◇

 

「何故お前は生きている!」

 吐き捨てるようなその言葉に、耕介は思わず眉をひそめた。

「お前は何故壊さない!」

 アスタリスの動きが緩慢になっていく。それでも、振り切れるほど遅くなったわけでもないので、耕介は相変わらず御架月で払いのけるのが精一杯だった。

「破壊者であるくせに、何故自身を否定する!」

「何を……」

 甲龍の言葉の意味を図りかね、耕介は思わず身体を止めてしまった。否。止まってしまった。そしてその隙を縫って、致命的なまでの刃が襲来した。運がよかったのは、そのアスタリスが弾丸状に固まっていたことだろう。派手に吹っ飛ばされて、抗うこともできずに耕介はアスファルトに激突した。

 意識が沈みかける。視界がぐらりと緩む。

 だがその瞬間、片隅で白く濁った空間から先ほど見た記憶が映像となって走馬灯のように耕介の脳裏を駆け抜けた。

 そして、それが、全てを、耕介に、告げてくる。

(───っ!)

 何か鈍重なもので殴られたような痛覚を伴って、耕介は覚醒した。そして、甲龍の独白とも取れる叫びが決定的となった。

 

「お前は、何故俺と違うんだ!」

 

 その瞬間──

 耕介は全てを理解した。

 だが仰向けでスファルトにめり込んだ状態のまま、耕介は動けないでいた。振り下ろされる刃の群れを凝視する。甲龍の止めを刺さん勢いの動きを、しかしアスタリスごと弾き飛ばしたのは、双真のとび蹴りだった。

 吹き飛んだ甲龍の上空から、火花を散らして雷光が轟き弾けた。だがそれさえもアスタリスの一部で防御され、致命傷には至らず、彼の衣服と身体の一部を焼き焦がすだけにとどまる。壁との衝突で巻き上がった噴煙の中から、ゆっくりと破壊の化身が身を起こした。

「ちっ!」

 小さく舌打ちして、双真がこちらに手を伸ばした。ややしてから、それが何を意味するかを悟って、耕介はその手をとった。

「無事か?」

「五体満足とはいかないけどね」

 傷だらけの自分を見て、無事かと聞ける双真に感心しながら、耕介は甲龍のずっと向こうにいるエリザベートを視認した。先程の雷は彼女の放ったものだろう。壁にもたれながらも立っている彼女を見て、一瞬だけほほが緩む。

「双真……」

 言わなければならないことを意識して、耕介は言葉を紡いだ。おそらく返ってくるだろう反応を予測しながら、

「やらなきゃならないことができた」

「何だと?」

「悪い、手を出さないでくれ」

「死ぬぞ?」

「死なない」

「どうしても?」

「どうしてもだ」

 それは本当に数秒程度だった。じっとこちらを凝視してくる双真の視線に真っ向から向き合って、耕介は彼の返答を待った。

「……わかった。往って来い」

 その言葉を聞いて、その声を耳にして、今ここに、こうして目の前に彼がいることが、耕介には何よりうれしかった。何より強い励ましだった。

 今からしようとしていうことが自分にしかできないことを、耕介は知っていた。だから言った。そして双真も、それがわかったからこそ、何も聞いてこなかった。何をするのかも聞いてこなかった。

 信じてくれていることが心地よかった。

「往ってくる」

 力強く返答して、耕介はもう一度双真を見た。軽く微笑んで、自分の唯一の武器、霊剣『御架月』を双真に渡す。

「彼を……『弟』を頼むよ」

「いいのか?」

「今の俺は、『剣士』じゃないから」

 双真は何も言わなかった。ただ剣を受け取って、軽く鼻を鳴らした。もう行け、という合図らしい。なんだか可笑しくなって、耕介は吹きだしてしてしまった。勿論、双真に背を向けてからである。

 だがすぐに気を引き締めた。現状全てが、耕介から次第に余裕を取り去っていく。

 破壊者が起き上がる。焦げ付いた衣服を剥ぎ取って、その殺意のこもった視線が容赦なく耕介に降り注ぐ。それに気圧されることなく、耕介は自らの決意を告げた。

「終わらせてやる!」

 

      ◇

 

 決意と、それに殉ずる意思を有しながらも、耕介は心静かに憤慨していた。苛立っていた。その原因も、なんとなくだが理解していた。

(一種の同族嫌悪だな)

 自覚しながら、耕介は自分の中に広がる、自分のものではない意識をゆっくりと除外していった。心に流れ込んでくる記憶の破片のような映像は、甲龍から漏れ出た彼の深層意識なのだろうと、耕介は思うことにした。破壊に夢中になるあまり、最後の『人』であった部分が零れ落ち、情報として伝播されてくる。

 甲龍が何を考え、何を思い、アスタリスを振りかざしてこちらに殺意を向けているのか。それを知らせる、これ以上ないほどの情報として。

 それがわかったからこそ、耕介はその心情とは裏腹に、どこまでも冷静でいられた。敵がどう動くのかさえも、耕介には見通せた。感覚が上昇する。纏を発動させていないというのに、視界がモノトーンになる。残像を残して動く甲龍の動作さえも、耕介には止まって見えた。

 甲龍が跳躍する。それを見て、耕介は軽く半歩だけ下がり、身体を横向けた。そのまま小さな反動で後ろに跳ぶ。直後、振り下ろされたアスタリスがコンクリートの地面をあっさりと、だが底が見えないほど深く削り取った。耕介の前方に数メートルの亀裂が生じる間に、耕介は流動的な動作でステップを踏んだ。軽く、トン、トンと、たったそれだけで甲龍の背後に回りこみ、その背中に手のひらを当てる。

 静かに息を吸い、一気に吐き出す。

「はっ!」

 霊力を伴った掌底を叩き込まれ、ありえない方向に押し曲げられた甲龍の身体から骨が軋む音が聞こえた。不意打ちが成功した瞬間だった。

「がはっ!」

 だが、血を吐き出して呻き声を上げたのも、またつかの間だった。反撃に移った甲龍に再び不意打ちを与える隙など微塵もなく、防戦一方に追い込まれてしまう。

 痛みと、痺れと、出血による感覚の喪失。その増大に比例して、甲龍に対する怒りと苛立ちが、徐々に顔をもたげてくる。

 アスタリスの刃を最低限の動作でよけながら、耕介は時折双真の方を見た。彼はいつの間にか移動して、エリザのところでなにかしら会話していた。何を話しているのかは分からない。だが彼の目は──その視線は、確実に自分に注がれていた。

 それに気づいて、小さく笑みがこぼれる。

 双真は目を離そうとしなかった。仕方なく、こちらが折れて視線をはずす。

 その瞬間──耕介は痛感した。双真がこちらを見ていることを知って安堵した自分自身に驚愕し、自分が甘えているのだという事実を、切り裂かれていく肉体の痛みの中で鮮烈なまでに思い知る。甲龍という敵を見れば見るほど、それを嫌というほど自覚してしまう。

 理由はなんとなく分かっていた。目の前にいる敵は自分の鏡、そのものなのだ。

 ただ違う点といえば、耕介には家族がいた。両親と兄がいた、そして破壊者になっても止めてくれる仲間がいた。たったそれだけ、しかしその差が、今の自分と甲龍の決定的な差となってしまっている。

(こいつは俺なんだ……)

 だからこそ、耕介の怒りも苛立ちも、それは言い換えれば、自身にも向けられているものだった。

 

      ◇

 

 小さく、エリザは息を吐いた。

 耕介は強い。それは認める。あの破壊者の戦闘力には、本当に驚かされた。だが今の彼は、魔術で痛みを止めているだけの半死人なのだ。その彼が、甲龍と戦えるとは思えなかった。

 双真ほどではないにしろ、耕介を死なせたくないという気持ちは自分にだってある。彼は死んではいけない。決して死んでいい人間ではない。そう思ったからこそ、彼に協力したのだ。サポートに専念したのだ。

 けれど、それももう限界だった。

(彼には悪いけど……)

 心中で詫びて、エリザは小さく呪文を唱えた。

 それは魔術ではなかった。自分の身体に浮かぶ紋様が、その言葉を合図に小さく振動を始める。自身に施された封印が、解除へと始動する。目指すは、エリザベートと呼ばれる魔女の本来の姿。彼女本人さえ知らない、絶対の力の獲得と、その先にあるものを見つめて──唱える。一息で。

(クレスト)

 その瞬間、肌に直接刻み込まれたはずの黒い帯が一斉に宙に舞った。浮かび上がった紋様は増殖を繰り返し、エリザを球状に包み込んでいく。そして、間もなくして彼女を抱擁する魔力の球体が完成した。

分解(ブレイク)

 その言葉で、暗黒に包まれていた視界がスッと元に戻った。黒い球体が半透明になる。時おり球面に走るノイズを除去しつつ、エリザはそこでようやく身体を起こした。

 だが──

 さらなる術の施行は、突然の珍客に阻まれてしまった。全く、予期しない相手だった。

「エリザ」

「神楽君?」

「何をしているか知らんが、戦うつもりならやめろ。耕介の邪魔をするな」

「……なんですって?」

「耕介の邪魔をするなと言ったんだ」

 さすがに、エリザは怒り心頭した。双真の傍若無人な振る舞いにはもう慣れたつもりだったが、彼の物言いに対してこみ上げてくる怒りを、彼女は抑えることは出来なかった。

「邪魔? 貴方こそ私の邪魔をしないで!」

 だが双真は取り合わない。

「もう一度言う。耕介の邪魔をするな。俺の言うことが理解できないなら、例えどういう結果になろうとお前を殺す」

 殺す。その単語を吐かれて、エリザもさすがに硬直した。

 だが、一度収まりの聞かなくなった怒りは、そう簡単に沈静化してくれそうになかった。

「殺す? できるのなら殺してみなさい! 私が貴方より弱いと思っているなら、それは大きな思い上がりだわ。例え貴方が『反力』を使っても──」

「いいから黙って見ていろ!」

 その怒声で、エリザは言葉を失った。まさかと思っていた彼の態度に、急激に今までの感情が冷えていく。彼が感情を爆発させたことの驚きが、理不尽への怒りを解かしてしまっていた。

 そしてそれは、エリザ自身に冷静さを取り戻すきっかけになった。

(どうして……)

 何を言っているのだろう、彼は。

 何故、邪魔をするな、などというのだろう。このままでは、間違いなく槙原耕介は死ぬと言うのに。それを、双真は決して望んでなどいないだろうに。

「神楽君?」

 呼びかけは弱く、また遠慮したものだった。彼の肩が静かに震えているように見えたのだ。泣いているのかとも思ったが、すぐに違うと分かった。

 もう一度双真を呼ぼうとして、ハッとなってやめる。彼はこちらを見ていなかった。彼の視線は、ただ戦いの場へと向けられている。

 耕介と甲龍の戦いに。

 握り締めた拳から、にじみ出るようにしずくが地面に赤いしみを作っている。

 もう、エリザは何も言えなかった。耕介がしたいこと、望んだこと、決意したこと。それら全てを理解したからこそ、双真はこうして何もしないでいる。一番辛い我慢をしているのは、彼本人だということに、ようやく気づく。

 言葉もなく、息を飲み込む。静かに、そしておそらく最後になるだろう戦いに、エリザは目を向けた。

 その時には、彼女を取り巻く球体は消え去っていた。

 

      ◇

 

 耕介には家族がいた。

 どれだけ外でひどいことをしようと、どれだけ嫌なことがあっても、耕介のための、耕介にしか許されない場所を用意して、家は常に存在していた。そこは、耕介にとって帰る場所のひとつだった。

 耕介には仲間がいた。彼が帰るべきもう一つの場所が、かつて所属していた『HELL&HEAVEN』そのものである。

 帰る場所があった。それだけで、耕介は十分満たされていた。

 だが過去の自分──金と権力と、己の身の安全だけに執着して、もしくは誰も見向きもしないようなちっぽけな自尊心にへばりついて、他人のことなど見向きもせず、平気で踏みつけていく人間がいることに失望していた過去の自分は、そのことに気づいていなかった。

 迎えてくれる家族がいる。守ってくれる仲間がいる。

 自分がいかに恵まれているか、知ろうとしなかった。

(ガキだったんだよな、要するに)

 二十歳を越えた今だって、まだ気づいていない大事なことはたくさんあるだろう。そしてそのことが、他の誰かを傷つけているかもしれない。だがそれを知ろうとする姿勢は、決して無駄にはならないはずだ。少なくとも、そうする心構えをもてるくらいには、耕介は大人になっていた。

 そしてだからこそ、子供の頃の自分がフラッシュバックした時、それはより鮮明に思い出された。

 あの頃、耕介は世界に失望していた。

 人間に絶望を抱いていた。

 何もかもが信じられなくなった時代だった。

 不満を言って、不平を募らせ、不平等に憤怒した。金も社会的立場もない子供でも、自由に生きる権利があることを主張したかった。せめて、正しいことを正しいといえるだけの力が欲しかった。

 だが、今思えば、それも滑稽でしかない。

 そもそも平等とは何なのか。権利とは何なのか。自由とは何なのか。

 それらは全て、他から与えられたものではないのか。双真の言葉で表すなら、既存する社会的概念でしかないのだ。先人たちが勝ち取ってきた仕組みでしかないのだ。自分自身はただ与えられるだけ。作ったわけでも、変えようとしたわけでもないシステムに過ぎない。生まれたときからそこにあるおかげで、自分のものだと勘違いしてしまったものではないか。

 平等や権利を主張することも、自由を欲しがるのも、大人たちから守られているからこそ、言える文句ではないのか。自分が勝ち取った自由じゃない。自分が守りぬいた平和じゃない。周囲にある物や人、そして世界の全て──当たり前のようにあるものが実はそうではないことに、今より少しだけ子供だった自分は気づいていなかった。気づけないでいた。

 だからこそ、大人たちが必死に作り上げた日和見で平和な日本──管理体制の敷かれた社会の中で、自分たちが主張していた権利や自由などは、所詮は定められた範囲内でしか考えられていなかったのだ。

 所詮は、粋がった子供だったのだ。

 それでもあの頃は、自分の意思に従って行動できる自由が欲しかった。

 自分だけの正義を貫ける自由な力が欲しかった。

 けれど、耕介は本当に自由になることの怖さを知らなかった。『生きる』という純粋な行為が持つ怖さを知らなかった。

 否、時が経った今でさえ、本当に理解出来ているとは言えないだろう。

 何故なら、耕介には家族がいるからだ。仲間がいるからだ。帰りを待っていてくれて、『おかえり』といってくれる大事な人たちがいるからだ。みんなのおかげで、耕介は独りではなかった。自由の怖さを知らずに済んだのだ。

 独りで生きることのつらさを、知らずに済んだのだ。

 それに気づけないでいた自分は、やはり甘えているとしか言いようがなかった。こんなことがないと──こうやって、死ぬかもしれない戦いに巻き込まれてみないと──それを自覚できず、周囲の全てに感謝できないことが、悔しくて仕方なかった。

 だからこそ、耕介は怒っていた。自分に、何より甲龍に。

「お前は、何故俺とお前が違うんだって聞いたよな?」

 だからこそ憤慨は募っていく。甲龍は自分自身のことを、何も分かっていない。

「違うんだよ。俺とお前じゃ。決定的に」

 驚くほど穏やかな声が響く。殺気だけが先行して耕介を射抜き、その圧力に推されながらも、耕介は甲龍の攻撃をかわした。

「何故違う!」

「分からないのか? いや、分かっていないって点では俺とお前は同じだった。けど違う! 俺はお前とは違う。お前のように破壊なんて望んでいない!」

「何故望まない! お前も俺と同じ破壊者だ! 破壊こそに生きる意義を求める存在だ!」

「そこが違うんだよ。お前が望んでいるのは破壊じゃない。お前は何故ここに来たんだ? 海鳴にきて、何をしたかったんだ? 俺に破壊者を求めたのは何故だ?」

「何?」

「答えられないなら言ってやる。お前はここに、仲間を求めに来たんだ。自分が、他人に生かされてるんじゃなく、自分の意思で生きた証のために」

「それの何が悪い!」

「まだ気づかないのかよ!」

 耕介は叫んだ。声も枯れ、体力も限界に近づいていた。それでも絶え間なく続く甲龍の攻撃を避け続けながら、耕介は力の限り叫んだ。

「お前がしていることは、結局何から何まで、最初から最後まで自分のことだけだ。自分のことしか考えていない。他人のことを考えてなどいない。お前は唯一、おまえ自身しか見ていない」

「それの何が悪いと聞いている!」

 自覚しているのか、そうでないのか。怒り狂う甲龍の反論からは読み取れなかった。

「人間は──否! 全ての生命は自分のために生きる。自分のために生きて死ぬんだ。他人のためになどというのは何の意味もない。そんな奇麗事で生きていけるほど、世界は甘くない。知らんとは言わさん。おまえ自身が、それを良く分かっているはずだ」

「ああ、よぉく知ってるさ」

 嫌と言うほど知っている。世界の無常さに、非情さに心を傷つけられなければ、耕介は『破壊者』などという力を持たずに済んだのだ。

「ならば──」

「だけど違う。例えそれが、本質的に自分のためでも、他人のことを考えちゃいけない理由にはならない。誰かのことを思いやってはいけない理由にはならない。お前が自分のことしか考えてこなかった理由にはならないんだよ!」

「なんだと?」

「お前は破壊を望んだんじゃない。お前は自分のことしか考えてなかったから、お前のことを受け入れてくれるかもしれない存在にさえ気づかなかった。自分しか見ていなかったから、お前を思いやってくれている存在を理解できなかったんだ。だから分かっていないって言うんだよ! お前が破壊を求めるのは、自分のそんな行為を正当化しているだけなんだっていうことに、いい加減気づけ!」

「馬鹿な。違う! 俺は! 破壊者だ!」

「お前は破壊者でさえない。お前はただの人殺しだ」

「違う!」

 甲龍の叫びは悲痛なものだった。動きが緩慢になり、アスタリスがその動きを完全に止めた。

「俺は破壊者だ! そうでなければ、俺は両親を殺したりしなかった。そうでなければ俺は破壊などしなかった。そうだ。全て破壊者が悪い! 誰も俺のことを受け入れてくれなかったのも。俺が破壊をしたのも。お前が悪いんだ。お前が、お前がぁぁ!」

 叫びと共に、跳躍する。そのすさまじい動きに、耕介は一瞬反応が遅れた。アスタリスの刃の群れを紙一重で避け切り、だが幾分か、その剣圧が彼の身体を切り裂いた。止まっていた痛みが再発する。気が狂いそうだった。何もかもを放り出して、眠ってしまいたいほどの疲労感に悩まされながらも、それでも耕介は止まらなかった。

 言うべきことがあった。何を差し置いても、言わなければならないことがあった。

「人のせいにするな! お前が望んだことだろう! 人と交わることを拒み、独りで生きていくことを決めたのはお前じゃないか。全てお前が決めたことだ!」

「うるさい、だまれぇ! お前がいなければ、俺は破壊者でいられたんだ。考えなくて済んだんだ。お前さえいなければぁぁぁっ!」

『ああああああっ!』

 叫びは、もうどちらがどちらのものか分からなかった。何も聞こえない無音の領域で、耕介は駆けた。降り注ぐアスタリスの刃の嵐の中を駆け抜け、無我夢中で、霊力を纏わせた拳を甲龍の顔面に叩き込む。

 それが、戦いの終わりだった。

 

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