
 「もったいぶるほどのショーか!」
 客のほとんどはアルコールが入っているので荒々しい熱気に包まれている。野次や罵声は未だ幕の開かない正面のステージに向けられていた。客席より一段高くなっているステージは海老茶色の厚い幕に閉ざされているわけだが、その向こうで時折、かすかな女の啜り泣きが聴こえてきたりして、客たちの好奇心を煽っているのだった。
 ステージの上手からタキシード姿の男が現われた。スポットライトが彼を映しだした。まばらな拍手と笑い声があがった。「ロドリコ、もう足は治ったのか」と声が客席から飛び、冷やかしの野次がつづいた。なるほど、ロドリコ・ゴメスの右足の太腿にはまだ痛々しいギブスが巻かれていた。その傷が半年以上前からこのクライズヒルズの噂話を独占しつづけている女性弁護士の手によってなされたものである事実を、客たちは当然のように知っているのだった。そして客たちはその才知と美貌とポルノ女優まがいの豊満な肉体を兼ね備えた、それも東部からやってきた女性弁護士が初お目見得する秘密ショーに大金を払ってここにきているのである。
 「長らくお待たせいたしました──」
 アミーゴの支配人、ロドリコ・ゴメスはマイクを手にして喋りはじめた。足を引きずりながら中央へ歩いた。その大袈裟な負傷の態度は九割方演出である。銃弾は肉を貫通していたが、骨をそれていたし太い血管も傷つけなかったので、半月足らずで歩けるようになり、今はもう引きずる必要もない。もちろんギブスなどハナからいらなかったのだが、脱獄した女囚にあえなくしてやられ、自分の拳銃で足を撃ちぬかれる失態──それも女性弁護士は致命傷を避けるように注意深く弾をそらしてくれた、誇り高きヒスパニッシュのマフィアには耐えがたい屈辱を、少しでも中和するためにもこんな小道具が必要だったわけだ。それに、これから始まるショーにとってもロドリコの女性弁護士に対する遺恨が強ければ強いほど演出効果は高まるという、抜け目ない計算も働いている。
 「今日のこの日を私はどれほど待っていたことでしょう。いや、それは皆様方においてもたぶん同じだったと思います」ロドリコは万感胸に迫った顔をして、口上をつづけた。「私にとってはこの傷を負わせた憎きかたきであり、クライズヒルズにとっては治安と秩序、伝統と文化の破壊者である恐るべき女が今夜ここで我々に身を捧げて謝罪することになったのですから、溜飲も下がろうというものであります……」
 拍手。そして早く始めろという罵り。ロドリコは両手をあげてそれらを制した。
 「紳士淑女の皆さん。これ以上の解説はまったく無意味であります。今日ここにお忙しいなかお集まり戴いたご恩に、アミーゴの支配人、ロドリコ自ら厚く御礼申し上げましたところで、さて、それでは幕を開けることにいたしましょう! 姉妹揃って罪を犯して獄に繋がる暗黒の過去を一切捨てて、今、名前も新たに生まれ変わり、額に汗して働くことを決意した彼女たちの初ステージを、どうか最後までごゆっくりお楽しみください、ドーセット姉妹改め、リップシスターズ! 登場です!」
 ロドリコの手が大きく広がった。場内を圧倒するファンファーレがスピーカーから溢れだした。ステージを仕切っていた幕が左右に開きはじめた。
 ロドリコを照らしていたスポットライトが消え、ステージは暗闇が支配していた。野次を飛ばしていた観客たちも何が起こるのかと固唾を飲んで見守っている。
 狂暴な鞭の音がステージの闇を切り開き、フロアに叩きつけられた。リンとしたロドリコの声が轟いた。
 「お前の名前は何という?」
 と同時に一筋の照明がステージの右端を映しだした。その円のなかにくっきりと女の後ろ姿が浮かび上がった。黒のTバックを腰に締めあげただけのまばゆいばかりの裸身は、三メートル四方の鉄のフレームの枠のなかに、X字型に四肢を広げて繋ぎとめられているのだった。まるで蜘蛛巣に捕らえられた蝶のように。
 「……私の名前はサラ・ドーセット……」女は腰を淫らにクネらせていった。
 ロドリコの振りあげた長い鞭が大きな弧を描いて彼女の双臀に叩きつけられた。絶叫と吊られた身体の激しい苦しみように、観客はただ茫然と見入っている。
 「ほ、本当の名前はリトルリップ……リップシスターズの妹よ。お見知りおきを!」
 そこまでいわせると、ロドリコは再び鞭をふるい、今度は白い背中を袈裟に打った。サラの悲鳴は暗闇に消えた。
 またもや暗転。しかし観客は次にくる場面を予想して眼を充血させている。
 「お前の名前はなんという?」
 ロドリコの声。そしてライト──。
 ステージの左端には同じく正方形のフレームのなかに、今度はむっちりと肉感的な大柄なプロポーションの女が吊られていた。
 「私の名前はジャクリーン……ジャクリーン・ドーセット……」
 Tバックをキリキリと割れ目に食い込ませた巨きなヒップがブリブリと振られた。残忍な輝きを浮かべたロドリコ・ゴメスの黒い瞳がいやらしくそこへ注がれ、鞭を頭上で振りまわしながら狙いをつける。シミひとつない真っ白な臀丘が空を切る殲烈なその音に縮みあがり、背筋まで垂れたブロンドが恐ろしげにざわめいた。
 「それっ!」ロドリコが渾身の力で打ちおろすと、鈍い音をたてて肉が弾けた。ガクンと仰け反った顔を客席からみていると、長い睫毛と高い鼻が覗けるだけだが、女が絶叫を迸らせる苦悩の形相をしていることはハッキリとわかった。姉にはつづけざまに二発目がお見舞いされた。
 「本当の名前は!」とジャクリーンは痛みの衝撃を少しでも和らげようとするかのように、大声でほざいた。たった二発で、彼女の臀部はピンク色に染まっている。「ビッグリップ。リップシスターズの姉よ。お見知りおきを!」
 一斉に照明が乱舞をはじめた。極彩色のレーザー光線がステージを客席を走る。BGMはカントリー&ウエスタン。バンジョーの軽快なリズムはこういう場所で聴くと、何とも人を小馬鹿にしているようだ。もちろん馬鹿にされている対象はステージのうえの、東部からやってきた元フリールポライターと元弁護士の姉妹である。
 全裸の黒人が二人、袖からでてくると、リップシスターズが吊られている鉄枠をガラガラと移動しはじめる。枠の下にはキャスターが付いているのだ。彼女たちは正面の姿を客席に見せることになった。
 おおー、どよめきが起こった。二人ともタイプの違いこそあれ、甲乙つけがたい肉体をしている。がっくりとうなだれているので、顔は拝めなかったが、贅肉ひとつないスレンダーなリトルリップの若々しい肢体、完熟といっていいパンチのきいたビッグリップの豊満な身体……客たちは生唾を呑み込みながら交互に視線を這わせるのである。
 「さっさと跨ぐらをみせやがれ」「鞭でそのデカパイを血染めにしろ」「顔だ、顔! 非国民の顔を晒せっ」
 放心状態が解けると、口々にいいたい放題の要求をしはじめた。
 ロドリコはシスターズの中間に立ち、恭しく一礼すると、両手を広げて、彼女たちの金色に輝く頭髪をわし掴んだ。そしてグイとねじりあげた。観客のなかの数名の女性たちの間から、悲鳴が起こった。ビッグリップ、リトルリップ共に、鼻のしたに不気味なリングがぶら下っていたのだ。
 「鼻輪じゃねえか。乳牛だぜ、まるで。こりゃ牝牛だ」
 一瞬呆気にとられていた男たちはゲラゲラと腹を抱え、頭を掻き、大声で笑いだした。
 すべての誇りと人権を剥脱され、ジャクリーンは涙も枯れたような虚ろな表情を前に向けている。サラと違い、そんな戒めを施された容貌を不特定多数の人間の前で披露するのはもちろんこれが初めてなのだった。執念の脱獄が寸でのところで失敗し、罰として受けた身も凍るドーベルマンとの獣姦の最中に承諾させられた労働奉仕の正体がこれだったのである。淫売宿で変態ショーのスターとして裸身を晒し、臓物を晒し、客たちの過激な要求に応える、それだけを日々の目的として肉奴の鍛練をつむ生活こそが、彼女がクライズヒルズ刑務所の拷問部屋から逃れる代償として払った対価なのであった。この一ヵ月間、奴隷商人ロドリコ・ゴメスの元でスパルタ教育がなされてきた。変態娼婦になるためのテクニックをサラと一緒に身体に覚え込まされた。自分に弾丸を打ち込んだジャジャ馬を仕込めるとあって、ロドリコの熱意が相当なものであったのも当然のところだろう。これでは刑務所の地下で看守たちにふるわれる暴力とちっとも違わないと思わせるような折檻と訓練であったが、ジャクリーンにはそれに反発する気力も理性もすでに麻痺していたのだった。この一ヵ月で、女弁護士はすっかりプッシーでものを考える女に改造されてしまったといってよかった。身体も以前より、さらに丸くなり豊かになった。徹底したシェイプアップと食事療法で、バストはより美しく、ウエストは絞られ、ヒップは巨きくなった。どこかツンとした知が勝った印象をもつ顔も柔和に肉を付けたようで、丸顔になりつつある。テキサス男の好みに合うように品種改良されたわけだ。
 わずかに残していた人間的な感情も今朝取り付けられた鼻輪によって雲散霧消した。女に引導を渡す効果が鼻輪にあることをロドリコ・ゴメスは熟知している。
 「さて美しきリップシスターズの自慢は顔やプロポーションだけではないのです。ここ──と、ロドリコは二人のTバックのフロント部を撫でる──こここそが彼女たちの最も皆様にお見せしたい自慢の箇所であるのです」
 拍手を待つようにロドリコは間を置いたが、ゴックンボディを目のあたりにしている客たちには芝居がかった演出はまだるっこしい時間の浪費にすぎないのだった。それを敏感に感じとったアミーゴの支配人は慌てて本題に入った。
 「わたくしがここで今すぐ毟りとってお見せするのは、あまりにも風情がない。サービス精神にかけた愚であるといえるでしょう。そこで皆様のなかから有志をつのり、その方にこのTバックを取って戴きましょう。いかがですか、皆さん!」
 これに観客たちは歓声と口笛でこたえた。さっそくオークションが始まり、外した人間がそのままTバックをもち帰れるときくと、値はどんどんと競りあがっていくのだった。
 二人の男が最終的な値をつけてステージに招きあげられた。観客たちは彼らの財力を呪い、幸運を妬んだ。一人は黒人でいかにも成金趣味のケバイ指輪をたくさんハメている。この地方の人間でないことはすぐにわかった。クライズヒルズの秘密ショーは州外にも会員をもっている。
 もう一人のほうは誰もが見知っている男であった。そしてジャクリーンさえもその名を知っていた。
 「ルイス・パーマー……」と、ジャクリーンは呟くようにいった。
 しかしその響きには恐怖も嫌悪も混じっていない。高次の人間的な感情とはオサラバしている。ただ視野に映る長髪の小男の正体を呼んだにすぎないのだ。
 「こらっ、お客様を呼び捨てにするとは何事だ」ロドリコは怒り、短く握った鞭を太腿にあてた。「フガフガいってないで腰の物を取ってとおねだりするんだろう、え!」
 「ああ、御免なさい、旦那様!……」ロドリコのことをジャクリーンはそう呼ばされているのだ。「素敵な紳士のあなた。私の跨ぐらを隠しているつまらないものを取ってくださらない? ビッグリップは自由を愛する女。スッポンポンじゃなきゃ息苦しくなるのよ。ね、お願い」
 ジャクリーンはたしなみのかけらもなく、腰をねっとりとローリングさせるのである。
 「ハニー、やっぱりお前の本性はド助平だったんだな。最初に暗視スコープに映ったお前をみたときから、俺はそう直感していたぜ」
 ルイスはそういって彼女の股間に腰を屈めていく。暗視スコープ? それはいったいなんだったっけ? ジャクリーンには間近な記憶もすでに薄れつつあった。
 「さあ、どうぞ。思い切り剥ぎ取ってやってください」
 ロドリコの指示を仰ぐまでもなく、ルイスは扇情的なランジェリーの上縁に指をかけた。黒人もサラの腰にむしゃぶりついている。観客たちはソワソワと二人の股間に視線を行きつ戻りつさせている。
 ルイスは変態男の本領を発揮して、羞恥を煽るようにゆっくりと下げはじめた。真っ白な下腹部に疎らな陰毛の生え際があらわになると、どっと歓声があがった。ジャクリーン改めビッグリップは頬を赫らめてはいたが、羞恥というより骨の髄まで染み込んだ肉奴隷の昂奮が原因のようである。
 疎らな茂りはすぐにムッとするほどの濃密な毛叢へと広がった。手を背後へ回し、バックも同時にずりさげる。高い尻梁の谷間に深々と食い込んだ紐状のバックをズルズルといった感じで毟ると、ビッグリップは鼻輪を揺らせてあごを突き出した。
 開帳された両肢のために太腿の付け根辺りからそれ以上下がらず、ルイスはロドリコから渡された鋏で切り取って、すべてを露出させた。ルイスは愛しげにまだ体温の暖かみが残るそれを両手で掴み鼻面に押しあてる。そして頭からかぶった。変質者の行為に失笑が沸き起こったが、そのルイスがフサフサのアンダーヘアを掻き分け、ビッグリップの源氏名の由来になっているラピアを摘み出すと、観客の一人残らずがルイスと同様の変質者の眼となってしまう。隣の黒人もリトルリップを丸裸にした。それが引き金となって観客は暴徒と化し、ステージへ乱入した。ロドリコや店の者が制止しようとしたが、奔流の勢いは止められなかった。リップシスターズはそれぞれフレームから引き剥がされて、男たちに担がれ、波に飲まれていった。
 バンジョーの軽やかな音色だけが満天の星のクライズヒルズの夜を歌っていた。(完)


 この小説には後に外伝(サイド・ストーリー)「赤毛のモニカ編」
 が書かれている。詳細は、こちらから


  『前へ』