私は山口県以外のすべての中国地方で竿を出したことがる。とはいえ、広島は吉和村の小川川だけだが。

中国地方には基本的には天然種でいえば4種類のトラウトがいる。山陽地方のアマゴ、山陰地方のヤマメ、イワナ、ゴギである。また、一部河川では、ヤマメ、アマゴの降海型のサクラマス、サツキマスもいる。降海型もそれは貴重であるが、それを除くと、非常に貴重な存在は山陰地方の斐伊川水系以西に分布するゴギだと思う。

まるでアメマスのような大きな白い斑点と、頭頂部にみられる虫食い模様が特徴的なイワナだ。

その昔、偉大な生態学者で、棲み分け論で有名な今西錦司は、実は渓流釣りのエキスパートとしても知られており、渓流魚や渓流釣りに関する論考も多い。彼の論文の中に「中国地方のイワナ探検(1960)」というそのままズバリのタイトルのものがある。[「イワナとヤマメ」平凡社ライブラリー96年発行に収録]

今西がゴギを探して歩き回った中国山地。彼の足跡を想像しながらの釣行もまた楽しい。

イワナ属の分類は昔から、分類学者にとっては頭痛の種で、今西も上記の本の中でイワナ属の分類を試みている。イワナの分類については、84年に岩波新書から出版された「イワナの謎を追う」(黄272)岩城謙吉著が包括的でわかりやすい。今西らの議論も当然触れられている。

私は97年に島根県のとある川でゴギと対面することができた。その日はその一匹だけだったが、非常に印象に残る魚だった。山深い、深山幽谷という言葉がぴったりくるようなその場所の雰囲気もよく覚えている。


私がフライで初めて釣った魚はイワナだった。そのせいかイワナに対する思い入れは強いようだ。

岡山県北のとある川の支流の更に奥の・・・要は藪沢というか、用水のような場所だった。岡山県内のイワナは書籍などから判断するとどうやら鳥取県からその昔移植された子孫らしい。

岡山ではあまりイワナは一般的でなく、生息域もあまり多くないが、それでも彼らは懸命に生きている。今西の棲み分け理論ではないが、アマゴの領域よりも上流に彼らはひっそりと棲んでいる。

実は鳥取県では、特に千代川(せんだいがわ)水系にはアマゴが多い。これは昔岡山の作州アマゴは旨いという理由で移植されたらしい。笑ってしまうような話だ。ニジマスと違い、アマゴやイワナの養殖技術が確立されたのはわりと最近のことであって、ヤマメの種苗が間に合わずアマゴを放流した例も多いと訊く。鳥取のアマゴはひょっとしたらこのためかもしれない。


アマゴやヤマメ特にイワナは個体差が大きく、これは天然物だとか、養殖物だ、この河川固有種だとか釣り人を悩ませる。(というか喜ばせる)。養殖場では高密度で飼育されるために、個体間の喧嘩が多く、尾鰭をつつかれるせいか尾鰭が丸い個体が多い。釣り人の間では、「尾鰭がグー」と呼ばれる場合がある。これはジャンケンの「グー、チョキ、パー」の「グー」であり、goodではない(笑)。

この辺がわかってくると、「ちぇっ。養殖物か。」とか「尾鰭がピンシャンの美人だ。」とかいっぱしの鑑定人になれる。なぜか釣り人は天然物を尊ぶ傾向にある。私もそのうちの一人だが、なぜなのか深く探求したことはない。釣り人はすけべで美人が好きだ。そうゆうことだろう。

ところが、この養殖物も、時間が経つにつれ、鰭が回復し天然物と見分けがつかなくなるらしい。そうなると私ではさっぱりお手上げである。専門家にDNA鑑定でもしてもらわないとわからないだろう。しかし、天然物という言葉の定義はやっかいである。万世一系ほんとに養殖魚の遺伝子を受けずにひっそりと世代交代をしている個体をいうのであれば、その個体数はすごく少ないのではないか。また養殖魚が何世代にも渡り自然河川で繁殖をしてきたものは果たして養殖物と言えるのか。


天然物といえば、人の介入が少ない河川の最上流部にひっそりと生息している。(と私は思いたい。)漁協もなく、多分ここにいる魚は天然物に違いない(と勝手に想像を巡らせる)と思わせるような魚が釣れることがある。

岡山県にも何カ所か、鳥取でも何カ所かそうではないかと思わせる魚を釣った。彼らは下流で釣れる魚に比べてパーマークや腹部の黒点に特徴がある。パーマークの形が丸かったり、数が多かったり、黒点も非常に数が多かったりする。アマゴの水系なのにほとんど朱点のない個体もある。ただし、これは勝手に私がそう思っている(願っている)だけで、本当はそういう特徴をもった先祖がたまたまそこに放流されただけかもしれないし、自分のロマンを釣れた魚に投影しているだけなのかもしれない。

ただ思うのは、いつまでもそういった魚にそこで泳いでいてほしい。それだけである。

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