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 車で駆けつけたそこは、キャンプ地から数百メートル下った下流の川原だった。

 その川原の中央付近で、一台の車が炎上していた。運転席を下にして、完全に横転してしまっている。炎に包まれてはいたが、その車が軽自動車だということは何とか判別できた。

 けど、ここで一番気になるのは当の車の持ち主の行方だった。気配を張り巡らせて見るが、どうも車内にはいないらしい。

 もっとも、いたら間違いなく即死だろうなと思う。

「ほら、あれって今日子の車でしょ?」

「本当だ……」

 加奈子さんの確認に、有希さんが頷いた。どうやら例の今日子さんの車であることは間違いないらしい。

「今日子さんはどこに?」

 限界まで車に近づいた喜多さんが、炎上する車を見つめて言った。

「わからない。気配は感じないよ」

「そうか。ところで、加奈子さん。携帯で消防と警察を呼んできてください」

「あ……は、はい」

 喜多さんに指図を受けて、呆然と燃える車を見つめていた加奈子さんはハッと我に返ると、再び圏内まで車を走らせた。

 一方の有希さんはまた泣きそうになっていた。彼女の背を撫でて慰めながら、ボクは思考をフル回転させる。

 理由は単純だった。この事故に見える車の炎上には疑問点が多すぎたからだ。

 まず一つ目に何故あんな場所で車が横転していたのか。

 場所は川原の真ん中。周囲の石が大きいのは、この辺りも同様で、だからこそここまで車で乗り入れるのは大変だろう。もし入れたとしても、横転するほどのスピードは絶対出せない。

 崖の上の道路から猛スピードで飛び出したらどうだろう。

 ……駄目だ。そのまま川に落ちるだけで、とてもじゃないが川原までは届かない。

 頭上に橋があるわけでもない。それなのに、車はまるで遙か高い空から堕ちて来たように、フロントを潰して横転している。

 その疑問は消防と警察が到着してからさらに大きくなった。

 鎮火した後の調べたところ、車体の下から今日子さんとおぼしき女性の焼死体が発見された。その女性が、有希さんや加奈子さんの友人、加藤今日子さんであることは彼女たちの証言でわかり、死体が送検された後、彼女たちもパトカーに乗ってこの場を後にした。

 

      …

 

 あれから、こちらの警察側には今日の昼頃お世話になったばかりだったので、ボクらはさほど苦もなく自由になれた。

「喜多さん……。どう思う?」

「不思議だな」

 そう言って、彼は内ポケットから愛用のタバコを取り出した。

「一本もらえる?」

「あれ、リスティのいつものは?」

「歩いている最中に全部吸い終わった」

 そう言って、ボクは彼が差し出したケースから一本引き抜き、火を譲ってもらって一息つくことにした。

「ふう……落ち着く」

「まったく。一端のヘビースモーカーの台詞だな」

 そういう彼も、ボクと同じくらいタバコの常習者だ。

「それで、彼女の死因は解剖待ちだが、まあ車に押しつぶされたとみて間違いないだろうな。問題は車の方だけど。リスティはどう考えてる?まさか幽霊の仕業とか?」

「それは違う。あの時、あの場所にそう言ったエネルギーの流れや変化は無かった。ボクは薫や那美みたく霊感があるわけじゃないからなんとも言えないけど、悪霊の類によるものじゃあないと思う」

「それじゃあ、一体どうやって?」

「……ひとつの可能性としては、ボクみたく能力者がやったとも考えられる」

「彼女たちのどちらかがそうだと?」

「違うと思う。だから困ってるんじゃないか。推理は好きだけど、得意じゃないんだ」

「そんなこと言わずにがんばれ」

「喜多さんもね」

 そう言い返して、ボクはもう一度鎮火された車の方を見た。辺りを見回しても、周囲には高いものは何も無かった。頭上にもやはり何も無い。

「どっちにしろ、これを事故にして片付けるのはまだ早い」

「事件か事故か……」

「喜多さんはどっちだと思う?」

「……わからん」

 喜多さんも同様にボクの横で頭をひねらせていた。そこで、ふと気付く。

「ねえ。そう言えば、みんな撤収し始めてるけど。ボクらはどうすればいい?」

「え?」

 言われて、彼も消防や警察の方に目を向けた。確かに、皆撤収を始めている。現場検察も終わり、一応調べ終わったのだろう、何台かの車が、すでに出発していた。

 この辺り一体を立ち入り禁止にして、いったん引き上げるらしい。

「って、一緒に連れて帰ってもらわないと、ボクらには足がないじゃないか」

「のんびりとしてる場合じゃないな」

 慌てて火を消して、ボクらは彼らの元へと走った。

 

      …

 

 時刻はもう朝の四時になっていた。

 時間も時間なので、ボクらはいったん海鳴に帰るべきだということになった。

 放置されている喜多さんの車は後日レッカーで運んでくれるそうで、それならということで、ふたりとも好意に甘えて今日は休もうと車に乗り込んだのだ。

 その帰り道。

 うとうとしかけていたボクは、ふと窓の外から見えた景色に漠然とした。

「ちょ、ちょっとストップ!」

 慌てて、運転手に車を止めるように言って、ボクは窓の外から見えた光景をもう一度確認した。

「ん、どうした?リスティ」

 隣で爆睡していた喜多さんも、車の急停車に身を揺らされて目を覚ましたらしい。

「わかった」

「なにが……?ふわあぁー」

 最後の響は彼の欠伸だった。が、寝ぼけている喜多さんにも構わず、ボクは車を降りる。

「トリック」

「え?」

 そのボクに続いて、喜多さんと運転していた警察官も車から降りて来た。何事かとこちらの様子を見ている。

「トリックがわかった。加藤今日子は事故死じゃなく、殺人。それも犯人はあの二人」

「……って、なんだいきなり」

「いきなりじゃないさ。警察と消防がきてからボクはずっと考えていた。考えてみて。ボクのような能力でも使わない限り、空に車を持ち上げるなんてできっこないんだ。そういう能力者がいればわかるし、能力を使えばそれはなおさらだ」

「でもそういう気配は感じなかったんだろ?」

「うん。だからボクはこれがトリックだと断定して考えてみた。犯人を最初からあの二人だと絞ってね」

「それで、トリックがわかったのか?」

「だからそう言ってるじゃない。でも、事件を解くのはとりあえず解剖を待ってからにしよう。それまではあの二人から目を離さないで」

 そう運転手の警察官に指示して、ボクは車に戻った。車の外で、その彼にお願いしますと頭を下げている喜多さんの声が聞こえる。

 その後、彼の無線のやり取りを聞きながら、ボクは憑き物が落ちたように眠りについた。

 

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