存在意義

 

 

「なるほど…わかった、報告ご苦労様」

「はい…では、失礼します…」

ほう…と、息を吐き歩き出します

今私がこの部屋で行っていたのは、侵入者についての報告です

とりあえず聞かれるのは、戦闘能力、容姿、それから目的…ですね

しかし、私に答えられたのは最初の二つだけ…

今まで私が倒した侵入者は、大体半分ほど

ですが、その半分の侵入者は誰一人として、目的をしゃべりませんでした

と、言えば彼らがどれほど忠実に依頼、または任務をこなしていると思われるでしょうが実際は違うのです

半分の更に半分ほどの人は、口を割ると言う以前に、聞きだす前に私が切り捨てちゃったりしていますので…

それに、時々本当の道場破りなる人も来るので、実際はどれだけの人数が来たのかは謎です

「よっ! な〜に一人で黄昏てるんだ?」

「いえ…黄昏ているわけでは…それよりも、本日はどうしたのです? そのような荷物を持って…」

一人考え事をしているときに、見事にそれを邪魔をしてくださった素敵な人物こと、士郎さん

その士郎さんはなにやら旅をしに行くような荷物を持っていました

「おお、そうだそうだ、俺と恭也は今日からちょっと放浪する。 というわけだから、そのあいさつ回りをと思ってな」

「放浪…とはまた思い切ったことを御考えになりますね…」

しかも、恭也くんを連れて行くなど…思い切ったことの極みですね

このような親をお持ちになると子が苦労をするようでうす

まあ、『若いころの苦労は買ってでもしろ』 と言う言葉もありますから…

「まあ…な……。 なあ、お前はあいつ…恭也のこと、どう見える?」

「不器用ですが、そこがまた可愛いかと…」

「……………………」

「襲い掛かるのを、抑制するので毎日大変です」

「…………………………」

「………………冗談です」

私の冗談に、刺すような視線を送られてしまい、最後まで言えませんでした

まあ、あくまで冗談ですのであしからずといったところです

本当ですよ?

「で、本当のところはどうなんだ?」

「そう…ですね…確かに、この家の中だけで少年時代を終わらせてしまうのはもったいないですね」

恭也君の剣の才能は、そんじょそこらの一般剣士などとは比べ物にならないものを秘めていると思います

世の中は、広いです

狭い屋敷の中にいては、開くべきものも開かないで終わりかねません

そんな勿体の無いことをするのは御神流にとって大きな損失となるでしょう

………士郎さんが上手く導くと言うことが最低条件ですが…

「そうかそうか、やっぱりお前は人を見る眼があるみたいだな」

「いえ…そのようなことは………しかし、今日とはまた突然ですね? もしやそのこと自体を今日決めた…ということは
ありませんよね?」

私の質問に士郎さんは答えることなく、明後日の方向を見て口笛などを吹き始めました

もうこれは疑う余地無しですね

「私は士郎さんのその無計画ぶりには正直感服いたします」

「………それは俺に喧嘩を売っているととってもいいのか?」

「そのようなことはありません…私は真剣に尊敬しているのです」

本音と言えば本音です

でも、それは『尊敬』と言うよりも、感心しているといったほうが間違いなく適切だと思います

本人には言うことは出来ませんが…

「あ〜あ、せっかくお前には世話になったからお礼をしようと思ったんだけどな。 そう言う態度をとるのなら仕方が…ってなんだ
その手は…?」

「…………もらえるものはもらっておく…」

「……遠慮って言葉知ってるか?」

「生まれたときに、私の辞書から排除しました」

もらえるものはもらえるうちにもらっておくこと

世界の常識ですね

それから、遠慮なんて言葉は持ち合わせてはいけないのです

遠慮しては勿体無いことばかり起きますから

処世術の基本です

「普通そう言うときは、もっとこう…下手に出ないか?」

「卑しい私めにどうか慈悲を…」

「………………俺はお前のことを心の底から尊敬するよ…」

「尊敬などされなくても結構ですから、私にくださると言うものをください」

私の心意気に感動したのか、士郎さんはとても大きなため息をつきながら荷物を開け始めました

「なにがでるかな…♪」

「現金なやつだな………ほらっ」

「…っ!?」

士郎さんの手から、空を舞って私の手に納まったのは二振りの小太刀でした

「これ…は?」

「確か、もうすぐお前の命名記念日だろ? 俺の都合でその場にいられないから、先に渡しちまおうと思ってな」

「………………………………お返しします」

「はぁ!?」

前言撤回です

こんな高価なものをいただくわけにはいきません

私はこの家では、下っ端の下っ端。 いわばショッ○ーの戦闘員Aのようなものです

そんな位置にいるものが、幹部の方から武器をいただくなど、分不相応もいいところです

「こんな……高価な…いえ……あなたから、そのようなものをもらうこと自体あつかましいことなのです………
いくら、名を決めた日だからと言っても、いただくわけにいきません……」

「高価…か……まあ、間違っちゃいないが、これはお前がもたなきゃタダのガラクタも同然なんだぞ?」

「え…?」

「これは、お前のために鍛えられたお前だけの小太刀だ。 他のやつらじゃ、使えないとまでは行かないが
使いづらいことは確かだな」

意味が分からないです

何故士郎さんが私のためにこのようなことをしてくださるのか分かりません

このようなことをしても、士郎さんにはなんの利益も無いはずです

むしろ、小太刀を打ったお金が出て行くだけです

分からないです…

「分からないです………」

「分からないって…何が?」

「何故…私などにそのようなことをしてくれるのですか? 私は…士郎さんに何もしてあげられないのに…何故…?」

「そうだな…………なあ、冬華。 お前は、何でここで仕事と称して働いてるんだ?」

「………それが、皆様への恩返しと思っているからです」

「その恩返しをして、お前は何を得られる?」

「……自分自身が満足と言う感覚を得られます…」

「そう言うことだ」

「え?」

「俺はな、こう思ってるんだ。 『人って言うのは、自分のためにしか動くことが出来ない』 ってな。
そんなことは無いって言うやつもいると思うが、じゃあ俺たちは何で動こうと思うんだ? 動きたいと思うからだろ?
何かしようとする感情も一緒だ。 何かしたいから、何かをする。 自分が気分よくなりたいと思うから、そうする。
そんなものなんだよ、人なんてな…難しく考える必要なんか無い。 俺はただ単に俺がしたいからそうしただけだ。」

「……………」

驚きました

まさか士郎さんがこのような考えをお持ちしているとは…

しかし、それでもこれが私をもらうわけにはいかないような気がします

「まった!! それ以上はきかねーぞ。 誰が何と言おうと、それはお前のもんだ。 文句はいわれねーし聞く気も無い!」

「………強引な男性は嫌われますよ?」

「それでも、かまわんさ。 お前は黙って受け取ればそれでいいんだよ」

「…………ありがとう…ございます…」

両の手に感じる確かな重みを感じながら、私は心からお礼を言えた気がします

「……………………」

「?……どうか…なされたのですか?」

お礼を言ったと言うのに、士郎さんは私の顔を見たまま固まってしまいました

いつもなら、「いーってことよ! はっはっはっ!」 ぐらいは言いそうなのですが…

「いや…お前が、そんなふうに笑うの…初めて見たからな……真剣に驚いただけだ…」

「…………………はい?」

一瞬言葉を疑いました

私が笑った…などと…

「普段から、笑うことはあると思うのですが…」

「いやいや…お前の笑い顔は、なんていうか…どこか遠慮した笑いなんだよ…だけど今のお前は、本気で可愛かったな」

「…………………………………………………………(ボンッ!)」

「はははははっ!! こいつは旅の前にいいものが見れたな。」 

ふ、不覚です…不覚です!

ま、まさかここのようなことで、心乱すなど…

末代までの恥です

かくなる上は…

「タンマタンマ、顔真っ赤にさせたまま、殺気放出して小太刀を構えるな」

「…………」

「ま、なんだ…その様子なら、心配ないな……俺たちがいなくなって寂しくて泣かないかって心配してたんだ」

「…それはあまりにも失礼です」

まあ…朝の仕事が一つ減ってしまうのは寂しいですけれど…

「はっはっはっ!! まあ気にすんな! さて…と、そろそろ行くとするかな」

「そうですか……………あ…」

「ん? どうした?」

「これを…この小太刀の代わり…というわけではありませんが、お貸ししておきます」

渡したのは、私の髪を結っていたリボンです

御神の家に居候させていただくようになって二つ目の贈り物だったものです

一つ目は当然名前ですが…

私の大切なものには変わりないものです

「貸しておくって…どういう意味だ?」

「そのままの意味です。 そのリボンは私の大切なものです。 だから返しに帰ってきてください…ということです」

「……おいおい…なんか逆に縁起が悪くないか?」

「私の勘ですが、今の御神は異常に狙われていると思います…ここなら、皆様がいますが、外に出れば士郎さんだけです
ですから、ある意味お守りですね」

「お守り…ねぇ………ま、そう言うことなら遠慮なく借りておくよ…けどこいつは恭也が持っておいたほうがいいかもな」

「何故です?」

「俺じゃあなくしかねんからな」

「確かに…」

士郎さんなら、うっかりで本当になくしかねません

でも、恭也君ならちゃんと保管してくれるはず…

なんで、親が息子よりもそのあたり劣っているのかは謎で仕方が無いのですが…

「よし! んじゃ、お守りも持ったことだし、いくとするわ。 色々頼んだぞ?」

「はい…士郎さんたちも…お気をつけて…」

そう言うと、荷物を持って手を振って玄関とは逆の裏口に向かっていきました

…あの行動は、何か裏がありますね

まあ、大方予想は付きますが…

「それにしても…」

人は自分のためにしか動くことが出来ない…

なら…その向こう側に何を見出して人は何かをやろうとしているのでしょうか…?

「ふぅ…」

今の私では、恐らく理解できないのでしょう

そのことは、ゆっくり考えることにします

時間は…まだたくさんあるのですから

「(どたどたどたどたどた)」

「???」

考えにふけっている私の背後から、なにやらやたらと騒がしい音を立てながら、物体が接近してきました

「にいさーーーーん!! どこだーーー!!」

「一臣さん…」

不破一臣さん…

士郎さんの弟で、美沙斗さん以上に、兄の理不尽に振り回されている人物です

そして、不破御神流の継承者でもあります

本来その位置には、士郎さんが入るはずだったのですが、何分あの性格です。 一箇所に留まることが出来ないのでしょう

そんなこんなから、一臣さんが不破の継承者になったのです

「あ、冬華ちゃん。 兄さん見なかった?」

「どうかなさったのですか?」

普段は落ち着いて、優しいお兄さんのような方なのですが…今は、どこか、落ち着きも無く、体からにじみ出ている気配が
まったく逆になっています

「あの糞兄貴…俺の有り金を全部持って行ったんだ…!」

…………だからあの時玄関からではなく裏口から出て行ったんですね

本当にこの行動力に感服いたしますよ…士郎さん

「士郎さんなら…先ほど、裏口から脱出しましたよ」

「くっ! 少し遅かったか…こうなったら、琴絵さんの式のときの生贄にしよう。 そのときは冬華ちゃんも手伝ってよ?」

「はい。 私も士郎さんにはカリがありますから…それを全部返したいと思います」

いつぞやの御饅頭、食事のときのトマト…その他もろもろ、すべて敵を打ちたいと思います

「あれ? その小太刀は…」

「え、あ、先ほど、士郎さんからいただいたものです…なにやら私の小太刀というのですが…」

「うん…それは、紛れも無く冬華ちゃんのものだよ…もっとも、記念日まで取っておくつもりだったんだけど…
やっぱり娘の喜ぶ顔を見ておきたかったんだろうな」

娘…?

おかしな表現です

私は所詮は他人です

その私が、娘…

「何故…皆様はそのような表現をなさるのですか? 私は他人です。 他人でしかないのです。 恭也くんや美由紀ちゃんの
ように血は通っていないのです。 その表現は著しく間違っていると思います」

「本当に、そう思ってる?」

「………………………………………はい…」

ズキリと…私の胸は何故か痛みました

刃物でえぐったような…それでいて別の痛みでした…

何故でしょう?

「でも、静馬さんも兄さんも、冬華ちゃんのことは本当の娘みたいに見てるよ。 俺と姉さんはどっちかって言うと、妹だけどね
あ、琴絵さんは一番年上だけど、妹みたいに見てるよ」

「それでは、恭也くんと美由紀ちゃんに悪いです」

ズキリ

「何で?」

「他人だからです」

ズキリ

「他人なんて、そんな…」

「他人です…他人なのです…それ以上入り込んではいけないのです…いけないのです!」

何故…こんなにも、反発するのか私にも分かりません

でも、本当にこれ以上入り込んではいけない気がしてしょうがないのです

「……冬華ちゃん…?」

「失礼します………」

逃げるように、私はその場を後にしました

 

 

 

「………………他人…か…」

「あれ…? 一臣…」

「姉さん……どうかしたの?」

「いや…どちらかと言うと、それは私の台詞かな…どうしたんだい?」

「あ、うん…やっぱり冬華ちゃんには御神の名は重かったのかなってね…」

「どうして?」

「他人…だってさ……あんな辛そうな顔して言われたら…ちょっと考えちゃうよ」

「……………あの子は…冬華ちゃんは…真面目だからね…そして融通が利かない…こういうことに対しては特に…
普段は、落ち着いていて…突拍子も無いことを言い出したりするけど…それも一線おいていた…
私が思うに、他人とは…冬華ちゃんが居たい位置じゃないかな?」

「居たい位置?」

「うん………そこから、前にも後ろにも行けない…行きたくない…それが御神冬華としていられる位置…そんな感じだろうね」

「…なんか良くわかんないな……」

「人は、無意識のうちに自分の位置を確立してしまう…それがその人にとって一番いいのかは分からないけど…
少なくとも自分と言うものを認識できる場所だと思う。 その場所に御神冬華というものの存在意義を見出してるんだろうね」

「存在意義…重たい言葉だ…」

「うん…決して軽くない…だからこそ、必死になるんだと私は思うよ」

「流石は、一児の母だ…それとも静馬さんの影響?」

「ふふ…どうかな?」

「だけど、参ったな…俺もまだまだ修行が足りないみたいだ」

「それは、私も同じだよ…さて…じゃあ、可愛い妹の面倒を見てくるとしようか…」

「よろしく頼むよ?」

「ああ……」

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

あの後、一臣さんの姿が見えなくなってから、私は全速力で走りました

気が付けば、道場…まったく…自分が本当に嫌になります

喜ばせようと思っている方を、不快にさせ…あまつさえ、逃げ出すとは…

「やはり、私にこれ以上立ち入ることは許されないです…」

あの位置…皆様から、一線引いた場所なら、冷静にいられる…

無用な感情に流されずに、皆様と過ごしていける

そうです…余計なことは考えてはいけないのです…

「皆様と…一緒にいるには、あの位置にいることが最良なのです…」

「いや…もっといい位置がある…死と言う安息がな…」

「っ!!!!」

背後から突然の声

そして、同時に感じた、首筋への鋭い殺気

私は反射的に身体をかがめ、床を転がっていました

「ほう…あの攻撃をあのように、避けるか…流石は御神と言ったところか…」

「………侵入者さん…でよろしいですね?」

「ああ…かまわんよ。 ああ、それから付け足したほうがいいことがある」

「?」

「侵入者で、殺し屋だ…道場破りの類じゃないことぐらい、分かるよな?」

「それぐらいは分かります。 が、あなたにそのような大層な名前は必要ありません」

「ほう…なら、何と言う名なら俺に合うと言うのだ?」

「決まっています…『塵』ですよ…」

「ごみ…ごみかぁ!!! フフ…ハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

そう言うと、侵入者さんは大層愉快そうに笑い始めました

何がおかしいのかは私には理解できません

ですが…分かることがあります

この人は狂っているということ…です

今から始まるであろう、彼の中にある凄惨なイメージ

それが彼を楽しませてると感じられます

そんな人に、礼儀もへったくれもありません

先手必勝…

プラスアルファで私はとても機嫌が悪いですから、挨拶も無しです

ちょうど、新しい小太刀の具合を試したかったのいい機会ですし

疾ッ!!!

音も無く床を蹴り、一気に距離を詰めます

モノクロの世界を堪能できないのが、悔しいですけどね

「そうそう…それから、もう一つ…『侵入者さん』じゃなくて、侵入者さん『たち』だ!」

「え!?」

小太刀が虚空に閃きを残そうとした瞬間

再び、背後から殺気を感じました

今度は…さっきよりも速いです

「くっ…!」

侵入者さんAに向けた剣を止め、振り向いて後ろから来るものを切り払いました

ギンという硬質な音が2つ

その音がした瞬間に私は、その場を飛びのきました

いつまでも、二つの相手に背を見せるわけにはいきません

「クククッ…御神がどれだけか…俺たち三人が相手になってやるよ」

「…………………集中殲滅…ですか」

「そう言うことだ…さて…何分もつかな?」

この小太刀の初披露が、こんな形となるとは…

流石に…無傷で済みそうにはないですね

ハァアッ!!!

こう言う時は、待っていても不利になるだけです

道場と言うことで、地の利も関係ありませんし…

ですから、一番近い侵入者さんAに攻撃です

御神流・奥義ノ六

薙旋

私の場合は神速が使えないから、変則薙旋といったところです

相手の剣を払って後ろにまわって…という動作が出来ませんから、仕方が無いのですけど

威力も二分の一以下です

ですから、これは奥義であって奥義でありません

「遅いわ!!!」

「っ!??」

剣と剣が重なりあい、薙旋を発動直前で停止させられました

拙いです…

「そらっ!!!!」

「くっ…!」

力では圧倒的に押されている私は、無理やり押し切られ、体勢を崩してしまいました

その瞬間…

「ヒャハア!!」

「がっ…!!!」

「もういっちょおおおおお!!!」

「くぅうううう!!!」

その場を転がって逃げます

「く…ぅ……」

背中を肩から袈裟切り、もう一人のほうは何とか回避しましたが…

「女の子相手にた多勢に無勢…恥ずかしい人たちですね…?」

「殺しの世界に、卑怯もへったくれも無い…常識だろう?」

「そうですね…ですが、女の子を尊重するのは世界の常識ですよ」

「この状況で、おかしなことを言うやつだ。 お前みたいなやつは嫌いじゃないな」

「別にあなたに好かれても嬉しくありません…」

「はははははははははは!!! まあ、そう言うなよ。 お近づきのしるしに、いの一番に死を届けてやるからよ!!!」

「ふぅ……」

背中の傷は…結構深いですね

血が止まる気配をみせません

そして、目の前には、敵がまだ三人…

まさに、絶体絶命と言う感じです

死ねやぁ!!!!!

侵入者さんAの持っている剣が振り下ろされれば、私は間違いなく即死でしょう

いまさら避けられる剣速じゃありませんし

ですが、黙ってやられるのは正直嫌です

ウサも晴らせてません

「はぁ…これは使いたくなかったんですが…しかたありませんか…」

その言葉を紡いだ瞬間

心臓の音が異様に大きく聞こえました

視界は全てモノクロになり、音は一切聞こえません

感じる風はどろどろの液体のように身体にまとわり付いて、気持ちが悪いです

そして、眼に見える風景はとても、ゆっくりとしたものです

侵入者さんAの剣が今ならはっきりと見えますが、かまってる時間はありません

私が狙うのは後ろの二人のうちのどちらか

この二人は、連携が得意なだけであって、自分から攻めるのはあまり得意ではないようですから

決めました…

左に位置する、侵入者さんBです

因みに、私を切りつけた人物ですよ

私はモノクロの世界を誰よりも、早く駆け抜けます

誰も私の姿を捉えられる人はいません

そして…

 

虎切

 

「ぎっ…」

一瞬でそのBさんは上半身と下半身が真っ二つとなりました

「はぁっ…はっ…はっ…どう…ですか…? 女の子でも…これくらいは…ぐぅうううううううう!!!」

全身がちぎれるような痛みに苛まれます

神速の代償…

ちょっと…早まりましたか…?

痛みによって、その場に立っていることもできません

これは、私の戦術ミスですね

「な…て、てめ…よくも…おおおおおおおおおおお!!!」

仲間を斬られ、怒りに任せてCさんが剣を振り上げました

ここまで…ですね…

しかし、現実は結構厳しいものでした

Cさんの剣が刺したのは、私の右腕

「うあああ!!!」

どうやら、痛めつけてから殺すようです

えげつないですね

「そら! そら! そらぁあ!」

左腕、右足、左足

最後の左足は、刺した挙句、ぐりぐりとおまけまで付けてくれました

「ぅ…さ…サービス…精神がとても旺盛…ですね」

「うるせぇええ!!!!」

「ぐっ…ごふっ!!」

腹部に一刺し

たまった血が口から溢れてきます

急所は…はずしているようですが…

「おいおい、お前だけ楽しむなよ。 俺だって切りてぇんだ」

「ああ、すまねぇ…ちょっとカッとなっちまってな」

「お前はすぐ切れるからな…よう、気分はどうだ?」

「ぐ…が…は……さい…こう…ですよ……すぐにでも…眠れそうです…」

もう眼をつぶれば簡単に睡眠に入れますね

というか…気を失うほうが圧倒的に速そうですが…

「そうかそうか…なら手伝ってやるよ。 最高の快眠のためにな」

口元を醜くゆがめ、剣を振り上げました

今度はどこでしょう…?

腕? 足? 耳? それとも眼を潰すのでしょうか?

はたまた、首を一薙ぎ? 胴体でしょうか?

どれにしても、痛そうですから遠慮したいですが…

うっすらと見える、Aさんの顔はそれを許してくれそうにありません

「そらよぉ!!!」

「っっっ!!!」

来るべき痛みに耐えるために、気を張って覚悟を決めました

そうすれば、多少は痛くなくなると思われがちです

「……………」

「……………?」

しかし、いつまでたっても、剣が降りてきません

何故でしょう?

「な…なんだよ…お前は…!?」

「分かってるだろう? 貴様たちが良く知ってる御神だ…分かったな? 分かったなら死ね」

短くそんな声が聞こえたと思ったら、Aさんに身体は四散しました

「し…ずま…さん…?」

「馬鹿な! お前たちのところにだって刺客はいたはずだ! それなのにこんなに早く来れる訳が…」

「簡単なことだろう? お前たちが弱いだけだ」

「そう…そして、私たちの大切な人の一人を傷つけた…それがどれだけ重い罪か…死を持って思いしれ」

今度は、Cさんの方向から女性の声が聞こえました

この声は…美沙斗さん?

「う、うああああああああああ!!!!」

 

雷徹

 

ものすごい音と共に、Cさんは武器ごと真っ二つになりました

はぁ…強いですね…

気配も無く相手の後ろにまわり一刀両断とは…感服します

「ふぅ………って、冬華! 大丈夫か!?」

「静馬さん…今はそんなことを聞くよりも、救急車です」

「そ、そうだな…携帯携帯…」

さっきの雰囲気とは一変して、ものすごい勢いで慌てています

一体どうしたというのでしょう?

「今は…喋らなくていいよ。 と言うより、痛くて喋れないのかな?」

その通り…ですね…

とてもじゃありませんが、緊張が解けた今、ものすごい痛みが全身を襲っています

神速の使用と、相手にやられた傷

この二つが相乗して痛みが倍の倍ですね

あ…なんだか……意識が……

「ああ、いいよ…今は………み……………」

美沙斗さんが何を言っているのは分かるのですが…

もう、だめです………

「う…ぐ……おやすみ…なさい……」

がくっ

 

 

 

因みに、次に私が眼を覚ましたときには病院の個室でした

全治2週間だそうで… 

 

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