Seabass Box シーバス遡河性考察2

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その一から

さてこれまでの説明では、スズキの遡河性(Anadromous:主に産卵行動としての意味合いが強いですが、ここでは広義に海水魚が河川に入り込む行為をとらえて使用)を可能にする側面から論じてまりましたが、なぜ海水魚のスズキが川にわざわざ入っていくのかという質問に対しては、答えになっておりません。



これだという単純明快なものはもっておりませんが、色々な要素が絡んで、スズキのうちいくつかの固体群が河川を溯るという事実に突き当たるのでしょう。

要因コメント
ベイト河川内の方がベイト捕食が容易な場合
適水温河川内の水温がスズキ適水温に近い場合
水質沿岸部の赤潮等水質悪化による河川への回避
水流流水効果による酸素増
溶存酸素水温&流水による溶存酸素が多いため

要因としては、上にあるようにベイト・適水温・水質・水流・溶存酸素量などがあげられます。ベイトはアユに始まりハゼ・サッパ・イナ等の稚魚は好んで汽水域に群生しております。稚魚にとっての汽水域は天敵(フィッシュイータ)も少ないわけで、結果としてベイトの密度は濃いということになります。従ってベイトを追って河川内に飛び込んでくるという話です。狩野川や相模川で釣れたスズキを解体した際、アユ、小鮒、ハゼからカニやエビが腹に入っておりました。海に居るより楽にベイトが採補できるとすれば、河川域はメリットがあるのでしょう。



適水温も重要な要素です、例外はありますが、海水温と川水温がオーバーラップする時期に河川内に姿をあらわして、やがて海水温が更に高くなった頃(7月〜)に群れは一旦沿岸から離れてしまいます。本来スズキの適水温は14〜17度と見ております。この高水温期間のあいだ水温の低い河川内で住むことにきめた一群がでます。河川内で夏によく大物が釣れるのはこれらでしょう。ただ真冬の水温が9度付近でも河川内のそれも結構上流で時々中型〜大型がでます。この説明は冬期は海水温が高いことから考えても説明がつきません。おそらくこれらの固体は水温よりベイトを優先条件にしているのかも知れません。

晩秋になれば、水温とベイトという要素が無くなって、川に溯ったスズキは海に降下してしまいますが、冬でも温排水や湧水の関係で恒常的にベイトがいる場所では、スズキも降下しないでとどまる(居着き)というケースになるのでしょう。



それから水質です。湾奥では水温が22〜23度を越えますと、赤潮や青潮のリスクも高くなって、沿岸部の水質はひどく劣化してしまいます。逃げ場を失った魚達は、河川に入り込むしか手が無くなるわけです。この時期になると沿岸域の溶存酸素量も減ってしまいますが、河川の場合流水効果と相対的水温で溶存酸素量は湾内海水より高くなっております。

これらの要素が複雑に絡み合ってリバーシーバス群は出来ます。ただし彼らの中でもタイプは画一ではなく、たまたまベイトを追って河川内に入って来ているもの(テンポラリー河シーバス)もおります。彼らは潮が引いて淡水濃度が高くなると河口部まで一旦下がったり、川底の凹部にとどまって、また上げ潮の塩水くさびに乗って河川内で捕食行動を行なう奴もおります。これらは潮が変わってベイトが出てしまったり、彼らの食餌が満たされると、すぐに河川から海に戻ってしまいます。大体の滞在期間は一潮(若潮〜小潮)で、入り始めの一週間が勝負です。



片瀬川で昨年獲った奴はこのタイプで、浸透圧調整が完全には出来ていないらしくストリンガーにかけておいたら、下げ潮になって潮っけがなくなった途端ストリンガーを外さんばかりに暴れだし、驚いたことがありました。

これらのテンポラリー群と、どうしても『居着き』として河川内を棲み家とさだめ棲息している別の群れ(固体)がいるような気がしております。利根川の有名な川スズキなどは、いわばDNAにうえつけられた別の種ではないかとさえ感じられます。銚子河口部や鹿島灘近辺では水質の問題はないので、水温と豊富なベイトが重要なファクターであると思われますが、それだけで100km以上もの距離を遡上する説明では弱いと思います。



スズキに限らず、生態系の分布を調べていくと、本体とは外れたところに必ず少数の分布群が存在することが良くあるようです。偶発的なものではなくて恒常的に外れている固体群というものです。サクラマスの例では河口部の海水温度が分布要素なのですが、このレンジにはいらない固体群が出てまいります。

これは種の発生から現在まで、長い年月の間に生じたリスクヘッジが、種のDNAに埋め込まれているのかも知れません。環境の変化は絶え間なく起きており、種の保存というメカニズムはどの生物のDNAにも植え付けられているはずです。100%の固体が全て同一行動をとるとした場合、それは地域環境の変化によって全て絶滅というリスクを抱え込む訳で、種を保存するためには『ハズレ者』という固体群を必ず作っておくことがリスク管理上重要であります。

河川をひたすら遡上するグループや、冬でも居座る固体群には、環境面のインセンティブもあるのでしょうが、実は別のミッションももっていると考えることは、生態系からみるとそれほど突飛な話ではありません。ともあれ、不思議なことが多いスズキの生態です。


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