佐渡遠征記

私が糧を得ている職場には、勤続15年を迎えると特別休暇を与えられるチャンスがある。今年がその年であった。釣りバカとしては色々と策を練った。最初は知床にでもいってカラフトマスなんかを海から狙おうかななんて考えていたのだが、北海道は飛行機を使えば意外に近い場所である。知床には、以前にいったことがあるし、海の鮭釣りは殺伐としてるらしいとの話も聞いた(まあ実際ウトロの海岸に餌釣師が大挙して並んでいるのは私も見た)。では、公共の交通機関を使わないで自分の車でかろうじていけて、さらに女房殿も一緒にいっても不満がでず、欲を言えば観光もできて、他の釣師もおらず魚の多い場所、さらにあわよくば海でも釣りができそうな場所はないか・・・そういえば佐渡島は渓流魚の魚影が濃いし、観光名所も多く面白いらしいという古い記憶が蘇ってきた。

実は8月に、柏崎在住の義兄夫婦がたまたま岡山に来た時に佐渡島は面白いから是非来てみたらいいと話して帰ったのもきっかけの一つであった。さっそく作戦を練った。9月第一週佐渡島遠征計画である。ところが、台風14号である。計画が流れてしまった。作戦を立て直し、9月最終週に決定し、仕事の根回しを完了させ出発の準備をした。いや、正直に書けばあまり準備もリサーチもせず宿とフェリーの予約は早めにネットですませ、フライも巻かずに出かけることになっちゃったのである。一週間分の仕事を前倒しで片付けるのが精一杯であった。

女房殿の仕事の関係もあって、23日から連続休暇なのだが、出発が25日。25日は金沢泊。翌26日は柏崎泊。27日から佐渡島。30日に帰岡というスケジュールを組んだ。ちょっと普段の釣行記と違うのは女房殿同伴なので、半ば旅行記のようになってしまうのだが、お許し願いたい。では、金沢のことから書き始めよう。


金沢には25日の午後6時頃到着した。岡山から、山陽道、中国道、名神、北陸道を経て約5時間の行程であった。ホテルは駅前に取った。10年以上前に仕事で訪れて以来久々だったのだが、駅前の変貌振りには少々驚いた。駅舎がヨーロッパの駅みたいになってるのも知らなかったし、ホテルの乱立している様子もすごい。駅前の高いビルは全てホテルである。その分ホテル間の競争も激しいようで、いい部屋を安く泊まれて少しラッキーだった。夕食は金沢駅近くの和風居酒屋みたいな店で取ったのだが、これもあたりだった。いろんなものが非常に美味い。一番気に入ったのが「アジのいしる漬け一夜干し」を焼いたものであった。「いしる」とはしょっつるのようなもので、魚醤である。北陸ではイカやイワシから作られる。気に入ったので、後日いしるを一本、消費のために買ったりしたのだった。

翌26日。この日は柏崎までの移動日なので、特に何もすることがない。兼六園の観光に出かける。たんなる観光旅行者である。園内の川をなにげなく見ていると、ウグイの群の中になんとヤマメが一匹紛れ込んでいたのを発見しちょっと笑ってしまう。園内の池や水路は、犀川から用水をひいているからだろう。こんなところで出会うとはちょっと驚きである。(証拠写真もあるのだ。)

金沢の街は小京都と呼ばれるだけのことはあり、観光資源は豊富だし、なかなかいい。古の文化がまだ息づいているし、施設や実際の消費財としてもまだ残っているのが素晴らしい。そういえば、加賀毛鈎も金沢発祥だよなあ。土産物店で金箔のはいった瓶を手に眺めながら、これってエポキシにラメとして混ぜればいい感じになるのではないかなどと空想していたら、女房殿に怪しい目で見られ、あわてて瓶を落としそうになる。

昼前に金沢を発つ。途中有磯海のSAに立ち寄り、昼食。ここのレストランはホテルニューオータニが経営しているのが売りのようで、食事メニューに凝ったモノが多い印象を受けた。富山湾名物の白えびを使ったどんぶりをチョイス。美味いんだけど、量が多すぎる。人間贅沢である。夕方柏崎へ到着。柏崎という街は、日本石油発祥の地であり、昭和初期までは石油で賑わっていたという歴史を持っている。町中をほんの少しだけ車で通っただけの印象的な感想で申し訳ないが、古い街並みが残っているわけでもなく10万人の人口を抱える都市としてはさほど特徴的なものがあるわけではない。前日が金沢で、その翌日からが佐渡島というはっきりした観光的な「売り」がある場所に挟まれているのが、その印象の主因だと思う。(翻って我が町岡山はどうなんだと問いつめられると、同様にあまり売りがないような気がする・・・積極的に発見するよう努力しないと街の良さってわからないのですよ。きっと。)

ただし、食い物は旨かった。なんか食ってばかりいるような・・・。釣り以外だと食くらいしか興味がないのも困ったものだ・・・。義兄に連れていってもらった和食の店は海産中心で、特に印象深かったのが、ノドグロの塩焼きと「せいろ飯」であった。ノドグロ(アカムツ)は日本海で良く水揚げされる魚だが、食べたのは初めてだと思う。これが脂がのって美味いのだ。身は柔らかく上品な口当たり。味は臭みがなくて旨味が多いタチウオという印象である。もう一つがせいろ飯。ダシを効かせたご飯にホタテ、蟹、山菜などを乗せて蒸し上げ、さらにイクラをトッピングしたものなのだが、これがまた素晴らしい。宿に戻った頃にはもうお腹がぱんぱんで子持ちししゃものような気分で幸せに?寝た。


27日。今日は佐渡島へ渡る日である。フェリーは昼の便なので時間がある。義兄に勧められた木村茶道美術館に寄ってみる。柏崎は、なぜか有能なコレクターを排出する街として一部では有名らしい。(>柏崎コレクションロード、>木村茶道美術館)どうしてそうなっちゃったのか不思議なのだが、まじめな気質の金持ちが多かったようなのである。この木村茶道美術館の売りは、国宝級の茶碗でお茶をいただけるところである。朝10時の開園からさっそくおしかけてみた。正式な茶道の様式で点ててくれるのだが、かしこまる必要はない。わたしなどあぐらを組んでいたのだ(いや、だってあぐらでもいいと係の人が説明するもんだから・・・)。お茶碗の推定値段は聞いてびっくり数100万〜数千万円だそうである。このコレクションを柏崎市に寄贈した木村氏は、飾るだけじゃなくてちゃんと道具として使ってほしいという希望をしたそうだが、その意を尊重してちゃんとこうした施設を作った柏崎市はえらいと思う。説明をしてくれた人の話によれば、コレクションの総額は、現在の価値に直すと約14億円にもなるそうである。なんだかそんな話を聞かされるとお茶やお菓子の味なんてよくわからなくなってしまうのである。お茶の世界は青天井なんだなあ。私のやってる釣りなんてまだまだ可愛いもんだ・・・じっと女房殿の顔を見る・・・。で、お茶碗やほかの茶道具を色々と説明してもらうのだが、この世界の善し悪しを分かるには、やはりそれなりの鍛錬というか目利きや素養が必要であるという単純な感想しかもてなかったのだ。はっきりいえば、分かったような分からないような世界である。逆にいえば、釣りをしない人に釣り道具の善し悪しがわからないのと同じなのと一緒だろう。難しくいえば、そういった世界(言語ゲーム)のプレーヤーとして暫く過ごしてみないと、価値体系は見えてこないということなのだろう。

佐渡島行きのフェリーは直江津港から出るので、一旦北陸道を西に戻る。上越インターを経由し所要時間40分ほどで直江津港に到着。乗船手続きを済ませコンビニで買ったおにぎりなどを休憩所で取っていると、観光の団体さんが大挙して現れる。こんな平日に観光ができる人達は、やはり引退したお年寄り達が多い。彼らが日本の観光を支えているのだ。ただまあ彼らはお行儀がいいとはいえない。気が付けば、イスを四つ占領して昼寝しているばあさんがいた。

13:50分発の「こざと丸」に無事乗り込み、いざ佐渡島は小木港へ。疲れていたため途中から爆睡。天気も良く、波もない快適な船旅であった。佐渡へは夕刻到着。宿へ直行し、ほとんど何もせずこの日は終わり。


28日。午前中は佐渡観光である。佐渡金山にいってみる。坑内の要所要所に動く人形が設置してあり、少々不気味だが分かり易くて面白い。坑内は気温11度と低い。寒いくらいだ。説明によると、排水が大変だったらしく、人力ポンプ作戦で人海戦術をしていたらしい。手掘りでよくここまでやったなぁというのが正直な感想である。

→これは金のインゴット12.5kgに触れてご満悦の釣りバカさんの様子。この金塊を穴から取り出せば、記念品をもらえるとのことだったのだが、出そうで出ない。

午後、いよいよ釣り開始である。外海府の海沿いを走りながら、適当に川に入る。どこでもそこそこ釣れるらしいのだが・・・。そう甘くはなかったのである。二番目に入った川でようやく反応があった。渓相は河口付近でも抜群。チビヤマメばっかりなのだがまあしっかり釣れる。ヤマメはもう飽きたので、イワナを釣りたい。では、次の川へ。

この川もかなり美しい。河口から3kmほど上った場所だが、出るのはヤマメばかり。さらに2kmくらい上がるがやっぱりヤマメ。どうも川の選択を間違えているようだ。それでも流れの緩いところからなんとか2匹のイワナを出した。比較的大きな淵に巨大な魚影を発見し暫く粘ってみる。だが、よく観察してみると他にも大きな個体がいてどうやらペアリングを開始しているような雰囲気で、二匹で追いかけっこするのが忙しいみたいで、フライには全く興味がないようだった。今日はとりあえずここで終了。

晩飯に地元の回転寿司屋に入る。これがアタリで、地物がけっこうある。親切に「地物」と表示されたカンパチ、ブリ、ブリのタタキ、ウニ、アジ、などを中心に頂く。美味い。たらふく食べ過ぎて、佐渡牛のタタキが食えなかったのが心残りであった。

 

29日。今日は優しい?妻のはからいで、終日釣りができるのであった。宿で自転車を借りた彼女は、佐渡中心部の観光に出かけた。私は川へ。昨日二番目に入った川を奥まで詰めてみることにする。

うーむ。やっぱりヤマメだ。しかし天気も良くて川も綺麗で気分はいい。少しだけイワナも出た。一回小さなイワナがフライに出てくるところに横から非常に大きなイワナが飛び出してきたのだが、私と眼があったとたんお隠れに・・・。その後も良いサイズには恵まれず、川探しに切り替えた。

色々と回って二本目の川(内海府側)でイワナの鉱脈にあたった。これぞ佐渡?いや、よくわからないが、ポイント毎に魚が出る。パチンコの大当たり状態だ。とはいえ、サイズはいいのが出ないのだなぁ。結局今回の釣りはこれが不満なところであったが、贅沢を言ってはいけない。もし次回いくことがあるなら、もう少し釣りに時間を掛けてじっくり探りたいものである。

 

 

その後もう二箇所竿を出してみるが芳しくなく納竿。佐渡の渓流釣りは終わった。宿に戻り、女房殿と夕食を食いに出かける。彼女は一日自転車で島内をまわったらしくへとへとになっていた(^^;)。宿の側の洋食レストランで佐渡牛でもと思ったが入荷してない。がーん。結局佐渡牛が心残りとなってしまった。和風トンカツと鮭のバター焼きをチョイス。これがなかなか美味かった。うーみゅ。結局この旅行は食ってばっかりで、少々太った気がする。


30日。今日で佐渡も最後。フェリーが昼なので、少しだけ海にもいってみる。車で3分の宿から直近防波堤へ到着。海も透明度が高いのはわかってはいたが、竿を出してみようと間近に観察するとあらためてその綺麗さに感動する。で竿を出してみるのだが、タイプ2のラインで10カウント以下だった場合フライがどこにあるか分かるくらいであった。防波堤は先行者が数名竿をだしていた。近づいてきたおじさんに話を訊けば、皆イナダを弓角やムーチングで狙っているとのこと。足下のテトラポットの根本付近になにやら菱形の黒い生物がうようよしている。フライでかまってみると、その動きはまさしくアオリイカではないか。おじさんがいうには、食ったら美味いけどアオリは釣り味がいまいちなので狙わないそうな。なんと贅沢な。

時折ナブラが起き、サヨリやアジが逃げまどう。イナダが入ってきている。堰堤先端のおじさんが大きく竿を曲げ、イナダを一匹ゲット。こっちも頑張ってキャンディータイプを投げるがついに時間切れ。わずか2時間弱の釣りではどうにもならぬ。足下で一回フグのアタックを受けただけであった。

さて、美しい佐渡ともお別れである。できればもう一日くらい泊まりたかったなぁ。心残りが沢山あるような気がする。帰りのフェリーも爆睡。気が付いたら午後3時、まもなく直江津港であった。ここから一路岡山へ向けて車を走らせる。疲れたら休憩を繰り返し、(途中名神で渋滞4kmの表示が出たため、一時地道へ逃げたりしたけど)約8時間半後我が家へ付いた。トリップメーターは直江津港から約630kmの距離を刻んでいた。

追記 長々と釣行記のような旅行記のようなものを書いてしまいましたが、楽しく読んで頂けたのなら幸いです。佐渡はいいところでした。釣りをしなくても景色や観光名勝など色々みてまわるものがあります。しかし、本気で釣りをするのなら三泊程度では満足できないかも知れません。何しろ竿を出せる場所が沢山ありすぎるほどです。トラウト狙いならば、5月、6月のベストシーズンはきっと楽しいと思います。今回ほとんどチャンスがありませんでしたが、海もいいと思います。