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「で、どうでした?」

「やっぱり直接の原因は車が落ちてきたことによる圧迫死だな。加藤今日子の死体の骨は、その一部が粉々になっていて、しかも車のフロントのへこみが、川原の石と今日子の身体の形に合致していることがわかった。解剖医の話だと、おそらく車は十メートル以上の高さから落ちてきたことになるらしい」

 あれから結局、喜多さんからの連絡はなく……。

 そして今日。早朝にかかって来た電話で呼び出されて、ボクは彼と一緒に車で隣の県警まで行くことになった。

 その医療捜査班室。喜多さんから聞かされたその解剖結果は、ボクが予想していたものとほとんど同じだった。と、その話を終わった頃、部屋がノックされて一人の刑事が入ってきた。

「一昨日あなたから言われたとおり、被害者の友人である鈴木加奈子と前島有希の二名は、監視の意味も込めて昨日はここの貴賓室で仮眠をとってもらいました。今日は一度自宅に帰しましたが、うちの刑事も付き添いですのでじきに戻ってくるでしょう」

 そう言ったのは、事件の日にボクと喜多さんを海鳴市まで送ってくれた刑事だった。遅ればせながら、先日の礼を言うボクに、彼は高見と名乗った。まだボクとほとんど変わらない歳だというのに、現在の階級は警部補。つまりは将来間違いなく官僚になるエリートということだ。

 そんな奴に運転手みたいな雑用やらすなよと軽く陰口をたたくと、昨日のことは自分から進んで申し出たということだった。

「物好きだね」

 それはあくまで雑用を買って出たことに対して言ったつもりだったけど、何を勘違いしたのか、高見警部補はその頬を赤く染めた。

「惚れられたか?」

 小声で、喜多さんが茶化してきた。

「社交辞令だろ?」

「いや、あれは惚れてるね」

 納得顔で頷く喜多さんの横で、何故か解剖医までうんうんと相槌を打っていた。

「話がずれてる」

 憮然として言い返したボクに、喜多さんはやれやれといったふうにため息をついた。

 

      …

 

 有希さんと加奈子さんが署の方に来たのはそれから三十分後のことだった。

 廊下でばったり出くわした二人は、二人とも着替えて身なりをきちんとしており、その風体はどこをとっても一級品の美女だった。この前は夕方だったせいでよくわからなかったけど、この二人が昼間街中を歩いたら相当目立つのは間違いない。

 それはともかくとして、何で容疑者を貴賓室に寝泊りさせてるんだ、ここは!

 要するに美人には弱いということらしい。まったく男ってのは。

「お二人とも警察関係者だったんですね」

 そんなボクの思考をよそに、そう言ったのは加奈子さんだった。

「ええ、まあ。ボクのほうはただの民間協力者です。警察官じゃないですよ」

「今回の事件にも彼女に協力をお願いしたんです」

 と、ボクの言葉に付け加えてフォローしたのは高見刑事だった。

「事件?」

 と、有希さんが彼の言葉に反応して眉をひそめた。

「事故じゃなかったんですか?」

 加奈子さんもそれに便乗する。

「それについてはこれからお話します。どうぞ会議室の方へ」

 そう言って二人を先導する高見刑事の後方で、ボクは二人に気付かれないよう、そっと喜多さんに耳打ちした。

「取り敢えずトリックを暴くけど。どうする?能力使って心を読もうか?」

「いや、それは最終手段でいいよ。ともかく、ここはリスティに任せる」

「All Right」

小さくオッケーサインをだす喜多さんにウインクで返事して、ボクらは会議室とは名ばかりの取調室に入って行った。

 物は言い様。やるじゃないか、あいつ。

 

      …

 

 取調室に入ると、早速ボクは本題に入ることにした。

「実は今回の加藤今日子さんの死亡については、事故ではなく事件。それも殺人事件ということがわかりました」

「ええっ……」

 そう言い切ると、二人は目を丸くしてボクを見た。

「どういう理由かはわからない。けれど貴方たちは協力して今日子さんを殺害しようと計画した。そこで、例えこれが殺人だとばれても、少なくとも自分たちに矛先が向かないような方法を考えた。その上、たまたま通りかかったボクと喜多さんを証人にすることで、計画をさらに完璧なものにした」

「い、いきなりね。槙原さん」

「そ、そうね。いきなりそんなことを言い出すなんて。あなたも見たでしょう。白いふわふわと浮く物体を。幽霊の仕業とでも思わない限り説明がつかないわよ」

 この前のことを思い出したのか、自分の肩を両手で抱くようにして有希さんは言った。

「私は幽霊が今日子のことを気に入って、自分の世界に招こうとしたんじゃないかなって思うの。あそこに出る幽霊が物を動かすっていうのは前から噂であったし、その幽霊の力で車が持ち上げられたのよ、きっと」

 彼女たちのいい訳じみた話に、喜多さんも高見刑事もどこか呆れた様にため息をついた。

「残念だけど……」

 ボクの方も、彼女の話が終わるのを見計らってからゆっくりと首を振ってそれを否定する。

「トリックの全貌はもうわかってるんだ。あの日の君たちの持ち物や、あの辺りの風景を吟味すればおのずと答えは出る」

「でも車が空から落ちてきたとしか考えられないわよ」

「そうよ。頭上には何も無かったでしょう?あそこは両側に山が迫った谷のそこなのよ」

「ホントに何もなければね……」

 ボクがそう言った瞬間、有希さんの顔色が変わった。加奈子さんの方はまだ平然としている。二人の反応を見比べながら、ボクは謎解きを続けた。

「貴方たちの乗っていた車のフロントにはウインチが装備されていた。あのウインチは川を渡ろうとして動けなくなったときなどに、木にロープを結びつけて巻き上げ、自力で脱出するときに使ったりするものだよね」

 確認の意味も込めて自称カーマニアの喜多さん方を向くと、彼もそうだとばかりに頷いた。

「あれなら、軽自動車を一台引っ張り上げるくらい簡単じゃないかな。あと、今日子さんの車が墜落した場所の真上には谷を横切って木材搬出用のロープが張られていた。川原から二、三十メートルほどの高さにあるそのロープとウインチを使えば、今回の不思議な事件を演出できるよ」

 そこまで言ったときには、加奈子さんのほうも表情が変わっていた。有希さんに至っては蒼白になっている。

「ボクの予想だと、今日子さんとはあの場所で待ち合わせたんじゃないかな。そうじゃないと、彼女の車を持ってくるのが面倒だからね。その後、君は殴るか何かで彼女を気絶させ、軽自動車の後ろの車体の下にある牽引用のフックにウインチのロープを結んだ。その前にウインチのロープを放り投げて頭上の木材搬出用のロープに引っ掛けてわたしておけば、ウインチを巻き上げると、それに連れて自動車は吊り下げられる格好になる。十メートル程度の高さまで上がったら、大型のクリッパーでウインチのロープを切ればいい。真下に今日子さんの身体を置いておけば、彼女は潰される。ロープを回収し、証拠を消すためにガソリンに火をつけ、後は警察と消防を呼びに言っている振りをして木材搬出用のロープを切る。切られたロープはそのままではボクたちの頭の上に落ちてくるけど、適当に別のロープで横に引っ張りながら離れたところに落ちるようにして、あとで林の中に隠してしまえば、次に木材搬出用に使うときまで、そのロープが切られていることに気付く者はいない。事前に辺りの状況を調べておけば、簡単な作業だよ」

 そこでボクの話は終わった。

 その後十分もしないうちに、顔面蒼白になった有希さんが供述をはじめ、それを止めようとする加奈子さんも、泣き崩れてしまった有希さんを見てやがて犯行を認めた。

 彼女らが犯行に及んだ動機は、今日子さんとのお金のトラブルが原因だった。

「彼女はとてもお金にルーズな性格で、これまでに何百万もの売上金を使い込んでいるの。この前はお店のお客と一緒に売上金を持って旅行に行ってしまうし、私と有希が怒ると、反対に起こって暴れるの。警察に届けたりしたら、私たちの顔をめちゃめちゃに切り裂くなんて脅すのよ。それでどうにもならなくなって、こんな計画を立てて……」

 もちろん、幽霊が出るという話も、有希さんが白い何かを見たという話も嘘だった。

 

 

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