◇

 

 誰か来る。

 ふいに感じた悪寒に、フィリスは両手で肩を抱いた。感じたのは寒気。絶対的な恐怖。向こうが狩人なら、こちらは獲物だという覆ることのない事実を、容赦なく知らしめる暗黙の気配。

 彼女の異変に気づいたのは、最も近い存在である姉だった。

「フィリス?」

「だ、誰か……来る」

「え?」

 決して大声だったわけではない。が、フィリスの言葉はリビングを震撼させた。

「誰だ? 耕介たちか?」

 真雪が身を乗り出す。フィリスは首を振った。

「違います。もっと何か、こんなの……感じたことない。私たち(HGS)とも違う……でもすごく似ている……誰?」

 平静を装うのは無理だった。頭の中が回転する。国守山に張り巡らせたフィリスのセンサーは、確かに何者かの気配を探知している。が、それが誰かわからない。フィルターが張られて、その奥がのぞけないのだ。

 耕介ではないことは確かだった。視ようとした瞬間、眉間に激しい痛みを感じるほどの拒絶。敵を感知しようとするこちらの感覚を知覚し、拒絶し、破壊しようとする荒々しい力の干渉。センサーを展開するのも限界だった。このままでは、逆にこちらが侵犯される。

「──っ! 駄目! ごめんなさい。無理です!」

 センサーが霧散する。その力の反発を受けて、フィリスはその場に崩れ落ちた。

「く──はぁっ!」

 そのとき初めて、フィリスは自分が呼吸止めていたのを知った。苦しみ、咳き込みながら心を落ち着かせる。皆が結果を待っていることに気づいて、彼女は出来る限り急いで息を整えた。

(敵です)

 多分とは言わなかった。あんな気配を持つ者が、味方であるはずがない。

「わかった」

 未だ力が抜けて立ち上がれないこちらの意図を察して、姉が意識をつないでくる。端的にメッセージをテレパシーで伝言すると、リスティは誰にも気づかれないくらいそっとフィリスの頭をなでた。

「耕介たちじゃないみたいだ。敵が来ると思っていい」

「ちっ!」

 舌打ちした真雪の反応にいちいちかまっている余裕もない。

「だから迎え撃とうと思う。啓吾、美沙斗さん、それから美由希、ノエル。悪いけど、頼めるかな」

「ちょっと待て!」

 やはりというかなんと言うか、姉の提案に異議を唱えたのは真雪だった。

「あたしのこと忘れてないか?」

 だがリスティは、長年の付き合いのあるだけに真雪の弱点はお見通しだった。

「真雪、最近運動してる?」

「ぐっ」

 図星だったらしい。彼女は悔しそうに唇をかんだ。

「インスタント戦闘力じゃ駄目だよ。この前だって、腰を痛めて病院に行ってたじゃないか。なぁフィリス」

「え、ええ……」

 真雪の視線が怖かったので、同意は控えめである。

「あれは──っ! ちょっと部屋の模様替えでタンスを運ぼうとしてたんだ……って、それはほっとけ! そもそもあたしは天才なんだ。体力は確かに衰えたが、戦闘だって三分くらいなら何とかなるぞ」

「ウル●ラマンじゃ在るまいし……」

 突っ込んだのは舞である。だがその声も、真雪の一睨みであっさりと霧散した。

「たった三分しか動けないのに、何でいまだに薫ちゃんよりも強いんですか? 真雪さんは……」

「えぇっ! 真雪さんって、薫さんより強いんですか?」

 ここにはいない元寮生、神咲薫は、神咲一灯流という古流剣術を修めた希代の剣士である。その実力が一流であることを鑑みれば、彼女と互角以上に渡り合う真雪は確かに天才なのだ。体力が決定的にないことを除けば。

 漫画家という不規則な生活を送っていればそれも無理はないが、それを知らない高町家の面々は、真雪が薫よりも強いことに驚き慌てていた。

 中でも一番驚いたのは美由希だった。その目で薫の剣の腕を目の当たりにしているだけに、その事実は意外性をたっぷり込めて彼女を襲撃したらしい。

「まぁな。あいつが寮にやってきて以来、あたしが負けたことなんざ一回だってない」

 胸を張って言う真雪の成績は確かに見事なのだろうが、リスティは半眼でそれを一蹴した。

「その戦いの原因。約四割が風呂や着替えの覗き。三割が風紀違反。一割がおかずの取り合い。残りは諸々だけど、喧嘩の理由が果てしなく情けないってわかってる?」

「あたしは気にしてないぞ」

 気にしているのはむしろ薫のほうだろう。

 リスティは呆れたように肩をすくめた。こうなった真雪に何を言っても無駄だということが解らないような浅い付き合いではない。知り合いが狙われている状況下で、のんびり自分だけ後方で安全な場所にいられるようなタイプではないのだ。

「ま、こうなったら何を言っても無駄か。わかった。それじゃ、美沙斗さん。悪いけど真雪をよろしくしてもらっていいかな。切れかけ乾電池みたいだけど、パワーはあるから大丈夫だよ」

「言いたい放題だな、おい」

 事実なだけに反論できないでいるのか、悔しげに真雪が呻いた。苦笑しながら美沙斗が了承したのを受けて、フィリスとリスティは小さく頷きあった。

「フィリスは落ち着いたらフィールド強化して、ここで待機。いいね」

「うん」

 リスティ指揮の下、戦闘組が準備を始める。

 フィリスはそっと窓の外を見た。すでに空は赤く染まっている。もうすぐ日も暮れるだろう。夜に包まれる世界に震えを感じて、もう一度そっと肩を抱いた。

 冷たい夜が来る。

 

      ◇

 

 完全な不意打ちだった。油断だったといってもいい。自身の風の結界を潜り抜け、さくら以外の敵が現れることがないという慢心が生んだ油断だった。

 何が起こったのかを理解するには、あまりにも衝撃が激しすぎた。その衝撃を逃すほどの余裕なく地に倒れ付す。どうにか起き上がろうとしたその時、頭の上からさらなる衝撃を食らって、少年はあっさりと昏倒した。

 

      ◇

 

 思考の整理には時間が必要だった。

「…………えっと……恭也……君?」

 敵らしき少年の後頭部を踏みつけた青年に歩み寄る。思わずポケーっと彼の背中を見つめてから、とにもかくにも助かったことだけは理解して、さくらは人知れずほっと一息ついた。

 何故彼が──姪である月村忍の友人である高町恭也が、それも見たこともないような重武装でここにいる理由はわからなかったが、助けてくれたことには違いない。

 落ち着きを取り戻して、さくらは彼に頭をたれた。

「ありがとう。助かったわ」

「……ご無事のようで何よりでした。でもどうしてさくらさんがここ──にぃっ!!」

 裏返る声。慌てて顔全体をそらした恭也に、さくらはきょとんと問い返した。

「? どうしたの?」

「いえ、あの、なんでもないですが、すみません」

 謝られても困る。どうしたというのだろうか──と、ツンツンと、何故か苦笑しながら指先で肩をつつかれて、さくらは顔をそちらに向けた。

「鷹城先輩?」

「さくらちゃん。ジャージ。貸してあげるから着て。高町君が困ってる」

「え?」

 数秒の沈黙。思考硬直。現状理解。解凍完了。絶叫が響く。

「きゃあぁぁぁぁぁっ!」

 大地を揺るがすほどの悲鳴を上げて、さくらは身体を丸めて座り込んだ。その際、唯子からジャージの上着を受け取ることも忘れない。肩を抱いて、どうにか下着が見えないように上着を羽織ながら、さくらはそっと恭也を見上げた。耳と尻尾のことを気にする余裕はなかった。

 気まずそうに、他を──どちらかというと空を見上げている彼をじっとみやる。やがてその視線に根負けしたのか、恭也がおずおずと目線だけをこちらに向けた。

「……見た?」

「……いえ」

「見たでしょう?」

「……えっと」

「見たなら見たって言って」

「あー……」

「今なら許してあげる」

「……見ました…………少しだけですが」

「ホントに?」

「ホントです。その……ガーターベルトなんて見てませんので……」

 しっかり見られたらしい。墓穴を掘ったことを自覚した恭也の反応がおかしくて、さくらは恥ずかしいながらも自然と笑顔になった。そもそも、下着姿になったのは恭也のせいではないのだ。

「うん。恭也君のせいじゃないし、もう気にしないで。できれば耳と尻尾のことも……でも、他の人には内緒ね」

「はい」

 その話はそれで終える。本題に入らなくてはならなかった。

「えっと、話を戻すけど……何で恭也君がここに?」

 もしかしたら、今、街で何が起こっているのかを知っているかもしれないという思いで問いかけると、恭也は言葉を濁しつつも頷いた。

「詳しくは知りませんが、無関係でもないです。あの、お二人こそどうしてここに?」

「唯子はちょっとお昼寝を……」

 そんなに言いにくいことでもないはずなのに、唯子は何故か身を竦めながら進言した。

「わたしはさざなみに行くところだったの。そしたら街が変でしょ? 誰もいなくなってるし、なんだか殺気だらけだし……そしたら風芽丘の方に人の気配があって、鷹城先輩がいて、変な子が先輩を襲ってて、風が起こって、家族もみんないなくなってて……」

 次から次へと言葉が溢れてくる。弾んだ息とともにそれらを全て吐き出すと、どこか困ったように恭也が頬をかいた。

「と、とりあえず落ち着いてください……」

「あ」

 ハッとなる。顔に赤みが差すのを感じながら、さくらは唯子に支えられるようにして、そっと地面に腰を下ろした。体力的にはまだ余力があったが、少しは休まないとつらい。

「ごめんなさい。助けてもらったのに」

「間に合ってよかったですよ」

「恭也君は……その、どうしてここに?」

「とある事情で、街の調査に来たんです。その、街の人がいなくなった原因を作った連中を倒しにきたというか」

「やっぱり知ってるのね?」

 恭也が静かに頷くのを見て、さくらと唯子は顔を見合わせた。

「教えてもらえる?」

「それは後で。その前に、彼ですが」

「この状況を作り出した張本人って、彼自身がそう言ってたわ」

 声が冷たくなるのを自覚しながらも、さくらは未だ身動き一つしない少年に一瞥をくれた。

「彼が……ですか」

 いつしか風は止んでいた。少年の施した風の結界もすでに解けている。その向こう、抉り取られたように地面に開いた穴は、恭也が地を蹴った際のものだろうか。凄まじい脚力で風の壁を破り、死角のないはずの少年が反応できぬほどの速度で斬りつけた恭也の攻撃は、見事と言う他ない。

 血が出てないところを見ると峰打ちだったのだろうが、少なからず常識の外れた恭也の行動に、さくらは驚きを隠せなかった。

 さっきまで戦っていた当の少年は、今は地面にのめりこみ、その後頭部をしっかりと恭也が踏みつけている。

 その後頭部がピクリと動いたのを感じて、二人の注意が足元に向いた。

「っと、いつまでも乗ってたら悪いな。起きれるか?」

「……む、無理に決まって……るって」

 小さく毒つく声に先ほどのような力はない。顔を動かそうにも、その体力さえないらしい。恭也は悪いと言いつつも、少年の頭から降りることはしなかった。

「さて。それじゃ、聞かせてもらおうか。お前は何者で、何故ここにいる? ここで何しようとしていた?」

「は、話すわけ……ないでしょ」

「そうか」

 言って、恭也は小さくその場で足を回転させた。足首だけをひねるようにして、靴底をひねる。ジョリ……と、髪の毛のこすれる音が響いた。

「お前が答えるまでこれを続ける……ああ、忠告しておくが、あまり頑固なようだと靴底の摩擦で頭が禿げるぞ?」

 さして悪びれる様子もなく、つま先でポンと後頭部を叩く。

 ……………………

 しばしの沈黙。さくらは呆気にとられて彼を見た。不意に目が合って、恭也がいたずらっ子のように笑う。人差し指をそっと唇に当てて、彼は更に少年に忠告した。

「というわけだ。禿げたくなければ素直になることを勧める」

「ちょ、ちょっと! それはさすがに陰険じゃ──」

 再度、ジョリという音が響く。それだけで少年はあっさりと黙り込んだ。

「さて、聞こう。お前の名は?」

「…………レ、レベッカ」

 口惜しげに、だが存外に素直に、少年は応えた。

「ではレベッカ。この街に張られた結界、お前のものなのだろう?」

「そうだけど、いや、正確には僕が結界の核になってるだけで、僕が作ったわけじゃないんだけどね。でもどっちにしても解く気はないよ」

 何故と問うと、少年は困ったように眉をひそめた。

「……そりゃ、こっちにも都合があるんだけど……」

「ではその事情とやら、ゆっくり聞こうか……」

「いや、でも……」

「その年で後頭部禿げは痛烈だな。いや、本当に。ご愁傷様」

「話すよ! 話せばいいんでしょ?」

 ことのほかあっさりと、少年は白旗を上げた。

「──と、その前に、お願いがあるんだけど……」

「何だ?」

「足、どけてくれる? もう逃げないし抵抗しないから。この年齢で禿げたくないよ」

 思い切り切実な頼みごとに、恭也は躊躇することなく足をどけた。その靴底に、少年の髪の毛を絡ませながら──

 

      ◇

 

 まず名前を確認する。

「レベッカと言ったな」

「うん。家名はリングス。ま、偽名だけどね」

「偽名?」

 さくらが口を挟む。その視線は少なからず険しかったが、少年は差して気にした風でなく肩をすくめて見せた。

「家族なんていないからね。変な詮索されるよりは、家名あった方が何かと便利だし」

 軽々しく重い事実を言う少年の態度は疑問だったが、恭也は話を戻すことにした。

「……で、何故この街の人を殺した?」

 レベッカは一瞬、躊躇したようだった。恭也の視線に気圧されたのか、引きつった笑いを浮かべる。

「お、怒らないで聞いてよ?」

「事と次第による」

「む。まぁでも仕方ないか……」

 軽く諦めた表情で、彼は息をついた。

「実のところ、この結界を形成するのに燃料が足りなくてね。だから現地調達したのさ。生命エネルギーって純度が高いから、思いのほか上手く作用してくれたみたいでなによりだよ」

「くっ──!」

 怒気を荒げたのはさくらだった。その視線が赤く染まる。夜の一族特有の空気が彼女を支配し始めたのを見て、少年以上に恭也が慌てた。

「ちょ、ちょっと待ってください。さくらさん! まだ彼には聞くことがあります。怒りはわかりますが、抑えてください」

「…………ご、ごめんなさい」

 それでも彼女が落ち着くのには時間を要した。やがて肩を落とすさくらとは対照的に、レベッカが胸をなでおろす。

「二つ目の質問だ。何故、街の人を犠牲にしてまで結界を張る必要があったんだ?」

「何か勘違いしてない?」

 だが懲りることなく、どこか挑発するような口調でレベッカが嘆息して見せた。

「この結界は、むしろフィアッセ・クリステラを護るために張ったものだよ」

「フィアッセを護る?」

 そう──小さく、レベッカが頷く。

「僕たちの敵は多い。中でも煌美星(ファン・メイシン)っていう奴は厄介な上に面倒くさいんだ。その連中から女神を──って、フィアッセ・クリステラのことだけど──護るための結界がこれ」

「なら、何故時間をずらす必要があった?」

「僕たちだって慈善事業やってるわけじゃないからね」

 何を馬鹿なことをと言わんばかりにレベッカは顔をゆがめた。

「椿三影が敵であることには違いないんだから、こっちの準備が整うまで彼にはおとなしくしていて欲しかったんだよ。女神にもちょこまかと動かれたくなかったしね」

「その理由は? フィアッセを捕らえて、何を企んでいる」

「何って……あれ? お兄さんって、高町恭也さんでしょ?」

 核心を聞かれて戸惑ったかと思いきや、レベッカは微妙に何かが食い違っているような表情を見せた。

「何故、俺の名を知っている」

「椿三影が女神を連れてイギリスを出たことを察知した瞬間から、彼女と交流のあった人間の情報は全てチェックしたからね。お兄さんの行動力、戦闘力、結界内でも無事だった背景──つまり、さざなみ寮から来たという事実と、小太刀という武器を使用していること、それからそっちのお姉さんが『恭也君』と呼んでいたことからしても、該当人物は一人しかいない。むしろばれてないと思う方がおかしいと思うけど?」

「…………」

 恭也は答えなかった。図星だったから、というのもある。それ以上に自分の考えの甘さを認識して、彼は無言でレベッカに先を促した。

「うん。まぁいいか。で、お兄さんたちは結局のところ、椿三影から何も聞いてないの? 現状、何が起こっていて、何故魔属が活動を開始したのだとか、その辺の背景も含めた理由とか」

「聞いてない。というよりは、そんな時間はなかった。フィアッセが、ある『力』のために狙われているとしか、今は解っていない」

 恭也はあえて素直に答えることにした。そうすることで、少しでも情報が欲しかったからである。

「そうか。うん。ま、そのための時間遅延でもあったわけだけど、あの男のことだから、余計な混乱を与える情報を与えるわけもないか」

「その情報とやらを知ってるんだな、お前は」

「全てじゃない。魔属たちが何を考えているかなんて、いくらなんでも知りようがないよ。少なくとも、僕が知ってるのは僕の上司だけ。それでもお兄さんたちよりは理解しているつもりだけどね」

「なら、それを話してもらおう」

「知ってどうするの? いずれ解ることだよ。この戦い、そう遠くないうちに決着つくだろうから」

「その時が来た時に、手遅れにならないために情報が欲しいんだ」

「僕は反対だね」

 しかしレベッカは、自分が捕虜である自覚が全くないようなそぶりで首を振った。

「知らないで良いことだって世の中にはある。お兄さんが戦うのに、僕たちが持っている情報は要らないはずだ。知ったところで混乱するしかないと判断したから、椿三影はお兄さんに情報を渡さなかったんでしょ?」

「それは……」

 その通りかもしれない。だが椿の裏にあった思惑がどうであれ、それをレベッカに指摘されるのは納得できなかった。少なからず腹立たしさを感じながら、その感情を言葉に込めて反論する。

「俺が護るのはフィアッセだけじゃない。フィアッセのために集まってくれた人たち、フィアッセが大切にしたい人たちみんなだ。今この時点で、結界を解けない理由も含めて、お前には話してもらう」

「どうしても?」

「どうしてもだ」

「事実を聞いたら、もしかしたら女神を護れなくなるかもしれないよ?」

「それはない」

「心は決まってるんだ」

「ああ」

「…………」

 小さく、レベッカはため息で返答してきた。仕方がないという呆れの表情と、問答自体に疲れた吐息で。ふと、二人の様子を伺っていたさくらが、レベッカに向き直って言った。

「ところで、さっきから気になってたんだけど、僕たちって? 上司がいるってことは、貴方たちは組織で動いてるの?」

「ん? ああ、そういえばまだ言ってなかったっけ」

 いとも軽く同意を示して、彼は上着のうちポケットに手を入れた。凶器を危惧して身構えるが、そもそもこの少年がその気になれば、そんなことをする必要がないのだということに思い当たって、恭也とさくらは殺気を押さえ込んだ。

 程なく、何かしらカードのようなものを取り出したレベッカは、立ち上がってそれをこちらに差し出し、驚くほど敏捷に敬礼してみせる。

「いい機会だし、お兄さんにならばれても問題ないから、正式に自己紹介するよ。国際刑事警察機構、特別犯罪局・絶対司法統括部、対魔属決戦部隊(・・・・・・・)リバース・D(・・・・・・)』所属、隊員番号J4──僕の名はレベッカ・リングスだ。よろしく、高町恭也さん」

 にっこりと笑う少年の言葉は、実に笑えなかった。

 

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