何故こうなってしまったのだろうか?
元をたどれば、ただの復讐だったはず。
それが、いつの間にか…。
「ふぅ…」
「どうした…ため息などついて…」
「いや……何をどう間違えたのかと…な…」
本当に、何をどう間違えたらこんなことになるのか…。
「何を迷う…お前は、奴らに復讐がしたいだけなんだろう?」
「そう…そうなんだがな…」
そうだ。
ボクはただ、奴ら…『御神』に復讐ができればそれでよかった。
家族…というかけがえのないものを奪った奴らに。
そのための計画を長年かけて、組み立ててきた。
奴らを滅ぼす計画を…。
計画はいたってシンプルだったが、逆に危険はかなり伴った。
何せ、御神の人間と親しくなる…ということだったからな。
いつばれやしないかと、はらはらしたのもだ。
しかし、何故かばれはしなかった。
ボクを疑うものは誰一人もいなかったのだ。
一度不安に思い、問いたときもあった。
だが、彼らはあっさり流した。
もはやプロなのかさえ危うい奴らだと心底思ったものだ。
「お前…虚構が、真に変わったのか?」
「……………ああ」
御神の人間…御神 琴絵。
ボク、奏摩 進(そうま しん)。
決して、重ねることのない視線。
決して交わることのない心。
だけど、ありえるはずのない道がボクの目の前に現れ、その道を選んでしまった。
「確かに…ボクは御神に復讐するために、組織に入った。 そのこと自体に後悔はない…自分で決めたことだからね。
だけど…ボクは、彼女を…琴絵を愛してしまった…」
「……………なら、どうする? 組織を抜けるか?」
「………いや…後戻りは出来ないことは、理解している…」
組織に関わったものは、どのような形であれただではすまない。
ましてや、内に入ってしまったものが出ることなど許されるわけはないのだ。
本当に…何故こんなことになってしまったのか…。
「お前が、抜けるというのなら、止めはしない…だが、後始末は俺自身がつけることになる」
「分かってる…どれだけ、彼女が愛しいだろうと…やることはやるさ…」
そう…必ず成功させてみせる。
それが、彼女を裏切ることになっても…。
「なあ…一体…どこからおかしくなったんだろうな?」
「………どういう意味だ?」
「奴ら…御神が、ボクの家族を斬ったことが罪なのか…それとも、復讐を考えたボクが罪なのか……ボクが琴絵を愛したことが…
罪なのか……」
「罪…か…………恐らくは、俺たちが生きていることが罪だろうな」
「…そうか……そうだな…」
こんな不毛な争いを続けるボクたちにはそれを背負うのにちょうどいい。
「任務は全うする…大丈夫、必ずだ」
「…………まだ…どんなものなのか教えてはもらえんのか?」
「ああ…どこから漏れるとも限らない。 まあ…見れば分かるものだよ」
「任せる」
「ああ…」
決行は、今日…。
ボクと琴絵の婚儀の日。
存在意義
「はぁ………」
狭い室内で、私のため息が木魂します。
なんだか、妙な表現ですね。
しかし、本日何回目のため息でしょうか。
それほどまでに、私はため息をついているのです。
「退屈と言うのは、結構堪えるものですね…」
思わず独り言が出てしまいます。
今私のいる場所…所謂『病院の一個室』
そこに、私は、いたるところを包帯にまかれてベッドの上で寝ているのです。
と言っても、腕やら足やらですが…。
とにかく寝ているのです。
それで私は、退屈と言うものに襲われ中…。
まさか、これほどまでとは考えもしなかったため、かなり苦戦です。
士郎さんが、突然暇だ! と言う理由が少し分かった気がします。
分かりたくないのですが、分かってしまう…。
少々悲しいですね。
なんだか、無意味に涙が流れてくる気がしますが、気のせいと言うことにしておきましょう。
「冬華…起きているかい?」
そんな時、コンコンと控えめな音を響かせつつ、誰かが私の部屋への侵入を試みようとしてきました。
ですが、この声は…。
「はい…どうぞ…」
「お邪魔させてもらうよ………」
優しい笑顔をしながら、私の部屋へと侵入してきた人物。
美沙斗さん…。
「どうしたんですか?」
「なに…少しここに来ることになってしまってね、それで…まあ、平たく言えばついでと言うことになってしまうね」
そう言うと、美沙斗さんはくすくすと笑いました。
む…これは、難題です。
何故美沙斗さんはそこで笑うのでしょうか?
「私が今笑ったのが、不思議なのかい?」
「………美沙斗さんはいつからエスパーに?」
「フフッ…冬華は、分かりやすいからね。 すぐに分かるよ」
私的にはポーカーフェイスを貫いたつもりだったのですが…。
やはり、美沙斗さんほどになるとちょっとした仕草も見逃さなくなるのでしょうか?
「そうだね…笑った理由は、『そう言わないと、冬華は遠慮してしまうから』 と言うところかな…」
「……………」
「冬華は、もう11年も一緒に住んでいるのに、何故か遠慮する傾向が見られてたから…」
ここで上手い人ならば、言い訳の一つでも思いつくのでしょうが、残念ながら私にそんなことは出来ません。
所詮は、私なのですから…。
それ以上でもなく、それ以下でもなく。
ただただ、その場所に居ようとするだけの醜い存在。
でも、それは言葉にすることはないのです。
言葉にしたとき、本当に私は後悔を抱くことになってしまうから…。
「どうして…冬華はそんなに悲しい顔をするんだい?」
「え…?」
「冬華が、私たちを喜ばせようとするように、私たちも冬華を喜ばせようと考えている。 私は…冬華にそんな顔をして
生きてほしくない…どうせなら、みんな笑って過ごせたら…とても楽しいと思わないかい?
心のそこから、偽ることなく笑って過ごす。 私は、とても幸せだと思うよ…」
分かります。
悲しいくらい、分かってしまいます。
しかし、そんな資格が私にあるのでしょうか?
「私は…幸せを得るに値する人間なのでしょうか?」
「え…?」
流石にそんな言葉が出てくるとは思っていなかったようで、美沙斗さんから戸惑いの声が上がりました。
「私は………私自身すら偽って生きてきた人間です。 そんな人間が…幸せを手にしていいとは思えません」
悪いことをしたのなら、それ相応の報いを受ける。
当たり前のことですね。
その中でも嘘とは、とても罪が大きいものだと思います。
それを、平気な顔をして皆さんに嘘をついてきた私です。
幸せになる資格などありはしないと思えます…。
「幸せを得るかどうかは、確かに自分の意志で決めるものだよ。 でも…幸せを手にしてはいけない人は誰一人といない。
得られる幸せを放棄するのは、取り返しの付かない罪を犯したときだけだ…と、私は考えているんだけど…」
「…………………」
何故でしょう?
美沙斗さんの言うことは、難しくて理解できないです。
いえ、それは理解しようとしていない。 理解したくないと思っているからでしょうか…。
「今すぐに、それを理解できる必要はないと思うよ。 私は…静馬さんのおかげで私の幸せを見つけることが出来たのだから」
「………見つけられるでしょうか…私なんかに」
「大丈夫……冬華は…多分すぐに見つけられるから。 そうだね…今日の琴絵さんを見れば、ね」
「今日の琴絵さん…?」
………しばし思案…
あ、そうでした
「結婚式…」
「そうだよ。 時間的には、もうすぐだね」
「ですが、私はまだ退院できません…」
全治2週間。
まだ後半分ほどあります…。
「そんなこともあろうかとね、退院許可は今日だけ特別のいただいてる」
「……………今日から魔法使いとお呼びしてもよろしいですか?」
「本気で呼べるかい?」
「…………すみません…」
む…どうやら私は、御神の女性には勝てないようです。
何気に悔しいですね。
でも…。
「ありがとうございます…」
これ以上何もいえないことが悔やまれるくらい、ありがたいことです。
琴絵さんに、お礼とお祝いを言いたかった今日。
でも、出来ないと思い現実を出来るだけ避けようとして、出来なかった今日。
「フフ…冬華の心からのお祝いを聞ける琴絵さんは幸せかもね。 何せ、いつも冗談ばかりだから」
「いえ…その…えと………すみません」
ダメですね、もう。
今日は、冷静で居られそうにありません。
ですが、やりたいことは見つかりました。
私の幸せ…。
恐らくは、御神の皆さんが笑顔で居てくれること。
ですから、私なんかで、皆さんの笑顔が見られるのなら、いくらでも何でもしましょう。
それが、ただ笑うことであっても…です。
「さあ、早く着替えて。 式までほとんど時間はないから…」
「はい……。 あ、そう言う美沙斗さんは…どうなさるのですか?」
「言ったよね? ついでだと。 美由紀が熱を出してしまって…それで、私は病院へ来たと言うわけだ。」
「美由紀ちゃんを放って置いていいのですか?」
「だから、これ以上は少し拙いかな? 泣き出してしまうかもしれないから…」
それは、拙いですね。
そんなことになってしまっては、私はいくら頭を下げても足りなくなってしまいます。
切腹です。
切腹しかなくなってしまいます。
「新撰組の刑は勘弁です。」
「??? 良く分からないけど…みんなによろしく頼むよ?」
「はい…あ、美沙斗さん」
「?」
「ありがとうございます」
「フフ…たいしたことは無いよ。 冬華の笑顔が見れただけでも、儲け物だから」
士郎さんのような、事を言う美沙斗さんに、テレのようなものは見られません。
これはもう、血でしょうか?
いえ、そうに違いありません。
ですが…。
「ありがとうございます」
もう一度お礼を言い、私は深々と頭を下げました。
着替えが終わり、美沙斗さんが美由紀ちゃんの所へ戻ると、私は全力で走り出しました。
本当は、絶対が付くほど安静にしていなければいけないのですが、そんなの知ったこっちゃありません。
今は、早く琴絵さんの姿を見たいのです。
そして、言ってあげたいのです。
『おめでとうございます』 と…。
病院から、御神家までは、およそ歩いて10分の距離。
走れば、半分以下ほどまで短縮できます。
今は大体その更に半分まで来ています。
もうすぐ…もうすぐです…。
気持ちが高ぶり、痛みが走るはずの身体にはまったく痛いの 『い』 の字も感じられません。
あるのは、ただ頭の中に膨らむ想像。
一体、どれだけ美しいのでしょうか…。
ですが…そのとき、そんな希望が一瞬にして消し去るとは、夢にも思っていなかったのです。
「っ!!!???」
唐突に大きな、雷が落ちたような音がすると共に、地面が大きく揺れました。
何事かと、眼を回りに向けていると、一瞬視界にもうもうと上がる煙が入りました。
あの方角…距離…。
まさか…。
まさかまさかまさか!!
嫌な予感が、頭の中をものすごい速さでめぐります。
頭の中を、めちゃくちゃにめぐる、文字を無理やりのけると、一気に走り出しました。
あれは、違う…あれは違うんです!
言い聞かせても、この胸騒ぎはまったく収まろうとしません。
何も考えられなくなっていく、頭。
ですが、足は逆にどんどん速さを増していきます。
しばらく走ると、曲がり角。
そこを曲がれば御神家が見える場所です。
安全確認もろくにせず、私は思い切りその角を曲がりました。
「………え…?」