後日談

 

 

 槙原彰子。

 岩手県●×市、△△△町。七月七日生まれ、蟹座のB型。

 生後すぐ神奈川へ移住。妹が一人。中学卒業後、修行を兼ねて留学。留学先は計十数カ国にも上る。

「八年後に帰国。フランス留学中に現在の旦那と出会ってゴールイン。長崎に移住後、結婚。洋食屋『サフラン』を開く。周囲の評判も良く経営は順調。二人の子供のうち、兄の方もコックの道を進んだ点を鑑みれば、まぁ順風満帆な人生じゃないだろうかと、ここに俺様は記録するのであった。完」

「いや……『完』って、終わられても困るんだが……」

 紙に書かれたことをそのまま呼んでいる風の姫月陸王に、十四郎が小さく抗議した。

「大体、それはちょっと端折りすぎだろう。彼女の留学中は?」

「知らん」

 陸王はにべもなかった。

「お前に調査を頼まれた後、俺が知る限りの情報網を駆使して検索かけてみたが引っかからなかった。よって、完」

「だから終わるなって……」

 呻く十四郎の横から、耕介は気になって顔をのぞかせた。自分の母親のことである。気にならないわけがない。

「俺が聞いた限りだと、フランスやイギリスには行ったことあるみたいだけど?」

「その辺なら調査済み。だけど留学中の全訪問国を網羅するのは無理だな。当時内戦していた国だってあったし……」

『内戦?』

 口をそろえて話をさえぎる。自分の母親が紛争地帯に行っていたと聞かされれば驚くのも無理はない。

「可能性の話さ。足取りを消すにはそう言う地域を中継点にするほうが効率がいいってことだよ。そこに滞在したかどうかは別にしてな。もう少し煮詰めれば何かわかるかもしれないが、あんまり期待はしない方が良いね。ってなわけで、完」

「さっきからどんなツッコミを期待しているボケだ、それは」

「スリッパかハリセン」 

『んなものはない!』

 さらっと笑顔で言ってのけた陸王に、二人そろって裏手で突っ込みを入れると、彼はそれで満足したらしかった。

「なにはともかく、留学の間、彼女がどこの料理学校、どこの料理店で修行を積んだのかさえ詳細は不明のままだ」

「それって結局、お袋がどこで何してたかわからなかったってこと?」

「そうとも言えるな」

「……んで?」

 耕介は小さく首をかしげて見せた。

「これは最初に聞くべきだったんだろうけど、何だってお袋のこと調べたりしたんだ?」

「いや、まぁ俺としても、名鳥の面子もあってだな……」

 語尾が尻すぼみになるのを自覚しているのか、十四郎の顔はどこか自信なさ気だった。

「世界には自分より上手の存在がいくらでもいることは承知の上だが、それらの素性はやはり知っておいて損はないわけだ。それに……」

「それに?」

「あの後、俺の個人回線に直通で電話があってね」

「誰から?」と耕介。

「君のお母さんから」

「え?」

 それは聞いてはならない言葉のように耕介の耳に残った。それを察したのかどうかはわからなかったが、十四郎が心底疲れた顔つきで息を吐く。

「あのときの謝罪を改めてしに来いって」

「あれだけやっといてまだ謝罪を要求するのか?」

 陸王が青ざめた顔で呻いた。

「っていうか、お前の個人回線って思い切りプライバシーだろ? なんで彼女が知ってんだよ?」

「俺が知るか……」

「しかも微妙に脅迫してるような気が……」

 もはや母親という名前の違う存在に成り果てた女が、頭の中で高笑いしていた。その頭からは角が二本生え、黒い尻尾がゆらゆらと楽しげに揺れている。

「いや、直接何かを──まぁぶっちゃけた話、金を要求されたわけじゃない。ただ……」

『ただ?』

 二人声をそろえて身を乗り出す。十四郎は何かを悟ったように目を細めた。

「誠意を見せに来いって」

「一緒じゃねぇか」陸王が突っ込む。

「なるほどね」

 が、逆に耕介は納得していた。

「あんだけ痛い目見させられたのに、わざわざ正装でウチの店に来た理由がわかったよ」

 少し涙目の十四郎の肩をぽんと叩く。

「ま、息子の俺が言うのもなんだが、お袋は根は悪い人じゃないから。この際、犬にかまれたとでも思っておとなしく成仏するのが吉だと思うよ。やり返すなとは言わないけど、そのときは俺を巻き込まないようにね」

「助けてはくれないわけね……」

 コーヒーで喉を潤しながら十四郎の肩が力なく落ちたその時である。ドアベルを鳴らして入ってきたのは真由だった。学校帰りだったらしい彼女は、こちらを認めるなり歩み寄ってきて、気さくな笑顔を向けた。

「あら、みんなそろってどうしたの? なんだか元気ないみたいけど?」

「……って、何でお前はそんな元気なんだ?」

「ん? まぁ色々あってね。この前そっちのお兄さんにやり返して気分もすっきりしたし……あ、そうそう。りっくん、この前ありがとうね? すごく楽しかった♪」

 りっくん──そう呼ばれる可能性のある人間はここには一人しかいない。

「おう。ま、今度何かあったらまた声かけるよ」

「よろしくねー」

 ひらひらと愛想よく手を振って店内に消えて行く(これからバイトらしい)彼女の背を見送って、耕介と十四郎はそろって陸王に視線をくれた。

「…………どういうことだ?」

「お前らいつの間に仲良くなった?」

 すると陸王は、こちらの意図しない微妙な笑みを浮かべて、身体を前に乗り出した。

「あ、もしかして妬いてる?」

「馬鹿言え!」

 思わず怒鳴り返す。店内の幾人かがこちらを振り返ったが、耕介は無視した。

「あれが調子付くと、基本的に迷惑を被って暴走に巻き込まれて責任取らされたうえにお袋に半殺しにされるのは俺なんだよ! いいから言え。あいつに何した、何をさせた、何やらかした!」

「ま、まぁ落ち着けって」

 そんなことは百も承知だった。今が営業時間で、ここが店内だということも自覚した上で言っているのである。世の中、出来ることと出来ないことがある。犬にかまれた程度で済むならまだましだ。もっとも、今、キッチンに母がいないからこそ出来た芸当なのだが。

「いや、別にたいしたことじゃない」

「本当に?」

「ホントです」

 教会の神父のように、目を瞑って右手を掲げる。似合いもしない丁寧語が、どこか胡散臭さを醸し出していた。

「何に誓う?」

 開いた左手の掌を胸に置いて彼は静かに宣誓した。

「昨日商店街の福引で当たった六等の福引券百枚に誓って」

「また随分安っぽいな」

「こいつらしいって言えば、らしいんだが……」

「そうなの?」

 聞くと、さすがに十四郎は付き合いが長いせいで慣れているらしく、あまり驚いた風でなく頷いた。

「陸王の座右の銘はいくつもあるんだが、そのうちの一つが『本末転倒』」

「だめじゃん、それ」

 思い切り核心を突いたつもりだったが、本人はいたって嬉しそうに笑った。

「いいんだよ。楽しさ最優先なのが俺の生涯学習の基本だ」

「それに振り回される身にもなれ」

「その気持ちは痛いほど良くわかるよ」

「…………」

「…………」

 ここにきて初めて、二人は感情を込めてじっと顔を見合わせた。聞く限り年齢が七つは違う二人である。本来ならため口で話していいものでもない。が、耕介はそういうのは苦手だったし、彼自身もあまりに気にしていないようだった。

 なにはともあれ、似た境遇の彼の顔を見やる──やがて目に熱い何かがこみ上げてきた頃、二人は示し合わせることなく腕を組んだ。がっぷりと。

『親友?』

「嫌な友情の芽生え方だな、おい」

 さすがにその原因の一端が自分にあることくらいは自覚しているらしく、少なからず顔をしかめながら陸王が憮然とツッコミを入れる。

「ま、お互いの境遇を慰めあうのはともかくとして、それじゃ結局、彰子さんがあの現場に来たことや、真由ちゃんが銃を扱えたことは謎のままか」

「そんなの、教わったからに決まってるじゃない」

 突然、サフラン専用のエプロン姿で、トレイ片手に会話に割り込んできたのは真由だった。テーブルにかけていた男性三人が同時にそちらを向く。

 今何か、とても聞き逃してはならない台詞を聞いた気がする。その言葉を脳内で復唱しながら、耕介は幼馴染みに問いただした。

「教わったって? 一体、誰から?」

「小母様から」

『…………』

 しばし。痛みどころではない悲痛な沈黙が流れる。きしむ首を無理やり正面に回転させながら、耕介は十四郎を見て、それから陸王を見た。二人の顔もぎこちなく歪んでいた。

 再び真由に向き直る。

「お、お袋からって、なんで?」

「ん? ああ、何で小母様が銃を扱えるのかって? ……さぁ、何でも昔、中東付近の内戦地帯で身につけたとか言ってたけど、どこまでホントかしらね」

 確かに、彼女には空白の数年間がある。

「それに、あたしが教わったのはモデルガンで、本物扱ったのはあれが初めてだから、そこんとこ、誤解しないでよね?」

 その本物を人に向けて撃ち放っておいて、今更誤解もくそもないだろうに。そう思ったが、三人は賢明にもそれを口にすることはなかった。

「それじゃ、小母様が戻るまでごゆっくりどうぞ」

 口笛を吹きながら仕事に向かう彼女の背を見送った後は、再び彼らのテーブルに沈黙が降りる。

「やはりネックは空白の八年間。留学中、彼女に何があったのか」

「修行のための留学って、一体何の修行してたんだ?」

 思い切り疑念に苛まれて、耕介は頭を抱えた。

「知るのが怖いな、物凄く」

「俺、息子として生きていく自信ない……」

 小さく弱音を吐くと、今度は十四郎たちが哀れんだように肩をぽんと叩いてきた。その同情を心地よく感じながら、目に溜まった涙を指ですくい取る。と──

 カラン──ッ

 いつもどおりのドアベルを鳴らしてサフランのドアが開く。それはいつもどおりの音色。だというのに、何故か誰が慣らしたのか克明にわかる音波だった。

「さぁ、今日もさくさくお金儲けするわよ! おっと、来てたみたいね、二人とも。耕介もいるならちょうど良いわ」

 爽快な笑顔で店内を闊歩して、彼女──槙原彰子は笑顔で三人に紙袋を渡した。

「これ何? お袋、仕入先に出てたんじゃないの?」

 その中にある何かぬいぐるみのような柔らかな感触のものを見ながら、耕介は聞いた。およそ彼女が出かけていた理由と、ましてやそれを自分たちに渡す理由が見つからないからである。

「違うわよ。ちょっとした裁縫屋さん」

「さい……ほうや?」

 十四郎がポツリと復唱する。耕介のイメージとしては、

「あのほつれたボタンとか、縫い直したりする、あれ?」

 と言ったものでしかなく、やはり紙袋の中身とは一致しなかった。

「いいから。取り出して着なさい。それを着てウエイターするのよ」

「着るって、何を……」

 言葉の流れから、どう考えたって紙袋の中身である。三人は疑問に思いながらも中身を取り出して、そして同時に硬直した。

「…………」

「…………」

「…………」

「あ、可愛い♪」

 真由が他人事のように歓声を上げる。客の幾人かが哀れんだように笑い、彰子が嬉しそうに相好を崩した。

「可愛いでしょ? 前から頼んであった着ぐるみ。ようやくできたって聞いたから取りに行ってたの。背中にサフランのロゴが入っているけど、基本はチャーミングにまとめてみたわ」

「まとめてみたわ……って、これ、小母様のデザインなんですか?」

「そうよ。すごい?」

 胸を張る彰子に、真由が賛辞を送る。

「すごい! 可愛い! わぁ、あたしも作ってみたいなー♪ 作って耕に着せて遊びたい♪」

 その不穏当な言葉で現実に戻る。全ての反抗の意思を込めた抗議は、たった一言だった。

「……な、何? これ」

「着ぐるみよ」

「そうじゃなくて!」

「だったら何よ?」

「何で着ぐるみ!」

 かなり単刀直入な意見だったはずだが、彼女は相変わらず息子が何故怒っているのかわからないといった風に首を傾げて見せた。

「気に入らないなら、交換しても良いわよ? 猿と豚と河童しかないけど」

「西遊記? いや、そんなことは問題じゃなくて……」

 そう──問題なのはそういうことではない。

「どうしてこれを着なきゃいけないんだ?」

「わたしが着せたいから」

「何で!」

「馬鹿ねぇ……」

 本気で馬鹿にしたように、彼女は鼻で笑った。

「面白いからに決まってるじゃない」

「何がどう決まってるんだぁぁぁっ!」

 だが彰子はさらっと息子の怒声を流しうけると、ことさら不思議そうに目を瞬かせた。

「あら、その様子だと文句があるように聞こえるけど?」

「あるにきまってるだろっ!」

 が、その反論も、眉間に一発軽くジャブを食らえば沈黙するしかない。

「うるさいわねぇ。着てくれたっていいじゃない、わたしが楽しいんだから」

「俺は楽しくない!」

「ったく──」

 彰子は軽くため息を吐くと、パサッと前髪をかきあげて、顔を斜に構えて笑った。

「日頃からあれだけいじめ……もとい、教育しているのに、耕介はまだわたしに逆らうのね」

「だぁぁぁっ! 諸悪の根源はここかぁぁぁぁっ!」

 地団太踏んで苦悩する。隣で真由が潤んだ目で拍手していたがそれは無視して、彰子は耕介の叫びを一蹴するようにビシッと指差して牽制した。

「あーもうっ! つべこべ言わずいいからやりなさい! あんたたちも!」

 きっぱりと断言する母の瞳は純粋だった。あまりにも純粋で、だからこそ反論する意識をくじかれそうになる。

「何で俺たちまで!」

「そのために呼んだのよ? 恨むなら考えなしにウチにきた自分を恨みなさい」

「うわ。メチャクチャだ。この人」

 本気で言っているらしい彰子の言葉に恐れを感じたのか、陸王が後退りした。後ろから、ただ独り、他人事のようにはしゃぐ声が聞こえてくる。

「小母様、やっぱり素敵

「そう? 何だったら、後で真由ちゃんにもいろんな情報の集め方、教えてあげるわ。後、男を手玉に取る方法も」

「よろしくお願いします!」

 敬礼している真由と、それに満足気に応えている母・彰子を見比べながら、陸王がポツリと呟いた。

「ああやって『槙原彰子』が受け継がれていくわけだな」

「怖いこと言うなよ」

 ひとしきり真由と絆を確かめ合った後、彰子は再びこちらに向き直った。確認するように三人を見つめ、懇願するように目を潤ませる。

「それで、あんた達はどうしても着てくれないって言うのね?」

 三人は断固として首を縦には振らなかった。と、その返答に打ちひしがれたように後退りすると、彼女はなにやら悲壮な顔をして店外に出た。店にいた人間全員が、彼女の突然の行動を見守る。

 店の前には人だかりが出来ていた。といっても、これ自体は別に珍しいものではない。あらゆる意味で多種多様なイベントが催されるサフランは、洋食屋という本業以外でも人気のスポットなのだ。騒ぎがあれば人は集まる。面白おかしければ、客はリピートする。さらに食事が美味しいとなれば、集客は自然と増える。彰子の商売魂が凄まじいことくらいは、息子である自分がよく知っている。

 だからこそ一抹の不安を覚えて、耕介の全身に鳥肌が立った。

 彰子はすとんと地面に腰を下ろした。正確には、腰が抜けたような感じでしりもちをついたというべきか。

「クスン」

 見世物は、彼女の涙から始まった。

「ひどい。わたしは着ぐるみ着て欲しかっただけなのに、彼らがわたしを苛めるの」

「うわ、サイテー」

 口火を切ったのは見知らぬ女子高生だった。

「男の風上に置けないわね」

 その隣で、友達らしい少女が同意を示す。それを皮切りに、場が騒然となった。皆口々に勝手なことをののしり始める。

 まずい──耕介たちの顔に縦線が走った。

「どうしてわかってくれないのかしら。わたしはただ……」

 観衆の言葉を受けて、彰子が喉を鳴らす。嗚咽のように聞こえたそれは、悲壮感をいっそう強めた。

「あの子達をおもちゃにして遊びたいだけなのに」

『わかってたまるかぁぁぁぁぁぁっ!』

 絶叫する。が、それすらも、野次馬たち全員のブーイングには敵わなかった。

「ひっどーいっ」

「サイテーっ!」

「親不孝モノ!」

「ろくでなし!」

「人でなし!」

「ロリコン!」

「誰だ! 今俺のことロリコンって言った奴はぁぁっっ!」

 反応したのがまずかった。さらにブーイングが誇張する。

「何で俺たちが悪者扱いなんだ?!」

 隣で、うずくまるように頭を抱えながら十四郎が呻いた。

「着ぐるみを〜着てくれない限り〜♪ この展開は〜続くわよ〜〜♪」

 何故かリズミカルに、謳って踊る。鳴り響く手拍子。轟音のような『着ぐるみ』コール。耕介は次第に嗚咽が入り出した。

 震えるこぶしを力いっぱい握る。涙で視界が滲んでいく。

「ぐれてやる。絶対にぐれてやる! まともに生きていけるか! こんな家庭環境で!」

 何故か拍手が鳴り、小銭が飛んできた。

「大道芸扱いか……?」

 楽しいこと好きらしい陸王でさえ、気圧された表情で転がっていく十円玉を追う。十四郎が、哀れむように耕介の肩をポンと叩いた。

「いや、むしろ同情されてるぞ、耕介君」

 涙が出た。

「フフフフフフ……」

 そんな彼らの嘆きすら手玉に取るように、彰子がスタッと立ち上がる。

「さぁ、ここまでしてもまだ着ないといえるかしら?」

「くぅっ!」

 これが運命というなら従うしかないのか。定められたルールには従わなくてはならないのか。否──断じて否! 世界は優しくない。だけど決して、救いがないわけでもない。諦めてはいけない。人の一生が儚く短いならば、己が意思を貫き通すことこそが正義ではないか。

 くじけるな! 悪に負けてはならない! 今こそ立ち上がる時──!!

 行け行け耕介! GOGO耕介! 脳裏で妖精が応援する。

「ククク……」

 何か。妖精の応援に応えた瞬間、頭の片隅で小さく音が鳴った。プツンと小気味よい音が、耕介の意識を覚醒させていく。それは久しく見ぬ破壊の衝動。

「こうなったら徹底抗戦だ。負けてたまるか!」

「本気か?」

 十四郎が目を見張る。耕介は笑った。それは心の底からの純粋な笑みだった。

「このままなし崩し的に着ぐるみ着させられて、俺たちは何を得る? 屈辱と笑いの渦だ。それでいいのか? 今ここで挫けたら、きっと二度と逆らえなくなる。そんな人生でいいのか? 俺は良くない。 未来は勝ち取るからすばらしいんだ。俺は往く。一人でも!」

 十四郎と陸王。二人が顔を見合わせ、頷いた。彼らも決意が決まったらしい。

「やっぱお前、面白いわ!」

「ま、陸王と知り合った時点で、人生半分コメディになるのは覚悟してたし……」

 準備完了。覚悟上等。

「行くぞ!」

「いつでもどうぞ!」

 十四郎がスーツの上着を脱いで、

「死なばもろとも、地獄まで付き合うぜ!」

 指を鳴らしながら陸王が息巻く。三人の豹変振りを見定めて、彰子が不敵な笑みを浮かべた。

「フッ! 愚かな子たち……いいわ、誰が本当の強者で、誰がご主人様なのか。その身にたっぷりと思い知らせてあげる!」

 そして──

 千間坂通り、史上最大にして、最もわけのわからない騒動が切って落とされる。

 

 

 何はともあれ。

 これが彼らとの最初の出会い。最初の戦い。

 その後、腐れ縁のように付き合いが続くとは、このときは夢にも思わなかったのだが。

 

 ここから、彼らの物語は始まった。

 

     To Be Continued

 

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