後編

 

「ったく、なんなんだ?今のテロップは」

「ほら、最近流行ってるじゃん」

「それにしたって、御伽話でそんなの使っちゃ駄目だよ」

「そうだな。変なアニメの物真似までしやがって」

「それじゃあ、大輔はちび○子ちゃん見てないのか?」

「……見てる」

「ええっ!」

 大輔のさりげない一言に、驚きの声を上げたのは女性陣だった。

「大輔さん、あれ見てるんですか?」

 代表として、ななかが前に出た。

「あ、あれ?もしかして皆見てなかったりする?」

「私たちは部活があるから……」

 と、ななかが振り返って瞳と唯子に同意を求めた。

「私はアニメはあまり……」

「昔は見てたけどねー」

「ちび○子ちゃんってなんデスカ?」

 と、これは当然の反応であろう、弓華である。

「日本のアニメ。結構昔からやってる少女漫画だよ。唯子も私も、昔は見てたんだ」

「私は運動ひとすじだったから、子供の頃もアニメとか見た記憶ってあんまり無いな」

 そりゃあ御剣はな、と思うが勿論それは口にはしない。

「端島先輩は不良だと思ってたんですけど」

「うわっ。綺堂、今さらっとひどいことを」

「でも見てるんでしょ?」

 そうななかに問い詰められ、大輔は慌ててまくし立てた。

「だって、あれが放送してるの日曜日だぞ?よっぽどの用が無い限り家にいるじゃないか、そんな時間。別段やることなんてないし。だったらテレビ見ててもおかしくないだろう?五時五十分からNHKで十分間『忍たま乱太郎』を見て、その後六時から『ちび○子ちゃん』『サザエさん』『こち亀』に『ワンピース』と続くのが人情なんじゃないのか?そうだろう、相川!」

 振り返って、同意を求めてくる親友に、しかし真一郎はささっと視線をはずした。

「い、いや、俺が見てるのは『ワンピース』ぐらいかな。あとは昔たまーに見たことがあるくらいで」

「お、おい!相川?」

「あ、先輩、さりげなく裏切ってる」

 と、これはさくらの一言。

「とにかく。大輔さんがアニメファンということはわかりましたから」

「いや、だから違うって!」

 が、大輔の反論は聞く耳をもたれなかった。

「本当に意外な人っているわよね」

「見かけに騙されてはいけませんね」

「ははは。ま、ファイトだよ、端島君」

「大輔はオタクデスカ?」

「うん、そうらしいよ」

「暗いわね」

「だから、ちょっと待てぇぇぇ!」

 こだまする悲鳴。

 その日、大輔は己の尊厳を失うと同時に、新たな人生の分岐点を得た。

 

 閑話休題。

 

 部屋の隅で丸くなっている大輔はさておき。

「で、なんでいつの間におばあさんが殺人鬼になってるんだ?」

 いずみのもっともな質問に、真一郎は胸を張って答えた。

「物語に悪役は必要だ」

「悪役って鬼じゃないの?」

「ははは、鬼婆だー」

「唯子は黙ってて」

「ぶうー」

 ふくれっつらをしてみせる唯子もおいといて、

「そろそろ始めていいかな?」

「その設定で行くわけね。いいんじゃない?斬新で」

「まあ、千堂先輩がそうおっしゃるなら」

「んじゃ、続けまーす」

 

      …

 

 しばらく歩いていくうちに、桃太郎は村の若者の一人に出会いました。

若者(いずみ)「やあ桃太郎さん、俺をお供に連れていって下さい。あなた一人では危険過ぎます」

桃太郎(真一郎)「でも、もしかしたら生きて帰れないかもしれませんよ」

若者(いずみ)「構いません」

 若者の目は真剣でした。ですがこれは危険な旅です。覚悟が無い人を連れて行くわけには行きません。

 と、木の陰から物音がして、一人の女性が現れました。

桃太郎(真一郎)「誰だ?」

娘(瞳)「あたしよ」

 彼女は隣村の村長の娘さんでした。当然、桃太郎とも面識があります。

娘(瞳)「鬼退治に行くんだって?面白そうだからあたしも連れてってよ」

 気が強い彼女は、そう桃太郎に詰め寄りました。

 困りました。女の人を連れて鬼退治にいけるわけがありません。彼女は腕っ節は強いですが、やはり女性なのです。

 そこで、ふと桃太郎は妙案を思いつきました。腰に携えていた袋を取り出すと、おばあさんがもたせてくれたきび団子のことを思い出しました。

桃太郎(真一郎)「きび団子があるんだけど、それを食べてくれたら一緒に連れて行ってあげてもいいよ」

 そう二人に提案します。そこで、ふと娘の方は何かに思い当たったようでした。

娘(瞳)「そ、それ。誰が作ったの?」

桃太郎(真一郎)「僕のおばあさん」

 ピシイッという音がこちらまで聞こえてきそうなくらい、あっさりと娘は石化しました。

 それでもなんとか持ち直して、桃太郎に詰め寄ります。

娘(瞳)「あ、あの毒マムシがつくったの?」

桃太郎(真一郎)「それがおばあさんのことを言っているならそうだよ」

娘(瞳)「それを私たちに食べろって言うのね?」

 おばあさんが作った料理が、一口で人を毒殺できるほどの威力をもつことは、村では有名な話です。

桃太郎(真一郎)「うん。これが食べられるくらいなら、鬼退治なんて怖くないし」

 桃太郎も結構言います。

若者(いずみ)「ん?結構おいしそうですけど?」

 と、事情を知らないのか、若者の方がはてな顔でそう尋ねました。なら食べてみなさいよという娘の勧めも会って、若者はきび団子をひとつ、口に放り込みました。

 それを、ふたりは見守ります。

桃太郎真一郎)「…………」

娘(瞳)「どう?」

若者(いずみ)「おいしいですよ?」

娘(瞳)「うそ?……それじゃあ、食べてみようかな」

 そう言って、彼女も団子をひとつ食べてみます。

 一方、何も起こってないことが逆に不安になって、桃太郎はふたりに尋ねました。

桃太郎(真一郎)「ふたりとも、大丈夫?」

娘(瞳)「なんともないわ……きゃあ!」

 途端に、白い煙が二人を包み込んでしまいます。

 そしてそれが晴れたあと、なんということでしょう。

 若者はサルに、娘はキジになってしまったではありませんか。

──(いいの?こんな展開で)

──(人の言葉が話せるサル、キジ、犬が出てきて、きび団子ひとつでお供になるほうが不自然だと思ったみたいだよ、真くんは)

──(まあ確かに、千堂先輩が言うとおり斬新ではありますよね)彼女らの意見を他所に、話は続く。

 これにはさすがの桃太郎も驚きましたが、よくよく考えてみると死ななかっただけでも儲けもの、あの歩く災害といわれるおばあさんの作った団子です。なにがあってもおかしくはないと思い、悩むのをやめました。

 が、問題は変わってしまった二人のほうです。

娘以下キジ(瞳)「ちょっと、桃太郎!!これは一体どういうことなの!?」

 と、キジになった娘は桃太郎に詰め寄りました。どうやら人語は話せるようです。

若者以下サル(いずみ)「な、なんでサルなんかに」

 一方、若者の方は自分の変わり果てた姿にショックを受けているようでした。

桃太郎(真一郎)「どういうことって。死ななかっただけましだと思うけど」

 それをいわれて、キジは黙り込んでしまいました。

桃太郎(真一郎)「でも、まあ。約束どおり鬼退治、連れて行ってあげる」

キジ(瞳)「ちょっと。こんな姿で鬼と戦えっていうの?」

サル(いずみ)「そうですね。ちょっとつらいですね。これは」

桃太郎(真一郎)「でも、僕は戻し方なんて知らないし。あ、そうだ。鬼たちは宝物をたくさん持っているって話だから。その中には元に戻すことのできる宝物があるかも」

キジ(瞳)「本当でしょうね?」

 キジになっても気の強い娘が詰め寄ります。

桃太郎(真一郎)「確証はないけど。可能性としては」

サル(いずみ)「そうですね、では取り急ぎ鬼のいるといわれる鬼ヶ島に参りましょう。なんだかこのままだと、いずれ本物のサルになってしまいそうで」

桃太郎(真一郎)「サルさん?」

サル(いずみ)「なんです?」

桃太郎(真一郎)「ほい、バナナ」

サル(いずみ)「ウキキッ」

 そう言って、サルは桃太郎が出したバナナに似た木の枝に飛びつきました。

桃太郎キジサル真一郎いずみ)「……………」

 沈黙が辺りを支配します。

サル(いずみ)「急ぎましょう」

 何事もなかったように真面目な顔(猿顔ではあるが)をして、サルは先導を切って歩き出しました。

 

 


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