【 続・夏色剣術小町 〜紫陽花の華は優しく微笑んで〜  第一話  】


扉を開けるとそこには既に陽征以下五名、金龍学園団体メンバーがいた。
「やぁ、きたね」
 陽征はあの穏和な笑みを俺達に向ける。
「今年は優勝旗を譲る気は無いからな」
 今思えば、本当に去年まではこんな時はピリピリしていて、こんな事を言う余裕も無かっただろう。
「僕だって無いさ……お互い、正々堂々に戦おう」
 そんな小さかった俺に、以前からこんな大きな器を持っていた陽征に勝てるわけがない。が、今は違う。体は本能的に、これから始まることに対して高揚しているのに、心は不思議と落ち着いている。
 ふと顔をあげて二階席を見ると、ここから丁度正面の最前列をあの合宿に参加した残り三校の主要メンバーが、先輩を除き席をとっていた。恐らくまだ階段を登っているのだろう。……俺はもう一度だけその辺りを見回したが、俺の捜し求める彼女の姿はない。
 ──やはり、いないか。
「両校、前へ!」
 主審の呼ぶ声と共に、桂木館、金龍の代表メンバーは武道館中央まで進み、向き合う。
「両校、礼!」
 一礼。顔をあげ、そのままお互い枠の外へでる。
 ウチの先方、次方は、既に面以外の防具は既に着ており、すぐに試合を始められる状況だ。中堅以下俺達も防具を着始める。
「両校、先方前へ!」
 桂木館の先方が枠の中へ入った時、俺は防具を着る前にもう一度『あれ』に触れた。
 ──必ず、勝ってみせるよ。紫京

     *

 あちゃー、あの娘(こ)は何やってんだろ。せっかくこのお姉さんがここまで世話焼いてあげたってのに。早く来なさいよね。
 場所はちゃんと伝えたはず……って、もしかして道に迷ってる!? そういえばあの娘ってちょっと浮世離れしたところがあったっけ……。しまった、お姉さん大誤算。
 ま、まあそこはあれだ。愛の力で乗り切ってくれるでしょ!
 さ、試合始まっちゃう。早く観客席い〜こおっと。

     *

「一本!」
 士郎の突きが相手副将の喉をとらえ、見事一本。
 金龍は残すところ後一人……陽征のみ。くしくも去年と似た構図となってしまった。
「金龍学園主将、宮本陽征、前へ!」
 陽征は自校の副将に軽く微笑を向けた後、面をかぶり、士郎の前に立つ。その瞬間から、陽征の纏う(まとう)空気の質が……変わる。
「はじめっ!」
 しかし、数瞬の後に。
「一本!」
 あの士郎が、たった一振りで負けてしまった。士郎の名誉のために言っておくが、あいつは強い。IHでも、一回戦は士郎が相手大将を倒してしまい、俺は出番がなかったのだ。
 戻って来た士郎が、面を外した。短い髪が汗に濡れて額に張り付いている。
「主将、後はお願いします」
 人懐っこい笑みを俺にむけ、士郎は言った。俺は無言で頷き、面をかぶる。
「桂木館主将、伊達将明、前へ!」
 竹刀を片手に、俺は陽征の前に立つ。格子状の面の隙間から、普段の陽征のからは信じられない程鋭い眼光が俺を見据えていた。
「はじめっ!」
 審判の声が響くと同時に、俺は竹刀を最上段に構えた。
 俺と陽征の間に余計な小細工はいらない。ならばと俺は、一撃必殺の最上段で攻めよう。陽征が相手の動きを見切る『受けの剣』なら、俺はそれを上回る速度、威力の『攻めの剣』なのだから。
 一撃必殺の威力とは言え、当たらなければ意味はない。去年までは、全て渾身の踏み込み胴を捌(さば)かれ、負けている。俺の踏み込み胴は防具越しでも響くその威力から部員達に『雷将一撃』と呼ばれ、俺の……ようは必殺技みたいなものだ。だが、陽征に『雷将一撃』は通じない。陽征の前では、どんなに速い振りだろうと竹刀の軌道を読まれ、捌かれてしまう。故に、今年の五校戦の時は雷将一撃は使わなかった。
 ……
 ………
 ……………
試合開始から十数秒。
 お互い動けない状況が続いている。
 俺も陽征も、お互いの力量は分かりきっている。だからこそ、お互い動き出すきっかけが見つかるまでは迂闊(うかつ)に動くことが出来ないのだ。
 視界を出来るだけ広くもち、陽征のわずかな動きにも注意を怠ら……な……
 ──紫京!?
 視界の隅に、紫京の姿を見た気がした俺は一瞬そちらに気をとられてしまった。時間にして、一秒足らず。
 その隙を、あの陽征が見逃すはずは無かった。
 陽征の竹刀が、恐ろしいまでの速度で俺に襲いかかる……!!

     *

「はぁ……はぁ……」
 まったく正反対に向かっていた事に気づいてから走る事数十分。ようやく目的地の武道館が見えてきた。
 それにしても予定より時間がかかってしまった。やはり、母の言っていたタクシーとかいうものを使ってみればよかったのかもしれない。
(それにしても……人が多い)
 陽(ひの)刀(とう)付近とは比べものにならない。駅付近はまさに『人の波』だった。やっとの思いでそれを抜けても、今度はどっちに行けばいいのかも分からない。看板や標識を探そうにも、数が多すぎてわけがわからない。
 ようやく交番を見つけお巡りさんに道を聞いて見たら、なんと駅から真逆の方向だった事を聞かされた。事情を説明すると、その人は親切にも詳しい道を地図に描いて教えてくれた。何でもその人も昔剣道をしていたそうだ。
 急がないと、あの人の試合が始まってしまう……いや、もしかしたら終わっているかもしれない。
(く……やはり誰かを頼って前もってこちらに来ておくべきだったろうか)
 等と、今更後悔の念ばかりが湧いて出てくる。
「はぁ……はぁ……」
 どうにか武道館についたはいいものの、今度はどの入り口から入ってどの階段を上ればいいのかもわからない。我ながらここまでくると間抜けとしかいいようがない。とにかく中に入らなければ。
「あれ、あなた確か……」
 そこには、あの時の合宿メンバーの中の一人がいた。名前は何と言ったか……長い髪を頭の後ろで高めに結っているのが特徴と言えば特徴か。
「将明の応援に来たの!? なら急いで! もうそろそろ大将戦だよ!」
 彼女は困惑していた私の手を取り、駆け足ですぐ近くの階段を登っていく。
「……将明の奴、試合中だってのにチラチラ観客席の方見ててさ」
 多少おどけた感じで、彼女は語り始めた。
「でもね、目的の人は見つからないみたいでさ」
 こちらに顔を向けずに。
「まったく、こーんな可愛い幼なじみの私とは何回も目があってるんだからもっと嬉しそうにしてくれてもいいのに……。悔しいな」
 ……え?
「……将明の目には、もう私は映ってないんだもん」
 ……。
「さ、早くいかなきゃ試合が終わっちゃうよ!」
 彼女はおそらく無意識にだろうが、私の手を握る力を少し加え、走る速度を若干あげた。
 ──そうか、貴女もなのか。
 ──貴女も、同じ男性(ひと)を、想っているのか。
 扉を開けると、武道館の中央でちょうど試合が始まったところだった。
「よかった……まだ将明出てなかったみたい。まだ席あるから、こっちにきて」
 私をここまで導いてくれた彼女は、私の手を引いたまま、最前列の席に向かった。そこには既にあの合宿の時のメンバー達がずらりと座っていた。みんな試合の方を注視していて、私のことには気付いていない。
 桂木館の副将と、あの宮本陽征の試合。
 それはまさに一瞬の出来事だった。
 試合開始と同時に桂木館の副将、確か士郎という名の青年は、宮本陽征に渾身の胴を放った。が……。
 宮本陽征は体(たい)を僅かに動かし胴を寸前でよけると、その隙に面を見舞った。審判の声が高らかに響きわたる。
「一本!」
 やはり、宮本陽征は強い。まるで相手の竹刀の軌道が見えているような動きだ。
「桂木館主将、伊達将明、前へ!」
 その名を聞いたとたん、私の頭からは試合や宮本陽征の事が消えて、心臓の鼓動だけが速くなる。
 祖父以外で、私を倒した唯一の人。
 ──そして私の、生まれて初めての想い人。
 彼と過ごしたのはわずか一週間程度だが、それは私にとって決して忘れることの出来ない時間だ。もし許されるのなら、これからも彼ともっと同じ時間を共有したい。日増しに強くなるその想いを堪えることが出来ず、私は今ここにいる。
 彼の試合……いや、戦いを見届ける為に。
 私は─自分でも似合わない事をしたと思う─思わず両の手を胸の前であわせ、彼を見つめていた。

   『続』

『後書き』
どうも初めまして。成就と名乗っている者です。この度このサイトでPSソフト、恋愛シュミレーション『夏色剣術古町』の続編SSを投稿させていただきました。
まず、マイナーなネタで申し訳ありません(汗)
 本来こういうマイナーなSSを書く場合は原作を知らない人でもわかるようにしなければいけないんでしょうけど……残念ながら自分にはそこまで文章能力がありません(泣)  どうにかして作中で除々にわかるようにはしていきますです。はい。
将明「なあ、作者」
 わ、なんで君がこんなところに
将明「そんなことはどうでもいい。それより気になることが二つ」
 な、なんだい?
将明「まず、先輩ってこんなキャラだったか?」
 ああ、それはだね。自分の中では先輩はこんなキャラだからこうしたんだよ。実際に、自分はまだ先輩編はクリアしてないし。
将明「おいおい……そんなんでSS書いていいのか?」
 う……そこは突っ込まんでくれ。で、二つ目は?
将明「これが本題なんだが……紫京って、こんなキャラだったか?」
 またそれか。だからこれは自分のなかでは……
将明「紫京編完全クリアするために十週以上したのに?」
 げ
将明「しかも友達からわざわざ攻略記事のってるファミ通(かなり古い)を借りてまでCGのない紫京の笑いイベントやったのに?」
 ………(成就は逃げ出した!)
将明「……雷翔一撃!!」
 ぎゃーーーー!

アナウンス:作者がやられてしまったので終了しまっす(笑)