…
「なんで、私がサルなんだ?相川」
「どうして私がキジなんですか?相川君」
彼女たちの質問はもっともだった。なにせ、真一郎は今日の今日まで、配役は一切公表していなかった。それは勿論、今のように文句を言われることを想定していたわけだが。
「いや、ほら。劇は全員に出てもらいたいじゃないですか。その上で配役を選んでいったらこうなったんです。悪意はないですよ。千堂さんには」
「ちょっと待て。じゃあ私には?」
「思いっきり故意だ」
「相川……」
「まあまあ、いずみちゃん。それで他の役はどうなってるの?真一郎」
「んー。まだ内緒」
「けちぃー」
楽しみで仕方ないといったふうに、唯子は笑った。
それにつられて、いずみもあきらめたふうに苦笑いする。視線で、ごめんと謝って、真一郎は続けた。
…
しばらくすると、道端に一人の少女が倒れているのが見えました。
キジ(瞳)「誰か倒れているわね」
桃太郎(真一郎)「ああ。お嬢さん、大丈夫ですか?」
桃太郎が少女を助け起こすと、その少女は気がついたようでした。
桃太郎(真一郎)「どうしたんです?」
少女(さくら)「貧血で。何も食べていなくて」
桃太郎(真一郎)「それはいけない。ああ、けどきび団子しかないんだ」
少女(さくら)「それでかまいません。いただけますか?」
桃太郎(真一郎)「いいけど、変身するよ」
少女(さくら)「はい?」
疑問符を浮かべる少女に、桃太郎たちは事情を話しました。
少女(さくら)「大丈夫です。私は変身しませんから、そのきび団子をください」
桃太郎(真一郎)「そうですか?それでは」
そうして、桃太郎はきび団子を彼女に上げた。
それをおいしそうに食べる少女。だが一向に変身する気配を見せません。なぜかと聞くと、少女はお礼に自分も鬼退治に行くと言い出し、そして自分の正体を明かし始めました。
少女(さくら)「私は、人狼なんです。だから、もとから耳と尻尾があるんですよ」
そう言って、彼女が髪を触ると、ピコっと耳が飛び出し、お尻からは尻尾が出てきたではないですか。
少女(さくら)「このとおり。信じていただけました?」
キジ(瞳)「へえ、そんな人もいるのねえ」
と、キジが感心します。
一方、桃太郎は少し考える仕草をして、おもむろに少女に聞きました。
桃太郎(真一郎)「貴方の名前は?」
少女以下桜(さくら)「桜です。春の花の」
桃太郎(真一郎)「桜。いい名前だね。ところで人狼って狼だよね」
桜(さくら)「はい」
桃太郎(真一郎)「狼ってイヌ科だよね、確か」
桜(さくら)「そうですけど」
桃太郎(真一郎)「桜」
桜(さくら)「なんですか?」
桃太郎(真一郎)「お手」
桜(さくら)「わん」
桃太郎が差し出した手のひらに、無意識に桜はその手を乗せていました。その可愛らしい泣き声に桃太郎は彼女に好感を持ちます。
桜(さくら)「わ、私ったらなにを……」
桃太郎(真一郎)「可愛い」
顔を赤らめて照れる桜を、桃太郎は純粋に可愛いと思い、その頭を撫でます。それが気持ちよかったのでしょう。桜がうっとりとした表情になりました。
桜(さくら)「あん。気持ちいいです」
桃太郎(真一郎)「そうか?それではもっと」
そう言って、彼女の耳の辺りを桃太郎は撫でてあげます。
二人は見つめあい、やがてお互いの距離が少しずつ縮まって……。
…
「ちょっと待ちなさーい!!」
と、そこでさくら以外の女性陣からいっせいにストップが入った。
「なんです?いいところなのに」
「いいところってなんですか?相川君」
言って、役同様に迫力を持って瞳が詰め寄る。小鳥があとに続いた。
「そうだよ、真くん。これじゃあただの恋愛ドラマじゃない」
「そのつもりだけど」
「なんでその相手がさくらちゃんなのー?」
「そうね、なんで綺堂さんにだけ名前があるんですか?」
「不公平だよー」
「そんなことはない。物語にヒロインは不可欠だろう?で、ヒーローとヒロインが結ばれるのはお約束じゃないか」
「『桃太郎』はそんな話じゃないぞ、相川」
「甘い!甘々だな、御剣。今日びの子供がたかが御伽話に一喜一憂すると思うか?今はそんな時代ではないのだよ。子供というのは、得てして大人の世界に興味があるもの。そこで、さくらのようなヒロインをたて、普通とは少し違う恋愛を見せることで、その興味を倍増させようとしているのだ」
「くうっ。穴だらけなのに、いまいちどこに突っ込みを入れていいかわからない論理だ」
歯軋りして、悔しがる。
「でも、さくらちゃんの耳と尻尾、出すのはまずくない?」
と、意外とまともな意見を言ったのはみなみだった。
「大丈夫。現実離れしているからこそ、誰も信じやしないよ。それに、さくらはその姿になったらもう可愛すぎて園児の心をがっちりつかんで離さないだろうから、ヒロインとしても最適」
「よかったデスネ。さくら褒められてマス」
「は、恥ずかしかったです。今の台詞」
そうして、さくらは頬を赤く染めた。
「ほら、この恥じらい加減、他の人に真似できる?」
そう言われ、皆が一様に黙り込む。
「小鳥は?」
と、幼馴染みを推薦したのは唯子。
「こいつはただパニクるだけだから駄目」
一言で却下。
「その他、いろいろな観点から考慮した結果、このようになりました。文句ないね?」
真一郎が一同を見渡すと、不満そうではあったが納得したようだった。
「と、いうわけでさくら。恋人役、よろしく」
「え、は、はい……」
やはり顔を赤らめたまま頷くさくらに満足して、真一郎は続きを始めようとした。と、そこをみなみが止める。
「ねえ、相川君。この展開で『桃太郎』であと出てきてないのって『鬼』だけだよね。ってことは、私と弓華、唯子ちゃんは鬼の役?」
「鋭いな、岡本。その通り」
「あ、やっぱり」
「私、オニデスカ?」
いまいちわかってない弓華に、
「うわーい。鬼だ、鬼♪ねえ、真一郎。私たちの名前は?」
さらに状況を読めていない唯子が能天気に聞いた。
「あるわけないだろ?鬼其の一、其の二、其の三だ。唯子は二だな」
そう言い放って、真一郎は話を再会させた。