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 そんなやりとりがあって以来、ずっと歩き続けているわけだけど、なかなか麓に辿り着かない。いや、もうここは麓には違いない。けど、結局お目当ての人の姿が無いのでは話しにならない。なら能力使ってもよかったような気がするけど、もうここまできたらどっちも変わらないように思える。

 それにしても、家が一軒も無いのはどういうことだろう?

「さて、どうするかな……」

 いっそ能力を使って人のいるところまでテレポートしてやろうかとも思う。

 半ばあきらめ状態に入りかけていたボクは、しかし少し先に停車している車を発見した。ライトを消していたので気付かなかったのだ。暗いのでよくわからないけど、どうやら人もちゃんといるらしい。

「これで向こうもトラブっていたらお笑いだな」

 笑えない冗談を独りごちながら、ボクはその車に近づいた。

 その車の車種はランドクルーザーだった。別にどこでも見かける珍しくもないものだけど、喜多さんの車(もう古すぎて何て名前なのかも忘れた)に比べれば桁違いに格好いい。しかもよくよく見ると、そいつはフロントにウインチまでつけて、本格的なアウトドア装備をしていた。

 いったいどんな車マニアだろうと思い、ボクは彼らに声をかけることにした。コンコンと窓をノックする。

「こんにちは」

「え?」

 ボクの声に驚いたのか、その車の持ち主はビクッと肩を震わせて振り返った。

 けどその人が振り返った瞬間、今度はボクが驚いた。

 女性だった。それもとびきり美人の。ジーンズにTシャツというラフな格好だけど、目がパッチリとしていて鼻も高い。ショートカットもよく似合っており、スタイルも抜群だ。

 さらに驚いたのは、助手席に座る女性もまた、運転席の彼女に負けず劣らず美人だった。こちらはロングヘアーで、ほっそりとした身体の線が綺麗だ。あどけないその雰囲気は、私生活に戻ったうちの妹に似ている。素材勝負じゃあフィリスの全敗だけど……。

 ボク自身、自分が美人の部類に入ることは自覚している。これでも結構男から声をかけられるし、それなりにスタイルも自信があった(少なくとも同じ羽もちの知佳よりはよっぽどいい発育だと思う)。

 それでも、素直に負けたと思えるくらいこの二人は美人だ。

 けど、その一方、このボクよりも年上であろう二人連れに、ボクは純粋に興味がわいた。

 女性の二人連れだと、世間では美人と圏外というペアが何故か多いようなことを、知り合いの男子から聞いたことがある。それが事実なら、このように雰囲気の違う美人同士が並ぶケースはめったに無いということだろう。

「あの……私たちに何か?」

 驚きっぱなしで用件を言うのを忘れていたボクに、運転席の彼女が窓を開けて恐る恐る聞いてきた。

「あー、その、実はこの道を山の方に向かったところで車がオーバーヒートしてしまいまして。できれば町まで乗せてほしいんですけど」

「携帯は持っていなかったの?」

「ええ、まあ。持ってはいたんですが、運悪く充電が切れてまして」

「あら、それはついてないわね」

 こちらも女性であったことが幸いしたのか、彼女から警戒した雰囲気が消えた。すると、窓を開けたドアの向こうから、ロングヘアーの彼女が涼やかな声で答えた。

「私たち、これから幽霊見に行くの」

「は?」

 そのあまりに予想を外れた返事に、ボクは聞き間違えたのかと思った。

「ゆうれい?」

「そう。幽霊。あの「うらめしやー」とかいう奴」

 言って、助手席の彼女は幽霊の物まねをした。

「だから車には乗せられないの」

「困ったな……」

 本当に困った。このままだとあの車の中で一泊、下手すればボクだけここらあたりで野宿することになる。ふと山の方を見ると、そこはやはり今までとなんら変わらない景色があった。喜多さんの車がやってくる気配は微塵も無い。

「ところで、どこに幽霊がでるんです?」

「あら、知らないの?結構話題になっているんだけど」

「ボクは隣の県から来たんですよ。仕事でちょっと用があって」

「ふーん。それじゃあ教えてあげるね。この道をまっすぐ山のほうに行くと途中に分岐があるの」

「うん。歩いてきたから知ってる」

「その道を貴方が来た方とは違う道の方に入ればいいのよ。その先に川があって、幽霊はその川原にでるらしいわ」

「へえ……」

 どこにでもあるような幽霊関連の話に、ボクは適当に相槌を打った。と、ここで運転席のショートカットの女性が参加してきた。

「白い亡霊のような姿が見えるそうよ。それに、物が浮かんだり無くなったり、不思議な現象が起こるとか」

「なるほど、それは不思議だね」

「でしょう?だからそこに行って、テントを張って一泊しようと思っているの」

「だから、車には乗せられないのよ。ごめんなさいね」

 そう言って、ショートの彼女はすまなさそうに軽く頭を下げた。それからふと思いついたように顔を上げて、

「あ、ねえ、貴方も一緒に行かない?もし帰るのが明日になっても良いなら送って上げられるけれど」

と言った。ロングの彼女もそれに同意する。

「そうね。私たちだけじゃ心細いから一緒に言ってくれると嬉しいな」

 突然の申し込みに、ボクは思わず頷きそうになったけど、ふと喜多さんのことを思い出した。そうだった。ボクは一人じゃないんだ。それに一応夜遅くになると言ってあるとはいえ、どこかに泊まるのならさざなみにも連絡をいれておきたい。彼女たちは携帯を持ってそうだからそれは借りればいいとして、問題は喜多サンだな。

「あ、えーと……。実は連れが一人いるんだけど」

「お連れさん?」

「うん」

「貴方の他にもう一人ぐらいなら車にも乗れるでしょうし、私は大丈夫だけど有希は?」

 と、ショートの彼女は隣に向き直った。有希と呼ばれたロングの女性もあっさりと同意した。

「もちろんいいわよ。それじゃあ、まず貴方のお連れさんと合流しようかしら。ねえ、この道をまっすぐに行ったところって言ったわよね」

「うん。それじゃあ、すみませんけれどお願いします」

 そう言って、ボクは遠慮がちに車の後部座席に乗り込んだ。

「私は前島有希」

 と、先に自己紹介したのは助手席に座るロングヘアーの女性だった。対して運転席のショートの女性は鈴木加奈子と名乗った。こちらも、簡潔に自己紹介する。

「ボクはリスティ・槙原。よろしく、前島さんに鈴木さん」

「有希でいいわよ」

「私も名前で呼んでくれていいわ」

 そう言って、彼女──加奈子さんは車を発進させた。

 

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