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「いらっしゃいませ」
よく通る女性の声が、店内に入った耕介を出迎えた。
十月二十七日、土曜日。
オーナーである愛の計らいで、基本的に耕介の休暇は土曜の午後から日曜までとなっている。が、その世話好きの性格のためか、土日も変らず寮の仕事をする耕介にとって、久々の個人的な外出は少々居心地が悪かった。
待ち合わせは今日の午後二時。午前で授業を終えて帰宅した寮生の食事を済ませた後、耕介は商店街に出てきていた。いつものバイクではなくバスで来たため、まだ時間に余裕はある。
昼を過ぎたというのに、翠屋は空く気配を見せなかった。
耕介の訪れたここ喫茶『翠屋』は、海鳴駅前の南商店街に位置している。
二、三年前にオープンしたばかりの洋菓子店は、だがそのしっかりとした味で着実に客層を増やしていた。主な売りはシュークリームやケーキ、クッキーなどのお菓子類だが、当然軽食も出している。店内の洒落た雰囲気も手伝って、女性だけでなくカップルの利用度も高く、また女性用に少し量を少なめにした配慮など、女性客に人気があるのは無理もなかった。
そんな店内の雰囲気に押されながらも、耕介は待ち合わせの相手の姿を探した。と、
「お一人様ですか?」
「いえ、待ち合わせです」
ウェイトレスの問いかけにそう答えかけた時、耕介の視界に見知った姿が映った。向こうもこちらを確認したらしい。軽く手をあげて、位置を示している。
「それじゃあ、コーヒーを」
「かしこまりました」
そう注文を済まして、耕介は彼の元へ歩みを進めた。