『いつか晴れた日に』

どんな場所で、どんなものを手掛けようと、水準以上の作品を
仕上げてくるアン・リー監督の手腕が発揮された佳作。

★★★


 去年一番の収穫は、アン・リーの作品との出会いでした。きっちりとメインの話を描きながらも、独自色を織り込んでいく作風には感心しました。そして、彼の新作です。今までアジア系の題材と俳優で作品を作っていた彼がまったく別の題材で撮ったというのです。海外での評判も非常によく、期待は高まるばかりでした。

 普通なら、今までとはまったく違った題材を使うのですからファンとしても心配になるはず。しかし彼の今までの作品は、そんな外的な、表面的なものには揺らぐはずない真の実力を示していました。全体を支配する繊細さ、登場人物の微妙な感情をタイミングよく提示する手腕があるのがわかっていたので、きっと新作でもその実力は発揮されているのだろうと信じていました。

 自分の技術を誇示することが主目的のような映画と出会うことがあります。しかし、彼のどの映画でも、映画を、そして物語を輝かせるために、自らの技術を控えめに使用します。これぞまさに職人的な姿勢です。『推手』『ウェディング・バンケット』『恋人たちの食卓』と、どんどん傾向が強くなっているように思えます。

 この『いつか晴れた日に』の被写体に対する距離をいつも保ち続け、決して煽ることがありません。そして、それに応えていくエマ・トンプソンをはじめとする役者たち。特にエマ・トンプソンは、映画の前半ではいろいろな思いを抱え込んでいる役柄をうまく演じています。だからこそ、後半になって、その抱え込んでいたものが表に出たときに、非常にインパクトを与えます。

 アラン・リックマンやヒュー・グラントなど男優たちもそれぞれはまり役で、女の世界を周りからうまくあぶりだす役割を果たしていました。

 ぼくがこの映画を銀座シネパトスで観ました。この映画館は地下鉄の音が漏れるので、あまりいい上映環境ではありません。しかし、長丁場の上映時間内でそんなことをほとんど気にさせないほど映画に引きづりこまれました。