水無月琴子の冬休み



 12月も半ばのある日。今日は放課後にクラブ活動もなく、すぐに帰ろうかと彼が思ったのだが、ふと自分の目の前を相変わらず姿勢正しく歩いているクラスメイトの水無月琴子を見て、
 「あ、水無月さん、今日は茶道部に行くの?」
 声をかけると、琴子がうなずいて、
 「ええ、そうよ」
 「茶道部にはコタツがあるんだよね」
 「あるわよ」
 「今日はとても寒いね」
 「寒いわね」
 「寒いと身体に力が入らないよね」
 「そうね」
 「すいません、水無月さん。茶道部に寄らしてもらってコタツに入らせてもらってもよろしいでしょうか?」
 彼の言葉にクスリと笑顔を浮かべて琴子がうなずき、
 「いいわよ。でも別に初めからそう言えばいいのに」
 「いや、水無月さんに誘ってもらえたら嬉しいなぁって思って」
 「あら、誘って欲しかったの?」
 琴子の言葉に彼がうなずくと琴子がなるほどと納得したような表情を浮かべ、
 「だったらもう少し誘いやすい聞き方をしてね」
 彼に注文するのであった。


 茶道部の部室に入り、水無月琴子がハンガーに自分のコートをかけて、部室に置いてあるどてらをひびきの高校の制服の上に羽織り、コタツの中に入ると、彼が無駄のない琴子の動きに感心してしまう。
 「すごいね、水無月さん」
 彼の言葉に何についてすごいと言われたのかわからず、琴子がコタツにすっぽりと身体を入れながら頭だけは出している格好で首をかしげて、
 「何が?」
 彼に自分の何がすごいのか彼に尋ねると、彼もカバンを置いて琴子の向かい側のコタツに入りながら、
 「いや、何て言うか全然無駄な動きがないって思って。今の水無月さんが茶道部の部室に入ってからコタツに入るまでの動作が」
 「ああ、その事。だって無駄な事をしてたら体が冷えるでしょう」
 「いや、そりゃあそうだけど、簡単に出来るようなことじゃないよ」
 「そうかもしれないわね。……あ、急須取ってくれない。それとお客様用の湯飲みも」
 琴子の言葉にうなずいて、彼が棚に置いてある急須とお客用のところにおいてある湯飲みを取って琴子の前に置くと、琴子が急須にお湯を注いで自分の分と彼の分のお茶を淹れて、
 「どうぞ」
 お客さま用の湯飲みを彼に差し出すと、彼が頭を一つ下げてお茶を飲み、
 「おいしいね」
 お茶のおいしいのを何となしにつぶやく。
 「そう?まぁ体が冷えている時には温かい飲み物は何でもおいしくいただけるからね」
 「そうだね」
 琴子も自分で淹れたお茶を飲みながら、ふと、
 「もうすぐクリスマスね」
 つぶやくので彼がビックリしたように、
 「水無月さんがクリスマスなんて気にするんだ」
 「殴るわよ」
 「あ、ゴメン。殴らないで」
 「……まぁ去年のこともあったしね」
 琴子の言葉に彼がうなずいて、
 「そうだね。そう言えば去年は4人で遊園地に行ったんだっけ」
 「あら、憶えてたの?あなたのことだから忘れてるかと思ったけど」
 「憶えてるよ。水無月さんと一緒にメリーゴーランドに乗って、その後死ぬほど怖い思いをしたんだから」
 「ふふ……あなたが光とはジェットコースターに乗ったのに、私とはどうしてメリーゴーランドを一緒に乗ろうって思ったのかしらと思ってね」
 「いや、水無月さんって静かな乗り物が好きなのかなって思って」
 「それだったら、まだ観覧車の方がマシね」
 「今度はそっちを誘うよ」
 「まぁ、もう4人で遊園地に行くこともないでしょうけど」
 「そう?今年のクリスマスにも行けばいいじゃない?」
 彼の言葉に琴子が苦笑を浮かべて、
 「今年のクリスマスは伊集院さんの家の催事に呼ばれたでしょ」
 ふとそう言うので彼がなるほどとうなずく。
 「あ、そうだったね。水無月さんも招待状もらったの?」
 「もらったわよ。あなたももらったみたいね」
 「うん」
 「せいぜいマシな格好をして来なさいよ。何でも服装審査が厳しいそうだから」
 「そうだね。なるべくマシな服を着ていくよ」
 「もしもいい背広がなかったら私の父の和服を貸してあげるわよ」
 琴子の言葉に彼が笑って、
 「あはは、それだったら引っかからないかな?」
 琴子に言うと、
 「引っ掛かったら私と光が説得するわよ。これが日本人の正式な催し事での正装ですってね」
 「そうだね。……でも和服は遠慮しておくよ。入れてもらっても何だか逆に浮きそうだし。それよりも水無月さんが着物を着てくれた方が俺は嬉しいけどなぁ」
 「私も浮きそうだから遠慮しておくわ」
 「あはは、そうだね。……そうだ、新年に着たらいいよ、初詣だったら全然着物でも変じゃないし……」
 彼の言葉に琴子が
 「考えておくわ」
 サラリと言うと、彼が残念そうな表情を浮かべてしまう。
 「本当に似合うと思うんだけどなぁ」
 「来年のお正月には光と一緒に初詣をしたほうがいいわよ。今年も光と一緒だったんでしょ」
 「うん、そうだけど。せっかく同じクラスなんだし……」
 「それだったらあなたは私だけじゃなくて、他のクラスメイトの女子全員と初詣に行かないといけなくなるわね」
 「うっ!?そう来る?」
 「まぁ光を誘ってあげて。光、来年のお正月は振袖を着て初詣に行きたいって話してたから」
 「光が振袖………うん、似合いそうだね」
 「似合ってたわよ」
 「何か見たことがありそうなカンジだね」
 「あるもの」
 「そっか、光と水無月さんって仲がいいもんね。じゃあさ、3人で初詣はどう?俺も水無月さんに借りて和服を着るし」
 彼の言葉にクスリと琴子が笑い、
 「高校生の初詣じゃないわね」
 自分と光、彼の3人が着物を着て初詣に行くのを思いながらそんなことを思ってしまい、彼もうなずいてしまう。
 「でも、光だったら絶対に嫌だって思わないと思うけど。そ、それに日本人のお正月って言うのはそれが普通なんだよ」
 「あら、たまにはいいことを言うわね。そうね、日本人のお正月って言うのはそれが普通ね」
 「去年も全然神社で着物を着た人を見なかったしさ。でもその後成人式の日には、何度も着物を着た女の人にあったけど」
 「そうね。……もしかして、あなた、その時光と一緒に歩いてた?」
 「え、うん。光と一緒にスケートに行く途中だったけど」
 「はぁ……。もっと光のことを考えなさいよ。どうして光と一緒にいる時に他の女の人を見るのよ」
 琴子の言葉に彼が焦って、
 「い、いや、あんなに着物を着てる女の人が珍しくて。……そう言えばスケートをしてる時も光ちょっと無口だったかも」
 「光は優しいからね。私だったらあなたが他の女の人の顔をポーーッと間抜けな顔をして見てたら張ったおして帰ってるけど」
 「は、はい、今度の初詣は絶対に他の女の人のほうを見たりしません」
 「あら、そう約束できる?」
 「も、もちろんだよ」
 彼が胸を張ってそう言うと、琴子がうなずき、
 「わかったわ。それじゃあ来年の初詣、私と光以外の女の子を10秒以上見てたら私と光に帰りに何か奢ってくれる?」
 彼に提案すると、彼がコクリとうなずき、
 「の、望むところだよ」
 琴子の挑戦を受けて立つと、琴子が柔らかくうなずいて、
 (さて、本当かしら)
 全く自分の親友である光と彼が少しは進展するのかしらと考えるのであった。