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 長崎駅まで逃げてきたところで、耕介は唐突に足を止めた。後ろからは今もなお警官隊が迫っている。ぐずぐずは出来ない。だが、どうしてもしておかなければならないことがあった。

 迷わず伝言板に向かう。普段使うことのない黒板に、ほかの伝言を全て消してから、でかでかと、

『緊急告知! 今夜九時までにわたしを捕まえてくれた人に、わたしを一日好きに出来る権利をプレゼント! わたしは長崎駅付近に潜伏してるよ! がんばってみつけてね。楽しみに待ってるよ♪ 千堂真由

 と書きなぐる。

 それからすぐにステーションデパートの迷子センターへ行き、『迷子の千堂真由ちゃん』に呼びかけてもらうよう頼み、その通りアナウンスが鳴る。本人が来たとき用の連絡先と、できれば定期的に何度かアナウンスしてほしいことを伝えて、耕介はさらに移動した。

 時間は……

(六時か。よし。まだ間に合う。どれだけ客寄せしようが、閉店のときに店に帰らないと失格だからな)

 とりあえず、打てる手は打つ。即座に耕介は警察を気をつけながら公衆電話へ赴き、ある携帯の電話番号をプッシュした。

「…………あ、俺、耕介。今どこ? え? アジトに帰ってる? ナイス! ああ、いや、こっちの話。あのさ、いきなりで悪いんだけど、長崎駅北口まで来てくれないかな……うん。ちょっと用があるんだ。あ、違う違う。駅前まで来てくれたらその足で帰ってくれていいからさ。頼むよ……あ、ホント? サンキュ。それじゃ後で!」

 そうして電話を切った時、丁度警官の一人が耕介を確認して駆けてくるところだった。

「やばっ!」

 慌てて走る。だが耕介は、少なからず笑いながら駅を後にした。

 

       ◇

 

 どれだけ勧誘しただろうか。いい加減同じ演技に疲れ果てた頃、なにやら向こうのほうから集団が走ってくるのを喜和子は見た。

(なんだろう……)

 と思ったのはそのときだけで、喜和子はすぐにその先頭を走っているのが誰かわかった。耕介だ。汗だくで走りぬけ、そのまま駅のほうへ消えていく。

「耕介さん?」

 何であんなに慌ててるんだろう……と不思議に思いながらも、喜和子は再び気合を入れて客を引っ掛けに行こうとした──そのときだった。

「ちょっと君」

「え?」

 唐突に後ろからかけられた声に、喜和子は振り返った。青い制服。胸元には桜の代紋。喜和子は知らなかったが、耕介を追っていた警官の一人だった。

「こんなところで何してるんだね。親御さんは?」

「あ、あの……えーと、今ちょっといないんですけど」

「ふむ。で、そのエプロンは何かな?」

「あ、家の手伝いです。ちょっとお使いに……」

 サフランのロゴがプリントされたエプロンを指で引っ張って喜和子は弁解した。

「本当に?」

「ええ、本当に」

「本当の本当に?」

「……本当の本当に」

「ふーん……」

 だが警官はまるで納得していない風に頷くと、やがて本題を切り出した。

「実はね、最近家出する子が増えていてね。捜索願いが出されているんだ。その探している子供たちの中に、君の容姿にそっくりな子がいてね」

「へ?」

「うん。そういうわけでちょっと時間良いかな? それとも、身分証明書になるもの持っているかい」

「あ……いえ……」

「それじゃ、ちょっと署まで来てもらおうかな。何、痛くしないから大丈夫」

 有無を言わせず警官が喜和子の襟首をむんずと掴む。あまりに唐突だったので、彼女は対応が完全に遅れた形になった。

「え、あの、ちょっと、まって、ください! わたし、今、大事な、えっと、だから、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」

 

      ◇

 

 彼は呼ばれたとおり長崎駅へ向かっていた。

 もうすぐ日が沈む。二月にしては暖かい気温だったが、それでもこの時間帯になると冷えてくるのは仕方のないことだろう。吹き抜ける風に、すれ違う人間のほとんどがコートの襟を手に身を縮めて足早に歩き去っていく。

 そうして駅への大通りへ着いたところで、彼は見知った人間を見つけた。

「十鬼?」

 声をかけてみる。彼女はこちらに気づいてなかったらしく、一瞬きょとんとした顔を向け、だがすぐに認めて駆け寄ってきた。そうしてそのまま抱きつく。彼女の軽い体が彼の腕の中におさまった。

「みっちゃん? なんでここに? お仕事はもう終わったの?」

「ああ、仕事のほうは片付いた……それはさておき、その呼びかたは前からやめろといってるはずだが。特に人前では」

「やだよ。みっちゃんは、みっちゃんだもん」

 ため息をつく。拗ねて見せる彼女に強く当たる気も起きなかったので、彼はそのままその話題を流すことにした。

「まぁいい。で、何やってるんだ?」

「ちょっとしたゲーム♪」

「ゲーム?」

「うん。でもみっちゃんが来てくれたからもういいや。ね、これから時間あるでしょ?」

「あるにはあるが……」

「どうかした?」

 十鬼の問いかけには答えず、彼は駅のほうへ視線を向けた。見知った姿はない。何故かやたらと警官がうろついているのが気になったが、まさか『彼』と関係があるはずも無いだろうと思いなおして、彼はまた視線を十鬼へ向けた。

「……ま、来るだけでいいと言っていたからな。もう帰るか」

「うん!」

「何か食事でしていくか?」

「そうだねー」

 踵を返して歩き出す。完全にべったりと寄り添ってくる彼女を引き連れて、彼はその場を後にした。

 

      ◇

 

 戦果は上々──かと思いきや、いきなり作戦実行部員アルファとベータに連絡が取れなくなって、真由は少なからず慌てていた。何かあったのかもしれないと不安に駆られながら駅へ向かう。

 南通りには喜和子はいなかった。通りがかりの人に聞いてみたが、見ていないと言う。もしかして駅の中にいるかもしれない、そう思って真由は足早に駅へ入った。北通りのほうへも行ってみないといけない。十鬼はどうしたのだろうか。

 だがそうしたことを確認する前に、構内のアナウンスが真由の足を止めた。

≪迷子のお知らせをします。白のセーターにこげ茶のズボンをはいた女の子、千堂真由ちゃんを探しています。見かけた方がいらっしゃいましたら、迷子センターまで情報お待ちしております≫

「…………って、あたし?」

 思わず自分を指差して驚く。ひとまず冷静になって、真由は先ほどのアナウンスを脳内で復唱した。そうして考えてみる。こんなことをするのは……

「耕しかいないわね……」

 呻くが、別段気落ちしたわけではなかった。どうやら彼が反撃に出たらしい。もしかすると喜和子と十鬼(こちらはまだ確認してなかったが)がいなくなったのも彼の仕業かもしれない。

「フッ! 面白いわね。受けて立とうじゃないの」

 息巻いて駅を出ようとしたその時──

「あの! ちょっといいですか?」

 見知らぬ男に声をかけられて、真由は驚いて身をすくめた。後ろめたいことがある証拠だが、声をかけた男にそれが分かるわけもない。真由の態度に怪訝な表情を浮かべる。慌てて彼女は弁解した。

「あ、はい。なんですか?」

「えっと……あの、あなたが千堂真由さん? あの○×中学で有名な美少女の?」

「は、はぁ……有名かどうかはともかく……取りあえず、千堂真由はあたしですけど」

 思わず律儀に答えると、男は晴れ晴れとしたように笑顔を浮かべ、だがすぐにぎこちなく照れだした。

「?」

「あ、あの……それで、その……れ、例のこと、本当ですか?」

「…………え?」

 何のことか分からず、真由は首をひねった。男がどもりながら説明する。

「で、ですから、例のことですよ。や、やだなぁ。分かってるくせにぃ……」

「だからなんのことですか?」

 辛抱強く、真由は丁寧語で応対した。後一度でも男が口ごもったなら、そのときは問答無用で喧嘩を売ろうと固く決心して続きを待つ。その覇気を見て取ったのか、少なからずビクビクしながら、男が真由を指差した。

「?」

 違う。彼が指しているのは真由よりもさらに後方だった。その指先に従って後ろを向く。

 駅の切符売り場、そして改札口が向こうに見える。だからここは、駅へ出入りするときに誰もが目にする場所だった。そうしてもう一つ、目立つものが目に入ってくる。伝言板。普段、あまり見ることのないその黒板に目がいったのは、そこにデカデカと書かれてある自分の名前に気づいたからだった。

「なっ、何よ! あれは!」

「で、ですから、本当ですか? き、きみのこと自由に出来るって! だったらぼ、ぼぼぼぼ僕、僕、あなたをつかまえちゃおうかな、なんて、なんてね。ハハハハ。いいですか? いいですか?」

 なにやら危ない発言をしている男の手を逃れて、真由は数歩後退りした。

(一体なんなの? この展開は!)

 呻く。答えが出ないわけではなかった。これも耕介の妨害手段だ。きっとそうに違いない。こんな性質の悪いことをする敵が、あの幼馴染の少年以外誰にいるというのだろう。

「随分悪質なことやってくれるじゃない!」

 自分のことはあっさりと棚に上げて、真由はここにはいない幼馴染に向かって毒ついた。

 そうこうするうちに少しずつ人が集まり始める。今の会話を聞かれたか。もしくはアナウンスを聞いて察したのか。

 確かに、自分がこの近辺で有名になっていることを彼女は知っていた。だがそれは美少女とか言うよりも、ただ単に日本最大最凶と畏れられる『HELL&HEAVEN』の幹部と友人付き合いしているからだろう。美少女というのは後からついてきたおまけだ。ほめられて悪い気はしないが、時と場合による。有名なのも困りものだと心中で嘆きながら、真由は周囲を見渡した。

 そして当然というかなんというか、そこらにいたのはいずれも男ばかりだった。細いのやら太いのやらいるが、どれも皆どこか挙動不審である。はぁはぁと息遣いも荒く、捕まえようと差し出してきたその手もどこかいやらしさを漂わせていた。

(……ちょ、ちょっとやばいかも)

 そのうち、丸々と太った、しかも何故かその手に人形を手にした男が話しかけてきた。

「ねぇ、君、僕のミミちゃんになってくれるってほんと?」

「ミ、ミミちゃん?」

「そうだよ。ミミちゃんはいつだって僕のアイドルなんだ。朝寝坊したら、いつも馬乗りになって「起きないとお仕置きしちゃうぞ」って言うんだよ」

 背中に寒気が走る。直感で思った。

(こいつはやばい)

 ここで捕まったら本気でまずい。例えばこの男なら、その人形のように歩くだけでパンツが見えるようなミニスカをはかされ、ブラジャーが丸見えのスケスケの服を着せられるに違いない。そうして図ったように寝坊をしたこの男に馬乗りになって『お仕置きしちゃうぞ♪』などとのたまうのだ。

「絶対にいやぁぁぁっ!」

 そう決意したら、行動は早かった。すぐに踵を返す。すでに取り囲まれていたので、軽く飛んで見知らぬ男の顔面を蹴り飛ばすと、真由はその男が倒れ込んで騒然となった隙に急いで駆け出した。

「あ、待って! ミミちゃぁん!」

「待つわけないでしょっ! っていうか、なんでよりにもよってこんな濃い奴ばっかりが来るのよぉっ!」

 後ろからノタノタと走り寄ってくる男たちを背に、真由は一目散に逃げた。

 

      ◇

 

 出来るだけの手を打って、耕介はさらに逃げ続けた。

 駅を越えてさらに南下。するとほどなくしてスーパーが見えてくる。四階建ての大きな建物の壁のいたるところに屋上幕から横断幕が垂れ下がっていた。日曜だということでここもにぎわっているらしい。路上駐車が目立っていたが、誰も気にしていないようだった。少なくとも、耕介を追ってきている警官たちはそんなこと気にも止めていない。

「くそっ! 俺なんか捕まえるより、さっさと路禁車取り締まれよ!」

 警官の叫び声を後方に感じながら、耕介は迷うことなくその中へ入った。人ごみにまぎれてなら、なんとか逃げ切れるに違いないと考え、大急ぎで非常口を探す。

 と──

 ピンポンパンポーン! とチャイムが鳴った。続けてアナウンスが響く。

≪お客様にお知らせいたします。ただいま店内にて、上下ジーンズ姿で身長百八十センチ弱、年の頃十七、八の男性を探しております。見かけましたら、至急店内サービスカウンターまでご連絡ください≫

「…………」

 思わず立ち止まって、耕介は天井を見た。見たところで何かが変わるわけでもない。アナウンスをした人間が天井にいるわけでもない。さらにアナウンスが響く。

≪繰り返します。ただいま店内にて、上下ジーンズの身長百八十センチ弱の男性を探しております。背中に『天獄』の刺繍の入った上着を着用しています。ロリータ趣味で大変危険ですので、見かけましたら大至急店内警備員詰め所までご連絡ください≫

 ピタリと、これ以上ないってくらい完璧に空気がとまる。アレだけ騒然としていた店内が静まり返り、それぞれが買い物の手を止めて顔を上げた。そしてゆっくりと顔をこちらに向ける。

「…………」

 …………………………………………

 全員の視線が一点に──アナウンスで流れた通りの容姿をした少年へ向いた。誰も動かなかった。誰も何も話さなかった。店内にはいつものようにBGMが流れ、それだけが世界を彩っている。

 沈黙が支配した空間の中で、その空気を読めなかった少女がポツリと呟いた。

「ねぇ、ママ。ロリータ趣味って何?」

 ザワっ──と、瞬く間に店内に喧騒が戻る。否、それはまさしく騒動だった。

 誰かが叫ぶ。

「変態がいたぞー!」

「誰がだぁぁぁぁぁぁっ!」

 さすがに叫び返すが、それに怯えた周囲が一斉に後退りした。

「くそぉぉっ! いくらなんでも真由にはここまで出来ないだろ! ってことは──」

 と、その疑問に答えるがごとく、人ごみを掻き分けて警官がやってきた。商店街で最初に会った男だった。

「さぁこれで逃げられまい。どうだ、変態! 俺の作戦勝ちだ、恐れ入ったか!」

「やっぱりお前かぁっ!」

「むぅ。警官に向かってなんて口のききかただ! 官憲侮辱罪を適用するぞ!」

「その前に人権侵害で訴えてやるわ!」

「フン。犯罪者に人権などあるわけがなかろう! そんなことも知らんのか!」

「言ってることとやってることがさっきからメチャクチャだぞ! アンタ!」

 だが警官は、耕介のいうことなど全く聞く耳を持たないと言った風に軽く前髪を払った。

「笑止! 気がつかなければ問題ない!」

「ああもう! この街には奇人変人が多い気がしてはいたけど、警察だけは洒落にならんだろう!」

「フッ! どこの組織にも変人はいるものだ」

「自分で言うなぁぁぁっ!」

 叫ぶ。その声で男がひるんだ隙に、耕介は警官の脇を抜けてデパートの外に出た。

「無駄だ。すでに機動隊(・・・)がデパートを包囲した。諦めろ!」

「揃ってヒマ人か、あんたらは!」

 後方で勝ち誇ったような男の声に反射的に怒鳴り返す。だがその瞬間、耕介は突入してきた機動捜査隊によって押さえつけられ、あっさりと意識を昇天させた。

 

      ◇

 

 ようやく人気の少なくなった商店街を、神楽双真はサフランのほうへ歩いていた。時刻は九時五分前。後数分で例のゲームのタイムリミットである。だが店の前についても誰も見当たらない。代わりにいたのは、サフランの裏路地へと続く細い道を見て唖然と呆けている見知った女性だった。

「そんなところで何している?」

 声をかける。彼女にしては珍しく、驚いた顔でこちらを向いた。

「あ、ああ。神楽か」

「どうかしたか?」

「いや、あれは……一体なんだ?」

 聞くと、彼女──神逆無月(かみさかなつき)は存外に素直に路地の方を指差した。街灯だけでは分かりにくいが、よく見ると人間大の何かがいる。そうしてよくよく耳を澄ますと、なにやら「ムーッ!」という唸り声が聞こえてきた。

「ああ、あれか」

 嘆息交じりに双真は言った。無月を店の中へ促しながら、さらに補足する。

「十四郎だ」

「いや、それはわかる。だからなんで名鳥があんなところで、しかもSMのような縛られかたで転がってるんだ?」

「ゲームだからな」

「?」

 全く状況がつかめていない彼女に苦笑して見せると、それこそ驚きだというように無月は目を丸くした。

「解いてやったら駄目なのか?」

「今はまだ駄目だ。ルールだからな」

「……よくわからんが。まぁ神楽がそういうなら仕方ないか」

 渋々納得した彼女を連れて、双真はカウンター席へ座った。まだ幾人か客はいる。だがすでにオーダーストップしたからだろう。店の中は驚くほど静かだった。

 そしてやはりというべきだろうか。店の中にも例のゲームに参加した者は誰もいない。

「……やはりか」

「何が?」

「いや、連中もつくづく学習能力がないなと思っただけだ」

「?」

 やはりハテナ顔の無月の隣に腰を下ろして、だが双真はすぐに席を立った。目線で問いかけてくる無月を手で制して、厨房への方へ向かう。

 キッチンは散らかり放題だった。チラシ効果で忙しさを極めたことくらいは容易に見て取れる。そうしてみると、疲れてテーブルにうずくまっている男二人と、まだ元気よく清掃している彰子の姿があった。

「あら、双真君。いらっしゃい」

「ああ」

「ご飯まだなんでしょ? 何か食べてく?」

 それはいつものやり取りだった──のだが、あまりにもいつもどおりだったので、逆に気になって双真は聞いてみることにした。

「なぁ、あの菓子箱に入っているもの、本当に金か?」

 すると彼女は、ニヤニヤと笑みを浮かべ、皿を磨く手を止めた。

「……ノープロブレムよ」

「ん?」

「今日中に帰ってくる人はいないってこと。つまり全員ゲームオーバー♪」

 それは確信に満ちた答えだった。彼女に状況を知るチャンスがあったとは思えない。彼らが今どこで何をやっているのか、知る手段はあったかもしれない。だが彼女にそんな時間があったはずはない。ましてや、彼らの動向に影響を与える何かを実行すること到底出来なかったろう。それはすぐ傍で突っ伏している耕介の父と兄の疲労度を見れば一目瞭然だった。

 だというのに、彼女はその答えに微塵も疑いを持っていない。

(……はじめからこうなることを計算していた? まさかな……)

 だが考えて見れば、今回の件であからさまな損をした人間はいないだろうが、明らかに得した人間が一人だけいる。それはつまり……

(考えすぎか)

 皿洗いを再開した彰子の横顔を眺めて、双真はその考えを打ち払った。それでもいくらか疑念が拭えないままその場を去ろうとして反転する。と──

「あ、だけど……もしものときの保険は必要よね」

 そういって彼女が投げてよこしたのは例の『裏金』が入っている菓子箱だった。席に持ち帰り、無月の疑問に答える事もなくその箱を開ける。

 祝儀袋の中には──

 確かに福沢諭吉が彫られたチョコレートの塊が入っていた。

 

 

 H&H最強伝説!  完

 

 

 

 

 その夜。

「はい、槙原です……え? 警察? ……はい……ええ……槙原耕介という少年を預かっている? 保護者確認のために迎えに来て欲しい? すみませんけど、うちには耕介なんて息子はいませんから」

 ガチャン! ツー……ツー……

 

 

 

 

「ムーッ! ムームームー! ムムムー!(おーいっ! だれかぁー! おーいっ!)」

 …………

 

 

 今度こそ本当に  完

 

 

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