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さらにすこし走ったところで、車は川原におりた。
川の幅は約十メートル弱。それなりに大きな川だった。川原自体もそれなりに広く、五十メートルはあるだろう。人の頭ぐらいもある石がごろごろしている。
加奈子さんと有希さんは車から降りると、早速テントを張りに精を出した。さすがに慣れている手つきで、喜多さんは情け程度のお手伝い。ボクにいたっては完全に見学者状態だった。
すぐにあたりが暗くなり、火を起こしてバーベキューを始めた。もともと第三者であるボクらは、遠慮しながら二人からの好意に授かり、少しばかりの腹の足しにする。幸い飲み物はたくさんあったので、喜多さんもボクもビールをいただいて乾杯した。
しばらくたった頃、喜多さんが缶ビールを口元で止めて言った。
「お友達、遅くない?」
「あれ、そういえばもう十時じゃない。おかしいな、九時ごろには来るって言ってたのに」
「そうね。なにかトラブルでも起きてなければいいけど」
「携帯はここだと使えないから、私、ちょっと車で電波が届くところまで行ってみる」
そう言って、加奈子さんは自家用車に乗り込み、エンジン音を響かせて去っていった。
暗い川原に、三人が取り残された。火はだいぶ小さくなっており、あたりの景色も、今夜は月が出ていないせいで闇に解けてしまっている。
キャンプをしようというのだから、懐中電灯ぐらい持っているだろうと思い、ボクは有希さんにその在り処を聞こうとした。そのとき──。
「きゃあっ!」
ふいに叫んで、彼女はボクに抱きついてきた。
「今、あそこで白いものが動いたの」
「え?」
言われて、ボクと喜多さんはそれとおぼしき場所に目を向けた。けど、足元にある小さな光だけでは先の様子まではわからなかった。月も星も無く、すべてを包み込むかのように深い闇が辺りを包んでいる。
ふいに、風が吹いた。ザザーっという木々がこすれあう音が、この場に言いようの無い臨場感を与えてくる。
「いやだぁ!」
ちょっとだけ顔を上げた有希さんがまた叫んだ。
「あそこ。あのあたりで何かふわふわしてる……」
言われて目をやると、確かに白っぽい点みたいなものが、闇の中で動いたような気がした。
「リスティ?」
と、喜多さんが確認するようにこちらに顔を向けた。さすがに恐怖に怯えているふうではなかったけど、それでもこれから起こることに対して不安になっているようだ。
「別に殺気の類は感じないけど」
ボクも喜多さんも、本物の幽霊というものを見たことがある。それ故に、そう言った分野は専門的な知識や能力がないと対処できないことも経験上知っている。ボクの能力は確かに基本的に戦闘に向いているけれど、それが実体の無い幽霊に効くかどうかは疑問だった。
「あれが本物かどうかは、ここからだとわからないな……」
以前としてボクの胸にしがみついて震えている有希さんをなだめながら、ボクは言った。とにかく、一度彼女を落ち着かせようと、有希さんに向き直った時だった。
ドオンっ!
という低く乾いた音と共に、地面が揺れた。方向としては下流の方だろう。ここからは何があったのか見えない。
「うわっ」
「おっと」
さすがに驚いたのか、喜多さんもボクも声を上げた。有希さんに限っては、すでに泣き出してしまっている。なんとか励まそうとした時、喜多さんが何かに気付いたようにボクを呼んだ。
「リスティ、周りを見てみろ」
「え?」
言われて、ボクはその通り辺りを見回した。
林の方が、赤く染まっている。ぼんやりと赤いそれはまるで火事のようだ。
火事?
そう思いついて、ボクは慌てて喜多サンを呼んだ。
「喜多さん。あれ、何かが燃えてる!」
「え?」
「たぶん、火事だ」
そう言って、ボクは未だ震えている有希さんを任せようと彼のところまで歩み寄った。彼女には聞こえないように、小声で話す。
「テレポートであそこまで行ってみる。喜多さんは彼女の気を引いてて」
「ああ、わかった」
緊急事態で仕方ないといったふうに、喜多さんは頷いた。ボクだってわざわざ他人がいる前で能力を使いたくは無かったけど、今はあの赤くなっている場所が気になった。
「それじゃあ」
言って、意識を集中する。行ったことのない場所に跳ぶ場合、どうしてもエネルギー効率が落ちてしまう。フィンを広げられればどうってこと無いけど、ここでそれをすることはできない。
と、その直前、エンジン音が響き、ヘッドライトの明かりがボクたちを照らした。
加奈子さんだ。
くそ、これで跳びそこなった。
舌打ちする。さすがにこの状況で能力を行使するわけには行かなかった。だが車が来たのなら、彼女に連れて行ってもらえばいい。そう思ってボクは車に近づいた。
ところが予想外にも、加奈子さんのほうが口を開くのが早かった。
「大変なの。今日子の車が……」
「今日子の車が、どうしたの?」
と、意外にしっかりとした声で聞いたのは、さっきまで泣き崩れていた有希さんだった。逆に、今は加奈子さんの方が今にも泣き出しそうだ。
その加奈子さんは、顔面を蒼白にして信じがたいことを言った。
「今日子の車が……燃えているのよ」