第1回目 フルスペとFuruさん


はじめに。

一本のフライから広がる世界というものがある。

フライは釣り人の意思の延長であり、フロントである。思惑を代理する大使である。また人の世界と魚の世界を繋ぐ媒体である。

一方魚からみれば、それは時に昆虫であり、魚であり、何か判らないものであり、無視すべきものであり、忌避すべきものである。

魚がフライを口にするとき、初めて釣り人と魚の思惑が一致する。そして次の瞬間お互いの思惑が逆さになる。そのときフライに期待される機能も変質する。魚の顎を捉え、二度と離さない鉤としての機能を発揮しなければならない。魚から見れば己の口に刺さる異物であり、さらに異物を通して強いテンションがかかる。なんとかしてそれを取り除かなければならない。

かくしてその綱引きにどちらかが勝利し勝負は決まる。

・・・と、抽象的な文書をいくら書いてもあまり面白みはないのである。少しこの釣りの経験を積むと、他人のフライを見ればある程度そこに込められた機能を類推し、どのような目的でそれが巻かれたかを想像することが出来るようになる。しかしそれはあくまでも類推であって本当の目的は何か。どのような経緯でこのフライが出来たのか。どのくらいの釣果があったのか。その人のそのフライに対する思いはどの程度なのか・・・までは、それを巻いた本人に訊いてみないことには分からない。このコンテンツの目的はフライを通してその意図をできるだけ探求してみようというところにある。釣り人はいかにして思惑をそのフライに代理させているのかという点を明らかにしたいのだ。あるいはそこに至る過程において、第三者には想像もつかないドラマというか面白さが含まれている場合もあるに違いないのである。さらにいえば、何もフライは魚を釣るだけが能ではない。時には人も釣るのだ。巻いている本人も、そのフライを見た我々も。だからこのコンテンツをみて「ためしにそのフライを巻いてみよう」という気になったら、本望である。

あなたは他人の使っているフライに興味を持ったことはないだろうか。沢山釣れたという話しや、大きな魚を釣った人の話を聞けば、どんな場所で釣ったのかということを除けば、やはりその使用フライが気になるのが人情である。(もっとも本当は同じフライを使用しても、釣り人によってアプローチが違い、同じ結果になるとは限らないという問題には目をつぶらなければならないが・・・)それが特に如実になるのがオフシーズンの管理釣り場で、一人だけばんばん釣っている御仁がおられる場合だろう。何使ってるんだろうと非常に気になるに違いない。

このコンテンツは架空の対談形式で行われる。インタビュアーは私Oritaが担当し、取材対象者がそれに答えるという形にしてみた。記念すべき第一回は、きっといままで「あの人何使ってんの?」とさんざん云われてきたであろう、広島のFuruさんにご登場願うことにした。


人物紹介:Furuさん

現在東広島市在住。出身は東京都。江戸っ子である。フライを初めて行ったのは、1981年、留学中の米国において。NY州catskillでオービスの竿を振っていたそうである。このあたりからして我々とちょっと違うのだなあ。年齢不詳。顔写真も本名も本人のたっての希望により明かせず(笑)。だからちょっとへたくそなイラストを描いてみた。ハンドルネームの由来は名字の頭文字に「古」という字があるためか。ぱっとみおひげが似合うインテリゲンチャおじさん風。バドミントンで鍛えた強いリストのためかキャスティングとフッキングは豪快である。最近(`02年9月某日)鳥取県の某山岳渓流にて釣り終えて川を下るときに膝を壊したとのこと。無理は禁物ですぞ。初夏になると鮎もやるのでフライに行くか鮎をするか迷うそうである。

 


フルスペ通常時                       フルスペ夜光時

フルスペ レシピ

 


■フルスペ誕生秘話

Orita(以下O):実はFuruさんのことは`97年頃から間接的には知ってたんですよ。広島県の小川川(吉和村にある毛鉤専用区間)に行ったときのこと。漁協の方から、昼飯も食わずに何十匹も釣る猛者(某○○職員)が居ると聞いたことがあったんです。

Furu(以下F):は、恥ずかしいなあ(笑)。

O:そのころ僕はフライをはじめたばかりで、上には上がいるもんだと関心したことを覚えています。ネットワークの不思議な縁といいますか、こうして現在知り合いになれて色々教えを請うことが出来て感無量です(笑)。

F:がはは。またまた。

O:では本題に移りますね。フルスペの歴史といいますか、最初にこのフライを巻くきっかけになったのは、何か出来事があったのですか。

F:十年位前、関東のある管理釣り場にはじめて行ったとき、あんまり釣れなかったわけ。少しは釣れたんだけど、近くにいた人でまさに爆発的に釣っている人が居てびっくりしたというか悔しかったんだなあ。恥を忍んでどんなフライを使っているのか尋ねたんだけどはぐらかされたんだよね。で、わからないまま帰り道に近くの釣具屋に立ち寄ったのよ。そしたらその釣り場の常連が集まっていて店主を囲んでものすごい釣果を話していたのよ。

O:ふむふむ。なんとなく内容が聞こえてきた。

F:いや、ロバの耳になってた(笑)。ヤシオ(60cm以上の3倍体のマス)が一人で3本出たとか、全部で50匹釣れたとか景気のいい話で。それでここでも恥を承知で「同じ管理釣り場に居たのだけれど全然釣れなかった。」ときいてみたの。そしたらそこの主人がいい人で「(栃木訛りで)わかった、釣れる針を作ってやっから、待ってな。」といって、机の下からバイスを取り出して巻いてくれたのがフルスペの原型であるチューブフライだったんだ。

フルスペの原型のチューブ針 画像提供Furu氏

O:ほう。Furuさんの人柄がでてますねえ。僕だったら訊けないかも知れない。そこのご主人もいい人ですね。

F:がはは。ちょっと尋ね方に哀愁が滲み出てたのかもねえ(笑)。そのときに使い方もきいたの。管理釣り場の魚はすぐ針にすれるので1分待ってアタリがなかったら他の針に換えること。また、時間や季節によってあたり針の色が違うこと。この二点だね。

O:そうか。それでこんなに種類がいっぱいあるんですね。大体フルスペって何種類くらいバリエーションがあるんですか。

F:ええっと、ちょっと待ってね。いま数えてみるから。「ひい、ふう、みい、よお・・・・・」

 (Furuさんしばし数える。)

O:あのーまだでしょうか。

 (Furuさんまだ数えてる。)

F:ごめんおまたせー。ふぅー、概ね100種類あるね。

O:え?ひゃ、百ですか。驚いたな。

F:そう。でもよく使うのは4種類くらいだけどね。

O:うーん凄い。で、そのチューブフライからヒントを得て作ったのがフルスペになるわけですね。

F:うん。その日さっそく家に帰っていろんなパターンを巻いてみたの。このときに自分なりのアイデアを取り入れたのが蓄光色だったんだ。たとえば動物によって認識できる光の波長は異なっているという事実があるのよ。

O:さすが専門家。あれ、これいっちゃまずいかな(笑)。

F:ま、まずいよ・・・。夜光色が魚を刺激することがすぐに想像ができたので、まず一般的な蓄光チューブを購入して巻いてみたの。そしたら効果てきめん。そこの常連さん以上に釣れちゃって翌週からは爆釣の連続だったんだなあ。

O:牛追い牛に追わるというやつですねえ。あれ、ちょっと違うかな(笑)。こんどは逆にフライは何をお使いですかときかれる側になっちゃったんですね。

F:あはは。でもずっと釣れ続けるわけではなくて、日中は少し釣果が落ちるんだな。

O:日中は蓄光の恩恵があまりないからでしょうか。

F:そうかもしれないね。で、それ以来蓄光力のさらに強いマテリアルを探すようになって現在のマル秘マテリアルに到着したんだ。でも今これ販売してないんだよね。手持ちの在庫はあと200本分くらいしか残ってない。だから今次のマテリアルを探すべくDIYの店や手芸屋さんに足を運んでいるんだよね。

O:これ凄く光りますね。こんなマテリアルみたことないなあ。ちょっと見た目にマットな感じがするので蓄光成分の含有率が高そうです。というかこれはアルミン酸塩化合物のN夜光ってやつかなあ。

F:そうかもね。これが販売中止になってすごく残念なんだなあ。

上段は全て蓄光マテリアル。マル秘マテリアルで巻いた2本が特に光っているのがわかる。画像提供Furu氏


■フルスペ大車輪の巻

O:フルスペって何年くらい使ってますか。

F:10年以上、同じパターンで通してる。なんてこったい!(笑)

O:歴史がありますね(笑)。フルスペが大爆発した事例を教えてください。

F:行ったことがある全ての管理釣り場。名前を言えば、加賀、鹿留、湯原、瑞穂、ATA、高宮、大谷、七瀬川、ゆうゆう村、トト愛ランドにいみ・・・その他全部。

O:うーん。凄い。全部かあ。最高でどれくらい数はいきましたか。

F:最高は正確には忘れたけど、広島県瑞穂の管理釣り場で150匹以上だったと思う。数えられないのでカウンターを持参してるんだ。それでもこれも押し忘れがあるので困ってしまうんだよなあ。

O:そうか。Furuさんはウルトラ百匹釣り男なんだなあ。で、某所でクレームを付けられたことがあるというのは本当なんですか。

F:クレームというか「使うなと言わないが、出来るなら他のフックを使ってくれ」と言われたのは事実。それもルアーマンから、あの人は釣り過ぎという苦情がきたのが原因だったんだよ。

O:いやはや参った。釣りすぎて他人を怒らせてしまうということがあるんですね。私も人を怒らせるぐらい釣ってみたい。

F:オリちゃんも・・いやなんでもない!

O:え?私が何か。

F:オリちゃん釣りに行きすぎて怒られてるんじゃないかと(爆笑)

O:いやーこいつは一本取られましたなあ。がははは(オヤジ笑い)。それともう一つ思い出しました。合わせ切れしたフルスペが口に残ったマスを釣った他の釣り人からクレームが付いたという噂は本当ですか。

F:本当。ルアーマンから、これはフライなのかとクレームが入ったらしい。私はフルスペを秘密にしてないし、釣れない他のフライマンに差上げたり、管理釣り場の場長さんにも正直に見せてるよ。旭川トラウトエリアの場長さんは、見せた途端に目を輝かせて食い付いて来てくれたなあ(笑)。フルスペをみて「これはフライの針じゃない!」と言う人がいるけど、でも、私のフルスペのコンセプトはラーバの疑似針なんだ。管理釣場では魚は絶対にいるんだから、如何にして彼らの気を引くことができるかということがポイントと考えているんだよ。

O:ちゃんとした模倣対象があると。

F:そう。でも本当のところは魚にきいてみないと分からないけどね(笑)。

 


■フルスペ・テクニカルノート

O:フルスペを使う上でのアドバイスがあれば教えてください。

F:各種のウエイトのフルスペを用意してる。魚のいるタナが深い場合はヘビーウエイトで素早くポイントに投入。タナが浅いときにはウエイト無しで沈んでいく間に食わせる。食い渋い時にはTMC102Y#17や#19で作った小さめのフルスペを使うようにする。

O:フルスペは抵抗となるマテリアルがなく沈下速度が早いと思います。手返しが早いということも、数を沢山釣る上ではメリットとなっていると思うのですが。

F:その通り。手返しをさらに早くするために、深場のタナであればフライとマーカーの間にウエイトとしてのより戻しを等間隔に大中小で3個付ける場合もあるよ。

O:タイイング上の注意点など参考になることがあれば教えてください。

F:チューブの両端をワイヤーで綺麗にまとめる事がラーバに似せるコツ。ワイヤーの太さや輝きも釣果を左右する。今のワイヤー(ティムコゴールドワイヤーM)にしてから5年位だけど、輝きが鈍くならないので気に入ってるよ。少し詳しくタイイング手順を説明すると、

実はたったこれだけ。フックはオーナー社の桑原テンカラ5号ストレート針がお奨め。赤金色や緑金色のティンセルを用いたり、チューブの色を黄色や黒、白、ピンク、オレンジ等の各色にアレンジして、たくさんの種類を用意しておくといい。チューブの代りにビニールテープを2mm幅に切ったものを巻き込む方法もある。黒金、黒赤、茶金、オレンジ緑、赤金、ピンク金、黄金がオーソドクスな色で、夜光カラーを使う方向に流れていったものが私のオリジナル。蓄光毛糸や蓄光テープを下巻きにしてその上に再度蓄光チューブを巻いたもの、赤の蓄光チューブを下に通してから、緑の夜光チューブを上に通したもの等。この針は、芦ノ湖のニジにも気に入られてるよ(笑)。

O:一番安定した釣果があるカラーは。

F:もちろん蓄光色。次に赤金、オレンジ金、黄色金、黒金かな。

O:蓄光マテリアルを使用する目的は、水深のある暗い場所でも魚に存在をアピールすることもあると思いますが、やはり深い場所でも効果が認められましたか。

F:深さは関係ないと思うけれど、確かに濁りの強い止水では効果があるねえ。

O:オフシーズンあるいは年間を通じて、管理釣り場に何回くらい足を運びますか。で、そのうちフルスペの登場回数はどの程度なんでしょうか。

F:だいたい週一ペースで行ってる。フルスペの登場回数は5−9割。フルスペの製作者として、フルスペを中心に使うように心がけてる。少し当りが遠のいたら休憩の意味で他のフライを使うけど、だいたい5割以上はこの針がティペットの先に付いている。

O:なるほどねえ。Furuさん=フルスペという等式が成り立ちそうですね。 


■フルスペは管釣りのパイロットフライである

O:フルスペの名称の確認ですが、「Furuさんのスペシャルフライ」の省略形でいいんでしょうか。

F:原形は、先にいったように釣具店で教えて戴いたチューブ針なんだけど、蓄光にした時点で「Furuさんのスペシャルフライ」になっちゃったということだろうね。私の関東の釣友で片○君というのがフルスペの命名者なんだ。ちなみに、彼の6番目のオリジナルフライもカタロクという名前が付いているんだよ(笑)。でもこれはちょっと人には見せられない。

O:フルスペのキャッチコピーを付けるとしたら、「管理釣り場のニジマスキラー」でよいですか。

F:さあ、何だろうね。管釣りのパイロットフライかな?魚がいるかどうかのね!

O:凄いですね。それだけ自信をお持ちということですね。今日は長時間ありがとうございました。

 

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